壊滅的なダメージを受けた学園は急ピッチの復興作業を行うため、一時休校となった。体力が戻り、傷も回復した一夏は市の家に戻り、早速掃除洗濯といつも通り家事を始めた。報告書も纏めて日菜佳に送信し、やる事が無くなってしまう。
(師匠は一体どこ行ったんだ?)
そう、一夏が更識家の屋敷に世話になってからと言う物、市の方からは連絡が全く来なかった。こちらから連絡を取ろうとしても向こうが返事をしない。何が起こっているのか全く分からない始末なのだ。
(まあ、師匠の事だから大丈夫とは思うけど・・・・やっぱり心配だな・・・・おやっさんに電話してみよう。)
結局気になって他に鍛える以外何もする事も無いので、携帯でたちばなに電話をかけた。
『はい、たちばなです。』
「あ、日菜佳さん?」
『あーー、イバラキ君、しばらくぶり!アームドセイバー、どうだった?』
「中々でした。使った後の反動が大変でしたけど、完全復活したんで。念の為にみどりさんに預けておきました。所で、師匠の居場所、知りませんか?」
『うーん・・・・それがねえ、分からないのよ。』
「え?」
『うん。父上も連絡を取ろうとしてるんだけど、全然繋がらなくて・・・・何かに巻き込まれてなければ良いけど・・・』
「まあ、師匠は昔から連絡とか時間にはルーズな人だからな・・・それによっぽどの人じゃないと師匠は倒せないし・・・・ぶっちゃけヒビキさんレベルの人じゃないと、ねえ?」
『だよねえ?まあ、こっちも一応見張っておくから。』
「お手数掛けてすいません。」
『いえいえ、お任せを〜。』
おどけた日菜佳の声を聞き、電話を切ると、インターホンが鳴った。扉を開けると・・・
「あー、ここだここだ!」
「兄様、お早うございます!」
「一夏、遊びに・・・・来た。」
「一夏、久し振り!」
順に楯無、ラウラ、簪、そしてシャルロットである。
「お前ら・・・・何でここが・・・・?」
『ピイィィイイイ!』
「お母さんが持って行きなさいって・・・」
楯無の手の上にアカネタカがでィスクモードに戻って乗った。
「ま、ちょうどやる事も無いし。上がれよ。掃除が終わった所だから。」
四人は中に招き入れられ、珍しそうに周りを見た。和風の作りの建物とは言え、如何にも高級そうな掛け軸や置物があちこちにぽつぽつと置かれているのだ。
「広いね。」
「まあな。元は師匠が家族全員と暮らしていた時に使っていた家なんだが、改築したらしい。部屋は多いから、良く師匠の後輩や同僚が遊びに来て泊まって行ったんだ。」
「兄様の部屋は、どれですか?」
「上にある。見てみるか?」
「はい!」
家の中を案内して簡単に説明をして行く。一夏の部屋はそれなりに広く、私物も殆ど無かった。元々自分の家ではないので、私物を置く事に引け目を感じたのだ。
「一夏、この写真・・・」
「あ、それは、な・・・」
シャルロットが目ざとく猛士の関東支部の写真を見つけて指差した。幸い全員私服であるから鬼である事はバレないが、流石に一夏も内心冷や汗をかいた。
(あぶねー・・・・)
「俺のバイト先の先輩達と取った集合写真なんだ。オリエンテーリングとか、アウトドア用品の販売とか。みんな優しいし、気前も良くて、頼り甲斐のある人達ばかりだぞ。後、この人はいつも差し入れとか持って来る甘味処の店長で、立花さんって言うんだ。」
嘘と真実を織り交ぜて説明する。真っ赤な嘘を言っている訳では無い。
「それより、今日はなんでワザワザここまで来たんだ?遊びに来たってだけじゃないだろう?特にシャルロット。お前・・・・デュノアの阿呆に何か言われたか、されたのか?」
ビクリと竦んだシャルロットの反応は、肯定を示していた。それを聞いて一夏は机の下から銃火器を大量に引っ張り出し、弾を込めた。スライドを引く金属音がやけに響く。
「ラウラ、無理を承知で聞くが、お前の部隊、連絡取って動かせるか?」
「は、はい。緊急回線を使えば、直ぐにでも。」
「楯無、フランス政府にパイプは?」
「多くはないけど、無い事は無いわ。」
「よし。シャルロット。明日か明後日位に、デュノア社をぶっ潰しに行くぞ。いい加減俺もあいつらの愚行と日和見主義にはうんざりして来た。俺があの糞共に直々に引導を渡してやる。」
一夏の背後に静かに燃える炎のオーラを見た気がするのは気のせいだろうか。三人はそう思った。
