No.484046

相良良晴の帰還17話(前編)

D5ローさん

半兵衛ちゃんの種明かし&主人公の引き継ぎスキル公開回。

ちなみに長秀さん救済しようと思ったら、長くなってしまったので前後編に分けました。

・・・別にいじめてる訳ではありませんよ。

2012-09-15 01:35:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:26093   閲覧ユーザー数:22023

尾張領主織田家の大広間。

 

重要な会議や評定を行うこの場所では、本日に限り、奇妙な光景が繰り広げられていた。

 

男女十人ほどに囲まれる正座した二人の男女。

 

男の名は相良良晴。女の名は丹波長秀といった。

 

                      ※※※

 

 

話は半日ほど前に遡る。

 

前田と共に尾張へ着いた道三は、とりあえず余計な面倒を増やさぬよう、良晴の縁者の僧という形で尾張に入り、そこで手紙を書いた。

 

その手紙により道三が今、尾張に居ること、そしてそれが良晴が自分のためにしてくれたことを信奈は知り非常に機嫌を良くした。。

 

その後、道三を昼食を一緒に食べるために呼び出した時に、良晴とのやり取りの手紙を渡された時にはもう、幸福絶頂期ですと言わんばかりのキラキラ顔である。

 

ここまでは。

 

問題は昼過ぎに良晴が尾張に帰還し、そのまま此方に向かっていることを川並衆が報告した後に起こった。

 

発端となる言葉は、信奈が親しい者達、良晴の家族や長秀を呼んで待っていた時に投げられた。

 

長秀がふと、半兵衛の人となりについてその乱波に聞いてしまったのである。

 

当然、彼はこう答えた。

 

「親分にはかなわねえが、可愛い女の子でしたぜ!」

 

場が、凍った。

 

既に長秀、半分ノックダウン状態である。

 

見間違いでないか半分以上望みを込めて再度聞き返すも、彼ら川並衆は性癖はともかく中身は一流である。

 

着ていた羽織の家紋も確認済であった。

 

ギギギと音を立てるように首を道三の方へ向けると、ワシも知らんかったが、あの坊主が連れてきたのならそうなんじゃろうとニコニコしながら頷いていた。

 

既に信奈の周りには、直視出来ないオーラが広がっていた。

 

長い沈黙が続く。

 

流石の六も黙りこむほど、わりと空気はやばかった。

 

                      ※※※

 

一方その頃、尾張の街に近づき、速度を落とした馬上で、良晴は半兵衛に一番気になる事を問うていた。

 

幸いに、戦争間際の尾張の周辺に旅人は居ない。聞きにくいことを聞くにはもってこいであった。

 

「半兵衛。」

 

「はい、あなた」

 

馬から落ちぬよう、半兵衛を布帯で軽く自らに結びつけたため、耳元近くで半兵衛が返す。

 

「俺の何処が気に入ったんだ?すぐに結婚するくらい。」

 

そう、それである。

 

別に自分に魅力が無いとは言わないが、いくらなんでも早すぎやしないだろうか。

 

言外にそう含みを持たせ、彼女に投げた問いかけは、すぐには返されなかった。

 

しばらく、互いの息遣いだけが場に流れた。

 

半刻ほど経った後、半兵衛が、口を開いた。

 

「良晴さんは、この時代の婚姻がどのようになされるかご存知ですか?」

 

「あ、うん。まあ、御時世のためか政略結婚が多いよな。」

 

「ええ、そして女性として最も必要とされるのは子供を生める、丈夫な体です。」

 

良晴は黙って続きを促した。彼女は今隠していた本音を話している。それを察せられたからだ。

 

「だから、ほとんどの武家の男性にとって、私は妻として不合格なんです。」

 

こつんと、頭が当たる。 気づけば当たった場所が水で湿っていた。

 

「稀代の軍師、竹中半兵衛。そう噂されてからすぐに近隣の豪族や武家から縁談が来ました。ふふ、当時は女だと軽く見られると叔父さまに言われて、男のふりをしていたから、相手は皆女性でしたけど。」

 

