No.486552

双子物語-38話-

初音軍さん

雪乃編。仲のいい後輩ちゃんと、喧嘩しちゃう回。
というか、一方的な感じもするけど。
体の弱さにコンプレックスを抱える雪乃はどういう行動を
取るのでしょうね。

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2012-09-20 20:55:43 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:416   閲覧ユーザー数:402

 

【雪乃視点】

 

「いい加減にして!」

 

 何だか自分でも良くわからないイライラが溜まっていたのが一気に吐き出される。

が、言われる方はどういうことかわかっていないかのように、口を開けて驚く表情を

していた。

 

 それは当然だよね。彼女は好意で私を手伝おうとしてくれていただけなのに。

職員室の前で、決して多いとは言えない量の荷物を生徒会室に届ける時に。

 

『先輩、私が運びますよ』

『このくらい大丈夫だから』

『いえ、体が弱いんですから。何かあったら困ります!』

 

 貸してください、って強引に持とうとしていた後輩の叶ちゃんに対して私はその

言葉を吐いてしまったのだ。

 

 昔から、体が弱い弱いと言われ続け、優しさの押し付けをされ続けた。

私はできるのに、させてもらえない。という気持ちのズレから体と心が合っていないのだ。

そして、頭ではわかっていても小さい頃から抱えてきたこの悩みに感情がついてこれない。

 

「先輩・・・?」

 

 震えるような声で私に声をかけてくる、叶ちゃん。カッとなって言った後、どうすれば

いいのか考えてなかった私は、思わず駆けて逃げてしまった。一番よくないことだと、

知っているはずなのに。

 

 ハァッハァッと息を切らして立ち止まる。追いかけてくる気配は感じなかった。

どこまで走ったのか、落ち着くまでわからないでいたが、屋上に近い廊下に立っていた。

 

「はぁっ・・・」

 

 息を整えてる声なのか、溜息なのかもわからない状態の私にはちょっと気分転換に

屋上に向かうのがよろしいと思われた。ちょうど放課後でよかった。

 

 とんとん、と音を立てて上っていくに連れて置いていった叶ちゃんと渡されたものの

ことが気がかりになっていた。やはり、戻るべきだろうか。と、階段を上っている

途中で振り返ると、そこにはいつも世話になってるクラスメイトでルームメイトの瀬南が

にこやかに笑みを浮かべながら立っていた。

 

「どうしたん、そんなとこで」

 

 そう言って、メガネを光らせて私に問いかけてきた親友に私は口元に手を当ててから

複雑な心境ではあったが、ここで溜めていても仕方ない。

と、親友に打ち明けることにした。

 

 

【叶視点】

 

 青ざめて走り去っていってしまった先輩の後ろを見つめながら私は頭の中が真っ白に

なっていた。確かにやや強引だったけど、怒るほどのものだったのだろうか。

 

 思えば思うほど、先輩のことがわからなく。更に嫌われたかと思い、私まで青ざめる

ような感覚に陥っていた。

 

「嫌われた・・・絶対嫌われた」

 

 どんよりしている私にルームメイトであり、親友の名畑観伽(なばたみとぎ)が

からかうように話しかけてきた。

真面目な私といい加減な観伽の組み合わせは中学から高校に入っても

好奇な目で見られることが多い。よほど珍しいように見えるのだろう。

 

「そうそう、嫌われた。マジで嫌われた」

「名畑・・・」

 

「ははは、そんな怖い顔するなって。今の叶じゃ、そう思われても仕方ないんじゃない?」

「うぐ・・・」

 

「何があったのさ」

「はぁ・・・」

 

 敵わない。前から悩みをお互いに打ち明けあってる時点で、私には彼女に対して秘密を

持つことはできないのである。今の高校生にしては平均よりやや小さい私と

同じ大きさの観伽がベッドに腰をかけて、向かい合いながらそういう話をしていた。

 

 そこは学校専門の寮の部屋。二人で一部屋で、両サイドの壁。窓際にベッドが配置され

そこに座りながら今日起こっていたことを相談していたのだ。

 

