No.486795

【うた恋い。】SWEET(公紫/現パロ)

りくさん

うた恋い。公任×紫式部の現パロです。かなりオリジナル設定が入ってるので、1Pめの注意書きをよくご確認ください。■表紙素材はこちら(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=29814519 )とこちら(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=21523243 )からお借りしました。

2012-09-21 16:40:48 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2638   閲覧ユーザー数:2609

■ うた恋い。現代パロティです。

 

 リク:れあさん「公紫で現パロ」

 

 ただし、藤原公任×紫式部は現パロ設定は原作にないので、100%捏造。

 

 以下設定です。

 

 

■ 公紫 現パロ設定

 

・香子と藤子はお嬢様女子校1年

 

・公任と斉信はそこに来た教育実習生(大学が同じ学園なので)

 

※この辺の元ネタは、せれいさんです

 

 

■ ご注意

 

・書いた人の高校の記憶が太古の昔すぎて、ディティール怪しいので、生温い目で見守ること

 

・あんまり突っ込むな。

 

・それでもいいよ?という人だけタノム

 

 

 

■ その他

 

 ツイのフォロワーさん向けリク募集でのリクエストです。

 

 文章の練習のために、そのうち、また募集するので、気が向いた方はどうぞ(フォロワーさん限定です)。

 

 多分1000~5000字程度のもの。

 気づかれちゃうかしら?

 人も疎らな図書室だからそんなに気にする必要もないのだが、香子は周囲を窺いつつすばやくノートを取り出した。本当なら親子丼だったはずの調理実習。それをわざわざマドレーヌなんかに変更したせいで、封をしてはいても甘ったるい匂いがパッケージから漏れだして、サブバックを浸している。

 いつもなら、親友の藤子と一緒に食べているはずだった。

 どれだけ会心の出来だったとしても、女子校ゆえに生徒のほとんどは放課後のおやつにしておしまい。彼女もその予定だったのに、今年は教育実習生に夢中になる子が多くて、クラスメイトの何人かが「斉信先生に渡しに行こうよ」と言いだした。監視の厳しいお嬢様学校では、ちょっと見た目のいい大学生がやってきたくらいで、あっという間に共学気分が盛り上がってしまう。藤子は実習生には興味を持っていなかったけれど、おもしろそうなので見物には乗り気になった。「行こうよ」と香子を誘ってはくれたのだけれど……。

「そうだよ、香もあげなよ! 公任くんにさ」

 藤子が言うなら、と思いかけた香子は、友人の一言でさっと考えを変えた。なんで、と反論する前に「そうだよ、仲いいんだし」と別の追撃がかかる。

 どこにそんな事実が! 彼女は強く否定したかったのだが、級友という身内から出た攻撃に声も出せずにただ絶句するばかり。

 藤子は彼女の様子に気づかず「そうだったっけ?」と首を傾げている。本人を置き去りにして、少女たちは口々に「すごい気に入られてるじゃん」「香、頭いいもんね」と無責任な意見を加える。たとえ無根だろうと、恋話は大好物な年齢なのだ。

 確かに派遣される直前は、すごい人が来るらしいよ、と話題になっていた。在学中に文学賞を取っただとか、どこぞの音楽祭で審査員特別賞をもらっただとか。乙女がときめく噂を引き連れてやってきた、もうひとりの実習生は実際にはふてぶてしくて、ひねくれていて、さらに……。

「や、やめてよ! 私、自分より小さい男はイヤなんだから!」

 いきなりの大声に、さえずりをやめた少女たちは香子をじっと見つめた。

「うん…… そだね、香、身長あるもんね……」

 フォローになっていない合いの手が入って、すっかり水を差してしまったことに気づいた彼女は、「図書室に用事があるから」と言い訳して、教室を逃げ出してきたのだ。

 もう考えるまい、と彼女はため息をついてノートを開く。そうすれば、そこはもう真っ白な別の世界。自分が自分ではなく、何でもできる、何でもやれる、解放された存在に成り代わる。

 けれど、今日の彼女は集中できなかった。せめて資料になる本を探そうと席を立ったとき、図書室の引き戸がガラっと開いた。

「なんだ、こんなとこにいたのか」

 諸悪の根元、公任が顔を見せたので、彼女は青くなった。なんてタイムリーな。偶然とは思えない状況に、彼女はイタズラ好きの友だちを疑わざるを得ない。なにか余計なことでも言ったのだろうか?

