No.485061

乱世を歩む武人~第三十七話~

RINさん

VS関羽です。物語も佳境といったところでしょうか。

2012-09-17 06:57:40 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4957   閲覧ユーザー数:4119

桂枝

(さて・・・バレたな。)

 

無形を構えた私は主人に存在を気づかれた事を確信した。

 

出撃する際に舌戦するだろうなくらいには思い、兵をまとめておいたのだが・・・まさかあのまま野戦に移行するとはな。つくづく、覇道というのは私程度には理解が及ばないものなのだろう。

 

そう、私は最初から・・・出城に向かうその時には既に主人の部隊に紛れ込んで行軍に混ざっていたのだ。それも主人のほぼ真後ろ・・・最前列に。

 

他の兵士には驚かれたが気づいたやつには内緒にしておくように、と釘をさしておいた。責めを追うことがあったら気づかれたら迷わず私の名前を出すようにとも。

 

これで他の兵士に罪が向かうことはないだろう。しかし・・・全く気付かれなかったな。正直何度も報告に向かっていた時に覚悟を決めながら言っていたというのに。

 

主人の視野がそこまで狭まっていたと考えるべきなのかもしれない。

 

恐ろしきは劉備だ。きいている限り未だに何も成長していないとはいえ舌戦だけであの主人を揺らすことができたのだから。

 

しかしそのおかげで今ここで主人を護ることができたことを考えればあまりそこを批判することも出来ない。

 

関羽

「何故ここに貴様がいる!荀攸!」

 

関羽は予想外だと言わんばかりに叫んだ。

 

桂枝

「そりゃいるでしょう。魏の武人なんですから。それに・・・我が主と、親友と、姉が出ている戦場に私がいないなんていうことがこの大陸で起こりうると思っているんですか?」

 

だとしたらそれはいくらなんでも私を甘く見過ぎだろう。

 

主人には前日に様子を見に来られた時に「絶対に働くな、体調が戻るまでしっかりと休め」と命令されていた。

 

ならば理想を言うならば本城で、妥協点としても動かず出城で待機しているのが正しい在り方なのだろう。

 

だが・・・その命令に従っておとなしく待っているかと言われればその答えは「否」だ。

 

そもそも圧倒的に不利な状況下で身内を放置することができるような頑強な精神は持ち合わせていない。

 

そんな命令を聞いてこの状況下でゆっくり城の中で休んでいるドアホウはこの私、「荀攸」という存在ではなくもっと別の何かだろう。

 

それならば仮に命令違反でこの後、処刑がまっているとしても主人の壁になって潔く死んだほうが100倍はマシである。

 

こっそり混ざってなにか特別なことをやっていたかというと・・・正直普段と何も変わらないことだった。

 

「敵兵を殺し」「主人を守る」それだけだ。別段何も変わったことはしていない。

 

しいて言うならば戦況を見渡しての報告くらいだろうか。右翼、左翼ともにそんな余裕がなかったみたいなので敵兵を処理しつつついでに確認に行き報告・・・

 

特別なことといえばこれくらいだろう。

 

関羽

「貴様は張遼隊の副将ではなかったのか!?」

 

そう関羽はこちらに告げる。

 

・・・ああ、なるほど。私が霞さんの副将だということを考えての行動だったのか。

 

どうやら過労で倒れたのはある種幸運だったということだ。

 

桂枝

「さてね。ソレをあなた達に教える理由はありませんよ?」

 

まぁ何やら勘ぐってくれてるし黙っておくとする。これで思考を潰してくれたら儲けものだ。

 

関羽

「くっ・・・まぁいいだろう。虎牢関で失った我が兵の怒りをここで貴様に向けさせてもらうっ!」

 

そういって関羽さんはあらためて偃月刀をこちらに向けた。・・・怒りを抱いているというのはどうやら本当のようだ。しかし・・・

 

桂枝

「・・・虎牢関ですか?」

 

 

随分と前のことを持ちだしたものだ。

 

関羽

「そうだ!まさか覚えていないとはいうまいな?」

 

桂枝

「ええ、覚えていますが・・・今回のことじゃないんですね。」

 

出した被害で言えば間違い無くこちらのほうが大きいと思うのだが・・・

 

関羽

「今回・・・?どういうことだっ!?」

 

そうか、気づいていなかったのか。・・・相変わらず周りが見ることが苦手な人だ。

 

桂枝

「いえ、ずいぶん古い記憶をもちだしたなぁと。」

 

わかっていない様子なのでちょうどいいから挑発の材料にさせてもらうとする。

 