 天然のウェーブがかかって明るい茶色がかった色味が明るい性格の名畑と似合っている。

 

「まぁ、どっちにしろ。早く話し合った方がいいね。こういうのは時間が経つほど

ぎくしゃくするものよ」

「わかってるけど・・・」

 

「ところで、先輩が運ぶはずの資料はどうしたのよ」

 

 話を聞いていて疑問に思ったところだろう。走り去って、置いていかれた私は手伝いに

運ぼうとしたのはいいけれど、目的地が把握できていなかった私は、一度職員室に

訊ねに行ってから、届けたのだった。

 

「何も知らない人から見れば、いきなり感情的になって、無責任の人に見えるけど」

「そんなこと・・・!」

 

「うん、そんなことないだろうね。あの人のことだし」

 

 前はよく勝手する人の悪口をこぼしていた名畑だけど、珍しくフォローをしていた。

 

「名畑がそんなこと言うなんて珍しいね」

 

 きょとんとする私に苦笑いをしながら、視線を逸らして答えてくる。

 

「まぁ、あの人とはいろいろあったし。印象も良いしね」

「私の知らない所で二人に何が・・・」

 

 想像したらやけに嫉妬の気持ちが湧き出ていたのを名畑に察せられたのか。

 

「そこは嫉妬するとこかね?」

 

 と、愉快そうに笑っていた。明るく振舞う彼女にも以前はどこか気を張っていた

ところがあったが、少しは柔らかくなっているようにも感じ取れた。

 

「むぅ・・・」

「とはいえ。今日の所はもうおやすみってとこかな。学校も終わってるし、明日に

仕切りなおしだね」

 

「名畑・・・。ありがとう」

「うん」

 

 からかいつつも、ちゃんと私のことを見ている親友に感謝しないといけない。

話して少しもやもやが晴れたが、肝心なのは明日である。今悩むよりは直前で悩め。

というのが私の考えである。無理やり私のなかで切り替えて、今はできることを

頑張ることにした。

 

 

【雪乃】

 

 屋上で親友に相談をしたところ、考えるところかニヤニヤして私を見ていた。

 

「それはあれよ。ゆきのんが後輩ちゃんに心の底から気を許してる証拠やない?」

「え・・・?」

 

「今まで吐き出せなかったものが溜まっていたんやないの?」

 

 言われてみれば、家族以外にそういう風に吐き出せる相手が思い出せなかった。

私は無意識のうちにそれだけ、彼女に近づいていたということなのか。

 

「でも、この短時間で・・・」

「時間なんて関係ないやん、それまで一緒にいて感じたことが大事だと思うんやけど」

 

「・・・そうね」

 

 確かに、自分から積極的に向かう相手は叶ちゃんが一番多かった気がする。

それだけ、なんというか。和むというか、心が穏やかになっていたから。

 

「どうよ」

「うん、私。謝ってくるわ。ありがとう、瀬南」

 

 と、昨日までのやりとりだった。私は溜息を吐いて、学食で注文をしていた。

いつもなら朝から叶ちゃんと何度も顔を合わせるのに、今日という日に限って

すれ違うこともなかったのだ。

 

「・・・」

 

 料理をテーブルに運んだ後に、手をつけずに両手を組み俯いた額に乗せ考え込んでいる

ような体勢でジッとしていた。

 

 私はあの後輩に甘えているのだろうか。またこうやって気を緩めてしまって

同じことをして、傷つけるかもしれない。学習能力はあるつもりだけど、こればかりは

自信がなかった。

 

「先輩?」

「あっ・・・」

 

 俯いている頭の上から聞きなれた可愛らしい声が耳から入ってきた。

顔を上げると、隣に座って私の顔を覗き込み、話しかけてきた。

 

「隣いいですか?」

「もう座ってるじゃない」

 

「それもそうですね」

 

 叶ちゃんの笑顔を見ていたら、私の中にある不安が不思議と消えていってしまう。

それと同時に訪れる安心感が私を包んでくれる。

 

「昨日のことで話があるんですが」

「・・・!」

 

