No.487532

Masked Rider in Nanoha 三十五話 初連携と決意の言霊

MRZさん

ホテルアグスタで行われるロストロギアオークション。そこの警備を担当する事になった六課。
留守番に真司とヴァルキリーズを残し、なのは達は会場へと向かうのだが……

2012-09-23 09:05:21 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3046   閲覧ユーザー数:2924

 あの光太郎発案の模擬戦は実に多くの課題を六課に理解させた。それは、ライダー達への支援や連携の難しさだ。結果はRX率いるチームライトニングが勝利した。やはりRXの能力の高さと経験の多さがライダー戦にもチーム戦にも有利に働いたためだ。

 しかし、一番の要因はフェイトがRXと多くの時間を過ごしていた事。そう、結果として一番ライダーとの連携が取れていたのだ。クウガとなのはもいい動きを見せていたのだが、やはり接近戦が出来るフェイトに比べると彼女は援護はともかく連携がやや不向きだった。

 

 一方、はやてはアギトとの共闘自体が初めてであり、広範囲魔法を得意とする彼女では連携そのものが難しかった。ザフィーラやヴィータなどは接近戦もこなせるためいい動きを見せていたのだが、汎用性が高いRXやクウガの前では苦戦を強いられ敗退。

 ヴァルキリーズは龍騎との連携はそれなりだったものの、龍騎はベントカードの使用が一度きりなのが響いて敗北。それでも人数を活かして善戦したので満足出来る内容といえる。

 

 ちなみにシグナムとアギトのユニゾンは高い融合係数を発揮。その力はユニゾン龍騎には及ばなかったものの、強烈な存在感を周囲に示した。アギト自身も本気で、真司と出会う前に会っていれば即決だったと思ったぐらいに。

 しかし、まだ彼女は真司からロードを変更する気にはなれず、シグナムとは求められればユニゾンする相手に留めるのみだった。真司としてはもうロードにすればいいと思ったのだが、それを決めるのはアギト自身とも考えているのであまり強くは言わなかった。

 

 こうしてそれぞれが感じたのは、ライダーに無理に合わせるのではなく自分達の出来る事を懸命にやろうとすればいいという事だった。実際RXとフェイトがそうだった。互いが互いの動きに合わせるのではなく、互いの最善を尽くす事に傾注した結果見事な連携へ繋がっていったのだ。

 

 そして、次の日から早朝訓練は形を変えた。RXがライダー達の戦力を底上げする事と互いの連携を高めるためにライダー同士で二人一組となっての訓練を開始。なのは達はスターズとライトニングの小隊としての連携とフォワードメンバーの連携を意識した訓練をスタートした。

 ヴァルキリーズは十二人での連携と並行し、どんな組み合わせでも高い連携を出来るようにとの訓練を始めた。はやてはシャマルやザフィーラ、リインと共にそれぞれの訓練を見学したり、時に参加したりしながら意見や感想を言う役目を担う事となる。

 

 この日もそんな実りある訓練を終えて五代達はそれぞれ通常業務をこなしていたのだが、はやてへある人物からの連絡が入った事で事態は動き出すのだった。

 

「ホテルアグスタの警備?」

『ああ。ロストロギアオークションが行なわれる事は知っているか?』

 

 部隊長室の椅子に座りながら、はやては書類を片手に画面に映るクロノへそう反応した。彼はその言葉に頷き確認を取り始めた。はやてもその事を少し聞いていたのか特に疑問を浮かべる事なく頷く。

 それをキッカケにクロノが簡単な経緯を説明し出した。邪眼がレリックなどのロストロギアに興味を抱いたとすれば、そこを襲う可能性がない訳ではない。そのため、念のため六課に出動依頼を出したいのだと。

 

 それを聞いてはやてはすぐ理解を示した。邪眼の恐ろしさは管理局自体には知られていない。いや、知られないようにしたと言う方が正しいかもしれない。リンディを始め誰もが思ったのだ。邪眼の存在を知れば管理局全体に恐怖心を与える事になりかねないと。

 

 闇の書の闇をも飲み込み、自分の力へと変えた邪眼。そんな存在がいて、尚且つこのミッドを狙っているとなれば混乱は必死だ。何せ、歴戦の騎士であるヴォルケンリッターや幾多の現場を経験したクロノ達でさえ、それと対峙した時は神経をすり減らしたのだから。

 であれば、一般の管理局員がどうなるかなど簡単に予想出来る。だから、誰も邪眼の存在を知らせるつもりはなかったのだ。前もって心構えをしておける者はいい。だが、大半がそれに立ち向かう事が出来ずに恐怖に飲まれてしまうだろうと。なのは達も、仮面ライダーがいたからこそ何とか立ち向かえた部分があったために。

 

「……分かった。なら、翔にぃ達も連れていくわ」

『そうしてくれ。ああ、それと念のためそちらにも一人はライダーを残しておいた方がいい』

「そやな。なら、ヴァルキリーズと真司さんには残ってもらうわ」

『そうか。たしか龍騎、だったな。一度その城戸真司という男にも会ってみたいが……』

「今度カリムのとこ行く時、連れてくわ。なのはちゃん達と五代さん達も連れてこ思っとったし」

 

 はやてがそう言うとクロノは少し楽しみだと告げて通信を切った。はやてはその最後の言葉に小さく笑みを浮かべ、なのは達へ部隊長室へ来るように連絡を入れるのだった。

 

 

 六課所有のヘリが空を行く。だが、その中に乗っているのはフォワードメンバーであるスバル達だけではない。シャマルやザフィーラと言った後方支援のはずの者達もいるのだ。

 しかし、その代わりになのは達隊長達の姿がない。シグナム達副隊長はいるというのにだ。その理由というか、キッカケは今から遡る事一時間前までに遡る。

 

 あの後、真司達に残ってもらう事になり、なのは達はヘリでアグスタまで向かう事になった。だが、五代と翔一が念のため自分達はバイクで向かう事を提案したのだ。それは、怪人戦になった時の事を見越しての事。はやて達もそれに納得し、二人はバイクでとなった。

 すると光太郎がならば自分もアクロバッターでと言い出し、ライダー三人はヘリではなくツーリングの様相を呈する事になった。そこでティアナが何かを思い出したように五代への頼んだ事。それがこの後の流れを決定づけたのだ。

 

―――今度休みになった時、ビートチェイサーを貸してくれませんか? それで翔一さんと約束してたツーリングをしたいんです。

 

 それを五代が快諾したのだが、はやてがその言葉に反応しどういう事か詳しく内容を聞き出した。そして何を思ったのか、彼女は話したい事が出来たので翔一のバイクでホテルへ向かうと言い出したのだ。ティアナが翔一のバイクの後ろに乗り、デートもどきをした事に思う事があったために。

 当然それに周囲がやや困った反応を見せる中、翔一は別に構わないと告げて一件落着―――かに見えた。しかし、今度はフェイトが自分も光太郎の後ろに乗って行きたいと告げた。それは、ホテルの場所を知っている者がいた方がいいだろうとの考え。

 

 確かにヘリを追走すればある程度の道は分かるが、念には念をとの説明に周囲も納得したのだが、その裏に何かある事をなのはだけは気付いていた。

 

 それを知るはずもない光太郎は、助かるとばかりに笑顔を浮かべフェイトへヘルメットを手渡した。それを受け取りどこか嬉しそうに笑みを返すフェイトを見て、なのはが自分も五代の後ろへ乗ると言い出したのは、もう流れとしか言いようがなかった。

 仕事に向かうというのにどこか遊びに行くかのような雰囲気の二人。そのお目付け役として自身は行こうと考えたのだ。そんななのはの気持ちは五代にも分かったのだが、これでは彼女も同じではないかと思ったのは当然だった。

 

 故に五代は苦笑しながらなのはへ予備のヘルメットを渡し、こうして隊長三人はそれぞれライダーのバイクの後ろに乗ってアグスタを目指す事になったのだ。

 

「……私もビートチェイサー乗りたかった」

 

 窓から下の道を走る三台のバイクを見つめ、スバルが羨ましそうにそう呟く。それを聞いて、隣に座るティアナが少しだけ自慢するように心の中で呟いた。

 

