~聖side~
目の前にはただただ無限に広がる草原…。
雲ひとつ無い空には太陽といったものが存在しないことで、ここが現実世界とは違うことを教えてくれる…。
そう、ここは…。
俺はいるはずの人物を探すが見当たらない…。
隠れるものなど無いこの世界だから、直ぐに見つかると思ったのだが…。
「あれ~…。おかしいな…。」
あたりをキョロキョロと見回すが…やっぱり見当たらない…。
「もしかして…私を探してくれてる??」
急に後ろから声をかけられて、体が一瞬ビクッと固まる。
しかし、聞きなれた声だと理解すると緊張した体はその強張りをほぐし、リラックスとまでは言わないが安堵感と脱力感を与える。
「急に後ろから声かけんなよな…。ビックリして心臓止まるだろ…?」
「大丈夫!! 心臓が止まっちゃったら私が人工呼吸してあげるから♪」
「そういう問題じゃない!!」
「なんで? 私と合法的にキスできるんだよ? 嬉しくないの?」
「嬉しくない……わけじゃないけど…。」
「ん~!!!! もう♪ひーちゃん可愛い~!!!!!」
「ってこら!! 抱きつくな!!邪魔だって!!」
「そんなこと言って~嬉しいくせに♪」
「うっ……こうなったら…。頭に拳骨……はやったら可哀想だし……なっ……撫でるぞ!!」
「うん!! やってやって!!」
完全に雅ペースになりつつあるが、まぁいつものことだし、と言うか、最後は完全に俺が墓穴掘ってるし…。
流石に女の子に暴力はいけないよね。非暴力不服従ですから!!
まぁ、雅の言うとおり女の子に抱きつかれるというのは悪い気がしない。それが美少女というなら尚更だ。
……と話が脱線気味だな。
今尚俺に抱きついている雅の頭を撫でながら雅に問いかける。
んっ?何で撫でてるかって? そりゃあやってと言われたからですよ。
決して俺がやりたくてやってるわけではないよ?
そりゃあ、良い匂いがしてきて、さっきから頭の回転が鈍ってんのは分かってますよ?
でも、あくまでやってと言われたからで…。
「……で? 今日はどうしたんだ?」
「はふぅ~~~~っと……うん、ちょっとお話がね。だからそこのベンチに座って話そう?」
雅が示すほうを見ると先ほどには無かったベンチが…。
まぁこの世界なら今さらって気がするね。
ベンチに座ると、雅が俺の隣にぴったりと座る。
天帝とはいえ、先ほども言ったが雅は美少女。
隣にぴったりとそんな娘に並ばれたらやはり緊張はするもので…。しかも、雅からは女の子特有の甘い匂いが香ってくるし…ってか女の子って何であんなに良い匂いがするんだろうね!?
そんな感じで雅をボーっと見ていたら、雅と目が合う。
雅はにっこりとこっちに微笑みかけてくるから内心ドキっとした。
そういえば話が進んでない…。
「…は…話っていうのは…?」
内心落ち着いてないために、若干どもりながらも、話を進めるために雅に問いかける。
「うん♪ 実はね…ひーちゃんにお願いがあるんだ!!」
「お願い…?」
「そう…。」
なにやら言いにくそうに顔を顰める雅。
その表情は先ほどまでのような明るいものではなく、明らかに不安が顔に出ている。そんなにキツイお願いなんだろうか…。
「なぁ、雅…。俺とお前の仲だろ? 何でも言ってくれ!! ……まぁ、俺の出来る範囲でなら何でもやってやるから。」
そう言いながら頭を撫でてやる。
すると、雅は体を俺に凭れかけさせて、頭を俺の肩に乗せて、
「ありがとう、ひーちゃん…。ひーちゃんはやっぱり優しいね。」
と呟いた。
その言葉は何か儚げで……一体彼女のお願いとはどれほどのものなのか…一抹の不安を覚えるのだった。
「あのね…。これから先、ひーちゃんは色んな人に会っていくと思うんだけど…どんな人でも、人種差別とか関係無しに見てあげて?」
「は??」
お願いがかなりの斜め上だったがために思わず聞き返してしまう…。
しかし、雅はそれ以上語ろうとはせず、ただただ「お願い…。お願い…。」と言うだけだった。
「何で雅がそんなお願いをするのか分からないけど、俺は人種とかそんなんで人を見定めたりしないよ。大事なのはその人の心。 ……だろ?」
俺がそう言うと、雅の暗かった顔が若干明るくなったように見える。
「絶対だよ!! 絶対…。」
「あぁ。第一、俺が居た現代には多くの外国人が住んでたんだ。それこそ人種を気にしてたら生きていけないさ!!」
「そうだよね…。うん!!ひーちゃんなら大丈夫だよね!!」
雅の顔から残りの暗さも消えたように見える。
俺は心の中で良かったと安堵の溜息をつく…。
「じゃあ、ひーちゃん。今日はこれだけを伝えに来たから!!」
「分かった…。さぁ、来い!!」
「ん??何のこと??」
「いや…ハンマーが来ないと俺帰れないし…。」
「あぁ~…。あれ別に無くても大丈夫だよ♪」
「何~!!!!! それは本当か!?」
「うん。あくまで何らかのきっかけが欲しいだけだから…。」
「じゃあ、何で今まで…。」
「う~ん…私の気分??」
「何故疑問系!!!!」
「あははっ!!!今日はちゃんと帰してあげる♪ 後ろに扉を用意したから、それを通ってくれれば帰れるよ。」
後ろを見ると、何も無かったはずの草原にど○でもドアのような扉があった。
…たぬき型ロボットは…居ないよな…(キョロキョロ) …あれ?ネコ型だっけ??
