雲の上にはかみさまがおりました。
青い空や蒼い海や、草や木や花や、動物や人間たちといった、あらゆるものを創られたかみさまがおりました。
かみさまは雲の上から、いつも人々を見守っておりました。
ある時かみさまは嘆いておりました。
あんまりひどい嘆きようだったので心配した小鳥は尋ねました。
「かみさまはどうして嘆いていらっしゃるの?」
かみさまは愛らしい小鳥を指に留めると、
地上の人たちは、わたしの話になどこれっぽっちも耳を貸さないで
悪い行いばかりしているのだと、
そしてそれがあんまり悲しいので嘆かずにはいられまいと、仰りました。
小鳥は提案しました。
「じゃあ、かみさまが地上の人たちに、
良い事をしたら死んだ後にはかみさまと同じ場所に行って、幸せにしてあげるって、
お約束をしてあげたら良いんじゃないかな」
かみさまは、それはとても良い提案だと小鳥を褒めました。
かみさまはすぐさま、地上の人たち一人一人の為に貯金箱をつくりました。
そうして地上の、どんな人にでも聞こえる大きな声でいいました。
「今、わたしはきみたち一人一人の為に貯金箱を、ひとつずつ創ってきた
きみたちが良い行いをするごとにその良い行いをコインに変えてあげよう
そしてそのコインを、この貯金箱に貯金してあげよう
きみたちが良い行いをするほど、この貯金箱にはコインが増えていくんだ」
それを聞いた地上の人たちは尋ねました。
「その貯金が溜まったらどうなるの?」
「その貯金は使えないの?
「良い行いってなに?」
かみさまは、みんなの質問になんだかうれしそうに答えました。
「きみたちが良い行いをするごとに1つずつ、この貯金箱に硬貨が増えるんだ
貯金が一杯になったら、きみたちが死んだ後、
いつまでも必ず、きみたちの愛してる人や家族や友達と、
一緒に天国で幸せな暮らしが送れるようにして約束しようじゃないか
生きているうちは決して使えないコインだよ
だけれども、わたしはこの目でひとつも違わず正しく見守っているよ
良い行いというのは、人が喜ぶ事、笑顔で幸せそうにしてくれること、
ありがとうって心から思ってくれること、
そして自分も幸せになれることなんだ」
そして最後に、こう付け加えました。
「もしもきみたちが悪い行いをしたとしたら、この貯金はどんどん減って行ってしまう
最後にすっかりなくなってしまったら、きみたちは天国へはこれなくなってしまうよ」
この話をすっかり聴くと、地上の人たちは、みんなみんな良い行いをするようになりました。
それからいくらか経ったある日の事でした。
地上の人たちは相変わらず、みんなみんな良い行いをしておりました。
そんな中に一人だけ、窓から外を悲しそうに見ている子供がおりました。
かみさまは子供に尋ねました。
「きみはどうして悲しそうにしているのかね」
「ぼくは病気なんだ
だから、みんなみたいに良い行いがひとつもできなんだ
だから、大好きなパパやママやローナやインクや先生やおじいちゃんやおばあちゃんたちと
同じ天国へはいけやしないんだ
それが本当に悲しいんだ」
子供は、鼻の奥がつんとするのを堪えながら、かみさまに話しました。
かみさまはいいました。
「きみは、きみのパパやママやローナやインクや先生やおじいちゃんやおばあちゃんが、
本当に本当に、大好きかい?」
子供は嬉しそうに答えました。
「あたりまえさ!」
かみさまはそれはそれは優しい声で言いました。
「きみには特別に、奇跡をあげよう」
・・・
雲の上にはかみさまがおりました。
青い空や蒼い海や、草や木や花や、動物や人間たちといった、あらゆるものを創られたかみさまがおりました。
かみさまは雲の上から、いつも人々を見守っておりました。
雲の上で、人々の行いをひとつも違わず見守っているかみさまは、やはり嘆いておりました。
そこへまた小鳥がやってきて尋ねました。
「かみさまはどうして嘆いていらっしゃるの?」
かみさまは小鳥を指に留めるといいました。
「地上の人たちは、わたしが話したとおりに良い行いをしている
それはとてもとてもすばらしい事だ
だけれども、それと同じくらい、或いはもっとすばらしい事をわたしは見つけてしまったのだよ」
小鳥が尋ねました。
「それは何でしょう?」
かみさまは瞼を臥せて考えました。
「地上の人たちは、果たして本当に良い行いをしているのだろうか
あの子供のような想いはあるのだろうか」
雲の上にはかみさまがおりました。
かみさまはいつでも願っておりました。
地上の人たちが、良い行いができるようになることを、いつでも願っておりました。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
たとえば天の国に、貯金箱があったとしましょう。貯めるのはお金ではなく行いでした。