(アタシは乗ったもんね。今度は自分で運転出来るから楽しみだわ)

 

 小さく笑顔になるティアナ。それに気付かず、スバルはずっと視線を下へ向けていた。それを見つめるエリオとキャロは苦笑するものの、自分達もいつかアクロバッターやライドロンに乗せてもらおうと考える。

 しかし、それは口に出さずにいようと念話で話し合い二人は笑う。それを眺めてシグナム達八神家は微笑むのだった。

 

 一方、そんな事を知るはずなく三台のバイクがヘリを追い駆けるように走っていた。先頭はアクロバッター、続いてビートチェイサー、翔一のバイクという順に。フェイトは光太郎からアクロバッターの前身であるバトルホッパーの事を聞いていたし、なのはは五代とアグスタにはユーノも来ている事を話題に楽しそうに話していた。

 だが、はやてはずっと翔一へ恨み言のような愚痴のような言葉を投げかけ続けていた。それは、ティアナとの出来事を聞いたが故のもの。彼女の妹分としての密かな憧れ。それを知らぬ間に他者が叶えていたのだから。

 

「……何で教えてくれんかった?」

「いや、言う必要もないかなって思って」

「わたし、再会して最初の休みに言うたやんな? 翔にぃのバイクに乗せてもらうんが小さい頃からの憧れやったって。なのに一番がわたしやなかったなんて……」

「あ、ごめん! そうだったね! 本当にごめんっ!」

「ええよええよ~。どうせ翔にぃにとってわたしはそれぐらいの存在やったんや」

 

 ふてくされるように口を尖らせるはやてに翔一は何も言う事が出来ない。そう、はやては密かに翔一のバイクに乗せてもらう事を夢見ていた。翔一が帰ってくる事を信じて休みの日にバイクを洗ったりしながら一途に思い続け、彼女は彼が帰ってきてすぐの休みにその夢を実現した。だが、それが自分が叶える前に別の女を乗せていたとなれば拗ねたくもなるというものだ。

 確かに言う必要はなかっただろう。翔一ははやての憧れを”自分のバイクで”の部分にこだわっていると考えていたのだから。しかし、はやてとしては”翔一の運転する”バイクにこだわっていたのだ。その認識の違いが実に男女の差を示している。

 

 そのまま二人の間に気まずい空気が流れる。何とか互いに落としどころを探すものの、中々いい考えが浮かばず沈黙したままだった。そんな二人とは違い、どこか兄妹のような雰囲気さえ漂わせ、五代となのはは会話に花を咲かせていた。

 

「そっか。考古学者としてロストロギアの解説を……」

「はい。昨日話した時、ユーノ君が少し緊張するって言ってました」

「ははっ。ユーノ君らしいね」

「でも、まさか行く事になるなんて思わなかったです」

「きっと驚いて、すっごく喜ぶと思うよ、ユーノ君」

「はいっ!」

 

 そう嬉しそうに言ってなのはは笑う。それを感じ取り、五代も笑う。共にユーノとは浅からぬ関係がある二人だが、なのはにとってはそれだけではない。彼女からすれば五代は自分の生き方に大きな影響を与えたもう一人の兄のような存在だ。

 困った時や悩んだ時、迷った時にも五代の言葉やその考えが彼女の道の助けとなったのだ。みんなが出来る限りの無理をすればきっと上手くいく。いつでもみんなの笑顔のために。そんな言葉の数々がなのはのこれまでを支えてきた。

 

 彼女が教導隊に入った時もそう。自分がいつか人に教える事が出来るようになるのか、どうすれば自分の全てを伝える事が出来るのか。そんな事を考えた時、五代ならどう言うかと考えて、なのははこう結論付けたのだ。

 自分を分かってもらう事も、他人を完全に理解する事も出来ない。そんな事は神様でもなければ無理。だから、少しでもいいから互いを思いやって、分かり合えるようにするしかない。そのために自分がまず相手を思いやる事から始めようと。

 

(この人は何を言いたいんだろう。何を伝えたいんだろう。そんな風に考えるようになったら、いつの間にか自然と教導官になってたんだよね……)

 

 人を理解しようと努力する。それが人に理解してもらう一番の方法。それをなのはは自然と体現していたのだ。教える事は押し付けではなく伝える事。少しでも自分から何かを得てもらう事が出来れば、それが教導なのだ。それがなのはの持論になっていたのだから。

 

 そんな風になのはが今の自分の指針を思い返している前方では、フェイトが光太郎と既に話題を変え少し真剣な話をしていた。

 

「……そうか。やはりジェイルさんも知らないと」

「はい。スバル達とは違う技術を用いてトーレ達を生み出したと言ってました」

「そうなると……一体どこに」

「分かりません。もしかすると、もうどこかで亡くなった可能性もあります」

「そうならそれでもいいんだが……」

 

 光太郎の搾り出すような呟き。フェイトはそれが聞こえないでも何となく察したのだろう。同じように表情を歪ませていた。スバル達姉妹を作り出した存在。それは、未だに情報がないままだった。ジェイルから聞けたのはナカジマ姉妹がジェイルの使った技術とは違う技術で生み出されたという事だけで、ジェイル自身もそれが誰の手によって作られたのかは知らないとの事だった。

 光太郎はそれを聞いて、残念に思う気持ちと同時にどこかで嬉しく思っていた。ジェイルが言ったのだ。自分以外で戦闘機人を作っている者はおそらくいないと。その証拠は、未だに戦闘機人を使った犯罪や事件が起きていない事だ。

 

(こうなると、戦闘機人の技術はあまり広まっていない可能性がある。このまま、埋もれていってくれれば……)

 

 ジェイルをして簡単に作り出す事は出来ないと言わしめる戦闘機人。ジェイルは自身の持つ技術をもう広めるつもりはないらしく、このまま闇に葬りたいと考えているのだ。それを聞いた光太郎は真司へ仮面ライダー十四号の名を贈りたくなった。

 真司がジェイルを変えたからこそ、戦闘機人の技術を世に広めずにいたのだから。そして、それの放棄と隠滅まで考えている。これは、仮面ライダーとしてはかなりの意味を持つ事だった。改造人間とどこか近いものがある戦闘機人。それを作り出す技術を捨てさせるという事は、将来改造人間を生み出す可能性を完全に絶つ事にもなるのだから。

 

 そんな事を考えている光太郎の視界の先に大きな建物が見えてきた。それがアグスタだと理解し、彼は後ろのフェイトへ軽く視線を向ける。

 

「フェイトちゃん、そろそろホテルに着くよ」

「あ、本当ですね」

 

 光太郎に言われ、フェイトはどこか寂しそうに声を返した。その瞬間、光太郎は自分へ回されていた腕の力が少しだけ強くなったのを感じる。まるでこの時間が終わるのが嫌だと言うようなフェイトの反応を。

 そして、その底に秘められた感情を考えた光太郎は表情に一瞬喜びを浮かべるもすぐに悲しみへと変えた。それが正しいかは分からないが、もしそうならと考え彼はこうフェイトへ返した。

 

「そんなに気に入ったなら、今度また休みにでもこうして乗せるよ」

「えっ?」

「いや、腕の力が強くなったからね。まだ乗っていたいのかなって。バイクには車とは違った魅力があるから、そこを気に入ったのかなって思ったんだ」

 

 光太郎は敢えてフェイトの気持ちに気付いてないようにそう軽い感じで告げた。それを聞いたフェイトの反応から自身の推測を確かめようと思ったのだ。すると彼女はどこか戸惑いを抱くも笑顔で是非と返した。それに光太郎は頷き、少しだけ速度を上げた。

 フェイトの気持ちは自身が予想したようなものではないのかもしれない。そう判断し、光太郎はアクセルを解き放つ。光太郎は知らない。まだフェイトは自身の彼への想いに気付いていないだけなのだと。黒い勇者と黒い魔導師。この二人の歩く道はまだ交わり続ける。

 

 

 

 その頃、六課で留守番を任された真司達はそれぞれの場所で懸命に働いていた。

 

