ここは、ミッドチルダのとある場所。ここでは紫髪の女が、目の前で正座しているミイラのような少年に説教をしていた。
「まったく、あなたの仲間に犠牲者が出てこなかったから良かったものの。いつも勝手な行動をするのは控えろと……、話を聞いてます?」
目の前の少年はうつむいたまま、
「よし、そこだ。ここから…」
と、呟いている。女が目を凝らして見ると、少年の耳にイヤホンが付いていた。
「何を聞いて……?」
女はこういってイヤホンを取り上げた。すると、
「ただ今ゴール!!順位は一位から五番、七番……」
と、聞こえてきた。
「って!ボートレース聞いていたんですか!!」
女はこう言った後、
「そして結果は?」
「当然大当たり……しまった。」
少年は墓穴を掘った。
「別にボートレースを見たり聞いたりするなとは言いません!だからと言ってお金かけたり、ましてや説教の途中で聞いてるなんて……」
女がこう言うと、少年がブツブツ言っているのが聞こえた。
「けが人を長時間正座で座らせて説教なんて、ウーノは鬼です、オニババ。」
「な!それが説教されている人間の言うセリフですか!!」
とうとう女の我慢も限界か、と思ったところで、
「まあまあウーノ、彼もそれ相応に反省しただろうし、このまま続けられてキサキにやる気をなくされては困る。」
一人の男がウーノをなだめた。
「あ、ドクター。ですが…。」
ウーノは何か言い返そうとしたが、
「しかし気になる、君の戦闘機人としてのシステムをいつも点検していて思うのだが、何故キサキと接するときだけ君は感情的になるんだい?」
ドクターことジェイル・スカリエッティにこう訊かれたウーノは黙ってしまった。
「まあ、君が彼をどう思おうがどうでもいいけどね。それよりあれはどうなっている。」
スカリエッティがこう言うと、
「はい、すでにほとんどの準備が整っています。」
ウーノは普段通りの淡々とした口調に戻って言った。
「そうか、間もなく私の悲願も達成する。」
スカリエッティは、目の前にある大量のレリックを見ながら歓喜のあまり叫んだ。一方ウーノは、
「あ、逃げられた。」
フラフラと部屋から逃げていくキサキの背を見ながらこう言った。でも追いかけようとは思わなかったらしい。
また、同じ場所のべつのスペースでは、
「へえ、すごいっすね。あんなにたくさんあった余分なデータが一瞬で全部なくなるなんて。」
赤い髪の少女「ウエンディ」が、自分の前でパネルを叩きながら作業する、悪魔のような姿のデジモンに言った。
「まあな、俺たちのようなデジモンにとってデータは何にも勝る栄養源だからな。まあ、デジノワがあれば一切の文句はないんだが。」
デジモンはこう言って、パネルを閉じた。
「はあ、やっと逃げられた。」
すると同時に、キサキがフラフラな足取りでやって来た。長時間正座させられた為、足取りが覚束無いらしい。
「まったく、今日もたっぷり絞られたようだな。」
眼帯を身に着けた少女「チンク」がキサキに言った。
「笑いごとじゃないっての。」
キサキは、今までその場にいたデジモンをしまいながら言った。そして、
「そういや、ドゥーエやクラウドから連絡は来てない?」
と、その場にいる皆に訊ねた。
「いえ、来てませんよ。」
クワットロがパネルをいじりながら答えた。
「ええ、こんな大事なことが近づいている時に?」
キサキはこういうと、
「そりゃ、あっちはあっちで今度の意見陳述会の事で忙しいのは分かるけど。」
とも言った。
「ハックシュン!!」
一方管理局地上本部では、今まさにクラウドがクシャミをした。
「どうしました、お風邪ですか?」
目の前のピンク色の髪の女が、心配そうな顔でクラウドを見た。
「いや、どっかで誰かが俺様の噂をしているようで。まあ、誰がどこで何を話しているか大体想像つきますけどね。」
クラウドはこう返すと、
「さて、表向きの会話はここまでにして、裏向きの話ね。」
と、目の前のピンク色の髪の女性に言った。
「ドゥーエさんはどう見ます、今度の意見陳述会。もしも連中の介入がなかったらどうなると思います?」
「それは分かりませんね。レジアスには最高評議会が付いてますからね。」
「最高評議会か。時代遅れな頭脳がどれほど通用するんだか?」
二人がここまで言ったところで、レジアスから連絡があった。クラウドを呼んでいると、