顔を押しつけるようにしながら、呟くように語る半兵衛の頭を、良晴は片手を後ろに回し、ただただ静かに撫で続けた。

 

半兵衛の話は続く。

 

「当然断りました。でも、私はその時に嘘をついた。半兵衛は、人前に出ることを極端に嫌う陰陽師であるがゆえに会わぬと答え、真の理由を隠し続けた。本当は、ただ、ため込んだ知略と、最早時代に取り残された陰陽道しか取り柄のなく、子を産み育むことすら出来ない弱い女であることを認めたくないだけなのに。」

 

自嘲するように言葉を続ける。

 

「馬鹿ですよね。隠していても仕様がないことなのに。そして叔父の好意に甘えて隠れ続けた愚かな私は、勝手に夢を見ていたんです。逃げ続けた私を捕まえてくれる人がもし現れたら、その人はずるくて弱い、素顔の私を、それでも愛してくれるかもって。」

 

その言葉を聞きながら、かつて前世で、一年たたないうちに彼女と犬千代に半裸で押し倒されたことを思い出す。

 

あの時は恥ずかしさと照れから逃げ出してしまったが、あの時も彼女はそんな風に俺に期待をかけていたのかもしれない。

 

「そうやって悪どい事ばっかり考えていた私の前に、『全部引き受ける』という暖かい言葉を真顔で言う貴方と、都合良く曖昧に書かれた報酬の手紙があったから、乗っかってしまいました。」

 

背にかかっていた重さが軽くなる、気配で、半兵衛が顔をあげるのが分かった。

 

「これが、先ほどの愚かな私が弄した策です。失望しましたか?」

 

服を掴む手を震わせながら気丈に言葉を吐く半兵衛に、良晴は笑って答えた。

 

「見くびってくれるな。たかがその程度で嫌いになんてなるわきゃねえだろ。」

 

誰にだって、直面するつらい現実に対して、必死に逃れようとする事はある。

 

その程度で人を嫌えるほど良晴は清廉潔白に生きてきたつもりは無いし、好きな女の子からこれほど欲しがられるのは悪い気分ではなかった。

 

というか、むしろ御褒美だった。

 

「で、でも私は世継ぎも満足につくれないくらい体弱いの黙ってたのに・・・」

 

罪悪感からか震えながら言葉を重ねる半兵衛に対し、今度は良晴が黙り込んだ。

 

実はその件に関して、良晴は半兵衛に言ってないことがある。

 

まあ、正確に言えば、言わなかったのでは無く、『言えなかった』ことである。

 

その話の肝となる自身の『術』が、凄まじく言いづらいことなのだ。

 

だが、どれだけ言いづらくても、悩みを解決する手段があることを黙り込んでいる訳にはいかない。

 

良晴は絞り出すように言葉を発した。

 

「・・・うん、それは大丈夫だ。なんとかできっから俺は。」

 

あまりの言い切り具合に半兵衛は唖然としたが、良晴の口調は嘘をついているようなものではない。

 

なぜか、横目に見える顔は耳まで赤くなっていたが。

 

「えーと、普通のお薬とかじゃ治らないですよ、分かるかどうかわかりませんが、体内の『気』を健康な人くらいまで、引き上げなきゃいけないんですから。」

 

流石に美濃中の医者が匙を投げた、この体を治せるなんて言われてすぐに信じられるはずがない。

 

良晴をじぃーっと見つめると、見つめ返した良晴はため息一つついて言葉を返した。

 

「やっぱ言葉だけじゃ信用できない?」

 

「半分はそうですね。もう半分は…」

 

泣きはらした顔に笑顔をのせて、言葉を続ける。

 

「貴方と同じように隠している部分も含めて全部知りたいという私のわがままです。駄目ですか?」

 

はあ、と良晴がこの世界に来て初めてというくらいの長い諦めのため息をついた。

 

こうまで言われて逃げたら男がすたる。

 

「わかった。」

 

言質はとった。それでは存分に正体を味わってもらおう。

 

適当な場所を探す。

 

前方、ちょうど良いところに、旅人が使う小屋があった。

 

流石の良晴も、この『術』を人目のあるところで使うのは憚られるのだ。

 

