[chapter:Ep.01]
ちいさな箱庭のなかで、おもちゃが紡ぐ言葉のない物語。
精神疾患の治療として用いる療法で、子供の銀時が無心に表現していく。
『次は大切なものを入れようか』
その言葉に顔を曇らせる様は、まるで条件反射みたい。
「いっしょうのおねがい。」
人形を二つ寄り沿わせ、涙をぽつりと零す。
深い、心の傷へ。
Posted on 2012/03/17
Keywords:条件反射みたい。/「いっしょうのおねがい。」/ちいさな箱庭のなかで
[chapter:Ep.02]
「パパ、きれいになった?」
銀時が歯ブラシを片手に、イーっと白い歯を見せる。
「おぅ、もういいぞ」
髪を撫でると、嬉しそうにニッと笑った。
最初は硬くしていた表情が、日々少しずつ解れていくことに喜びを感じる。
赤いマフラーを首に巻き、手をつなぐと指を握り返す小さな手。
日常の中に隠れた幸せ。
Posted on 2012/03/17
Keywords:マフラー/白/歯ブラシ
[chapter:Ep.03]
パパと一緒にお風呂へ入るのは好き。
その後に、ふかふかのお布団で手をつないでくれる時が一番好きな時間。
まだ眠くない。
そう言ったら、絵本を読んだり、影絵をしたり、寂しくないように一生懸命遊んでくれた。
でも、手をつないでてくれるのは寝る前まで。
ねぇパパ。
離したくないって言ったら、怒る?
Posted on 2012/03/29
Keywords:風呂/影/ふかふか
[chapter:Ep.04]
スズメのさえずる声で意識が浮上した。
『寝ちまった…』
手を繋いだまま、迎えた朝。
夢の中で銀時はとても幸せな顔をしていて、このまま目が覚めなければ良いと願ったけれど。
朝になった、夢じゃなかった。
あどけない寝顔は、まだ幸せそうに微笑んでる。
ずっと隣で笑っていて欲しい…
それが、父親の夢。
Posted on 2012/03/30
Keywords:朝になった、夢じゃなかった/あどけない寝顔/ずっと隣で笑っていて欲しい
[chapter:No.214 ep.05]
さくらーさくらー、と音程の外れた歌声が洗面台から聞こえる。
「楽しそうだな」
小さな姿を覗きに行くと、かがみの中に落とし物をした銀時が
「うん!」
と微笑んだ。
その口元には歯磨き粉の拭き残し。
(もしかして、それって天然?)
無自覚と無頓着=鈍感。
そこが可愛いと思う俺は、親バカかもしれない。
*山桜の花言葉は『あなたに微笑む』。
Posted on 2012/03/30
Keywords:無自覚と無頓着=鈍感/(もしかして、それって天然?)/かがみの中に落とし物
[chapter:Ep.06]
①
保育園のお迎えに行くと、部屋の片隅で銀時が膝を抱えていた。
楽しそうに遊ぶ子供たちの中で、一人だけ寂しげな顔。
「銀ちゃん、お迎え来たよ」
先生に促されて俯いていた顔を上げると、一目散に走ってきて足にしがみつく。
「どうした…?」
しゃがんで目線を合わせ問いかければ、無言のまま泣き出した。
②
こんな時、安心ってなんだろうと考えさせられる。
不安な気持ちを和らげ、また自然な笑顔を咲かせてあげるための―、仕事で得た知識。
きみが泣くなら、俺が笑うよ。
小さな頭をぽんと叩いて、
「ただいま」
ニッと笑いかけた。
それだけで、ほら。
ぎゅっと抱きつき、嬉しそうに言ってくれる。
(だいすき。)
Posted on 2012/03/30
Keywords:きみが泣くなら、俺が笑うよ/(だいすき。)/安心ってなんだろう
[chapter:Ep.07]
「足痛い、おんぶ」
唐突に言い出して、『見て』と膝を捲る銀時。
そこにはあざとい、痣が一つ。
(ああ、そっか、知らないうちにこんなにも、)
懸命に愛情表現を覚えようとしてる。
そのいじらしい姿に免じて、今日は肩車をしよう。
「よし、来い」
痛みさえ奪おうかと思う程、しっかり支えてあげたいから。
Posted on 2012/03/30
Keywords:痛みさえ奪おうか/(ああ、そっか、知らないうちにこんなにも、)/あざとい、痣
[chapter:Ep.08]
行くぞ、と路地裏で手を引いても、銀時は黙って俯いたまま。
コンビニでおやつを買い与えてた他の親子へ嫉妬でもしたのか。
何かを考えていた顔が上がり、
「パパなんか大っ嫌いだ」
と呟いた銀時。
その声の大きさ以上に、俺はショックを受けた。
でも、と続く言葉。
「もう絶対言わない」
…嘘だから許して?