「と言う訳で、行ってきます。」
「お気をつけて。」
「で、なんですか?」
「何ですかではない!!」
部屋に入るや否や、レジアスは怒り心頭な様子だった。
「お前は最近勝手な行動が増えているそうだが、いったいどういうつもりだ?」
レジアスがクラウドにこう訊くと、
「別に俺がどこで何をしてたっていいじゃないですか。」
クラウドはこう返して、
「あなたも最近となっては、随分聖王教会や機動六課を悪く言っているようですが、何かされました?」
と、訊きかえした。
「仕方ないだろう。今では優秀な人材のほとんどは空の連中に持っていかれて、地上の戦力は手薄だ。そんな中であんな少数部隊の試験運用。しかも聖王教会の後ろ盾があるとまで言われれば、こちらに喧嘩売ってんのか、って気にもなる。」
レジアスがこう言った後、
「聖王教会と言えば、オッサンは予言見ました?」
クラウドはこう訊いた。
「オッサン言わない。それに中将はその手のスキルが嫌いなお方ですから。」
しかし、クラウドの質問に答えたのは、レジアスではなく秘書のオーリスだった。
「そうなんですか、そこにオッサンの最期が書かれてましたよ。現世の竜王、憎しみの炎を迸らせ、大地の指導者焼き尽くす、って。」
クラウドはこう言ってやった、因みにこれは、製作者本人が見逃していた予言である。
「フン、竜王は大昔の暴君だ。末裔がいたとしても何ができる。」
レジアスはこう吐き捨てた。
(まあ、あいつらならやりかねねえな)
クラウドは心の中でこう思い、笑いをこらえた。
そして、肝心の機動六課では、
「さて、今回の任務は今度の意見陳述会の人員警護。」
隊長たちが集まり、新人他、クロスハートのメンバーに任務の内容を告げていた。この場には、民間妙力者のアインハルトや、ブイモンをパートナーにしたヴィヴィオもいる。因みにヴィヴィオはこれまでの訓練の中で、デジクロスができるようになっていた。
「まずは私とヴィータ隊長、フォワード四人とタイキ達で行くよ。」
なのはは後ろのヘリを指しながら、この場にいる皆に言った。
「それなら、リロード!!」
タイキはこう言って、クロスローダーからグレイモン、メイルバードラモン、メデューサモン、ナイトモン、ポーンチェスモンズ、グラウンドラモンを出した。
「皆はここに残って、いざって時の警備をしてくれるか。」
「任せろ。」
「ばっちり守っといてあげる。」
タイキはここの防衛を行うのが、シャマル、ザフィーラ、アインハルト、ヴィヴィオ、テリアモン、ブイモンだけでは少ないと思ったのか、自分のデジモンの一部を残していった。
そして、現場へ向かう途中、
「ところで、ヴィヴィオはどうするの。」
ふとスパロウモンがなのはに訊いた、このまま里親探しを続けるのか、と。
「確かに、せっかくならこのまま自分の娘にすればいいんじゃないか?」
それに合わせて、ドルルモンもこう言った。
「うーん、厳しく接してるつもりなんだけど。」
なのはは困った顔でこう言うと、
「それでも受け入れ先は探すよ、あの子が幸せになれるような。」
皆にこう言った。
「でも絶対納得しないと思いますよ。」
「まあ確かに悩むよな、たった十九年生きただけで子供持ちなんて。」
最後にシャウトモンがこう言った。
(いや、そういう事じゃなくて)
その瞬間、この場にいる皆がこう思ったのは言うまでもない。
なのは達が現場に向かった後、隊舎に残ったアインハルトはヴィヴィオに、
「ところで、ブイモンを始めてみた時どう思いました?」
と訊いた。
「え?かわいいなって。」
ヴィヴィオは無垢な笑顔でこう答えた。かわいいと言われ、ブイモンは、
「せめてカッコイイって言ってよ。」
と言っていたが、
「あの、変な生き物だと思わなかったんですか?」
「ううん、前にももっと違うけどこんな感じの生き物に会ったことがあるから。」
ヴィヴィオの純粋な答えを聞いたアインハルトは、
(やっぱり彼女は聖王の)
と思った、そして、
「静かですね、まるで嵐が来る前のような。」
空を見上げながら思った。自分が本気で力をふるう必要が出てきそうだ、と。
おまけ
「おねえちゃんのいじわる!!」
シャウトモンが、まるで幼い少女のような声を上げた。
「あはは、似てる似てる。」
「次はタイキの番だぜ。」
シャウトモンは笑っているタイキを見て言った。彼らは今、モノマネ大会をやっている。(暇なので)