桂枝

「私は普通に戦場にいたわけですよ。先ほど張飛さんと戦い始めそうになるまではまでは主人に与えられた任務をこなしていたわけですし。」

 

関羽

「それがどうした?」

 

桂枝

「ええ、その主人の命令をいうのがですね・・・「敵を殲滅し私達がよその部隊に援護に入れる状況を作り出せ」だったわけで。」

 

まぁその前から突っ込んでくる敵を延々と敵を殺してはいたわけだが。

 

関羽

「・・・っ!?まさか!!」

 

桂枝

「ええ、そうですねぇ・・・・

 

 

ーーーーーーーーーおおよそ三千程度は死んでいるのではないでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・まぁ実際私自身はそこまでは殺していない。部隊全員で数えたらそのくらいは確実に殺せるように立ちまわってはきたがせいぜいその半分・・・いってたらいいところだろう。

 

呂布さんのごとく一人で3万人相手取るようなことはできないし。

 

だが挑発としての効果は十分だったようで・・・

 

関羽

「き・・・貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァアァ!!!!」

 

 

関羽は怒りをあらわに突っ込んできた。予想通り、怒ると熱くなって我を忘れる種類の人だったようだ。

 

私もそれ以上、無駄な話をするのを止め無形を構えて迎撃体制を取る。

 

非常に好都合だ。私はちらりと主人たちがいた方向をみやるが、もうそこにはすでに二人はいなかった。

 

きっと彼女の中では「仲間をに殺しまわった悪を成敗する」というわかりやすい構図ができていることだろう。

 

その怒りを私に全力でぶつけようとしてくるのがよくわかる。

 

だからこそこちらの立場などきっとわかっていないだろう。

 

・・・私はとある問いを彼女に投げかけたい衝動を抑えている。

 

 

「少数しかいない状況」で「大軍を以って押し寄せられ」て挙句の果てに「こちらの主人が殺されかけた」なんて状況に対して・・・

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー何の怒りも抱かない人間がどこにいる?と

 

 

 

 

 

 

 

私の頭は未だかつてないほど冷えきっていた・・・

 

 

 

 

 

 

~一刀 side~

 

桂花

「華琳さま!ご無事でしたか!」

 

本隊と合流したところで桂花にであう。本隊の指揮官が不在だということに気づき右翼、左翼をまとめつつこちらの指揮をとっていたようだ。

 

華琳

「全軍、撤退よ!指揮は桂花、アナタに一任するわ!桂枝が関羽を止めているうちに早く!」

 

桂花

「桂枝がっ・・・!?御意!」

 

関羽と桂枝の戦いから離れ桂花と合流した華琳の第一声はそれだった。

 

一刀

「おい、桂枝をあのままにしていいのかよっ!?」

 

そしてその号令は「桂枝を敵のどまんなかに置き去りにして城に戻る」ということにほかならない。

 

桂花

「いいわけないでしょっ!でもあの子の望みは「私達の安全の確保」なのよ!それこそ私達が撤退しない限りあの子は死ぬまで関羽と戦い続けるわっ!」

 

一刀

「た・・・確かにそうだけど・・・」

 

あいつなら間違い無くそうするだろう。そして無理に引っ張ってこようとしてもその時に俺達の誰かが攻撃対象になったらあいつは平然と命を投げ出してかばう。

 

すでに遠目からしかみえないが桂枝は無形を構えている。あの武器があれば霞と打ち合えるほどの実力を持つ桂枝だ。

 

ならばさっさと俺達が城に戻りその後あいつが帰ってくるまで持ちこたえる手段をとるのが最上だというのはわかる。

 

だが・・・頭では理解できていてもどうしても「見捨てる」という言葉が頭を離れなかった。

 

華琳

「一刀っ!ボサッとしていないで!本隊にも撤退命令を。その煙幕をあるだけ使って、一瞬でも時間を稼ぎなさい。兵をできるだけ多く城に帰させるわよっ!」

 

一刀

「あ・・・ああっ!わかった!」

 

華琳の言葉に俺は我に返る。そうだ・・・今は俺にできることをやらないといけない。

 

あいつが頑張っているうちに一人でも多く犠牲者を減らすこと・・・それが俺のやることだ。

 

華琳

「・・・心配なのはわかるわ。でも桂枝にはちゃんと離脱する方法があるはずよ。今はあなたのできることを全力でこなしなさい。」

 

そう声をかけてくる華琳の瞳は少しも揺れていない。どうやら離脱手段に心当たりがあり確信を抱いていると判断する。

 

一刀

「・・・そうだよな。あいつなら大丈夫だよな」

 

