No.486603

双子物語-40話-夏休み、後編

初音軍さん

ここからが本番。姉妹の本人たちがすごいムネドキです。
どんなゆりーんな展開になるでしょうかねー。 
登場人物 姉・澤田彩菜 妹・澤田雪乃 母・澤田菜々子 
付き人・サブ 彩菜の恋人・東海林春花 雪乃の恋人・小鳥遊叶

2012-09-20 22:49:00 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:632   閲覧ユーザー数:621

 

「結局は私と同じだったってわけだ」

 

 水着姿の私と彩菜はみんなから少し離れた別荘のベランダでみんなの様子を眺めながら

前にやや屈むように、柵の上に腕を乗せる彩菜。私はちょっと後ろの方で様子を窺う。

 

 告げた内容は向こうの学校で、私に彼女ができてしまったこと。それによって、

今までの彩菜の気持ちを否定して踏みにじってきた。そんな、昔の私の気持ちとの矛盾を

生じたことを謝りたかったのだ。

 

「ごめん」

 

 と、しか言いようがない。他に言葉が見つからなかったのだ。私の詰まり気味の言葉に

振り返って太陽のように眩しい笑顔を返してきた。だけど、それは私には痛々しく

映るのだ。

 

「謝らなくたっていいよ」

 

 きっと、我慢しているに違いない。春花から聞いてる様子からして、まだ私のことを…。

結果的に嘘と裏切りをしてしまった私は傷つけた姉に体を張って詫びを入れなければ

いけない。そう覚悟していた。

 

「や、私は・・・。結果的に彩菜を裏切った形をしてしまったし。あれだけ、

軽蔑もしてたのに結局は違って…。私は・・・彩菜をどれだけ傷つけて」

 

「雪乃・・・」

 

 話をしている途中から目の奥からこみ上げるものが抑えられなくて両手で顔を覆い

それを見せたくなくて、やや顔を俯かせる。そんな私を彩菜はそっと抱きしめてくれた。

柔らかくて、暖かい彩菜の体。久しぶりに感じる温もり。それだけは昔と変わらない。

 

「雪乃、私はもう昔と違うから。確かにまだ雪乃のことが一番大事で愛してる。

でもね、昔ほど一途で一生懸命ってほどじゃなくなってるみたい」

「うん・・・」

「だってね、私にも守りたい人が増えちゃったから」

「うん・・・」

 

 俯いてる私の頭の上に暖かい液体が落ちてくるのがわかる。濡れるのがわかる。

彩菜も泣いているのだろうか。

 

「時間が移ろえば、気持ちも考えも少しずつ変わってくる。色んな人たちに触れ合えば

自然と変わる時がくるから。だから雪乃は私を裏切ったなんて、嘘だなんて、思ってない」

「彩菜・・・」

 

「でも、それでもやっぱり悔しいな。ずっと一緒にいた私じゃダメなんだから」

「ごめんね・・・」

 

 私も無意識のうちに、彩菜の背中に手を回していた。そして、彩菜の優しさに甘えては

ダメだと感じていた。お互いがどう思うにしろ、私のしたことに対するペナルティは

必要だと思っていたから。

 

「今日だけ、私のこと・・・。彩菜の好きなようにしてもらって構わないよ」

「ブッ・・・!」

 

 私の言葉を予測できなかったのか。まるで口に含んだ液体を噴出したかのような音が

聞こえた。私はやや下方向へ視界がいってるから、彩菜の表情が見えないのだ。

 

「そ、それ本気で言ってるの?」

 

 顔に近かった気配が若干遠ざかった。察するに、動揺しすぎて顔を上に向けているの

だろうか。多分、顔も赤くなってるんだろうなぁ。昔がそういう癖があったのを

思い出して少し気持ちが明るくなったような気がした。

 

「当たり前よ」

「くっ・・・」

 

「なに、嬉しくないの?」

「嬉しいんだけどさ。また、雪乃のこと傷つけるかもしれないし・・・」

 

 そういえばそれがきっかけで、一度離れたんだっけ。私達・・・。

その出来事があってから、彩菜はすっかり私に対して自信を失ってしまったようだ。

目の前にいて、手を伸ばせば届く距離にいるのに。伸ばせないでいた。

心の中の二人の距離を一定に保とうと必死になっていたのがわかった。

 

 全然似てない二人だけど、一応双子だからね。生まれてからずっと同じ時間を

過ごしていたから、気持ちを察することができた。前は自分のことばかりだったけど。

今度こそは・・・。

 