「い、いえもう帰るとこです!」

 彼女は慌ててノートや筆記用具を胸に掻き集めた。気にする風でもなく、公任は「そうか」と返事をして、そのまま図書室司書のいるカウンターに歩いて行く。

 本当は別の用事だったのかも。でも、そんなことどうでもいい。

 香子は挨拶もそこそこに図書室を飛び出し、ひとまず教室に走った。もしかしたら、藤子たちがいて、……なんて彼女の想像は、さっくりと裏切られた。

「誰もいない……」

 そりゃそうか。がらんとした教室を見渡して、彼女は自意識過剰だと自分に言い聞かせた。ため息をついて、抱きしめたままの文房具をサブバッグにしまう……。

「ん?」

 足りない。ノートが一冊ないのだ。

 忘れてきた!

 今来た廊下を振り返り、彼女は戻らなきゃ、と考えた。まだ机の上に置きっぱなしになっているだろうから、すぐに行けば。

 でも……。

 図書室には、まだ公任がいるかもしれない。鉢合わせしたりして、いろいろ思い悩みたくない。下校時間になれば、司書が気づいて保管するだろう。明日受け取りにいっても……ああ、だとしても、中身を読まれるのは顔見知りの司書でもイヤだ。

 どうしようか考えあぐねた末に、彼女は大人しく帰宅することにした。明日行けばいいか……きっと、学生の書いた長文なんてわざわざ読んだりしない、と自分を慰めながら校舎を出ると、校門のあたりで彼女を呼ぶ声に引き止められる。

 振り返った彼女の額に、ぽんと見慣れたノートが当てられた。

「あれ……」

「忘れただろう」

 少し胸を弾ませた公任がいて、ほら、とノートを差し出した。

「すぐ追いかけたのに案外足が速いな、君は」

 わざわざ渡すために? それよりどうして私のものだとわかったのだろうと首を傾げる彼女に、彼は得意げな表情で肩を竦めて見せた。

「君のものだろう。他に該当する生徒はいなかったし、字は君のものだ」

 謎が解けたことよりも、彼女にとってはそこに至る事実が問題だった。

「み、見たんですか!」

 ああ、ぱらぱらと、と彼は何でもないことのように頷いた。

「名前が書いてなかったのでな」

 つまり、読んだってこと? 彼女は核心に触れたかったが、とても確定させる勇気はない。

 それは、藤子にしか見せていない物語。

 女であることを隠して王子として生きる少女は、幾つもの国を旅する。母の呪いを解くために、多くの姫とその人生に出会う。ノートの中の世界では今、ヒロインは菫の名で呼ばれる運命の姫に出会う山場を迎えていた。

 他人に読ませることを意識せず好きに書き綴った、ある意味赤裸々なお話。そんなものを、よりによって彼に読まれてしまうなんて!

 青くなったり赤くなったりする香子の姿から、彼はすぐにその心のうちを悟った。

「安心したまえ。じっくりとは読んではいない。が――」

 いいじゃないか、と彼はしたり顔で深く頷いた。

「な、何が?」

「そういうことが。日ごろから得意分野を精励するとは感心だ」

 意外な単語が出てきて、彼女はぽかんとした。ただ空想したことを思うままに書いているだけのことで、そんな風に考えたことはなかった。

 それに、子どもじみてるって、笑わない……。

 藤子以外では初めてだ。そんな反応が彼から出るなんて、と返事をできずにいる彼女へ、彼は「どうかしたか?」と言葉を重ねる。いいです、何でもないです、と彼女は取り繕って、サブバッグにノートを突っ込もうとした…… が、うろたえたせいで広く開けてしまった鞄の口から、ぽろりとマドレーヌの包みが転がり落ちてしまう。