俺はその扉を開けるため、ドアノブを掴む。
「じゃあな、雅!!元気でな!!」
「ひーちゃんもお元気で!!」
扉はガチャリと音がし、開いた先には眩いばかりの光が見えた。
「ひーちゃん!!最後に!!」
「ん?何だ?」
「今日から一年後にひーちゃんを訪ねに来る人が二人いるよ…。一人は南から兵を連れて…。もう一人は北から…。」
「うん? それは一体誰なんだ?」
「……。じゃあね!!」
「ちょっ!!!みや…。」
ギィィッ。バタン…。
扉は無情にも言葉の途中で閉じてしまい、体は光に包まれた。
扉の向こうでは…。
「あらん? 良かったの、全部伝えなくて?」
「……。伝えたかったけど、こうしないと私があっちの世界にいけないもの…。それに…ひーちゃんに気付いてもらえなきゃしょうがない…でも、ひーちゃんなら大丈夫!! さっきの言葉を…信じてる…。」
「それほどまでに聖ちゃんにお熱なのね~。うっふん!!可愛いわ~!!!」
「そうよ!!悪い!!?」
「聖ちゃんは英雄よ?? そんな男の周りには女の子が付き物…。それに嫉妬するなんて…。」
「うっ…うるさい!! …ひーちゃんは優しいから…好きって言われたら断れないのよ…。私は…ひーちゃんに会う機会が少なくて…傍に居れなくて…。」
「天帝ちゃんも漢女だわね~!!!」
「乙女って言ってってば!!!!!(ジャキッ!!)」
「ちょ~…。それ出しちゃいやん♪」
「問答無用!!! 死にさらせ、この筋肉達磨~!!!!!」
「どぅわ~れが妖怪筋肉達磨だって~!!!!!!!!」
「アンタ以外に誰が居るのよ~!!!!!!!!!!!!(ブォン!!バキッ!!)」
「あ~れ~~~~~~~!!!!!!!!!! ……キラッ……。」
「ふぅ……信じてるからね…ひーちゃん…。」
「………い……せん…い…先生…先生!!!」
「…ん?? ……橙里…?」
「先生!!起きてください!! 今日は城に行くのですから、準備しなくてはいけないのです!!」
「あぁ~…。そう言えばそうだったな…。」
まだ靄がかかったようにはっきりしない頭を無理やり起こし、眠たい眼を擦り、布団から出て服を脱ぎ始める。
「ちょっ!!! 着替えるならそう言ってくださいです!!」
「へ?? あぁ~ゴメンゴメン…。」
「もう…。私は外に出てるので、そのあ-…。」
「そうだ!!着替え手伝ってよ!!」
「ふえっ!!?」
「その方が早く準備できるし、良い案じゃない?」
「あわあわ…。」
橙里がわたわたと戸惑ってる姿を見ると、心が癒される。
まぁ、はなから悪戯のつもりだからそろそろ冗談だと言ってやろう。
「橙里、良いよ。さっき言ったのは冗d…。」
「……分かりましたです…。」
「へっ!??」
「さぁ、先生。こっちへ来てくださいです。」
「あの…橙里さん??」
「夫の服を着替えさせるのも妻の仕事なのです!!」
「あっ、ちょっ!!今は…!!!」
そう言って橙里は俺の寝巻きの紐を解き服を剥ぎ取る。
男なら分かると思うが、朝起きたばかりというのは男は大変なもので…。
「っ!!!???」
「あの…これは…その…。」
顔を真っ赤にして俯く橙里に俺も顔を赤くしながら苦笑するしかなく…。
これは、橙里から一撃もらって俺がブラックアウトして、橙里が怒って部屋を出て行って終わりを迎えるのかな…。
ピタッ……。
「っ!!!!」
暖かな感触があり、驚いて見てみると橙里がまじまじと俺の愚息を見ながら手を伸ばしていた。
SBN……。
橙里は真面目な娘だったはずだ…。こんなことを進んでやるような娘ではない…。
そうか!!これは夢なんだ!!そうだ!!そうに違いない!!