 抱いていた姿勢から抜け出して彩菜に背を向けてから私は頭に描いていたことを

彩菜に聞こえるくらいの音で呟いた。さっきまで感情が昂ぶり過ぎていて

感じなかった暑さがじわじわと私の体を熱くさせている。

 

「今日の夜、部屋の割り当てで私と彩菜の二人にできるようサブちゃんに頼んでみるね」

「ちょっと、ちょっと・・・!」

 

 私が彩菜に意見を聞かずに勝手に予定を決めるものだから、彩菜は焦って私の肩に

手を置いて振り向かせようとした。私はそれに合わせてすぐに振り返り、彩菜の

唇に指を当てて、黙れの意味を伝える、。

 

「待ったなし!」

 

 私はこれまでにほとんど浮かべたことのない笑顔を彩菜に向けて強く言い放った。

 

「でも・・・」

「私の気持ちが変わらないうちにさ・・・。ね、わかってよ」

 

「はぁ・・・。本当に雪乃は昔から注文が多いな」

 

 呆れるような表情を交えながら苦笑する彩菜に、私は思わず声に出して笑ってしまった。

ちょっと緊張して伝えても、いつもと変わらない彩菜にホッとして緩んだせいなのか。

 

「それにしても、雪乃にこんな良い笑顔にさせられるなんて。どこの誰だろうね」」

「あれ、言ってなかったっけ」

 

「だって、母さんが着いた早々に海へ行くって言い出したから」

「あっ、そっか」

 

 着いてからすぐに話そうと思っていたんだけど、それ以上にお母さんの行動が

早かったわけか。でも、メンバー全員が顔を合わせていたから、女の子好きな彩菜も

言えばわかるだろう。

 

「あの、小さい黒髪の真面目そうな子だよ」

「え!?」

 

 予想以上の驚きっぷりであった。しかも、心底意外そうに私の顔を見ながら、おそらく

その子の姿を浮かべていたのだろう。しかも、言った言葉が。

 

「あの、地味で冴えない子!?」

「おいっ」

 

 思わずツッコミを入れたくなるくらいの言葉であった。地味で冴えないとは何だ。

確かに黒髪で、生真面目で小さいけど、そこが可愛らしいんじゃないか、と言葉には

しないでも。彩菜に向かって目で訴えると、慌てたように前言撤回をする姉。

 

「あぁ、ごめんごめん。心底意外だったからさ」

「まぁ、顔にそう書いてあったけど」

 

「ほんとごめん」

「も~・・・」

 

 そういうわかりやすいのは嫌いじゃないけどね。一応私の彼女なんだから反応には

気をつけてほしいものである。

 

「ほら、アレだよ。好きになると、普通の子でも美少女に見えるってやつで」

「それってフォローになってるの?」

 

 ボロを出しつつも彩菜が楽しそうに話しかけてくれるのが嬉しくて、私もいつの間にか

テンションが少し上がった状態で話に興じることができた。

 

 

 そして楽しい時間というのは、あっという間で。私達が戻ってからわずかも経たずに

お母さんがみんなを呼びにきた。もうそんな時間なのか、と空を見ると。

 

 赤く染まっている綺麗な夕焼け空になっていた。ごはんの準備や色々あるから

早めにお呼びがかかったようだ。いつもなら、この時間になる前に調子が悪く

なったものだけど。

 

 少しは体力がついたのか、それとも、一緒にきてくれたみんなのおかげで紛れたのか。

久しぶりに最後まで遊べて気分がよかった。

 

「お嬢、お疲れ様です」

「あ、サブちゃん。ありがと」

 

「良いご学友にと知り合えたようで安心しました」

「ずっと様子見ていた癖に」

 

 わざとらしく言うものだから、私が気づいてたことを伝えたら、思った以上の

オーバーリアクションでブリッジをしそうなほどの勢いを無言でするから私の方が驚いた。

 

「これからも頼りにしてるからね」

「お、お嬢・・・」

 

 私の言葉に変な姿勢を直して、私に暑苦しい顔を近づけてきたから、思わず距離を

少し開ける。その顔はこれにまでないくらい、嬉しそうな表情で笑っていた。

 

「そ、そんなに嬉しかったの?」

「あ、いや・・・。これで見守れなくなったら、菜々子お嬢に面目が立たねえし」

 

「ははっ、ほんとサブちゃんってお母さんのこと好きだよね」

「なっ・・・!」

 