 自分から言おうとしていたら、叶ちゃんの方から持ち出してきたから驚いて体が

ビクッと反応してしまう。叶ちゃんの顔を見るのが怖くて、固まって、顔を上げた辺りの

姿勢から動けずにいた。

 

「あのですね・・・」

「なに・・・?」

 

「すみませんでした!」

「!?」

 

 迷惑をかけたのは私の方なのに、いきなり謝られて頭の中が混乱してきた。

一体どうなって・・・。という気持ちが思わず口から言葉が漏れた。

 

「え、ど、どういうこと?」

 

 傍から見たらどんな顔をしているのか。真剣に謝っていたはずの叶ちゃんは

ポカンとした顔をした後、笑いを堪えるように視線を外していた。

 

「ふふ・・・ふっ」

「もう・・・叶ちゃん・・・」

 

「すみません。あのですね」

 

 笑いのツボに入ったのが収まったのか、また私に向き直って純粋な眼差しを

私に向けながら一つの提案を出してきた。

 

 

「先輩の傍で見守らせてくれませんか?」

「え・・・?」

 

「私もいきなり、先輩の仕事を取り上げようとしたみたいで、後で反省したんですよ。

いくら体が弱くても、過剰に反応するのは失礼でしたよね」

 

 私が憤りに感じていたことを汲み取ってくれたかのように、話始める叶ちゃん。

何だか拘っていた自分が恥ずかしく感じてしまうくらいの素直さにドキドキしてしまう。

でも、一つ気になったことがあった。

 

「私が怒ったこと・・・気にしてないの?」

 

 思い切って聞いてみた。彼女を傷つけてしまったのではないかと、悔やんでいたのだ。

 

「そんなことですか」

 

 返事は、そんなことっていう言葉だった。彼女に対しては大きなことではないのだろう。

すごい涼しげな笑顔を浮かべている。まるで、そういうのは慣れているかのように。

 

「それは、母のことで慣れてしまいました」

「あっ・・・」

 

 小学生の頃に保健室にいる先生を思い出した。何もかもが不安定で危うい雰囲気を

出していた。でも、弱い子には優しくしてくれる先生だった気がする。

 

「あまりに酷くなった時に私は別の場所に一時期いたんですけどね。まぁ、これは

また違う時に話します」

 

 一瞬、綺麗だった眼が少し淀んだように見えたが、すぐにいつもの明るさに戻った。

明るく元気な叶ちゃんも色々あるんだろう、少し気にはなったが、自分からは触れずに

することにした。

 

「ありがとう、叶ちゃん」

「先輩・・・」

 

「こんな頼りない先輩だけど。今、叶ちゃんが言ったことで手伝ってくれたら嬉しいかも」

「ほんとですか!」

 

 嬉しさのあまりなのか。いきなり席を立って大声で確認を取ろうとした叶ちゃん。

周囲の視線に気づいて顔を赤くしつつ、再び席についた。

 

「私のことも気を遣ってくれたし。私もその方が安心で、楽しいと思うし」

「はい」

 

「でもこれだけは言わせてね。いきなり怒ってしまってごめん」

「先輩、それは・・・」

 

 座りながらも叶ちゃんの前で深く頭を下げる。止めようとする叶ちゃんに、私は。

 

「いいの。これは私なりのけじめ。なんて言われようと、自分がしたことはちゃんと

謝らないとね」

「先輩のそういうとこ。私は好きです」

 

 何だか言う方も聞く方も照れるようなことを平然と言ってのける所に驚きである。

おそらく、言っている本人はさほど意識していないようだけれど。

 

「じゃあ、仲直りということで」

「はははっ、先輩ったら。元々仲違いしていないじゃないですか」

 

 確かにそんなことを意識する暇すらなく、お互いの気持ちを伝えられたから。

親友のアドバイスで関係が悪化しなくて心の中でホッとしていた。

 すると、隣で同じように安心した顔をしていた、叶ちゃんがテレくさそうに

私と同じような状況にあったのを話してくれた。あまりにも似ていたので

私も思わず笑って叶ちゃんの肩に手を置いて一言。

 

「私達、良い親友を持ったわね」

「そうですね」

 