「……うし、これでいいかな」

「どれ? ……五代の味に近いが、やはりどこかお前の味だな。まぁ、それでも美味しいからいいが」

 

 カレーの仕込みを終えた真司。その身につけるエプロンは龍騎のマーク入り。そう、つい最近真司は自分用のエプロンを完成させたのだ。無論、チンクとセインが欲しがったのは言うまでもない。

 その後ろからリインが味見とばかりに少しだけ小皿に取り、真司に対しそう評した。それに彼は喜べばいいのか落ち込めばいいのか分からず反応に困っている。それを見て、リインは楽しそうに笑った。

 

 チンクとセインはそんな光景を見て苦笑。今日は五代も翔一もいないためレストランAGITΩと喫茶ポレポレは休業となり、代わりに一日だけの営業という形で食事処花鶏(あとり)が開店する。そこで出来るだけ二人の味を再現しようと真司が奮起しているが、悉くリインの厳しい評論の前に撃沈しているのだ。

 

「真司兄、苦戦してるね」

「何、あまり堪えておらんさ」

 

 そういう二人は花鶏の一押しである餃子の仕込み中。しかも、今日は五代と翔一がいないために手伝いとして、更にここに加わっている者が二人いた。

 

「はい。こっちは終わったわよ」

「チンク姉、後何すればいい?」

 

 ドゥーエとノーヴェが受け持っていた仕込みを終え、視線を二人へ向ける。彼女達はそれぞれ手伝う相手や組み手相手がいないため、手が空いている所を真司がスカウトしてきたのだ。その声にチンクが次の指示をリインへ求め、それに従いドゥーエ達が動き出す。

 

「しかし、こんなに餃子の餡を作って大丈夫か?」

「心配ないって。絶対足りなくなるからさ」

「そうそう。兄貴の餃子は六課でも人気だし、今日はあの二人もいないからな」

「一応ポレポレカレーやアギトセットなどを真司が再現するが……おそらく人気は餃子へ集中するだろう」

「そ。だからいつも以上の量を確保しておかないとね」

 

 リインの疑問へ四人はそう返して笑みを見せる。そこから真司の餃子に対する自信を見て彼女は嬉しそうに笑った。真司とヴァルキリーズの信頼関係を改めて見たために。そこからリインへ四人は真司の餃子に関する思い出を語り始める。

 そんな女性五人が和気藹々と開店の支度を進めていく隣では、真司が一人黙々とアギトセットとアギト御膳の再現に挑んでいた。きっとそれもリインの受けはそこまで良くないだろう。それでも彼はめげずに頑張るのだ。それが城戸真司という人間故に。

 

 一方、いつもと変わらぬ顔ぶれの場所もある。それはデバイスルーム。ジェイル達のいる場所だ。だが、いつもと違う事もある。そこにいる者達はこの日も対邪眼対策に励んでいたのだが、やっている作業が若干異なっていたのだ。

 

「シャーリー、これはどうかな?」

「……凄い。これなら組み込みを開始出来ます!」

「そうかい。それは良かった」

 

 ジェイルはシャーリーの言葉に笑みを返すと視線をモニターへ戻した。今二人が取り組んでいるのはAMF対策ではなく六課魔導師のデバイス強化だった。龍騎からのデータを使った材質強化や魔力弾の威力向上などだ。

 無論AMF対策も並行して進めてはいる。だが、一向に進まぬ物よりも多少なりでも進む方へ意欲が向いても仕方ないだろう。ちなみにジェイルはシャーリーから愛称での呼びかけを許可された。というよりは彼女がそれを求めたのだ。仲間であるのだから余所余所しいのは嫌だと。それにジェイルは少し意外そうな表情を浮かべたが、有難く受け取ったという訳だ。

 

「ドクター、例の施設も外れです。こうなると、あの辺りが怪しいですね」

「そうか。意外と大胆だね、老人達は」

「のようです」

 

 ウーノはISを使い聖王のコピーが培養されている施設を割り出していた。残った箇所も少なく、しかもそれはミッドの中心部に近い場所ばかりなのだ。故にジェイルは大胆と評し、ウーノもそれに同意したのだから。

 それと施設の割り出しが一段落してきた事もあり、ウーノはそれと並行して進めている事があった。それはジェイルが関わっていた管理局関係者であるレジアス・ゲイズとのコンタクトだ。

 

 理由は一つ。ジェイルが一番接触を持っていた相手だったから。邪眼が自分を装ってレジアスと接触する事を懸念したジェイルは、ウーノへ彼への連絡を一番に命じた。そしてジェイルはレジアスへ現状を伝え、協力して一手打つ事にしたのだ。

 それは、邪眼から接触があった場合、何も知らぬ風に応じて意図的に地上本部の正しい内部情報を教える事。おそらくそれを聞いた邪眼は裏を取って確認するだろう。それを逆手に取るのだ。

 

 つまり、それが正しい情報であればある程邪眼はそれを信じる。故に、その行動はそれに準じたものへと変わるはず。それを利用して邪眼を叩くためだ。

 

(それは、ドクターの手の内へ自ら嵌ってくれる事を意味する。そう、手薄だとしてもそこには局員ではない邪眼達の天敵を配置すればいいのだから)

 

 ウーノはそう考え、小さく笑う。ジェイルの立てた計画を使って動く以上、必ず公開意見陳述会で大きな行動を起こす。それを外して動く事も考慮しているが、ウーノは絶対にそうだと思っていた。ジェイルを基にして生まれた邪眼。その思考は、どこか昔のジェイルに引っ張られる部分があるはずだと。

 管理局の権威を失墜さえ管理世界全体へ自らの存在を刻ませる。そして、世界を自分の思うままに動かしたい。そんな事を考えていたように昔のジェイルは見えたのだ。

 

「あ、それでジェイルさんアレなんですけど……」

「やはり厳しいかい?」

「いえ、みんなのバリアジャケットに適応させる事は出来ます。ただデザインは変更出来ませんよ?」

 

 シャーリーの返答にジェイルは少しだけ残念そうに頷いた。アレとは龍騎から得たデータを基にしたバリアジャケットタイプの強化装甲。ブランク体の強度を目指し作り出したものだ。それをジェイルは、なのは達へのバリアジャケットに流用する事を考えた。

 その際、外見をあれと同じにする事で怪人達を驚かそうと考えていたのだが、シャーリーはそれを拒否したのだ。何せ、あまりにも無骨なのだ。六課の前線メンバーは女性が多い。それがあんな甲冑みたいな姿になるのは正直彼女は見たくなかったのだから。

 

「駄目かなぁ……アレ」

「「駄目です」」

 

 それでもと思って呟かれたジェイルの言葉。それを即座にシャーリーとウーノが斬って捨てた。その容赦の無い言葉にジェイルは残念そうに肩を落とし、それを見て二人は静かに笑みを浮かべ合う。そんなデバイスルームの風景だった。

 

 そして普段よりも顔ぶれが足りない場所がある。そう、指揮所だ。一番の責任者であるはやてがいないため、どこかしっくりこないようでオットーが空席の部隊長席を眺めて呟いた。

 

「……どこか落ち着かないですね」

「そうだね。でも、留守を任されたのは信頼されている証拠だよ」

 

 オットーのため息交じりの言葉に、グリフィスは始めこそ苦笑したものの笑顔で締め括る。ディードはその意見に同意するように頷いた。

 

「そうですね。これははやてさんからの信頼の証と思って頑張ります」

 

 彼女の言葉にグリフィスだけでなくオットーも頷く。その三人が話している横でツヴァイとアギトが仲良くデスクに座って仕事中―――のはずだったのだが、何故かツヴァイはアギトの後ろに立っているだけで何もしようとはしない。

 

「アギト、どうです? 出来そうですか?」

「う~……無理だぁ! アタシには出来ねー!」

 

 ツヴァイのどこかからかうような声にアギトはそう叫んで頭を掻き出した。ツヴァイの補助も無しで仕事が出来ると意気込んでいたアギトだが、まだ仕事を始めたのはつい最近。故に一人で出来るはずもなく、アギトは完全に手を上げた。それにその場の誰もが笑みを見せる。

 