 私のその言葉に動揺して顔を真っ赤にするサブちゃんに私は微笑ましい気分になれた。

 

「はぁ、雪乃お嬢は年々母親に似てきてますね」

「お母さんに?」

 

「えぇ、雰囲気が似てきてます」

「彩菜の方が似てるような気がするけど」

 

「いや、見た目じゃなくて。その強い心の方をね」

「心・・・」

 

言われてもピンと来ないけど、これからすることは確かに普通の女子がすることではない。

 

 そこは確かに普通じゃないといわれていたお母さんに似てきたのかもしれないけれど。

あそこまで人のことに気づいて、思いやれるには至っていない。

 

 大体、あそこまでの超人は自然となれるものではない。目指すものだ。

 

「ありがとう、サブちゃん」

「いえ・・・」

 

「後一つ、お願いがあるんだ」

「何でしょう・・・」

 

 他の人に聞かれたくない話だったから、耳打ちでそっとサブちゃんに伝えると

深く頷いて気持ちよく笑顔で答えてくれた。怖い顔立ちだけど、笑うととても可愛らしい

人である。

 

「お安い御用で」

 

 

 別荘に戻ってからは、みんなで楽しくお風呂と食事の時間。元々大勢来ると

想定しての作りになっているせいか、お風呂は大浴場となっていた。

 

 その中で特定のグループで組んでのおしゃべりしながらの入浴タイムはとても

楽しくて、それまで凝り固まっていた神経がほどよく解れていくようだった。

 

 私はいつもの親友と叶ちゃんたち二人入れての4人組。先輩たちは生徒会同士で

今日あったことを振り返っては楽しそうにしているのが微笑ましかった。

 

 彩菜たちは最初にみた、春花と先輩といわれてる不思議な人。彩菜が一方的に

二人とじゃれ合っているように見えるが、あれでちょうどいい組み合わせなのかも。

ただ、春花は苦労しそうだなと、少し同情しそうになる。だけど、それも彼女が

自分から望んだ道で悔いはないはず。他のみんなもそうだと思うし。

 

 私もこれから一つのことにピリオドをつけるにあたって気合を入れないといけない。

 

 まぁ、そんな気持ちも次の時間でまたスッカリ忘れてしまうのだけれど。

そんな私の決意を薄くさせるのが、食事の時間。

 

 お風呂から上がったみんなは、お客さん用の広間に通される。中は純和風で畳を

新しくしたのか、とても良い匂いがする。そして、大量に運ばれる料理たち。

一番テンション上がったのは私だと思われるが、そこは少し抑えて。

 

 静かに料理を取りにいって、大量に盛り付けて戻ってくる。よし、目立たないように

やったぞ。と、思い込んではいたが、やっぱり目立つようで全員が私の持ってきた

料理の数に面白がっていた。

 

「やっぱり先輩はそうでないと」

 

 後輩で恋人にあたる叶ちゃんがうっとりとした目線を私に向けるが、そこはうっとりと

するとこと違うから、とツッコミを入れたかった。それからみんなもそれぞれ、自分の分

を取りにいったのだ。

 

 なぜかというと、あまりの量の多さに全員に分けられるほどのスペースがなかったのだ。

だから、大皿で大量に盛られた料理の数々の中から自分の好きなのを取りにいける

バイキング形式となっている。

 

 中身はそれぞれ。買いにいったデザートから手料理の中華、洋食、和食みんな

揃っているから。カロリーを気にする子なんかにはちょうどいいと思われる。

 

 みんなが楽しそうに料理を突いているのを見ていると、ふと彩菜と目が合う。

すると、ちょっとした気まずさからか、彩菜の方から視線を外した。その際にちょっと

顔が赤かった気もするけど。

 

 すっかり空気になっていた、男性たちも女性達に混じって食事を取り始めた。

そうして、いつしかグループを超えて賑やかに話し合いながら楽しい食事の時間は

あっという間に終了を迎えた。

 

 そして、その後にサブちゃんとお母さんからみんなの部屋を発表を始めた。

案内は若い衆がやってくれるとのことで、言われた順にみんなが立ち上がって

部下の人たちに案内されながら広間から姿を消していく。

 

 最後に残った私と彩菜はお母さんに案内されて、部屋の前につく。

私は指定することなく頼んだから、案内されてなんだけど・・・ここは。

 

「ここは、私とお父さんが同じように海に遊びに来たときに楽しんだ場所だからね」

「あの、そこまでしてもらわなくても」

 