「なんだ、これは」

 ひょいと拾い上げて、彼は顔に近づけた。甘い甘いかおり……。

「へえ。これ私に?」

「ち、違います!」

 だが、公任は聞いていない。周りを見ればうまいことに校外だ。それなら生徒にもらったとは言えないだろうと手前勝手な理屈をつけて、「もらっておこう」と嬉しそうに笑った。そうすると、性悪に見えがちな彼の面立ちは不思議にあどけなさを宿す。

「じゃ、ひ、秘密にしてください!」

 口止め料です、と彼女は言い張った。ノートのことも、中身のことも。

「ああ。わかった、わかった」

 にやにやと相好を崩す彼は、いつも通り人の悪い実習生で、香子は、ひょっとして私、余計なことをしたんじゃないかしら、と不安になった。

 乙女の直感侮るなかれ。

 翌朝、教室につくなり、彼女は友だちに後ろから「見たよ!」と抱きつかれた。何が、と問い返すより早く、彼女たちはキラキラと瞳を輝かせて続けた。

「公任くんと、交換日記してたんだ!」

 爆弾発言のせいで、無関心だった他のクラスメイトたちが一斉に「え! マジで!」と食いついてきた。

「今どき交換日記って! レトロすぎ」

「でも、文学少女の香らしいよ。浪漫だあ」

「生徒と教師、禁断の恋だね」

 混乱のなかで、彼女は校門でのやり取りをどこかから見られていたことを知った。とんでもない誤解だ!

「ち、違う!」

 けれども、香子の否定は彼女たちの嬌声にかき消されてしまう。あれは自分のノートだし、ただ拾ってもらっただけだし、実習生は教師ではないし、そもそも恋ってナニ! とツッコミ処は満載だったのだけれど、彼女たちの耳に香の抗議は届かない。

 真っ青になる香子の制服を、つん、と藤子が引っ張る。

「ねえ、それって……」

 彼女は頷く。昨日のうちに、メールで藤子には伝えてあった。おかげで親友に妙な誤解をされることは防げたのだが……。

「後で、メール回しとくからさ。今は無理だよ、みんな……」

 退屈な日常に、格好の話題を提供してしまったのだ。当分これで遊ぶことだろう。ふたりは、大きく肩を落とす。

「なんだなんだ、朝から騒いで」

 SHRのために、教室へ担任と実習生の公任が入ってきた。時の人、公任がやってきたので、興奮した女生徒たちはなかなか席に着こうとしない。

「公任くん…… だめだよ、生徒に悪いことしちゃ」

「そうそう。実習終わってからねえ」

 おもしろがる少女たちの意味深な発言に、担任は「どういうことだ」と公任に尋ねる。彼は「なんでもありませんよ」と澄ました表情で答え…… それから、視線を香子に流して、にやり、と含み笑いを浮かべた。

「な、スミレちゃん」

「は?」

 最初に呆気に取られ、次に彼女はカーッと頬に血が上ってくるのを感じた。

 やっぱり、読んでるじゃない!

「か、かおり……。大丈夫?」

 いつの間にか藤子が側にいて、腕を持って支えてくれる。そうでもなければ、彼女は今にも倒れてしまいそうだった。事実、彼女の相貌は急激に色を変え、もはやまっさらな紙より白い。

 大丈夫なわけがない。

「えー、ナニソレ!」

 きゃあきゃあと騒ぎながら追求する少女たちに、彼は何食わぬ様子で「いや、それは言えないな。秘密という約束だから」と、まるで隠しごとの意味がなくなる返答をしている。

「や、やめてください……」

 必死に止めようとするが、香子の声はほとんど音になっていない。

 どうして、火に油を注ぐの……。彼女は目眩を感じた。くらくらする。何なの、この人……!

 ちょっとでも見直した自分がバカだった…… 先生なんか、先生なんか……。

 彼女は半泣きで公任を睨んだ。

 

 もう、だいっきらい!


 
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