「じゃ、あたしが手伝うよアギト」

「あ、なら私も」

「アルトもルキノも自分の分をやってくれ。リイン曹長、アギトの補佐を頼めますか?」

「あは、了解です」

 

 アギトの愛らしさに笑みを浮かべながらアルトとルキノが言い出した内容。それにグリフィスは部隊長代理らしく苦笑しながらそう指示を出した。それにツヴァイが頷いて、アギトの隣へ移動しその手伝いを始める。

 それにアルトとルキノが少し不満そうな表情を返すものの、グリフィスが若干鋭い視線を見せると黙って自分達のコンソールへ視線を戻した。それに満足そうに頷くグリフィスとコンソールへ逃げた二人を交互に眺め、クアットロが軽く笑う。

 

「情けないわねぇ……」

「グリフィスさんの迫力勝ちですね」

 

 姉と同じくオットーも苦笑してその両者を見つめる。その後、彼女達も仕事へ戻る。和やかな雰囲気もありつつ、やはりどこか厳しい雰囲気もある指揮所。その独特な空気感を心地良く感じながら、彼らは仕事に励むのだった。

 

 同時刻の六課の格納庫。そこでウェンディとディエチは自分達の武装を手入れしながら過ごしていた。その傍にはトーレとセッテがいる。二人はいつものように自主訓練を終え、する事もないためか何と無しに格納庫へ来たのだ。

 そしてライドロンやゴウラムを見つめながら不思議そうに何かを考えていた。意思を持つ生体メカ。それは一つの生命体だ。そう、クウガとRXは龍騎と同じく意思を持つ相棒を有している。そう考え、二人が抱いた事があった。

 

「……共通点が必ずあるな」

「はい。必ずしも四人全員にではないですが、クウガとアギトの超変身やRXとクウガの腹部の石のようにそれぞれの間には複数の共通点が見られます」

 

 仮面ライダー達の共通点。それがかなり似ているものが多い事。それが二人の抱いた事だった。クウガとアギト、RXにある別の姿への変化。アギトとRXの武器の出現位置。そういう細かな部分での類似点がよく見られる。龍騎はそこまでないが、そのとどめが蹴りである事は四人に共通する事だ。

 しかも、仮面ライダー達はほとんどその蹴りによって怪人を打ち倒してきた。それを光太郎経由で知った時、五代達は意外そうな表情をしたものの、自身が知らず歴代の仮面ライダーと同じ決め技を使っていた事に喜んだのだ。

 

 そういう事も含めて異世界の仮面ライダーである龍騎やクウガにも、人の未知なる可能性たるアギトでさえ、RX達従来の仮面ライダーと似ている点が多い。まるで何者かが仮面ライダーという存在に対し、同じ要素を持たせたかのように。

 神と呼ばれそうな相手と戦ったアギト。もし、その相手が仮面ライダーを作ったとなればそれも納得出来る。しかし、その可能性は低いだろうとトーレ達は思った。まず、最初の仮面ライダーは人体実験の末に誕生した。更に、彼らを改造した組織は揃って違う組織だ。

 

 繋がりはあったのかもしれないが、だとしても妙だとトーレは考えた。何故、いつも仮面ライダーは生み出されたのだろうか。いや、正確には仮面ライダーと同じような外見と能力を有した存在を。しかも、それらが決まってその組織の敵となる。

 光太郎にもしその疑問をぶつければ、彼はこう答えただろう。仮面ライダーは天敵なのだと。それは、病原菌を駆逐するために動く白血球のように悪に対する自浄作用として現れるのだと。

 

 だが、光太郎も知らない事がある。一号達歴代ライダーが生み出された理由。それは、とある計画のためだったとは。一号からZXまでが協力し、打ち倒した大首領。そう、彼こそが仮面ライダーの基になった存在なのだ。

 だが、だからこそ言える。仮面ライダーの基になったのは大首領故にその天敵となりえたのだと。最後の者の名を冠するZX。彼はその大首領からこう評された。99%の同調、1%の拒絶と。

 その1%こそが仮面ライダー達に共通する要素。そう、それは魂。いかに強力な力を持とうと、使う魂が歪んでいればそれは決して強さにはならない。歴代の仮面ライダー達が性能面で劣るにも関らず、次々と現れた最新鋭の怪人を相手にして勝てたのはまさにそれだったのだから。

 

「もしかしてさ、クウガとRXのキングストーンだけじゃなくて、アギトや龍騎も含めた四人に共通する何かがあるのかもしれない」

「例えば何ッスか?」

 

 ディエチの告げた言葉にウェンディが不思議そうな表情で問いかける。それに彼女は困った顔をし、何とか考えようとするが中々いい考えが浮かばずに沈黙した。すると、それにトーレが自分でも納得していないままに告げた。

 

「……仮面ライダーの名を誇りにするRX。仮面ライダーになろうとするクウガ。仮面ライダーであろうとするアギト。仮面ライダーを変えようとする龍騎。その在り方の変遷が影響し合っている事ぐらいしか浮かばんな」

 

 その言葉に三人がしばし考え込んで―――頷いた。もしかすると、仮面ライダーという名の持つ意味とその重さを見つめさせるために四人は出会ったのではないのか。そんな風に思えたのだ。

 だが、それはきっと偶然だろうと四人はそれぞれで結論付け、話題を変える。それは、最近密かに白熱している討論。そう、四人のライダーの中で誰が一番強いかだ。キッカケは素朴な疑問。四人のライダーが全力で戦ったら、誰が勝つのだろうというもの。

 

 それにスバルはクウガ一択。ティアナは心情としてはアギトだが、能力的にRXを推していて、エリオとキャロもそれに続く。ツヴァイはアギトを推し、アギトは龍騎。ウーノは冷静にクウガを選んだ。RXは確かに強いだろうが、クウガには金の力と四つのフォームチェンジがあるのがその理由。

 ドゥーエはアギト。まだ隠している能力があると聞いているのが理由。トーレ、チンクは龍騎。理由は敢えて書かない。クアットロはクウガ。理由はウーノと同じものに加え、クウガにもRXと同じ石がある事を加味してのもの。

 

 セインは龍騎。これも、理由は言うまでもない。セッテは悩んだ結果RXを選んだ。理由は剣を決め手として戦うからだった。しかし、RXが使うリボルケインは剣のように見えて本当は杖。それを彼女が知る事はないが、それでも彼女はRXを推しただろう。

 オットーとディードは龍騎。唯一ユニゾンで空戦を可能とする事が大きな決め手になると考えたのだ。ノーヴェはクウガ。理由はどの距離にも適応出来るその力。ディエチもクウガ。理由は五代が恐れる力があるという事。それを使うと全てを壊してしまうようなものだろうと考えるからこそ、ディエチはクウガが最凶だと思ったのだから。ウェンディはアギト。理由は簡単。神に勝ったという一点のみ。

 

「だから、リボルケインなら例えサバイブでも……」

「いや、いかなRXもファイナルベントを無傷でとはいかん」

「チッチッチ、アギトが竜巻起こしてみんなまとめちゃうッス」

「……クウガならそれを紫の鎧で耐え切るんじゃないかな?」

 

 自分の推すライダーの話をする四人。だが、この話をすると必ず最後に引き分けと言う結論で締め括られる。何故ならばそれは次の言葉に集約されていた。

 

 仮面ライダーは誰もみな強いとの結論に。

 

 

 

 ホテルに着いたなのは達は早速とばかりにシャマルからある物を渡された。それは綺麗なパーティードレス。仕事着とシャマルは笑っていたが、あながちそれも間違いではない。ホテルアグスタで行なわれるオークション。それは少し格調高い雰囲気が漂うものだからだ。

 その会場へ管理局の制服で入るのは少し憚られる。何せそこまで問題のある催し物ではないのだ。故のドレスだった。潜入任務とでも言えばいいのだろうか。とにかく、ホテルの中はなのは達隊長三人と光太郎に翔一が担当となり、外は五代とスバル達フォワード四人、それに守護騎士達となった。

 

 並んでホテル内を歩く光太郎とフェイト。だが、光太郎がフェイトの格好を見てどこか苦笑しながら告げた。

 