そして翌々日、シャルル・ド・ゴール空港から出た四人は、飛行場近くにある港の空き倉庫でシュヴァルツェア・ハーゼの数名と合流した。全員がラウラとお揃いの眼帯を付けている。
「隊長、お久し振りです。」
「うむ、元気そうだな、クラリッサ。」
「彼が・・・」
「ああ。俺が、五十嵐一夏だ。で、聞いていると思うが、ラウラは俺の妹分だ。ワザワザ協力を要請してしまって申し訳ない。本来なら貴方達が手を貸す必要すら無いのに・・・・」
「いえ、隊長の頼みとあっては断れませんので。」
「そうか。感謝する。楯無、結局逮捕状取れたのか?」
「ええ。大丈夫よ。詐欺と横領、虐待、その他諸々・・・・経済的に立ち直る事は不可能になるわね。」
「そうか。シャルロット。熱くなってお前の意見を聞かなかったが、お前はどうしたい?デュノア社を叩き潰すか、このまま何もしないで奴ら自滅を待つか。」
「・・・・・・僕、は・・・・・確かめたい。本当に利用されただけなのか・・・・だから、僕も行く。」
「だが、そうした場合お前のISは政府に変換する事になる。当然フランスの代表候補生でもなくなる。それでも良いのか?」
「いーーーーーーっくううううううううーーーーーーーーーん!!!!」
「やっと来たな。」
文字通り飛んで来る束をラリアットで止める。
「束さんもワザワザすんません。」
「いっくんの頼みならば幾らでも聞いてあげるのだー!!」
「じゃあ、デュノア社の事についてはもう知ってますよね。」
「勿論だよー!後ね後ね、ウイルスももう作ってあるのだー!」
「殴り込みを掛けるのは俺だけで良い。道を切り開いたら、俺が連絡する。俺が言うまで動くな。ラウラ、簪、楯無はその間シャルロットを護衛。幾ら軍属とは言え無断でISを展開する事は出来ないだろうから、そこだけ気を付けてくれよ?俺もまた同じだ。ありったけの銃器を持って行く。」
「兄様の要望に応えて、色々と持って来ました。」
クラリッサに合図すると、別の隊員四人が大きなバッグを持って来た。それを開けると、中には大量の武器と弾薬が詰まっているのが見えた。
「おお・・・・これは・・・・」
一夏の口元が歪むのが見えた。その中に入っていたのは、一夏が注文した物ばかりだった。まずはグレネードランチャーが設けられたスコープとレーザーサイト付きのM4A1アサルトライフル、通称Maverick(無所属)。更にドラムマガジンを使用する自動ショットガンAA-12、片手で撃てるサブマシンガンのH&K MP5Kが二丁、更に同じメーカーのUSP MATCHが二丁。その他は閃光弾や手榴弾、対人地雷等だ。
「しかし、ここまでの武装、扱えるのですか?」
「おい、クラリッサ。兄様を甘く見るなよ?ウェザビーマグナムを片手で扱えるのだからな。」
「な・・・・あんな物を・・・?!」
これは流石に全員が驚いた。ウェザビーマグナムに使われる銃弾は銃弾の中でも最大級。とてもではないが、片手で扱って腕の骨が折れないだけでも奇跡なのだ。
「ちっ・・・・奴らがいる。」
「え?!」
一夏はバッグの中からMP5Kを引っ張り出し、向かい合う倉庫の出入り口のドア両方に向かって発砲した。密閉空間で銃声が鳴り響いたが、一夏の耳は、確かに走り去る足音を聞いた。突然扉が蹴り開けられ、武装隊が踏み込んで来る。一夏は迷わず閃光弾二つのピンを引き抜いて投げ、弾が切れると同時にM4A1を蹴り上げ、スライドを引いた。弾倉の銃弾を全て散撒き、倒れている武装隊の一人のヘルメットとマスクを引き剥がした。
『誰の指示だ?』
一夏はAA-12の銃口を額に押し付けながら流暢なフランス語で聞いた。
『ま、待て!は、話せば分かる、やめろ!だからそれを下ろしてくれ!』
『なら質問に答えろ。言っておくがこれは空砲じゃないぞ?頭をバラバラにされたくなければ今すぐ質問にイエスかノーで答えろ。デュノアに雇われてここに来たのか?』
『あ、ああ・・・・そうだ。』
『分かった。今すぐこいつらを連れて消えろ。殺しちゃいない。今度俺達を狙ったらこれだけでは済まさんぞ。それだけ覚えておけ。』
武装した男達はその場から撤収し、残ったのは薬莢が地面を転がる音と、硝煙の匂いだった。
「お前ら、大丈夫か?」
「は、はい・・・・」
「兄様こそ、大丈夫ですか?怪我は?」
「問題無い。」
「五十嵐殿、フランス語も喋れたんですね。」