 学食の時間も話している内にあっという間に経ってしまい、最後の方は慌しく

なってしまったけれど、胸の内がスッとした気持ちになれた。

 

 その日の放課後は部活に出ないで、二人で手を繋ぎながら秘密の広場で散歩しつつ、

穏やかな時間を過ごした。

 

 それから暫くして。

 

 

【その他視点】

 

「もう、だから出来るっていってるでしょ!」

「さすがにそれは先輩には無理です!私にやらせてください!」

「だめ~!」

 

 また、何かの仕事で揉めている二人を苦笑しつつ、眺めている約2名の生徒が

苦笑していた。

 

「あーあ、またやっとるわ」

「ほんとに、騒がしいんだから・・・」

 

 背が低い、チャラチャラしてそうな1年生とメガネを光らせてる2年生が苦笑いを

していた。それは悩んでいるあの二人の話を聞いてアドバイスをしていた二人だった。

 

「まぁ、前と違って言い合っていても、仲良さそうに見えるからええけどな」

「ふん、私には関係ないです」

 

 1年生の観伽は口ではつれないように言いつつも、二人のことを食い入るように

見ていた。

 

「ほんとに、後輩ちゃんは素直やないなぁ」

「何がですか」

「あのちっちゃい子ちゃんが取られて嫉妬してるんちゃう?」

「なっ・・・」

 

 図星だったのか、一目で顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。そんなわかりやすい

後輩を微笑ましい眼差しで見ている瀬南。

 

「まぁ、私も似たようなもんか」

「え、今何か言いました?」

 

 ポツリと誰にも聞こえないような小さな声で呟く瀬南に、きつめな言い方で返す観伽。

そんな後輩を勢いだけで可愛がろうと絡もうとしてきたから、観伽の方は驚いて変な悲鳴

を上げていた。

 

「あれ、なんか聞こえませんでした?」

「別に何も」

 

「そうですか。・・・先輩、じゃあ。一緒に運びましょう!」

「そうね。そうすることにするわ」

 

 無理して無事だったためしはなかったし、ここは妥協して叶と一緒に仕事をすること

に決めた。傍から見ると痴話げんかにしか見えないし、実際そうなのだが、本人達は

必死に、それでも充実した日々を送っているようだった。

 

 世界の色が変わるような、そんな新鮮な日常が今の雪乃にはとても愛しく

大切なものであったのだ。いつしか、状況が変わったとしても、この一時は決して

無駄なものではないのである。

 

「お疲れ様」

 

 荷物を生徒会と合流して、話をする。以前、人との繋がりを一線を引いて離したかった

雪乃であったが、今では無意識に人との繋がりを必要としていた。

 周りに恵まれ、又、周りも雪乃を好いていて、学園内の雰囲気も柔らかくなっている。

そんな学園生活を満喫しながらも、雪乃には思い出されることもあった。

 

(そういえば・・・)

 

 雪乃の脳裏に浮かぶ、中学生のときの彩菜の必死な表情。私がいないと生きていけない

と訴えていたときの顔。

 

(私も、一日顔を合わせなかっただけで、けっこう辛かった)

 

 度合いは違うのだろうけど、前の一件で姉の言っている意味の一部は何となくだが

わかったような気がした。それからどんな辛い思いをしたのだろう、と。

 

 少し余裕の出てきた雪乃は彩菜に対する申し訳ない気持ちがちょっとだけ芽生えていた。

 

「今度休みの時に顔でも出そうかな」

「何がです?」

「ん~。今度の休みの時にでも実家に戻ろうかなって。叶ちゃんも来る?」

「え、是非行かせてください!」

 

 すごい目を輝かせて興奮する後輩に雪乃は可愛いなと思い、無意識に後輩の頭を

撫でる。うれしくも困惑する表情に気づくまでは、無心に撫でていた。

まるで小動物を愛でる様に。

 

「今度両親と姉にでも紹介するわね」

「楽しみだなぁ」

 

 暑い日々は始まったばかり。もうすぐ夏休みの時期が訪れようとしていた。

 


 
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