「分かってはいるけど、やっぱり何か違和感があるね」

「そうですね。私だけだと少し恥ずかしいです」

「なら、俺もそれに合わせてタキシード辺りを用意してもらえば良かったかな」

「ふふっ、そうして欲しかったな。あ、何なら貸衣装もありますよ?」

「ははっ。じゃあ喜んで、と言いたいけど遠慮させてもらうよ。いざとなったら今の格好の方が動き易いからね」

 

 黒のドレス姿のフェイト。それが微笑むのは実に様になっていた。光太郎はそう思いながら会話中に視線をさり気無く周囲へ動かす。気配などにも怪しいものはない。ここは安全かと考え、フェイトへ視線を戻し笑みを向ける。

 それにフェイトも笑みを返し二人は再び歩き出す。他愛もない会話を交わしながら周囲へ注意を払う事を忘れずに。しかし、フェイトの顔には薄らと朱が浮かんでいた。初めてドレスを着て家族以外の異性と歩く事。それが若干の気恥ずかしさを与えている。

 

 少なくてもフェイト自身はそう思っていた。そう、今は。そのまま二人はホテル内を歩き回る。その様子は服装に多少の違和感こそあれ恋人然としていた。

 

 一方、はやてと翔一はホテル内である人物と出会っていた。

 

「「ロッサ(さん)!?」」

「や。久しぶりだね、はやて。それと、翔一さんもお元気そうで……」

 

 いつもの白いスーツ姿でロッサはにこやかに笑って二人へ声を掛けた。そして、はやてのドレス姿を見て一度軽く頷くと視線を翔一へ向けた。

 

「そういう格好も良く似合うじゃないか。翔一さんもそう思いますよね?」

「あ、はい。俺もそう思います」

 

 ロッサの問いかけに答える翔一だが、その声に普段の明るさがない。それにロッサも気付いて不思議そうに視線を隣のはやてへ動かす。はやての表情もどこか普段とは違う事を確かめ、彼は何か二人の間であった事を悟った。

 

 こういう場合ははやてから聞くよりも翔一から聞く方がいい。そう判断し、ロッサは翔一へ近付き小声で事情を尋ねた。そこで聞いたはやてとの会話から彼は大体を把握し軽く苦笑する。はやての可愛らしい面を見たからだ。

 なので彼はそのまま翔一へある事を耳打ちする。それに翔一は若干驚くも成程と思って納得した。その男二人のやり取りを眺めはやてはややむくれる。自分を無視されているような気がしたからだろう。それに目ざとく気付き、ロッサは素早く翔一から距離を取って咳払い一つ。

 

「……じゃ、僕は僕で仕事があるから」

「そか。またな、ロッサ」

「アドバイスありがとうございます、ロッサさん」

 

 二人へ手を振ってロッサは去って行く。翔一の感謝を聞き、ロッサは改めてその姿勢を尊敬した。年上年下に関わらず、誰にでも敬意を持って接し純粋に気持ちを伝えてくる。やろうと思っても中々出来ない事だ。それを翔一は意識もせずにやってのけている。

 

(やっぱり翔一さんはすごいね。僕も、是非ともああでありたいよ。それにしても……)

 

 ある程度歩き、ロッサはちらりと後ろを見る。もうそこに二人の姿はない。翔一が自分のアドバイスに従い、別の場所へ連れて行ったからだ。それを確認し、一人笑みを浮かべるロッサ。

 

(どこか、昔のはやては罪悪感から少し生き急いでいるようにも見えたけど、翔一さんが戻ってきた後はそんな感じもしなくなった。それどころか……)

 

 今は兄を慕う愛らしい妹だ。そう思い、ロッサは小さく誰もいない場所へ告げる。それは、はやての兄的立場を自称するからこその言葉。偽りない素直な気持ち。

 

―――僕の方こそありがとうですよ、翔一さん。貴方ははやてをただの女の子にしてみせる。それは僕が中々出来なかった事だ。同じ兄的立場としては少々悔しいぐらいですよ。

 

 ロッサがそんな風に思っている事を知らず、彼に教えてもらったサロンへ翔一ははやてを案内していた。そこは少し落ち着いた雰囲気があり、どこか大人の場所といった感じさえある。しかも、折良く誰も居らず静かだった。

 それにはやては中々良い雰囲気と思うも、隣の翔一がどうしてここへ連れて来たのかが理解出来なかった。ロッサの入れ知恵とは分かるのだが、一体何のつもりでと。すると、翔一が彼女の方を向き直り、素直に頭を下げた。それにやや疑問を感じているはやてへ翔一ははっきりと言った。

 

「ごめん! まず、俺がはやてちゃんの話を聞いた時に言うべきだったね」

「……何を?」

「俺が言う必要はないって思っても、はやてちゃんは隠し事をされるのは嫌だって思う子だった。だからティアナちゃんとの事も言っておけば良かったんだって」

 

 ロッサが翔一へしたアドバイスはこれだけ。とりあえず謝り、そしてティアナとの事を包み隠さず何でも話すと言えばいいと。翔一はその意見に納得しこうして実践したと言う訳だ。

 そんな翔一の真っ直ぐさを見る事で、はやても自分の子供っぽさに気付いた。翔一はただティアナが乗りたいと言ったからバイクに乗せてやっただけ。そこに何も邪なものはない。少女の願いを叶えてやろうとしただけに過ぎないのだと。

 

(それをわたしは考えず、ただ翔にぃがわたしより先に他の子をバイクに乗せてた事だけ見とった。……あかんなぁ。ティアナが翔にぃの妹分やったから嫉妬しとったみたいや)

 

 純粋な好意からティアナをバイクに乗せてやりたかった翔一。その行いを自分はどうして受け止めてやる事が出来なかったのか。そう思い、はやてはある行動を取る。

 

「ごめんなさい」

「え? はやてちゃん?」

 

 はやてが頭を下げた事に翔一は戸惑いを見せる。どうしてはやてが謝るのか。それが彼には分からない。彼の中では悪い事をしたのは自分なのだから。

 

「翔にぃは言うてくれた。こっちで自分のバイクに乗せたのはわたしが初めてやって。ならそれでわたしは満足しておけば良かったんや」

「……じゃ、これでこの話は解決だね」

 

 笑顔で翔一がそう言うと、はやても頭を上げて笑顔を返す。そして少しだけ休憩しようとなり、サロンで二人は一時を過ごす。はやての格好を見て、出会った頃の事を思い出して感慨深く翔一が呟けば、はやてはいつかウェディングドレスが着れるだろうかと言って悩ましくため息を吐いた。

 

「はやてちゃんはいいお嫁さんになれるから心配しなくていいと思うよ?」

「そうは言うても……わたし、今までお付き合いさえした事ないから不安になるんよ」

「そっか。じゃ、まずはロッサさんに誰かいい人を紹介してもらおう」

「やっぱそういう出会いしかないんかなぁ」

 

 そう言って苦笑するはやてに翔一は微笑む。どんな形でも出会いは出会い。そう言って彼は笑う。かつての自分と彼女がそうだったように、意外と運命の出会いは思わぬ形でやってくるものなのだと。

 それにはやても頷いて笑顔を見せる。そこからはやてが結婚式では翔一とバージンロードを歩きたいと言い出し、彼を大いに困らせる事となる。そんな仲良し兄妹といった二人のやり取りはこの後十分近く続くのだった。

 

 その頃、なのはは一人廊下を歩いていた。目的の場所はオークション会場であるホテル内のホールだ。当初はフェイトが行くつもりだったのだが、ユーノがいる事を知った五代がなのはを行かせて欲しいと頼み現状へ至る。

 勿論、なのはが内心で五代の配慮に感謝したのは言うまでもない。今もこれから会えるだろう愛しい相手の事を思ってだろうか彼女の足取りは軽かった。

 

(ユーノ君、驚くかなぁ)

 

 思い浮かべるのは恋人の顔。あのパーティー以来直接会ってはいないが毎晩話している相手。なのはにとっては、今一番大事な存在となった男性だ。

 

「……あ、ここだ」

 