「…先生が…辛そうなので…私が…助けてあげる…のです…。( ///)」
夢だというのに感覚は現実そのもの…。
まさか、夢で無いとでも言うのか…。だとしたら、橙里のこの暴走をどう説明するというのだ!!
そうだ、これは夢だ!!夢なんだ!!
………夢なら…少しぐらい楽しんでも良いよな…。
「…で~?? 何でこんなに遅くなったんですか聖様??」
え~ただいま俺は物凄く良い笑顔の芽衣の前にいるわけなのですが…笑顔なのに目が笑ってない…。
そして後ろにはなにやらどす黒いオーラが…。
今俺は生命の危機に立たされているわけだ…。
「色々と準備してたら…遅くなっちゃって…。」
「へぇ~…。私がわからないとでも『ごめんなさい。』素直に初めからそう言いなさい!!」
「橙里も!! あなたに起こしてくるように言ってからどれだけの時が経っていると思ってるのですか!!」
「……すいませんです。」
「まったく…。橙里なら聖様も直ぐに起きるかと思ったら…別なところを起こしてしまって…。」
「「…ごめんなさい…。」」
「…まったく羨ましい…。」
「えっ!?」
「あっ…いやっ、その…。 んんっ!! 良いですか!!とにかく、もう時間があまり無いですから、早く城に行きますよ!!」
赤くなった顔を隠すように、芽衣は振り返りながら口早にそう告げると歩き出した。
まったく、芽衣は…。
俺は先に行く芽衣の隣に並ぶ。
「なぁ芽衣。」
「……なんですか。」
「そう怒るなよ…。」
「……怒ってませんよ。」
「悪かったって…。今度は芽衣の番な。」
「っ!!!何を!!!」
「最近構ってやれ無くてゴメンな…。」
芽衣の頭を撫でてやる。
それだけで芽衣の持っている雰囲気が先ほどまでのような怒ってる気配から随分と温和なものへと変わる。
まったく現金なものだ…。
「……約束ですよ?」
「あぁ。愛してるよ、芽衣。」
「私も…愛してます、聖様。」
二人の顔は自然と近いものとなって、その距離は徐々に縮まり…。
「……二人とも…。ここは公道ですよ…。」
「「はっ!!?」」
周りを見ると橙里は呆れ顔、町の人たちは俺達と目が合うと素知らぬように目をそらした。
今現在、俺達が置かれている状況を思い出し、二人して顔から湯気が出るほど真っ赤になって俯く。
……最近自分が変態な気がしてきた…。
「まったく…。二人とも公道でイチャつくなんて流石に…」
「一刀…。それ以上は言わないでくれ…。俺だって今、もの凄い恥ずかしいんだ。」
「自業自得です…。その内、公道でも気にせず口づけをし始めそうですね…。」
「そんなことは~!!! …無いと思います~…。」
「芽衣も積極的になったもんだねぇ~…。こりゃあたいも負けてられないかねぇ~…。」
「うぅ~…。はっ!!元はといえば橙里が!!」
「わぁ~~~~~~~~!!!!!!!!」
「んっ?? 橙里が何かやったのかい?」
「なっ…なんでも無いです!!」
「何か怪しいな…。」
一刀からジト目で視線が送られてくるが…俺はそれを無視する。
流石に仲間とは言えそんなことを知られたくない…。
しばらくして、一刀の視線が離れたのを見て向き直ると、溜息をついている…。
「あぅあぅ…お兄ちゃんと橙里さんが…そして…街中で芽衣さんと…二人はお兄ちゃんを取り合って…結局どちらとも選べなかったお兄ちゃんは嫌がる二人を無理やり…。」
…………。
何か一名、自分の世界にぶっ飛んでるが…まぁ、良いや全員いつも通りだな!!
俺達は皆で揃って城の門を潜るのだった。
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どうも、作者のkikkomanです。
タイトル通りと言いますか……今話は中々のジゴロっぷり。
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