そうつぶやいたのは華琳に答えたのか・・・それとも自分に言い聞かせるためか。

 

 

 

 

手に持った煙玉を強く握りながら俺は心のなかで親友が無事に生還することを祈っていた・・・

 

 

 

 

 

~一刀 side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十、二十と重なっていく打ち合のなか、関羽は焦りを感じていた。

 

本来ならばこの場でさっさと目の前にいる桂枝を打ち倒し本隊の追撃に入りたいのだ。

 

「少しはできるが弱いやつを倒しているだけの臆病者」それが彼女の中での彼の評価だった。

 

蜀軍筆頭とも言える彼女にしては低い評価をしている・・・と思うかもしれないがそれも無理はない。

 

魏国内では夏侯惇、霞という猛者相手に互角に戦う姿を見せてはいたが戦場においてその姿を見せることは一度もなかったのだから。

 

桂枝

(・・・なるほど。流石は音に聞こえた関雲長。膂力にいたっては夏侯惇さんと同等。速度も霞さんの最速ほどではないがそれでも彼女を除いてはおそらく最速だろう)

 

そんなことを考える桂枝だがその表情には霞と戦っている時ほどの焦燥はない。

 

何故か?ソレには2つに大きな理由がある。

 

一つは関羽の武は夏侯惇同様「誰かのためにある武」であること。無論主のための武でもあるだろう。しかしそれは桂枝とて同じだ。

 

しかし彼女はそこにさらに大義のため、正義のためと様々な思いを乗せる。単純な打ち合いならばその重さは力となり敵を打ち砕くのであろう。

 

彼女の戦いは桂枝に言わせれば「戦術を縛っている」というに等しく、当然予想の範囲から出ることが殆ど無い。そしていくら力が乗ろうと受け流してしまう彼にはさほどの意味を持たない。

 

そしてもう一つ。それは彼女の武器「青龍偃月刀」にあった。

 

本来は霞が関羽と同じこしらえにしているので関羽のほうが本筋なのだがそれでも似たような武器を相手に死闘を演じていたのだ。それでなくとも洛陽にいた頃から延々と彼女とは模擬戦をしていた。

 

桂枝にとっては関羽の武器の形状は「慣れ親しんだもの」でしかない。

 

 

つまり桂枝にとって関雲長という武将は・・・

 

桂枝

「ふっ!」

 

関羽

「ちぃっ!。行動に・・・無駄がなさすぎるっ!」

 

 

コレ以上無く相性のいい相手の一人だということだ。

 

読み合いが完全に噛みあう相手に対して桂枝はとことん強い。

 

関羽からすれば不気味といえるだろう。なにしろ攻撃をするときにはすでにそこに武器がおいてあるのだから。

 

そうしている間にも曹操本隊との距離は離れていく。焦る関羽は更に単調な攻撃をくりかえす。

 

先程からずっとこの流れだった。

 

関羽

「いい加減に・・・そこをどけっ!!」

 

この場で曹操を倒す千載一遇の好機をのがそうとしている。その焦り最高に達したことによりがむしゃらな一撃をしてしまった。

 

桂枝

(勝機!)

 

桂枝は一歩身を引き無形を組み合わせ長柄武器とした。剣を肩よりも上げて刃先を正面に落とすあの構えを取る。

 

関羽

「逃がさん!」

 

関羽からは大きく後退すると見えたのだろう。そのまま前進しながら突いてきたその偃月刀を・・・

 

桂枝

「ふんっ!」

 

振り下ろして防ぎつつ上への振り上げへと変化させる。

 

そう、霞の時とは動作が逆の燕返しを放ったのだ。

 

関羽

「っ!?」

 

関羽が息を飲む。

 

霞には加速する前に止められてしまったがこの燕返し。本来ならば相手の一撃を防いだ次の攻撃速度が神速の領域に達するという技だ。

 

その性質上、たとえ知っていようと一撃目が成立した時点ですぐに防御に回らなければ受けが間に合わない。

 

初見で反応が遅れれば言わずもがな。ほぼ確実に相手を両断できる・・・そういう技なのだ。

 

前回はその加速前に止められてしまったが、今回は既に振り切りに入っている。今回は止められることはない。

 

狙いは相手の顎。当たれば確実に絶命に追い込むその斬撃は・・・

 

関羽

「くぁっ!?」

 

惜しくも右の手甲で止められてしまった。

 

賞賛に値するとしかいえない。明らかに初手で耐性を崩していたあの状況から偃月刀では間に合わないと即座に判断し腕で止めるなど考えもしなかった。しかし・・・

 

 

関羽

「痛ぅ・・・!」

 