『ドイツ語も喋れるぞ。奴らはデュノアに送り込まれたと言う事は、俺達がここにいると言う事はバレている。時間も押している。直ぐに行動するぞ。プランBは立ててある。行くぞ。』
「流石です、兄様。」
どうやらシュヴァルツェア・ハーゼの者は全員一夏の流暢さに舌を巻いているのか、一言も発さなかった。
数時間後、態勢を立て直した彼らはデュノア社付近にある建物の屋上に登っていた。
「さてと・・・・束さん、ウィルスお願いします。」
「まっかせーなさーい!ウィルス、インストール!!ポチッとな。」
空中投影されたキーボードを操作すると、デュノア社のメインフレームにウイルスが送り込まれ、ISに関するデータ全てを消し、更には警備システム、通信システムにまで侵入して無効化した。
「まずは、隔離。そして、撹乱。」
一夏は迫撃砲の射角を調整し、三発発射し、三発とも建物の屋上に着弾した。
「俺が合図したら、シャルロットを連れて来い。絶対に顔を見られるな。ドイツがフランスに攻撃を仕掛けたと吹聴されて最悪戦争が起こる。もう一度言うぞ、絶対に顔を見られるな。バレたら終わりだ。」
「
「うし、作戦開始。」
一夏は圧縮ガスでワイヤーを撃ち出し、屋上にしっかり引っ掛かったのを確認すると、ロープ付きの滑車をそれにセットしてロープウェイの様に降りて行く。
「さてと・・・・(当然警備員はいるか・・・・)束さん、社長室どこ?」
『いっち番上だよー!』
「了解。もう着いてるけど・・・・」
迫撃砲で開けた穴に飛び込み、向かって来る警備員を閃光弾で撹乱し、気絶させて行った。配置に付いていたIS武装隊も一夏の手によって一蹴される。社長室と思しき大きなドアを蹴り開け、マーベリックを構えながら脚を踏み入れた。
「よう、鼻持ちならない糞蛙。死ぬ準備は出来たか?」
「な、何だ貴様・・・・?!」
「俺は世界初の男性IS操縦者、五十嵐一夏だ。お前を社会的に抹殺する為にここに来た。お前は、俺の友人であるシャルロットを利用し、俺のデータを盗もうとした、そうだな?」
「シャルロット?何の話だ?」
一夏は溜め息をつき、ライフルの銃床で腹を殴り付けた。鈍い音が舌のは、恐らく骨が折れたのだろう。
「もう一度聞く。同じ質問だ。シャルロットを利用して俺のデータを盗もうとしたんだな?」
「し、仕方無かったんだ!!こんな世界で・・・会社も妻に乗っ取られて・・・!!」
「仕方無かった?ふざけるなよ。まあ、遅かれ早かれここにICPOとフランス政府が踏み込んで来る。俺はこの企業とお前の悪行の言質を取る為にここに来ただけだ。ついでに、お前が持っているISのデータは全てコピーし、世界中に流した。」
「貴様・・・・・!!」
「動くな!」
後ろからISを纏った女二人が壁を破り、ラファールを構えて現れた。
「足元に注意しろ。」
そう言った瞬間、二人の足元から爆発が起こり、後ろに吹き飛ばされた。更に爆薬をPIC発生部分にセットし、起爆装置を手に持っておく。
「一つ下の階にC-4を仕掛けておいた。正解だったな。シャルロット、もう良いぞ。早く来い。」
『うん。』
程無くしてからシャルロットと共にシュヴァルツェア・ハーゼがガスマスクを付けたまま入って来た。バリケードを築き上げ、完全に立てこもる。
「さてと。」
「お父さん・・・・何で・・・・?」
「何故だと?!当然だろう、お前は駒だ、利用されるし可能の無いな!結局は失敗に終わったが・・・・もう遅い。」
「違う。僕は駒なんかじゃない!僕はもう・・・・貴方の言いなりにはならない!!」
目に涙を浮かべながら強くそう言い切った。首に掛かっている専用機を引き千切り、地面に叩き付けた。
「それで良い。これがコイツの決断だ。精々臭い飯を食ってろ。」
『一夏、そろそろ逮捕に来るわ。早く撤収して。』
「了解。撤収だ。」
呆然としたデュノア社長を残して、彼らは去った。この事件はニュースで取り上げられ、首謀者は不明とされていた。
「ありがとう、一夏。」
「気にするな。俺だっていつかはやろうとは思っていたんだが・・・・・今回ばかりは我慢の限界が来たんだ。さてと、まだ時間もある。しばらく観光をしようか。シャルロット、案内頼むぞ。」
「うん!」
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しばらく戦闘は無しにしたい、と思っていますが・・・・まずはデュノアを・・・・