---21世紀、世界の麻雀人口は数億人を突破し、日本でも大規模な全国大会が行われていた。
全国各地の高校でも、全国の頂点を目指して麻雀の腕を磨き、切磋琢磨していた。
数多の若き雀士が頂点を目指し競い合い、数々の伝説を作ってきたインターハイ…。
時が流れ22世紀、その熱は冷めることはなく、むしろ過熱していったのであった---
第1局 始まりの出会い
『……
埼玉の雀荘で、長い黒髪の少女は手馴れたように点数申告をしていた。
『あーまた一発かあー、嬢ちゃんツイてるねえ』
『しかもまた裏が乗ってるしなあ、牌に愛されてるって感じだなあ』
一般的なフリーの雀荘では、一発や赤ドラ、裏ドラなどにつきチップ1枚の御祝儀が発生する。
彼女達の打っているレートでは、1枚につき500円のチップが発生し、ツモで
先の和了りでは一発、赤ドラ、裏ドラ2枚、4枚のチップを3人、つまりたった一回の和了りで6000円の収入である。
『店長ー、俺ラス半でー、もう負けが込んですっからかんっすよぉ』
『おっと、したら僕もこれでラス半にしようかな、卓割れちゃいますもんね』
『んー、すまないねえまた週末にでも来てくださいよ』
結局最後の半荘も彼女がトップで終了した、彼女のカゴの中は500円玉とお札で一杯になっていた。
他の客が帰って、店の中には店長と少女二人。
『さってー、今日はぼちぼち閉めるかなあ、しっかし華南ちゃんは強いなあ、高校ではやっぱ麻雀部とかにはいってたの?』
『…いえ』
『そーかいそーかい、華南ちゃんほど強かったらきっとインターハイとか出てたかもしれないのにねえ』
『…』
店長の言うとおり、彼女は強かった、今日の半荘6回をすべてトップで終了していた。
麻雀は運の要素の強い競技であり、また、4人で行うゲームである。極端に言えば、実力が同程度の4人で打ったら4回に1回しかトップを取ることは出来ないのだから。
『…っと、引留めちゃったかな、ゴメンゴメン。またきてね華南ちゃん』
『…それじゃ』
両替が終わり、店長に一言そう言うと、華南、と呼ばれた少女は雀荘を後にした。
…誰かが後をつけている、気配は雀荘を出てからずっとしていた。
帰路に着く華南は、ずっと続く後ろの気配に立ち止まる。
人に付きまとわれるような心当たりは無い、そもそも自分の知り合いなんて、ここには誰も居ないのだから。
とはいえ誰かが先ほどから後をつけているのは確かだ、とりあえず確認しようと振り返りその誰かに声をかける。
『…誰』
『あ、はいぃぃぃ』
なんとも情け無い声が聞こえてくる、物陰から出てきたのは高校の制服を着た背の低い少女だった。
『…何か用?』
『あっ、あーとえーっと、そのぅ…』
『…』
華南が問うと、制服の少女はしどろもどろになる。
何も応えない少女を無視して華南は振り向いて彼女を後に歩き出す。
『あっあー城山さんってまってくださいー』
『…』
制服の少女はその場を後にしようとした華南を呼び止めるが、返事はない、少女は早足で追いながら話す。
すぐ後ろまで追いつき、華南に早足でついていきながら話す。
『えっと、雀荘から出てくるのみましたっ、麻雀できるんですかっ?』
『…多少』
華南は短くそう答える。それを聞いた制服の少女の顔がぱあっと微笑む。
『そうなんですかっ!私!麻雀部なんです、あーえっと、まだ同好会なんですけど…』
『…』
足をとめない華南に構わず話を続ける。
『でっ!でっ!今部員が4人しかいなくて、あと一人部員がいれば団体戦の大会に出られるんですっ!』
『…用件はそれ?』
後をつけてきた理由が大体察しがついた所で、華南は振り返り、そう言った。
長々と話しているうちに、とうとう華南の住んでいるアパートの前までついてしまったようだ、立ち止まり、後を付けてきた少女の答えを待つ華南。
『その…私の友達とか麻雀とかできる人いなくて、城山さんが、麻雀部に入ってくれたら、嬉しいなぁ…って…』
華南の発言で、自分が付けてきた理由をなんとなく察してると思い、少女は意を決して問うてみる、が。