全くの無傷で済むはずはない。

 

即座に大きく距離を取る関羽。しかしこちらに向けている戦意はあまり衰えている様子がないが、明らかに右手に力が入っていない。

 

桂枝

(・・・砕けたな)

 

桂枝はそう判断する。まだこちらに余裕がある状態での状況。ここから一対一で負ける要素はほぼないと見ていい。

 

桂枝

「敵側である私がとやかくいう事ではないのかもしれませんが・・・一度退いたほうがいいのでは?」

 

桂枝は武器を構え直し関羽にそう伝えた。この状況で勝てる相手だと思われてはいないだろう。彼としても退いてくれればもはや間に合うこともないため、追撃をかける理由はない。

 

関羽

「見くびるなよ荀攸・・・たかが片手を砕いた程度で我が闘志は折れん!」

 

そういっている彼女からは冷や汗がでていた。戦闘中の高揚があるとしてもかなりきついはずなのになお立ち向かおうとする。

 

桂枝

「・・・まぁそれならソレで構いませんよ。」

 

そう言って桂枝は改めて剣を双剣にして構えた。

 

別に戦うというのならそれはそれでいいのだ。その右手を責めて丁寧に詰めて行けば負けることはないのだから。後顧の憂いを一つ断てるいい機会なのだ。

 

だがそんな有利な戦況は・・・

 

趙雲

「存外に苦戦しておるな。どれ助太刀するとしようか。」

 

一人の武将の乱入でひっくり返ることになった。

 

関羽

「星っ!どうしてここに!?」

 

趙雲

「敵が撤退したのでな。本陣の守りが少し薄くなっても問題がなくなった。だから攻め手の加勢に来たのだが?」

 

関羽

「っ!!邪魔をするな!私と荀攸との一騎打ちだぞ!」

 

怒るように言う関羽。武人としての一騎打ちと考える彼女にとって助太刀は侮辱に値する。

 

趙雲

「やれやれ、己の状況を見てからそういうことは言うんだな。片腕をほぼ使えない状況でこやつを生け捕りにできると思っているのか?」

 

桂枝

「・・・む?」

 

桂枝はここで表情をしかめた。彼からすれば気のせいだとでもいいたくなるくらい全く考慮に入れていない言葉を聞いたからだ。

 

趙雲

「この状況ではおそらく曹操は逃げおおせるだろうよ。ここから私が加勢に言っても間に合うとは思えんしな。」

 

そういって趙雲は桂枝に槍を向けた。・・・形状からして突きを中心としたものだと判断できる。長物2つ。状況は苦しいが対応できないこともない。

 

桂枝

「・・・わかりませんね。本隊を倒せなくとも被害は与えられるはずだし攻城戦で負担をかけることもできるというのに・・何故私ごときの相手に加勢にきたのでしょうか?」

 

故に油断せずに会話を試みる。距離的にも動きをみてから対応できると考え話してくれれば儲けもの、程度の気持ちで。

 

趙雲

「それを私が応える義理はあるのか?」

 

しかし当然ソレに応えることはなかった。

 

桂枝

「いえ、独り言とでも思ってもらって結構ですよ。」

 

ならば仕方なし。と改めて構える桂枝だが・・・

 

趙雲

「・・・随分と聞き分けがいいのだな。まぁいい。せっかくだから教えてやるとしようか。」

 

彼女はあっさりと手のひらを返した。一瞬だが桂枝の目が見開く。

 

桂枝

(・・・結局話すのか。きっとおしゃべり好きなのだろうな。)

 

少し緩んだ気を改めて締め直す。余程のことを話されない限り何を言おうと動じるつもりもなし。改めて仕切りなおしの勝ち筋を見つけるだけだ。

 

 

 

 

 

そう考えていた中で彼女から放たれた言葉は

 

 

 

 

 

 

 

趙雲

「無論、曹操を打ち倒すことが本命の目的だが・・・どうやら今回ソレは果たせそうにない。だからもう一つの目的を果たさせてもらうぞ。なぁ荀攸。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー今回の戦の目的の一つはお主なのだよ。」

 

 

 

 

 

桂枝を十二分に驚愕させる値する言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

桂枝

「・・・・・・はぁ?」

 

 

相手の読みながら戦う桂枝にとって愛紗のような真っ直ぐで真面目な武人はまさに絶好の相手といえ

ます。

 

逆に前の話の流れで鈴々と戦うことになっていたらかなり厳しい戦いを強いられていたことでしょう。

 

そして明かされる衝撃(?)の事実。次回はここの部分の話を書く予定なのでおそらくかなり短い話になると思います。

 

 


 
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