「ああ、それじゃあ……」
タイキがモノマネをしようとすると、
「言っておくけど、真実はいつも一つ!、は無しだからね。」
と、ティアナが言った。
「すねちゃま。ってのはダメ?」
デジモン達やフォワード四人は最初、ネタが分からなかったようだが、
「ああ、なるほど。」
少し考えたら気が付けた。
「じゃあスバルな。」
タイキが順番をスバルに回した。
「それじゃあ、掃除しなさいボケガエル!!」
スバルは渾身のモノマネをしたが、
「なんかスバル自宅でよく言ってそう。」
シャウトモンにこう言われてしまった。
「うう、自身あったのにな。じゃあキャロ。」
スバルは少しテンションを下げながらキャロに回した。
「こういうのは、ありきたりなのをやると受けないんですよね。」
キャロはこう言うと、
「吹き飛べ!炎竜軍配撃!!」
普段のキャロからは想像できないような、低めな声を出した。
皆は一時呆気にとられていた、
「全然違和感がない。」
と、
「じゃあエリオ君。」
やりたかったモノマネを成功させたキャロは、ご機嫌な様子でエリオに順番を回した。そして、しっかり五対五に分かれた黒い長髪のカツラを被ると。
「スバルさん、僕以前から気になっていた事があるのですが。」
スコップを持ってスバルに言った。
「なんでリボルバーナックル片手にしかないんですか?そういうの凄いイライラするんですけど!!」
そしてスバルに喰いかかった。
「なんでだ?この状態のエリオは何か気に喰わん。」
特別審査員と参加しているヴィータはこう言った。因みにヴィータは一番最初にスパーダモンのモノマネを完璧にやってのけた。
「となると、最後はティアナさんですね。」
エリオはカツラを外しながら言った。
「頑張ってティア、オオトリだよ。」
スバルがこう言うと、
「ねえスバル、あなた最近私に黙って色々してるよね。何してるのかな、かな?」
ティアナはうつむき気味にこう言った。
「え、ティア?」
スバルが顔を覗き込むと、
「ドルルモンも、最近は私を差し置いて現場指揮をしたりしてるけど。私邪魔かな、かな?」
今度はドルルモンに話のベクトルが向いた。
「え?いや、そういう訳じゃ……」
ドルルモンがこう言うと、
「嘘だ!!!!!」
ティアナは声の限り叫んだ。
(なるほど、上手ですな)
唯一ネタの分かったモニタモンズは、クロスローダーの中でこう思った。
その時、別な場所にいたなのはは、突如悪寒を感じた。
「どうしました、マスター?」
レイジングハートは、なのはに訊いた。
「うん、なんかこれまで感じたことのない恐怖が。」
なのははこう言って、見回りに戻った。
そして、また別の世界でも、
「はっくしょん!!」
一人の少年がくしゃみをした。
「アニキ、どうしたの?」
隣を歩いていたオレンジ色のトカゲのような生き物が訊くと、
「いや、なんかこれまで感じたことのない恐怖が。」
アニキと呼ばれた少年はこう言った。
「へえ、君が恐怖を感じるなんて珍しいね。」
「ふん、黙ってろトーマ。」
少年は自分の前を歩く金髪の少年の言葉に素っ気なく返した。
カットマン
「カットマンと。」
モニタモンズ
「モニタモンズの。」
全員
「デジモン紹介のコーナ―!!」
カットマン
「今回のテーマはバステモン。バステモンは獣人型デジモン。必殺技はベリーダンスを行い相手を惑わせ、操る「ヘルタースケルター」踊りながら敵に近づき吸血する「ヴァンパイアダンス」だ。」
モニタモンA
「ネコの女神と呼ばれ、派手好きでズル賢い性格のデジモンですな。」
モニタモンB
「アニメでは猫のような振る舞いが多いですな。聞くところによると、一日十六時間は寝ているとの事ですな。」
モニタモンC
「ところで、今回のエピソードの最後のおまけはなんなんですな?」
カットマン
「調子に乗ってついやってしまった。今はいろんな意味で”こうかい”している。」
全員
「それじゃあまたね。」
次回予告
ファンの皆様、お待たせしました。ディアナモンとメデューサモンのクロスハート加入の経緯が今明らかになります。まずは最初にディアナモンのエピソードを語ります。
次回「ディアナモンの過去。テクノゾーンの美しき殺人姫」
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第十六話 嵐の前の静まり