すぐ横の木に馬を止める。素早く背負うために結んだ帯を解いて半兵衛を抱き上げると小屋に入り、かんぬきを閉めた。

 

「証拠を見せる。もし息苦しくなったらすまない。」

 

ピンと来ずに首を傾げる半兵衛とは裏腹に、何やら呼吸を整えた良晴はおもむろに半兵衛を抱き締めた。

 

「ひゃん!?ちょっと良晴さ、んっ」

 

五分ほど、水音だけが響いた。

 

「もげれば良いのに。」

 

その後、体に生気を充実させながら、顔を真っ赤にしてポカポカ殴っている半兵衛を背に馬を走らせている良晴と合流したクロは、第一声をこう掛けた。

 

ピンと来た読者もいるかもしれないが、彼が今使った力は、ぶっちゃけ房中術の一種、つまり『ま〇わい』を用いて体内の『気』を増幅させる能力である。

 

ただし、良晴の『術』は、本家本元に比べ明らかに異常強化されてしまっていたが。

 

勿論、それには、理由がある。

 

一つは、この世界が式神、鬼などの超自然的現象が当然のように跳梁跋扈しているため、現実世界では架空のものとされている『仙術』という業が実現できてしまったから。

 

二つ目は、良晴自身にその才能があり、それを極められる環境にいたからである。

 

前にお話したとは思うが、良晴は前世でとっても多くの妻を持ったが、当然、それに比例して夜のお勤めも多くなる。

 

当時、欧州やアメリカ大陸すら交易があった良晴に対し、ありとあらゆる勢力が関わりを持とうと送って来た若い嫁達を、年を重ねた良晴が満足させるには、最早通常の手段では覚束無かった。

 

そこで良晴が頼ったのが、肉体強化メインでそっち系の術も充実している仙術である。

 

正直、雲をつかむような話ではあるものの、この和製ファンタジー世界なら、もしかして・・・と探してみたところ、見事に本物を引き当ててしまい、指導を受けられるようになった。

 

そこで、良晴の才能が開花する。

 

実は良晴、尋常ではなく、身体能力の成長が早く、又、体力回復も早い。

 

なんせ、前世では現代から来て大して間も空いてないのに、『金ヶ崎の引き口』で敵軍を自ら率いる僅かな軍勢と共に自軍撤退まで止めきったぐらいである。

 

平和な現代を生きてきた一般人が行えるレベルの所業ではない。

 

不思議だなーとしか思わなかった良晴のその『特性』はその『仙術』の師により解明される。

 

指導する際に師が相良良晴の適正を詳しく調べた結果、自身や周囲の『気』を外に出す事(かめ〇め波などの目に見える『技』)に利用できぬ代わりに、自身の内側に対する働きかけを行う際、特に『再生』と『強化』に用いる場合に限り、この世界でも最強クラスの才能を有していたことが判明した。

 

つまり、彼、健康な状態できちんとした手順を踏めば、大気中から取り込んだ『気』を用いて自身をある程度『修理・改良』できることが判明し、まず最初の才能の発露として、あらゆる仙術の基礎となる内気功に該当する術を、師の指導の下、短期間で習得してしまう。

 

こうして、自身の『気』の運用法をマスターした良晴は、第一の変化として、スタミナが常人離れして、一部、現実では不可能な事を自分の体を用いて実現できるようになった。

 

例を挙げれば、一晩中寝ないでフルマラソンなんて楽勝ですという状態になった。

 

これだけでも十分おかしいのだが、本格的な『房中術』の指導が始まると、彼の能力はさらなる進化を見せる。

 

そもそもの意味の『房中術』とは、互いに高めあう『ま〇わい』を行い、双方の心身を現状維持的に健康を保つ意味で用いられる。

 

無論、最初は良晴もそれを目標に修錬していたが、途中、ふと、こんな事が思い浮かんだ。

 

これ、自分が大目に『気』を貯めて、相手に与えてみたら、嫁達は病気に罹りにくくなる上に、肉体も強靭となり、限りなく無病息災でいられるんじゃないか。

 