『…私は、部活とか興味ないから』
華南は一言そう言って、自分のアパートの部屋に入っていった。
---翌日---
午前8時30分、
彼女はこの学校の生徒である、雀荘には地元の大学生のフリをして出入りしていたのである。
何をする訳でもなく、華南は窓の外を見やり、朝のホームルームが始まるのをただ待っていた。
『城山さんっ、おはようございますっ』
聞き覚えのある声、声をかけてきたのは昨日の少女だった、華南の記憶には無かった様だがどうやらクラスメイトだったらしい。
『…』
華南は振り返り、少女の顔を見やる、そしてすぐにまた窓の外へと視線を移す。
『…あーうー、きっ、昨日は突然すいませんでしたっ、勝手に後をつけたりもして…』
少女は昨日の事を思い返し、本当に申し訳無さそうな顔をしてそう言った。
『…別に、気にしてない』
華南はそう答える。華南からすれば正直どうでもよかったようである。
『よ、よかったですっ、てっきり嫌われたかと…』
安堵したような顔を少女は浮かべる。
そうこうしている内に予鈴が鳴った、ほぼ同時位に先生が教室に入ってくる。
『あっと、席につかなきゃっ、城山さんまたあとでねっ』
そう言い、慌てて少女も自分の席に戻っていった。
昼休みになり、華南が席を立とうとすると、また見覚えのある顔がこっちへやって来る。
『城山さんっ、お昼一緒に食べませんかっ』
『…』
少女は満面の笑みである、が、華南は少女も見やるも無反応だ。
また勧誘でもするつもりなのだろうか、部活には入らないと言ったのに。華南がそんな事を考えていると。
『かっ、勧誘とかしようって訳じゃないですよっ、そ、それは城山さんが入ってくれたら嬉しい限りだけど…』
なんか勘違いされたかも、と思った少女は慌ててそう言い、続ける。
『城山さんとっ、お友達になれたらなぁーって思って、麻雀抜きにしてもっ』
そう言って華南をまっすぐ見据える少女を見て、華南は考える。
友達…無愛想な私の何が気に入ったのだろうか。部員の前にまずはお友達からって事なのだろうか。
華南は色々思案し、よく分からないな、と思いつつも、少女の目をみて、ふぅっと息をはき、そのまま自分の席についた。
『え、えーっと、とっ、隣、失礼しますねっ』
明確に拒否もされなかったのでとりあえずそう言い、自分の机を華南の机の側に移動する少女。
華南はその様子を特に気にする様子もなく、自分の鞄からチョココロネを一つ、取り出した。
黙々と華南はチョココロネをほおばっている、あっというまに食べ終わってしまった。
そしてまた窓の外に視線を移し、ぼーっと外を眺めていた、どうやら食事はあれで終了らしい。
その様子を見ていた少女は遠慮がちに声をかけてみる。
『お、お昼それだけですかっ』
『…そうだけど』
『た、足りるんでしょうか…』
『…一人暮らし、節約しないとだから』
『そ、そうですか…』
少女は自分の弁当を広げる、手作りのお弁当が、可愛らしい弁当箱に入っていた。
『よ、良かったら、食べますか?』
少女は自分のお弁当の玉子焼きを箸でつかみ、華南に差し出してみる。
『…玉子焼き、じゃあ一つだけ…』
そう言って、差し出された玉子焼きを食べる華南。
『…これ、美味しいね』
『そ、そうですかっ、喜んでもらえて何よりですっ』
華南のその一言に少女は満面の笑みでそう言った。
多少打ち解けたのか、その後も2人は教室で話していた、といっても喋っているのは9割方少女のほうなのだが。
『ほえー、一人暮らしってなんか、かっこいいですねっ、憧れますっ』
『…別に、かっこいいような事じゃないよ』
『……やっぱり、麻雀部には入ってもらえませんか?』
唐突にそう、うつむきながら少女は言った。申し訳ないとは思いつつも、どうしても華南に麻雀部に着て欲しいからだ。
『…部活してたら、雀荘にいけないから…生活費も稼がないといけないし』
今度はちゃんとした理由を述べて、華南はその誘いを断った、自分ではどうにもならない事だし、きっぱり断った方がお互いの為だと思ったからだ。
『あ…、そっか、ごめんね、城山さんの都合も知らないで…』