*エイプリルフールネタ。
Posted on 2012/04/01
Keywords:路地裏/おやつ/嫉妬
[chapter:Ep.09]
俺は料理が苦手だ。
味覚が銀時と違うし、作っても迷惑がるんじゃないかと思ってしまう。
「何食べたい?」
保育園の帰りにリクエストを聞いた。
いつもは店で済ますのだが。
「オレもお手伝いする!」
満面の笑みでスーパーへと手を引っぱる銀時。
それなら夕飯は甘いカレーにして、二人で一生懸命作ろうか。
Posted on 2012/04/01
[chapter:Ep.10]
①
デパートで買い物中、銀時が室内の遊具ひろばで遊びたいと言い出す。
「仲良く遊べよ」
と言い残して、俺はその場を後にした。
他人と関わる事を未だに少し恐れていた銀時が、自分から和の中へ入っていく。
その姿を感慨深く見ていたけれど…、親がなくても子供は成長することに、胸の奥がチクリと痛んだ。
②
暫くして広場に戻ると、銀時が他の子と喧嘩していた。
「オレのパパが一番かっこいいんだよ!」
とムキになる姿にいたたまれなくなる。
「銀時、帰るぞ」
苦笑して声をかけた俺へ、嬉しそうに走ってくる銀時。
抱きしめたら消えてしまいそうな、小さな体。
君が笑うと俺も嬉しいから、今ここで抱きしめたい。
Posted on 2012/04/02
Keywords:今ここで抱きしめたい/君が笑うと俺も嬉しいから/抱きしめたら消えてしまいそう
[chapter:Ep.11]
今日はボウフウウが来た。
ザァザァガタン、と大きな音はひどくなるばっかりで、一人でいると何だかこわい。
でも、パパも一人でご飯を作ってくれてる。
きっとこわいのをガマンしてるんだな。
台所にいるパパの所へ行って、足をギュッと抱きしめてみよう。
そしたら笑って、安心するって言ってくれるかな。
*時事ネタ。
Posted on 2012/04/03
[chapter:Ep.12]
保育園のお迎え時は、必ず先生に銀時の様子を聞く。
今日は他の子のお土産話に嫉妬してました、とのこと。
それならば。
週末は予定がないし、行楽日和と言う天気予報を信じて。
「一緒に遊園地に行くか」
しゃがんで目線を合わせると、ニッと嬉しそうに笑った。
週末の弁当は白米のおにぎりと、甘い玉子焼。
Posted on 2012/04/07
Keywords:遊園地/白米/嫉妬
[chapter:Ep.13]
盛大なくしゃみと共に、鼻水を垂らした銀時。
「うー…」
と呻きながら、拭くものを求めて俺のところへやってきた。
いつもポケットに入れておけと言ってるのに、ちゃんと持ち歩かないからだ。
「ほら、チーンしろ」
ぬるぬるの鼻水をティッシュで押さえ、子供の世話を焼く。
まるでつばめの親子みたいだな。
Posted on 2012/04/09
Keywords:つばめ/くしゃみ/ぬるぬる
[chapter:Ep.14]
「ねぇ、お布団出ちゃダメ…?」
赤い顔で訴えかける銀時に、ダメだと優しく諭す。
汗をかいてしっとりと湿った額に触れると、まだ熱があるようだった。
熱いのは分かるが、身体を冷やして悪化したら意味が無い。
「一緒に入ってやるから頑張ろうな」
冷えピタの上から、おやすみのキス。
早く治るといいな。
Posted on 2012/04/13
Title:文中に『しっとり』を入れて【心配】をイメージ
[chapter:Ep.15]
窓からのぼんやりとした明るさで目を覚ました。
開いたカーテンの奥に朝焼けが見える。
「パパ、朝だよ」
指でふにふにと頬を突付いてくる銀時。
「自分で起きたのか」
偉いな、と髪を撫でれば、嬉しそうに微笑んで。
「年長さんだからな」
そう言って、手を引いて起こそうとする。
年長の自覚か。
誇らしいな。
Posted on 2012/04/22
Keywords:朝焼け/指/誇らしい
[chapter:Ep.16]
GWは仕事も保育園も休みだ。
しかし雨が続き、てるてる坊主が寂しげに揺れる。
「お日さま、会いに来てくれないね」
ふかふかの布団とシーツの間から、小さな声。
「ひとりはやだ…」
するりと擦り寄る、たんぽぽの綿胞子みたいな銀時の髪。
そっと撫でて安心を。
「銀時は独りじゃねえだろ」
ずっと一緒だ。
Posted on 2012/05/03
Keyword:シーツ/たんぽぽ/ふかふか
[chapter:Ep.17]
パパがお仕事してる間に、新聞紙でカブトを折った。
「見て、すごい?」
大きいのはパパので、小さいのはオレの。
刀も二本あるんだ。
「おぅ、かっこいいな」
頑張って作ったら、笑って褒めてくれた。
「パパにもかぶせてあげる」
くいっと裾を握る時は、抱っこのお願い。
今日は子供の日だよ。
一緒に遊んで?
