今回の番外編は羽衣視点です。
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『ごめんな羽衣、せっかく頑張って白糸台に入学出来たのに』
白糸台高校は言わずと知れた麻雀の名門校、インターハイ常連にして屈指の名門校である。
その競争率は高く、入学することすら厳しい。そして入学出来ても、そこでレギュラーになるというのは並大抵の事ではないのであった。
しかし羽衣は一年生でありながら、白糸台ナンバー2として、レギュラーに抜擢されたのだ。
『気にしないでくださいお父さま、仕方がないことですものー』
『だけど…麻雀が好きなお前の夢が、親の都合でお前の夢が潰れてしまうのは…』
『十分です…短い間だけでも、夢は見れましたから、それに最後の我侭、聞いてもらってますから』
『ありがとう…羽衣』
2年前、羽衣の父親の経営していた会社が倒産した。一社員として埼玉の工場に再就職を決めた父親は、住まいを東京から埼玉に移すこととなった。
羽衣も9月から、埼玉の公立の高校に転入することになる、一社員の給料では白糸台高校に娘を通わせることは困難だからだ。
このお話は、私、高天原羽衣の、最初で最後の物語---
番外編・三本場 天衣無縫
『なっ…どうして急に!』
白糸台高校の麻雀部の部室の一角で、黒髪のロングの少女が声を荒げている、白糸台高校一年、私のクラスメイトでもある
『まあまあ澪ちゃん落ち着いてよー』
『これが落ち着いていられるか!折角二人、死ぬ気で頑張ってレギュラーを勝ち取って、いつかは私たちが白糸台を引っ張っていくんだって…この前…約束したばっかりじゃないか!』
羽衣の肩を掴んで更に言う。口調は荒いが目には涙を溜めて、今にも零れそうである。
『落ち着け六道、家庭の事情もあるんだ、それ以上高天原に言っても仕方ないだろう』
『そうだよ、部長もみんなも…私も、貴女と同じ気持ちだけど…こればっかりは仕方ないから…』
先代の部長と同じくレギュラーの当時の先輩がそう言って澪をなだめる、しかしその体は悔しさで震えていた。
『先輩…部長…だって…羽衣は、ナンバー2ですよ!名門白糸台のナンバー2…羽衣は…私の憧れで…目標で…いつかは羽衣が部長になって…白糸台を…!』
最後にはもう涙を堪えきれず、大粒の涙を零しながら言う澪。その様子を見た羽衣も瞳に涙を浮かべる。
『…ありがと、澪ちゃん、たった半年だったけど…ここで澪ちゃんやみんなと頑張った事…絶対忘れないから!』
泣き崩れた澪を優しく抱き寄せる、そのまま続ける。
『最後の我侭…8月までは私だけこっちに残っていられるように…お父さんにお願いしたの…だから』
『私が白糸台で出場する、最初で最後の大会…絶対…勝つから!』
『白糸台高校!今年も西東京代表は白糸台高校、白糸台高校に決定しました!いやーしかし強すぎる、強すぎるぞ高天原羽衣!白糸台の一年生レギュラーは化け物かああ!』
『副将の高天原選手、結局彼女の番で全ての試合が他校のトビ終了で終了してしまいましたね。後半最後の彼女の親番を越えることが出来た高校は一校たりともありませんでした』
地区大会、四大激戦区と言われている西東京であったが、羽衣からしたら肩慣らしにもならなかった。
『こんな所で…私は負けないから』
私には最初で最後…だから…。
優勝するまで、誰であろうと…倒す!
『ゆ…優勝は…天和高校!西東京の名門、白糸台を下し、悲願の初優勝を決めましたー!』
『白糸台は惜しかったですね、副将の”天衣無縫”高天原羽衣選手の作った大量リードを活かせず、2位という結果で終わりました』
『さて!天和高校の大将の……選手にインタビューを…』
…そう、勝てなかったんだ、私達。
でも、それでも、楽しかった、最後の瞬間まで、楽しい夢を見ているようだった。
後日、私は地区大会予選から決勝戦までの連続無放銃記録を打建てたとかで表彰された。
…どうでもよかった、なんの感慨も無かった。
ただ、インターハイ優勝、その目標に届かなかった、その事実だけが、私の頭の中をずっと回っていた。
『見送り…来てくれたんだね、誰にも何も言わなかったのに』
駅の近くのロータリー、両親の乗ったタクシーがもうすぐここに来るのだ。そこには私と澪の姿があった。
『なんとなくさ…予感がしたんだ、今日、羽衣が行っちゃうような、そんな気がした』
静寂…お互いそれ以上何を言えばいいか分からなくて、ただただ立ちつくす。
遠くの方にタクシーの影が見えた。もうすぐ出発の時間だ。
『澪ちゃん…じゃあ澪ちゃんに最後のワガママ』
『えっ…』
そう言って…澪とキスをした。
『澪ちゃんと麻雀部で頑張ったこと…一生忘れないから』
タクシーが到着した。中からお父様が早くと急かす。
『じゃあ…行くから、またね』
タクシーに乗り込む、澪は何かを思い出したように
『羽衣!またインハイに出るんだ!そして…また一緒に打とう!私…ずっと待ってるから!』
返事はせずに、澪に向かって手を振った。
うん…叶うなら…いつか…。
9月・月宮女子高校
(麻雀部…無いんだ)
月宮女子には麻雀部が無かった。それでも私はそこまで落胆してなかった。
あのインターハイで最後…、そのつもりだったから、今更未練は無かった。
強いて言えば…澪との約束。
『私…ずっと待ってるから!』
(ごめんね澪ちゃん、期待には添えそうにないや)
翌年4月・月宮女子高校
私は2年生になった。あれから牌を一度も触ってない、ネット麻雀も転校してからというもの、一度も起動していない。
この前高校の麻雀の春期大会の様子がテレビでやっていた。白糸台の副将は、澪が勤めていた。
純粋に嬉しかった、かつての友が、頑張ってる姿を見られたことが。
でも…私は…。
『りりあー何やってんだ?』
『携帯のアプリで麻雀やってるんだよいずみん』
麻雀、という単語が聞こえ、思わず振り返る、そこには一年生二人が、1人は携帯で麻雀をやりながら、麻雀談義をしていた。
『しっかし、ここ麻雀部ないんだねーショックー』
『お前…知らないで入ったのかよ、確かに遠くて通うの大変だけど、越谷女子にすればって何度もいったのに』
『だってー、強くなくても麻雀部くらいあるとおもったんだもーん』
『はぁ…やれやれだな』
黒髪のポニーテールの子が嘆息する。
麻雀…か。
『あのーちょっといいかしらー?』
『んあ?』
『ん?こんにちは、何ですか?』
気がついたら、その二人組みに声をかけていた。忘れかけていた記憶が、蘇っていくような気がした。
『私、麻雀部を設立しようと思ってるのー、二人がやる気なら、まずは3人で同好会を設立しようかなーって』
完全に今思いついた事だったが、思い立ったら止まらないのが私だった。
『ほうほう、おっけーですよー』
『私もとりあえず大丈夫です、よろしくお願いします、えっとー…』
『高天原羽衣ですっ、よろしくね、可愛いお二人さん』
…澪ちゃん、やっぱり私、麻雀が好きみたい。
もしかしたら…いつかまた…一緒に…。
---これがは私達、月宮高校麻雀部の、誕生物語でもあったのです。
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---月宮高校麻雀部での城山華南と麻雀部の仲間達の紆余曲折ありながらもインターハイ優勝を目指していく、もうひとつの美少女麻雀物語---