 会場となっているホールの扉を見て、なのははその取っ手へ手をかけて静かに開ける。会場はまだ準備中らしく閑散としていた。だが、そこに彼女が求めていた相手がいた。檀上に上がり、軽い打ち合わせをしているのかオークションの司会らしき男性と数回言葉を交わしている。

 その光景が珍しく思え、なのははしばしその様子を眺めていた。無限書庫以外で働いているユーノの姿を見るのは新鮮だったのだ。やがて打ち合わせも終わり、男性がユーノから離れていく。それを見てやっとなのはは意識を切り替えた。

 

「ユ~ノ君」

 

 気付かれないように静かに歩き、ある程度近付いたところでなのははユーノへ声を掛ける。それにユーノは軽い驚きを見せながらも視線をなのはのいる方へと向けた。そして、その存在を確認して驚きと共に笑顔を見せる。

 

「なのはじゃないか。どうしてここに?」 

「えへへ……お仕事でだけど、来ちゃった」

 

 はにかむなのはにユーノは一瞬意識を奪われるも、何とかその場から動き出した。久しぶりに出会えた事は嬉しいものの、互いに仕事で来ている事は忘れていなかったのだ。歩きながら互いの格好を見て違和感を感じる二人。ユーノはなのはのドレス姿を誉め、お返しとばかりになのはがユーノの正装を誉める。

 連れ立って歩くその姿は距離感から言っても恋人そのものだ。腕こそ組んでいないが、もし許されるなら二人は即座にそうしていただろう。そんな二人が目指す場所は特にない。ホールを出て廊下を歩きながらとりあえず静かな場所を探した。

 

 だが、その間の話題はあまり恋人然とはしていないものだったが。

 

「……そう、やっぱりないんだね」

「うん。並行世界自体は実在すると言われ続けているけど、誰も行った事がない。どうも五代さん達のように来た人もいないみたいでね。だから文献もあまりなくて……」

「しかも、全員地球の並行世界」

「それも直接繋がってるのは翔一さんと光太郎さんだけ。それでも、時代が十年以上も違う。五代さんと……城戸さんだっけ。二人はそれぞれ違う世界だし、これはもう神様の仕業とかの話だよ」

 

 ユーノが冗談めかして言った言葉になのはは思わず立ち止まる。何も知らないユーノでさえそう思うのであれば、やはり五代達を自分達の世界へ呼んだのは翔一が戦った相手なのだと改めて思ったのだ。

 つまり、それはジェイルやユーノは神の域に挑もうとしている事を意味する。そう思ったなのはは恐怖を覚えた。人でありながら神の領域へ挑む。それは、下手をすれば恐ろしい結果をもたらすのではないかと。

 

 ユーノはなのはが立ち止まった事に気付き、視線を後ろへ向けた。そして彼女のその表情から何かを察したのかゆっくり近付き、その肩に優しく手を乗せた。

 

「ユーノ君?」

「大丈夫だよなのは。僕は、絶対に五代さん達との絆を断ち切らせたりしないから。例え相手が神様でも、ね」

 

 事情を知らぬでもユーノはなのはの目を見てはっきりとそう言い切った。なのははその言葉にジェイルの言葉を重ねる。諦めないと感じさせる力強さ。どこまでも再会を、その縁を信じるその眼差しになのはは微笑んでみせた。

 その笑みにユーノも頷き、もう大丈夫と思ってその手を放そうとする。だが、その瞬間なのはがそんな彼へ顔を近づけた。そして、ユーノの頬にその唇を重ねたのだ。それにユーノが目を見開くのとなのはが離れるのは同時だった。

 

「な、なのは? 今のは」

「ユーノ君がカッコイイ事言って励ましてくれたから、そのお礼だよ」

 

 顔を少し朱で染めて告げるなのはにユーノも同じような反応を見せて何も言い返せない。可愛いと思っただけではない。その行為が自分達が恋人になったのだと改めて感じさせてくれたからだ。

 その眼差しに相手への想いを乗せるように見つめ合う二人。この後、二人は実に三分以上もそこにそうしているのだった。

 

 

 

 なのは達がそれぞれの時間を過ごしている頃、ホテルの周囲でスバル達は五代と共に警戒に当たっていた。シグナム達はホテルからやや離れた場所で偵察や警戒を行なっている。五代が四人と共にいるのは怪人が現れた場合の対処のためだ。

 スバル達はまだ実戦経験が少ない。それに、空戦が出来るシグナム達と違い、基本陸戦しか出来ない四人は逃げるにも苦労するだろう事を懸念しているのもある。そのためにクウガである五代と共に配置されたのだ。

 

「へぇ、ユーノさんってそんな人なんですか」

「そう。物知りで、なのはちゃんの恋人。無限書庫ってとこの司書長してるんだったかな。優しいけど、芯はしっかりしてるんだよ」

 

 今、五代は四人へユーノの事を話していた。キッカケは五代が自分もユーノに会いたかったなと呟いた事。それを聞いたスバルがユーノとは誰なのかと聞いた事からこの話が始まったのだ。ユーノの容姿から始まり、出会いや共に過ごした思い出などを話し、最後に五代はそう締め括った。

 警戒中ではあるが何かあればシャマルが気付くし、光太郎の勘が働くと思っているのもそんな風にリラックス出来ている理由。そう、五代も四人も話をしながらも注意は怠っていない。常に視線は周囲を見ているし、下手に場所を動かずに五人で固まっているのだから。

 

「なのはさんの恋人で無限書庫の司書長……」

「凄い人ですね~」

 

 そんな人物と五代が知り合いという事にティアナはどこか意外そうな印象を受けた。それは仕方ない。五代が無限書庫へ行くような相手に思えないのだ。

 実際、五代は無限書庫へ行った事はないに等しい。ユーノと彼は遺跡関係の時ぐらいしか行動を共にしなかったのだから。そしてスバルはティアナとは違い、普通に彼が誉めるから感心しているだけだった。

 

「フェイトさんとも幼馴染ですよ」

「じゃ、はやてさんともそうだね」

 

 ユーノの事をフェイト経由で知るエリオはそんな二人へ追加情報を与え、キャロはそこからはやてとの関係に気付いてそう告げた。そんな風に任務中とはいえ、和やかな雰囲気が漂う五人。

 だが、そこへ密かに近付く存在があった。それはクラールヴィントの索敵からも逃れ、静かに五人へ迫っていた。だからこそ、その時五人以外にその存在に気付ける者がいたのはまさに幸運としか言えなかった。

 

 その存在―――フリードは、空中ではなくキャロの傍にある木陰で横になって休んでいた。しかし、その閉じていた目が何かを感じ取って急に見開いたのだ。

 

「キュクル~!」

 

 接近する何かを威嚇するかの如く突然フリードが吼えた。それに全員が意識をそちらへ向け、同時にフリードが吼えている方向へ視線を向けた。そこには何の変哲もない大地が広がるのみ。だが、ヴァルキリーズと出会い、それぞれのISを知った今、五人はそれだけで臨戦態勢へ入る。

 

「「「「セットアップっ!」」」」

「変身っ!」

 

 戦闘態勢へと入る五人。そう、フリードが反応を示したのは地面。それは、セインと同じISを使うゼクスの接近を意味していた。そう、フリードはあの初めての模擬戦で見せた嗅覚によりその接近へ気付く事が出来たのだ。

 ゼクスも五人が臨戦態勢を取った事を察知したのだろう。地面からその姿を見せたのだ。その姿に予想が間違っていなかった事を理解し、ティアナがスバルへ指示を出す。

 

「スバルっ! ウイングロード!」

「そっか!」

 

 ティアナの考えを即座に理解し、スバルはウイングロードを展開する。そして、それと同時にティアナがエリオとキャロへ叫んだ。

 

「アタシ達はウイングロードから援護! クウガはそのまま怪人の相手をお願いします!」

「「「了解っ!」」」

 

 相手のISによって狙われる可能性を無くすためにティアナがウイングロードを使おうとしている事に気付き、三人はそれぞれ動き出す。ゼクスもその狙いを理解し彼女達の妨害をしようと動き出した。だが、そうはさせじとクウガが自らゼクスへ掴みかかり、四人がウイングロードへ移動する間の時間稼ぎをする。