Posted on 2012/05/05
Title:文中に『握る』を入れて【構って】をイメージ
[chapter:Ep.18]
「ねぇ、お膝に座っていい?」
おやつにあげたドーナツを持って、銀時が問いかけてくる。
「煙草吸ってるから煙てえぞ」と、一応念を押した。
子供には害だから、傍で吸わないようにしているが。
銀時の願いに、勝るものはない。
ぽんと膝を叩き、小さな身体を乗せる。
銀時のお気に入りの場所、俺の特等席。
Posted on 2012/05/11
Keyword:お気に入りの場所/煙草/ドーナツ
[chapter:Ep.19]
夜の七時前。
いつものように、パパが保育園へお迎えに来た。
「おかえりっ!」
「……ただいま」
元気よく声をかけたけど、疲れてるのかな。
何となく困ったように笑うから、手を引き、今日描いた絵を見せに行った。
白い魚と、黒い大きなクジラが仲良く泳ぐ絵。
「これ、」
そうだよ。
俺たちか、って聞いて?
Posted on 2012/05/14
Title:文中に『魚』を入れて【聞いて】をイメージ
[chapter:Ep.20]
園庭へ遊びに行こうとした時、職員室から先生がむずかしい顔をして出てきた。
「どうしたの?」
いつも遊んでくれる、大好きな先生。
「大丈夫だよ。ありがとね」
そう苦笑いして、どこかへ行っちゃう。
(教えてくれないの……?)
どうすれば笑ってくれる?
大好きな人が悲しい顔してたら、オレも悲しいよ。
*仔銀と先生。
Posted on 2012/05/19
[chapter:Ep.21]
保育園から帰ると、パパはオレの通園バッグを開ける。
けれど、今日は見せたいものがあって、自分でそれを取り出した。
遊園地へ行った時の、思い出の絵。
「みて!オレのなまえ!」
土方って、漢字で書いたんだ。
「すげェな、銀時」
そう言って頭を撫でてくれる手が好き。
でもこの名前は、もっと好きだよ。
Posted on 2012/06/06
Title:文中に『思い出』を入れて【得意気】をイメージ
[chapter:Ep.22]
今日は仕事中から、体調が頗る悪い。
何とか銀時を保育園から連れ帰ったものの、正直、家事が出来る状態ではなかった。
『せめて銀時の飯だけでも用意しねぇと……』
そう思って、重い身体を叱咤し、ベッドから身を起こす。
すると。
「寝てていいよ」
オレ、お腹空くよりパパが辛い顔してる方がイヤだもん。
と言って、傍にいた銀時が、両手で俺をベッドへ押し倒した。
そのまま一緒に横になり、小さな手でトントンと俺の胸を叩く銀時。
「……いいのか?」
本音を言えば、休ませてもらえるのはありがたい。
だが、子供を放置して自分を優先させるのは、さすがに良心が痛む。
(子供に気ィ遣わせてどうすんだ……)
しかし、銀時はそんな事など、全く気にしない様子で。
「パパが大事だから、いいんだよ」
と言って、するりと身を寄せ、はにかんで笑った。
――子供を護るべき大人が、逆に子供から護られている。
普段の俺は、そんな事を甘んじて受けるような柄じゃない。
なのに、不思議と抵抗はなくて。
(情けねェ……)
けれど、銀時からすれば、唯一の家族である俺も護るべき対象なのだろう。
純粋な愛情を注いでくれる、小さな子供。
その幼気な優しさは、薬以上に身に沁みた。
(可愛いな)
柔らかい身体を抱き寄せ、感謝を込めて、額に口付けを落とす。
得意気な銀時の顔に目を細め、再び瞼を閉じた。
「ありがとな、銀時」
Posted on 2012/06/21
Title:文中に『せめて』を入れて【かわいい】をイメージ
[chapter:Ep.23]
休日に催された、保育園の納涼祭。
浴衣姿の子供たちが元気にはしゃいでいる。
「銀ちゃん、一緒に遊ぼうヨ」
同じ組の神楽が駆け寄り、銀時の手を引く。
「ほら、行ってこい」
そう言って背中を押すと、銀時は照れくさそうに頬を掻いた。
遠ざかる下駄の音。
初々しい二人を見守る父親ってのも、悪くねえな。
Posted on 2012/08/08
Title:音・休・父
[chapter:Ep.24]
頭を冷凍庫に突っ込もうとして、思い切りはたかれた。
「何やってんだ、風邪ひくぞ」
と言って、風呂上りで濡れたオレの髪を拭いてくれるパパ。
「…あちぃ」
不貞腐れた顔でそう呟くと、パパは溜息をついて、アイスを出してくれた。
一本を、半分こ。
本当はそれが目的だったって言ったら、パパは怒るかな。
Posted on 2012/08/19
Title:今日の書き出し/締めの一文 【 頭を冷凍庫に突っ込もうとして、思い切りはたかれた 】
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【Last Updata:2012/08/19、Remove:2012/09/18】
養子親子設定のお話で、Twitterの140字作文として流しているものをまとめました。
二次創作だけど、半分フィクション、半分ノンフィクション。
(pixivで公開していたものを移転)
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