 そんな両親のチョメチョメした場所を指定されても困るんですが。と、言いたかったが。

ここの利点としては何があっても他の部屋とは離れているから、声や音が聞こえないこと

らしかった。

 

 その説明を受けて一番動揺していたのは、彩菜だった。真っ赤なゆでダコみたいに

なっちゃって・・・。これからすることを本当に理解しているのだろうか。

 

 そして、部屋に入る前にお母さんに肩を叩かれて振り返る私。

 

「今度は私の出る幕はないみたいね?」

「うん、心配してくれてありがとう。もう、私も彩菜も成長してるから」

 

「わかってる。最後の確認よ」

 

 

 その言葉を最後に私たちは二人きりになって、真っ暗な部屋の中へと入る。

二人だけの息遣いだけが聞こえ、それ以外の声は虫の音しか聞こえなかった。

 

「ついに・・・だね」

 

 最初に口にしたのは彩菜の方だった。ついにっていうのは、つまりこれから

することの話だろう。緊張している彩菜に釣られて私まで緊張してきてしまった。

 

「とりあえず、電気をつけましょう」

「うん」

 

 そう言って、電気をつけて辺りを把握することから始める。何があって、何がないのか。

それくらい確認してもいいだろう。だが、点けた先にあって特に変わったのといったら、

それらしい変化はなかった。至って普通の和風の部屋である。

 

 しかし、一つだけ違っていたのは布団が二つ敷いてあって、それらが密着して

一つの大布団みたいになっていることだった。つまりは、そういうことである。

 

「・・・!」

 

 そこに彩菜がびっくりして、取り乱してから。恐る恐る私に問いかけてくる彩菜。

 

「本当に・・・するの?」

「嫌ならいいのよ。一回きりのチャンスを逃して悔いが残らなければね」

 

「いや、させていただきます」

 

 そりゃそういう反応になる。これまで私のことを想い続けてきた彩菜だからこそ、

ここでやることやらないと、ずっと後悔し続けるだろうことは私でも容易に想像できる。

 

 でも、私としても抵抗がないわけではない。前みたいになったら、また彩菜を深く

傷つけてしまうかもしれないから。

 

 立っていても埒があかないから。とりあえず座ろうと、私が言うと。今までにない位、

彩菜が大人しく正座で布団の上に座る姿が意外過ぎて思わず笑ってしまう。

 

「ちょっと、雪乃ぉ」

「ごめんごめん」

 

 姉妹でこんなことをしていいのだろうか。という背徳的な感情が逆に気持ちを

昂ぶらせていく。彩菜も同じ気持ちなのだろうか、何ともいえない色っぽい表情へと

変わっていた。

 

「じゃあ、脱ごうか」

「う、うん」

 

 その言葉を放ったのは彩菜の方。私はちょっと体をびくっとさせながらも頷いた。

お風呂上がった後は、こちらで用意した浴衣か。持ってきた私服かを選べるように

なっていて、私達は浴衣を選んでいたから脱ぐのはさほど大変でもなかった。

 

 スルスルという小気味の良い音を立てて、浴衣を脱ぐ私達。下着姿になって

向かい合うと、すごい恥ずかしい気持ちになって顔が熱くなってくる。

 

「嫌だったら、逃げてくれていいからね」

「それは言わないでよ」

 

 彩菜は優しいから必ず私に逃げ道を作ってくれようとするが、それは今に関しては

余計なことである。この気持ち、この状態から逃げることは私にとっても後に引きずる

ことになりそうだから。

 

「あっ・・・」

 

 黙っている私を見て、大丈夫。と捉えたのか彩菜はものすごく自然にブラのホック

を外しにかかって私は思わず胸を押さえてしまう。これはもう反射的なことで仕方ない

ことなのに、彩菜は一々聞いてくるから恥ずかしくなってくる。

 

「やっぱり嫌・・・?」

「いいから続けて!!」

「ごめん」

 

 私が見ていないとき、本当に彩菜は遊んでいたんだなぁと、つくづく感じていた。

だって、下着の外し方とか脱がせ方とか自然すぎて怖いくらいである。

 

 しかもそのやりかたが相手の不安感とか全てを拭い去るように、かけてくれる

言葉が優しいから。尚更私は胸が苦しくなるのだ。いつしか、全ての布は外されて

涼しくなっているはずなのに、体が火照って仕方ない。

 

 そんな姿に彩菜は涙目になっている。

 