そんなタイミングで予鈴が鳴り、あわてて少女は片付けを始める。
『あ、あのねっ、また明日も一緒にご飯食べようっ、明日は城山さんの分も作ってくるからねっ』
放課後、私服に着替え、華南は今日も雀荘に向かうと
『華南ちゃん、ごめんね、ちょっと、とりあえず外に…』
入るなり店長が小声でそう言い、店の外へ招かれる
『…何ですか?』
華南がそういうと、申し訳なさそうな顔で店長が
『昨夜のお客さんがね、華南ちゃんが月宮の制服着てたのを見たとか言っててね、高校生にレート麻雀を打たせてたとなるとうちの店も摘発されちゃうから…』
…要するに、もう来ないでくれって事だろう、大方負けた腹いせに昨日の客の誰かが告げ口したのだろう。
『…わかりました、迷惑かけてごめんなさい』
華南は一言だけ言い、そのまま家路についた。
『…どうしようかな、これから…』
---翌日---
朝、華南が廊下を歩いていると、昨日の少女が手を振りながら華南のもとへやって来る。
『城山さーん、おはようですー』
『…おはよ』
『えへへ、今日は城山さんの分のお弁当もばっちり作ってきましたよっ、たまご多めですっ』
そう言うと、2つあるお弁当箱を見せながらにこにこと笑みを浮かべながら少女は言う。
ぱらっ…
『あっ、城山さん何か落としましたよっ』
華南が何か一枚の紙を鞄から落とした、少女が拾ったそれには…退学届、と、書いてあった。
『えっ…』
どうして、と言った表情を浮かべ、華南を見る少女、その瞳にはうっすら涙が伺える。
『…雀荘、出禁になっちゃったんだ、学校通いながらじゃ家賃も払えないし』
『そんなっ…』
華南が理由を話す、少女は今にも泣きだしそうな顔をしていた。
『ちょっ、ちょっと待ってください!そ、そんなのダメですっ』
『…でも、どうしようもないから』
そうだ、こればっかりはどうしようもない、そう自分に言い聞かせるように心の中で華南は呟く。
退学届を手にとり、職員室へ向かおうとする華南。
『じゃ、じゃあとりあえず家に居候しようっ、お父さんやお母さんは私が説得するしご飯位ならなんとかっ』
『えっ』
華南の前に回りこみ、そう言う少女、思わずえっ、と声を漏らす華南。
そうこうしていたら予鈴が鳴っていた。
『ほ、ほらっ、朝のホームルーム始まっちゃうよっ』
『あっ…』
華南の手を引き、少女は教室へ走り出した。
『…そこまで気遣ってくれなくても、家の人も迷惑でしょうし』
昼休み、屋上で華南と少女が、お弁当を食べながら話していた。
『いーのっ、せっかく出来たお友達とこんな形でサヨナラなんて寂しすぎるもんっ』
『…ありがとう、えっと…』
そういえば、この子の名前を知らなかったっけ…、と華南が考えていると。
『
『ありがと、あかり』
『友達だもん、きにしなくていいよっ』
少女、あかりはそう言った。
…友達、か。
ずっと独りであった華南には、すこしむず痒い言葉だったが、それも悪くないと、華南は思った。
屋上に二人の声が響く、相変わらず喋っているのは殆どあかりの方なのだが。
『で、でさっ、良かったらなんだけど、麻雀部、入ってくれないかなっ、家賃の心配もないし、あ、む、無理なら無理で良いんだけど…』
『…いいよ、あかりには恩もあるしね』
華南はその申し出を今度は了承した、あかりの言う通り、もう放課後に雀荘に行く必要もない、断る理由もなかった。
『ホントっ!ありがと、ありがとねっ!城山さんっ』
『…華南でいい……友達、だから』
『うんっ、ありがとっ、かなんっ!』
少し照れた表情を隠すように、そっぽを向いたままそういう華南に、満面の笑みで答えるあかり。
屋上には5月の気持ち良い風が吹いていた。
これが、あかりや麻雀部のみんなと出会う、最初だったんだ…。
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---月宮高校麻雀部での城山華南と麻雀部の仲間達の紆余曲折ありながらもインターハイ優勝を目指していく、もうひとつの美少女麻雀物語---