試しに聞いてみると、通常の習得時間を考えると、人の一生では難しいと言われた(残念ながら、彼は仙人になるまでの才は無かった)が、理論上不可能ではないとも言われた。

 

失敗してもともと、しかも聞けば、嫁を危険な目にあわせる事は無いという。試す価値はあった。

 

こうして良晴は体を鍛えつつ、ハードスケジュール性活(誤字にあらず)を過して十余年、果てなき練磨(?)の果てにその技術を完成させた。

 

彼の『業』は、受けた相手は本人の『気』が健康体レベルまで回復することは勿論、肉体は瑞々しさが長続きし、病に強くなり、肉体疲労や負傷の回復を促進することすらでき、当然、与える快楽は自由自在という、言うなれば『王の房中術』という夜限定のEX〇具と化した。

 

…ちなみに全くの余談ではあるが、覚えた仙術がここまでそっち方面に偏ってしまった裏の理由として、良晴の才能が何故かその方面に特化というか限定されていたことが挙げられる。

 

修行漬けの日々を過ごした良晴は、ある時、師匠に武力の強化のために仙術を使えないか尋ねた。

 

当時、流石に良晴が前線に出ることは無かったが、有事の際に備えていることにこした事は無い。

 

本気で、可能なら、『王の〇宝』とか、『無限の〇製』みたいな技を覚えたいと言い、大まかな技の説明を行いその是非を問うた。

 

それに対する師匠の返答は一言。

 

「無理。基礎以外お前はその方面でしか仙術を使えない体だから、諦めろ」である。

 

即答された良晴は、いや本来の目的は達したんだけどなんだかなーと呟き、一月ほど膝を抱えて凹んだ。

 

これが、相良良晴が、難しいと言われた『術』を習得するための膨大な実戦訓練(?)の時間を生み出せた理由である。なんせ他の道が全部塞がれてしまったのだから。

 

さて、ここまでで説明した『術』の総括をしよう。

 

前述した通り、良晴の『技』の効能は凄い。

 

『女性』限定ではあるものの、大抵の病魔や、生来の虚弱体質を薬を用いずに治療可能であるというのは、歴史上の名将、名軍師の殆どが女性であるこの世界の各国対し有効な交渉カードとなりえる。

 

なんせ、上手く用いれば、死の運命にある悲劇の人物全てを存命させることすら可能であるのだから。

 

しかし、この技術は表に出せない。眉唾ものの技術であることは勿論、そもそも、この『術』の正体なんて公の場で口にした瞬間、狂人認定確定である。

 

自分を隠すことをしない良晴が唯一の隠し事として秘匿するのも、無理なからぬことであった。

 

ちなみに、誤解されぬよう言っておくが、先ほどの小屋で行われたのは応急処置的な形で生気を一時的に与えるための『接吻』なので、勘違いしないように。

 

このタイミングで『御休憩』するほど、良晴の神経は図太くはなかった。

 

こうして休息の後、幾ばくかの道のりを超えた後、良晴の目に、目的地である織田の館が見えた。

 

だが、後ろで幸せそうにしている半兵衛とは裏腹に、良晴の顔色は非常に悪い。

 

良晴の目から見て、なんか屋敷周辺の空気が重く、危険な香りが傍目にも分かるくらいしていたからだ。

 

なんせ町の中心部にあるのに、人っ子一人外に出ていないのである。

 

叶うことならば、そのまま家に帰りたかったが、尾張の関所を通った時点で信奈達には帰還の報はいっている。

 

それは、無理な話であった。

 

最後に藁をも掴む思いで、クロを見たが、「こっちみんな」と言われ、目を逸らされた。

 

ちなみに、半兵衛配下の式神は、主と恋人を二人きりにしてあげようと思っているらしく、先ほどから札から全く出てきていないため頼れない。

 

良晴が出来ることは、勇気を出して、門の前に立つことしかなかった。

 

良晴の予想通り、門番の顔は引きつっていた。

 

「相良良晴!主命を終え、ただいま帰参しました!」

 

己を鼓舞するために、声を張り上げる良晴。

 

帯刀した信奈の前に正座させられる、約五分前の姿であった。

 

(第十七話前編 了)


 
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