 まだどこか怯えるフリードを宥めつつ、急いでウイングロードを駆け上がるキャロとその後ろを守るように走るエリオ。ティアナはスバルと共にウイングロードを地面から離して完全にゼクスのISが意味を成さない位置に陣取り、クウガの援護をすべく動き出していた。

 

「アタシ達のするべき事はクウガの援護。スバル、アンタは一撃離脱限定で接近戦。ただし、接近に使ったウイングロードはすぐに消す事! エリオは苦手かもしれないけど魔法主体で中距離戦よ。隙を見て接近してもいいけど気をつけなさい。キャロはフリードを元に戻して状況に応じてブレス攻撃。アタシは副隊長達へ報告しながら幻術で援護する!」

「「「了解っ!」」」

 

 ティアナの指示に頷きを返し、スバル達が動き出す。ティアナは念話でシャマル達へ連絡しつつクウガの援護すべく幻術を使い始めた。その眼下で格闘戦を繰り広げるクウガを助けるために。

 

「な、何っ?!」

「これ……ティアナちゃんの」

 

 突然クウガが増えた事に驚くゼクス。しかも、赤のクウガだけではなく青や緑、紫もいるという混成だ。クウガはそれがティアナの魔法だと気付き、一瞬だけ視線を上へやった。そこには、幻術を使い少し苦しそうな表情でサムズアップをするティアナがいた。

 それにクウガは頷き、困惑するゼクスへ攻撃を開始する。本音を言えば彼は超変身を駆使して戦いたい。赤のクウガよりも緑のクウガの方がゼクスには向いていると彼も理解はしているのだ。ISを使われても、緑の超感覚ならば把握出来るだろうとの読みがそこにはある。

 

 だが、今は出来るだけ赤のままで戦おうとも思っていたのだ。あまり邪眼側に自分の力を知られる訳にはいかない。あの戦いの時、邪眼の前で使った色は赤と紫の二色。青と緑は見せていないのだから。

 

(緑を使うならそれでしか駄目な時!)

 

 クウガはそう思い、ゼクスとの格闘戦を再開する。幻術に困惑していたゼクスだったが、先程まで戦っていたクウガが赤だった事を思い出し向かって来るクウガへ反撃を開始。その攻撃を受け止め、クウガはゼクスと力比べの様相を呈する。と、そこへ凄まじい速度で接近するスバルの姿があった。

 

「やあぁぁぁっ!」

「ちっ!」

 

 繰り出される飛び蹴り。それをかわすため、一旦クウガから離れるゼクス。しかし、スバルはそのまま再び距離を取って離れていく。それに攻撃しようとしていたゼクスが悔しげに舌打ちした。

 

「クウガ! ティアの幻術の意味、考えて!」

「意味……?」

 

 去り際にスバルが叫んだ内容。それに少し疑問を浮かべるクウガだったが、その色とりどりの幻影を見て何かを悟る。ティアナの狙い。それが何かを理解して。

 

「……そうかっ!」

「サンダーレイジっ!」

「小癪な!」

 

 その声に呼応するようにゼクスの周囲へ雷が降り注ぐ。エリオがゼクスの頭上で使った魔法によるものだ。それにゼクスがエリオへ攻撃を試みようとし、視線がクウガから外れる。それを見たクウガは好機と構えた。

 

「超変身っ!」

 

 そして体の色を赤から緑へ変える。クウガはゼクスをアクロゴウラムの突撃で倒した事を考え、封印の文字を刻む攻撃を一度だけでは仕留め切れない可能性があると判断した。故に確実に倒すためには二度文字を刻む必殺の一撃を与える必要があると考えたのだ。

 緑に変えたのは電撃に怯むゼクスを攻撃するため。接近せずにダメージを与える事を考えるとそれしかなかったためだ。それを見た瞬間、ティアナが手にしていたクロスミラージュの片方をクウガへ投げた。そして、同時に幻術で作り出していた緑のクウガにも変化を与える。

 

 本物と幻影が同時にペガサスボウガンを手にする。そう、ティアナが混成にしたのはクウガが色を変える事で本物をゼクスに分からなくするため。そのため、ティアナはスバル達に視線をクウガから外させるようにと追加で指示を出していたのだ。

 

「くっ! 死ね、クウガ!」

 

 エリオがクウガの変化に気付いてその場を離れた事を受け、ゼクスは雷を振り切って近くにいた赤のクウガへ爪を突き刺した。しかし、それは幻。そして、同時に他の赤のクウガも消える。それにゼクスは驚きを隠せない。

 自身が戦っていたクウガは確かに赤だったのだから当然だ。すると、ゼクスが何かに気付く。緑のクウガが武器を手にしている事に。それに意識を向けて戸惑った隙を見逃さずクウガがブラストペガサスを放った。

 

 それがゼクスの体を直撃し、衝撃でその場から軽くその体を吹き飛ばした。クウガはそれを見て体を赤へ戻す。そして、手にしていたクロスミラージュを感謝と共にティアナへ投げ返し、とどめを放つべく構えた。

 封印を意味する文字に苦しむゼクスだったが、クウガの予想通りそれも何とか耐え切って立ち上がった。だが、一体何が起きたのか理解出来ないという雰囲気でゼクスは周囲を警戒すりょうに見渡した。そこへキャロの声が響く。

 

「フリード、ブラストフレア!」

 

 本来の姿に戻ったフリードの口から放たれる火炎。キャロは、怯えるフリードへこう言って宥めた。

 

―――ここで怯えているだけじゃ、誰も助けられないし何も出来ない。私が一番嫌なのは、そのせいで誰かが傷付く事なんだ。だから、フリードの力を貸して欲しいの。

 

 そのキャロの言葉にフリードは応えた。フリードとキャロは精神面で繋がっている。故にフリードの怯えはキャロの怯え。それを乗り越えた心を感じた事により、フリードもそれを克服する事が出来たのだ。二人の思いを込めた炎。それにゼクスがややたじろいたのを合図にクウガは走り出す。

 

 それを見たティアナは、魔力の全てを使いゼクスの全方向に赤のクウガを出現させる。それによって視界を塞ぎ、クウガの妨害を阻止するためだ。結果、火炎を振り払ったゼクスが見たものは、自分を取り囲むような大勢のクウガの姿だった。

 それが幻術とはゼクスも理解している。それでもどれかは本物かもしれないと思い、慌ててISを使って逃げようとした。だが、それを読んでいたスバルがマッハキャリバーで加速してその体に組み付いたのだ。

 

「そうはさせないっ!」

「くっ! 放せ!」

 

 セインから聞いたディープダイバーの欠点。それは、生物を透過出来ない事ともう一点。自分以外もISの効果で透過させる事が出来るが、バリアジャケットなどの不純物があるとそれが出来ない事。

 故にスバルは自分を使いIS使用を阻止していた。更にクウガへの援護も兼ねるために最後の一押しをしようとその体を押さえ込もうとする。だが、ゼクスもそれに対し全力でスバルを振り解こうとした。

 

(不味いっ! このままじゃっ!)

 

 振り解かれる。そうスバルが思った瞬間、キャロのブースト魔法がその身に宿った。

 

「我が乞うは、巨人の腕。青き拳士に逞しき力を!」

”ブーストアップ ストロンガー”

「っ! キャロ、ありがとっ!」

「なっ! 振り解けないだとっ!?」

 

 腕力強化を受けたスバルはゼクスを押さえ込んだまま上空へウイングロードで駆け上がる。戦闘機人だからこそブースト魔法だけで怪人と拮抗する事が出来る。スバルはそう考え、自分の体に感謝した。そして同時に思う。この体でしか出来ない事があるのだと。

 機械が組み込まれた忌まわしき体。だが、それがこうして役に立てる。仮面ライダー達と同じように自分もこの体を誇りに思おう。気高い人の魂。それを失わず、どこまでも人として生きて行くために。

 

(それに……私にはみんなが、六課の仲間がいる!)