「どうしたの?」

「雪乃とこうやっていられるのが夢みたいで」

 

「そんなくだらないことで泣かないの」

 

 くだらなくはないんだけど、あまりの恥ずかしさからそういう言葉が自然に出てくる

辺り、春花を責められないなと思えた。

 

 二人で生まれた時の姿になって。まずは近づいてお互いの肌を触りあう。

向こうから触られる感覚がなんだかくすぐったくて、笑ってしまいそうになる。

慣れていないから、敏感になっているのだろう。

 

 それにくらべて、彩菜の方ったら余裕にも私を見て微笑んでいるではないか。

何だか悔しいから触る手をくすぐるようにして触れるとさすがの彩菜も思わず笑っていた。

その後、ちょっと怒られたけど。気分はスッキリしていた。

 

「もう、ふざけないの」

「ごめんなさい~」

 

 今度は逆の立場になった後に、二人で顔を見合って再び笑ったのだ。

気分は昂ぶったままなのに、いつも通りにできる不思議。後は一歩を踏み出すだけである。

 

「雪乃、無理だけはしないでね・・・」

「しつこい!」

 

 彩菜は私を痛くしないように、そっと優しく押し倒してくる。私も昔と違って

抵抗せずに身を委ねることができた。だけど、それ以上はお互いを見つめていると

先になかなか行けずにいた。

 

 胸の鼓動や息遣いのタイミングが全く一緒で、やっぱり血が繋がってるんだなって。

思ってしまうわけで・・・。電気を切るのがぶら下がっている紐だけではなく、

良く見るとリモコンにも対応しているようにも見えた。

 

「暗くしようね」

「ゆ、雪乃・・・?」

 

 私はたまたま近くにあったリモコンにそのままの姿勢で手を伸ばすと、

電源のスイッチをオフに切り替えた。その瞬間、真っ暗になって驚いた瞬間。

また指が軽くボタンに触れたような気がした。

 

 すると、豆電球の明るさに変わって。ぼんやりした明るさの中ではっきりと見えない

お互いの顔を見合わせて。感覚すらぼやけて、どちらからしたかわからない状態で

私の口が塞がれた。

 

 熱いような、暖かいような。ぬるっとしたものが私の口の中に入り込んでくる。

これは彩菜の舌だろうか。生々しい感触に一瞬、戸惑った私だけど。

 

 拒絶するような嫌な感じはほとんど感じなくて、そのまま彩菜を受け入れることが

できた。

 まるで口の中で互いが混ざり合って溶けていきそうな感覚がしてどうにかなりそう。

 

「はぁ・・・んはぁ・・・」

「はぁ・・・。雪乃ぉ・・・」

 

 息が長く続かない私のことを気遣って彩菜はおそらく、早々に切り上げてくれたの

だろう。薄暗い中で心配をしてくる声だけがはっきりとしている。

 

 それが何だか無性に腹立たしくて、今度はまだ顔が近くにあることを確信して

自分からキスをしにいった。彩菜に心配される私とはもう卒業したい。

 

 あのどうしようもなくだらしなくて、情けなくて、それでも肩を並べて歩きたい。

生まれ持っての病弱だからってハンデなんか欲しくない!

 

 その気持ちが自分の動きを勢い付かせ、彩菜の顔があるとこに向かって近づけると。

 

ガチンッ

 

 歯と歯がぶつかるような音がした。頭が痺れるように響き、悶絶しそうな痛みが

私を襲った。

 

『・・・!』

 

 それは彩菜も同じようで同じような苦しみの声を上げていた。それが何だか

おかしくて、二人で苦しみながら笑っているという異常な光景を生み出していた。

 

「雪乃・・・へたくそ・・・」

「こんなディープで、暗い中でやるの初めてなんだから仕方ないでしょ・・・!」

 

 笑いながら言うので緊張していたのがどこかへ飛んでいったような気分だ。

だけど、これだけじゃ終わらない。最初で最後の夜だから、とことんやろうじゃない。

っていう、気持ちでいた。

 

「はぁ・・・ふっ・・・」

 

 彩菜はキス以降、私の体を舌で這わせて舐める行為ばかりを繰り返してくる。

私はじれったいけど、それなりに反応してしまって困る。これじゃ、彩菜の思い通り

みたいだ。

 

「ん・・・。彩菜ぁ」

「ん?」

 

「いつまでこれしてるの?」

 

 これとは舐める行為に関してである。私がせっかく覚悟を決めたのに先に進まないから、

じれったくて仕方ないのである。だが、それに対して彩菜は。

 