 

 スバルの目に強い輝きが宿る。一人では出来ない事でも、協力し合えばその限りではない。そう考えてスバルは視線を少しだけ下へ向け頷いた。そこに見えた頼もしい姿への合図として。

 

「放せぇぇぇぇっ!」

「なら、放してあげるよっ!」

 

 その言葉にスバルはウイングロードを宙返りの状態にし、ゼクスの希望通りその体を放した。そして自身は即座に別のウイングロードを展開し空を駆ける。

 一方、完全に空中へ投げ出される形となったゼクスへ迫る者がいた。クウガが跳び上がっていたのだ。それは、スバルの動きから予想を立てたティアナがクウガへこう告げたから。きっと空中に運ぶつもりだと。そう、空中ではゼクスのISは無力。故に、もうゼクスにクウガの攻撃を防ぐ術も逃げる場所もない。

 

「次こそ、次こそ殺してやる! 仮面ライダーっ!!」

 

 取るに足らないと思っていたスバル達に翻弄され、何も出来ぬまま”また”クウガに負ける事に悔しがりながらゼクスは叫ぶ。クウガはそれに構わず、ある事を思い出していた。それは、彼がRXの蹴りを見た事で感じた事から生まれた思いつき。

 ライダーとして戦うRXのとどめとして叫ばれた言葉。それを意識して、自分も必殺技としての意味合いを込めた一撃を放とうと。それは、彼は知らないが歴代のライダー達がそう叫んで悪を倒してきた言霊なのだ。

 

「ライダーキックっ!」

 

 叩き込まれるマイティキック。いや、ライダーキック。一号から綿々と受け継がれてきたライダーの決め技。それが、クウガにも受け継がれた瞬間だった。その悪を許さぬ想いを込められた一撃がそのままゼクスの体を大きく蹴り飛ばす。

 そして、大地に叩き付けられると同時にゼクスが爆発した。それを見届け、スバル達に笑顔が浮かぶ。初めてみるライダーと怪人の戦いの決着。その派手さと安堵感から歓声が上がる。

 

 しかし、クウガにはそれが聞こえていない。クウガとして勝利した時、必ず感じる空しさ。それを今日は強く感じたのだ。それは、ライダーキックと叫んだ事が原因。思ったのだ。他のライダー達は何度その技を叫び、こうして怪人を倒してきたのかと。

 何度戦う空しさや心苦しさを感じていたのだろう。どれだけこの嫌な感触を味わい、それでも前を向いて歩いているのだろうか。その心の強さに思いを馳せ、クウガは五代へと戻る。そして、後ろから聞こえるスバル達の声に振り向いて笑顔を見せた。それに四人が笑顔でサムズアップを返すと、彼もそれにサムズアップを返す。だが、どこかそれには普段はない何かがあった。

 

(先輩達……俺、決めました。クウガはライダーになって、ライダーを超えてみせます。貴方達とは違う世界で、仮面ライダーの在り方を俺が変えてみせます)

 

 怪人と戦うのではなく災害と戦う存在へ。いつかそうなってみせる。クウガの力を、仮面ライダーの力を戦闘ではなく救命に使う。それが、五代なりに見つけた仮面ライダーの在り方。自分の世界で他のライダーが生まれる可能性はないに等しい。だからこそ、自分の世界では自分が仮面ライダーの意味を決める事になる。

 未確認のような存在がもう出ない事を五代は信じている。だからこそ、クウガは怪人からではなく災害から人を守る者になろう。人知れず守る事の出来ない相手の自然災害や人災。それを相手に戦う。それはきっと険しい道。だとしても、いつか理解されると思って歩こうと。冒険家として世界を巡りながら、自分の見える範囲で一つでも多くの命を、未来を守りながら。

 

 そんな風に五代が新たな決意を抱く中、シグナム達がようやく合流する。ティアナ達へ合流しようとした彼らには大量のトイが襲撃してきたのだ。そのため、その撃退に少し時間を取られ合流するのが遅れてしまったと言う訳だった。

 

「……そうか。しかし、ゼクスとはな」

「意外だったよな。知らない奴をぶつけてくると思ったのによ」

 

 ティアナの報告を聞き、シグナムが言った言葉にヴィータも同意するように返した。予想していた展開と違う相手の出方。それに今後の事をもう一度話し合う必要性を感じていた。そして、周囲への警戒を怠らないようにすると共に、はやて達へ怪人の襲撃があった事を報告する。

 

「もしかすると、邪眼も下手に自分の手札を見せずにライダーのデータを知ろうとしているのかも」

「その可能性はあるな。今後の出方次第では、こちらもまた考えなければならん」

 

 シャマルの言葉にザフィーラがそう応じ、シグナムとヴィータも頷いた。そんな守護騎士達を見つめながらスバルが五代へふと思った事を問いかけた。

 

「どうしてライダーキックって言ったんですか?」

 

 自分が知る限り、クウガはそんな事を言ってなかったはずだ。スバルはそう思ったからこそ五代へ聞いた。それに五代は少し迷うような表情をするが、いつものように笑って言った。

 

「何かさ、トドメ! って感じ、しない?」

「……そう言われると」

「確かにしますね」

 

 成程といったスバルの声にエリオがそう続いた。何せ、聞いた瞬間思ったのだ。これでクウガが勝ったと。それだけの何かがあの叫びにはあった。そうスバルが言うと、五代は言霊について話し出した。日本の考え方であるそれ。言葉には魂がこもる。故に、言い続ければそれが現実になるとさえ言われる事もあるのだと。

 五代はライダーキックという言葉にこれで終わって欲しいとの想いを込めたと語った。もう立ち上がる事がないように。そんな祈りにも似た気持ちがあった。それに一番理解を示したのはスバル。彼女も一撃必倒と叫んで攻撃する時がある。それは、まさにその言霊だと感じたからだ。

 

「私も確かに言うな」

「あたしもだ」

「私は……特にないなぁ……」

「私は叫び自体がそれだ」

 

 そんな話を聞いてシグナムが会話に参加すれば、ヴィータもそれに同意。シャマルは苦笑して、ザフィーラは小さく笑みを見せる。

 こうして、ホテルアグスタでの戦いは幕を下ろす。だが彼らは知らない。ゼクスが倒された瞬間、一機のトイが密かにその場から離脱していた事を……

 

 

「ゼクスの奴め。勝手に出て行ってやられるとはな」

「でも、おかげでクウガの能力の一つは確認できました。どうも射撃が出来る姿のようです。詳しい事はまだ未知数ですが、きっとそれに即した能力を有しているはず」

「ふむ、視覚が優れるというところか」

「おそらく。向こうは見られていないと思っているでしょうが、私の目は誤魔化されません」

 

 ウーノと同じ姿の黒髪女性―――アインスはそう告げて不気味に笑う。創世されたゼクスは邪眼の許可も取らずにクウガへの復讐を考えて出撃して行ったのだ。それに気付き、密かにアインスが妨害用と観察用のトイを送り込み、自身の特殊能力とISを併用しデータを収集するための捨て駒にしたのだ。

 今、邪眼はライダーを完全に倒すための方法を模索している。一斉に全ての怪人を送り込んでもいいのだが、それでは折角の遊戯がすぐに終わってしまう。故に、少しずつその力を知り、それが通用しない存在を作り出そうとしているのだ。全ては、仮面ライダーに絶望を与えるために。

 

「……それで、人形の方はどうなっている」

「は、そちらは現在アハトに任せています。完成次第、まずあの世界に送り込みます」

「奴等の関係者が住んでいた世界に管理局はない。さて、どう対処するのだろうな」

 

 そう言って笑う邪眼の視線の先にはなのは達の個人データが表示されていた。その一部には当然ながらこうある。出身世界、第九十七管理外世界『地球』と……

 

 

 

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アグスタ終了です。ゼクスは独自に動いたのですが六課はそれを知りません。邪眼の考えが予想と異なったと思ったため、僅かにではありますが混乱を招いています。

 

そして、次回はサウンドステージの話へ。ですが、本来と違い平和な話とは行きそうにありません。久しぶりのやりたかった事は、クウガのライダーキック。後、ライダーはみんな強いから誰が最強なんて決められないです。

 

……自分は、決めちゃいけないと思うんです。異論は認めます。


 
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