「ずっと」

「えっ・・・」

 

「私は・・・これ以上できないから。あとは体を重ねるだけでいい」

 

 本当にそれだけで満足なのか心配だった。彩菜は私のためなら自分のことは我慢をする

ことが多いから。だから、本能のままでいいから、私に対して対等に接して欲しかった。

 

「嘘・・・」

「本当だよ」

 

 でも、彩菜の口から出る言葉は。昔に言い合ってた時の喋り方に似ていて、本当に満足

しているように感じた。

 

「私は雪乃とこうしてくっついて、匂いを嗅いでるだけで幸せだよ」

「でも、もう・・・最後なのに・・・」

 

「うん、もう私は大丈夫だよ」

「うっ・・・」

 

 普段のチャラチャラしてる雰囲気と違ってすごく純粋な言葉に胸を打たれた私は

溢れる涙を抑えて、私の胸に顔をつけていた彩菜の頭を抱きかかえて、彼女の頭に

顔をくっつけた。

 

 そうしたら、鼻から彩菜の匂いが入り込んできて、すごく落ち着いてきた自分がいた。

しばらくの間、そうしていると彩菜の方から埋めていた顔を上げて私と視線を合わせた。

 

 長い間暗い中にいたから目が慣れてきたようである。そんな中で二人見詰め合って

自然な笑みを浮かべていた。私も同じ顔をしているだろうか、何も悩むことなんて

なかったんだ。と、今更ながらそう感じることができたのだ。

 

 お母さんに危機感がなかったのは、そういうことだったんだ。触れ合えばわかること

だったんだ・・・。

 

「あー、雪乃いい匂い。今日はずっとこうさせて」

「変態発言禁止! でもまぁ・・・。今日の所は仕方がない」

 

「ほんとに? 嬉しいな」

 

 そんな無邪気な子供のような笑顔を向けられたら断れるものも断れないだろう。

でも、今日は元から断るつもりもなかったから、私も彩菜の匂いを嗅ぐと落ち着くから

ちょうどよかった。

 

 そんなことは、本人には言えないことだけどね。知られたら調子に乗るし。

そんな意地っ張りな私であった。

 

 

翌日

 

「あ、先輩おはよーございまっ・・・!?」

「あ、雪乃おはよー・・・ん?」

 

 朝起きて早々、部屋を出た所で後輩と春花に出くわしていきなり変な発音の挨拶を

言われてしまった。私は怪訝な顔をして二人に問いかけると。

 

「随分色っぽくなっちゃって」

「へ?」

 

 後輩の叶ちゃんは両手で顔を隠していて、春花はニヤけながら私の体をじろじろと

見ていた。ん、体・・・?

 

 今、うすぼんやりと昨日のやりとりを思い出してきて、彩菜と色々してからそのまま

寝ちゃって・・・起きてから、トイレに行こうと部屋を・・・部屋を・・・。

 

「・・・!?」

 

 確か二人で寝たのは裸のままだったはずで、そして起きてそのままってことは。

私は自分の格好を確認すると、言葉じゃいえないような姿を二人の前で晒していた。

 

 それから、言葉にならない悲鳴を上げて慌てて服を着てから二人にこのことを

喋らないようにきつく言ったのだが。

 

「昨晩はお楽しみだったようで」

 

 からかうように言う春花の神経がよくわからなかった。いや、恋人が妹とはいえ

裸で何をしていたのかとか気にならなかったのだろうか。

 

 いや、彩菜の気持ちを一番よく知っている子だから、おおよそ昨日のことを

察しているかもしれないから、変に突けないのがもどかしかった。

 

 でも、二人の間で止まっていた時間が動きだしたようで嬉しい気持ちの方が

強かったようで、その証拠に叶ちゃんからも。

 

「昨夜はなんかいいことでもあったんですか?」

「ん、まあね」

 

 夢を見た。幼い私達が仲良く手を繋いで歩いていた夢を。ずっと支えられていた

私が彩菜と一緒に並んで歩けることを。互いに支えあうようになることが私の希望で

それが昨夜見た夢で叶ったのが、顔に出ていたのだろう。

 

 ここまで来るのに随分と時間がかかってしまったけれど、二人で狂った時計を

直して、もう一度ここから出発する。

 

 窓から差し込む光と青空がこれからの二人の未来を示しているかのようで

清々しく、気持ちよく。この残った時間を過ごせそうだった。

 


 
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