→ミドリガメ様から頂きましたリク「華陀の薬で身も心も少年になった一刀の面倒を見る」
ですよ!お待たせしましたミドリガメ様!
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落ち着かない。
どうにも、落ち着かない。
一刀様の前では凡そ落ち着いていた事は少ないが、とりわけ今日は落ち着かない。それは何故か。
「ねー仲達さーん」
「はい、何で御座いましょうか一刀様」
「ひまー」
「…申し訳御座いません。今一番将棋など如何でしょうか」
「もう飽きたー、それに仲達さん強すぎ。なんか他の事しよーよ」
ごろんと毛氈の上に寝っころがった一刀様の手足は私の知るものより一回り短く、そのお顔は少年のものである為だ。
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昼一に詠様の悲鳴を聞きつけて一刀様のお部屋に行くと、そこには少年になられてしまった一刀様がいらっしゃった。
直ぐに華陀殿が呼ばれ診て頂いたところ、別の方々の依頼で開発していた若返り薬の試作品を誤飲されてしまっているという。
なんと迷惑なと、その若返り薬の開発を依頼した者達は誰かと尋ねたが医師の守秘義務であるとして華陀殿は教えてくれず、詠様と月様が追及はしないようにと強く止められた。
華陀殿の見込みではこの薬の効果は半日から一日だと言い、別の病人を診る為さっさと退庁されてしまった。
兎も角三国の王と重臣の方々に詠様とともに御報告をしたところ、曹操様が『自分が保護し、秋蘭に警備にあたらせる』と御提案された。
しかしすぐに孫策様と黄蓋殿が今回このような事故を起こした魏ではなく呉で比較的時間の余裕がある自分達が預かるべきと異論を出され、それを見て関羽殿が『呉に任せては何をされるのか判ったものではないので自分で警護する』と申し出た。
すると華雄殿が『関羽こそ欲求不満を持て余してると聞く、大方いかがわしい行為に及ぶ気だろうから自分が』と言いさしたところで関羽殿が激昂し、会議が紛糾した。
侃々諤々とし埒が明かないと見た趙雲殿、元譲様、顔良殿、張遼殿らが実力行使で一刀様の身柄確保に及ぼうとし、それを見た詠様が機転を利かせて呂布殿に一刀様の身柄を確保させつつ今日一日呂布殿に保護させる事を御提案され、渋々ながら皆が文字通り矛を引いた。
しかし現実問題として呂布殿だけでは一刀様の身の回りの世話は出来ない上、不埒な輩を後宮に侵入させない事は困難という結論に至った。そこで三国で協議が成され、これも中々決まらなかったが比較的邪な企てを起こしにくいと考えられた者を身の回りの世話として月様、詠様、私がつけられ、警護に呂布殿のほか、許褚殿、典韋殿、公孫瓚殿、張飛殿、亞莎、周泰殿、凪、文醜殿を付ける特別警備体制が採られる事となった。
警護者が逆に襲撃者となってしまう可能性について非常に議論がなされたが、身辺においては月様・詠様と私で相互監視し、警護担当は『さんぴー』に及びにくいよう仲の良い者同士は遠ざけて配置することで回避することとなった。
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「…一緒にお昼寝、する?」
「いーよ、眠くねーもん。詠姉ちゃんもどっか行っちゃったのかなぁ」
縁側で丸くなっている呂布殿の誘いにもにべもない。思わず月様と顔を見合わせて苦笑いしてしまう。
詠様は先程、『やばい。ボク、やばいわ。ちょっと顔を洗って冷静になってくる』と言って出て行かれてしまった。何がですかと聞くと『そんなの判ってるでしょうが、今ボクを止める奴が誰もいないようにボクには見えてるの!つまり主に理性!いいわねぇチョロ達は単純で、まあ色々判ってないからかもしれないけど』と言い捨てて行ってしまった。若干馬鹿にされていたのではと思ったが深く考えないこととした。
「じゃぁ、歌とかどうでしょう?」
「歌?」
月様が小さく手を叩いて御提案された。
「あの、仲達さんは歌が上手だって曹真さんが…」
「そうなの?」
なんという無茶振りだ。
「いえ、とんでもございません」
「え、でも私曹真さんの歌聞いて上手だなぁって思いましたから、その曹真さんが褒めるなら、多分…」
特別の音痴だとは思わないが、普段数え役満☆姉妹や袁術殿の歌を聞かれている一刀様の前で歌えるような程度の高さではない。
「あー、仲達お姉ちゃんの歌聞いてみたいな。上手そうだし、音痴ならそれはそれで面白いし」
仲達お姉ちゃん。
仲達お姉ちゃん。
仲達お姉ちゃん。
薬で一刀様が正常な状態でない事は判ってはいるが、一刀様の口からその言葉を聞くと背筋から指先まで喩えようのないむず痒さと手が勝手に動き出してしまいそうな正体不明の衝動が走ってしまう。
「…一刀様が御所望でしたら」
♪~
私の声は女性としては高い方ではなく、あまり可愛らしい声ではないと思う。
数え役満☆姉妹の曲の好きな一節を歌い終わると、月様がわーぱちぱちぱちぱちー、と手を叩かれ、一刀様が目を丸くして「仲達お姉ちゃん、すげー上手…」と仰って下さった。
お粗末様でした、と申し上げると一刀様が「あとなんか、歌が仲達お姉ちゃんのイメージに合わなくてちょっと驚いた。そういう歌、歌うんだね」
「は…」
貴方様を御慕いする詩なのですとも言えず、赤面してしまう。
しかし、私達は数え役満☆姉妹ではないので歌だけで一日をあるいは半日を過ごすのは困難だ。月様の点心も十分に摂られ、再び気だるい雰囲気となったところで、では中庭で弓などおやりになってみますかと伺うと一も二もなく御賛成された。
上手さで言えば呂布殿の方がはるかに上に決まっているが、朴訥な話し方であるのと相変わらず縁側でまどろまれているので私が教える事となった。
「上手く出来なーい!教えて!」
「はい。では後ろから失礼致します」
とりあえず一人でやってみたいとおっしゃるのでお任せしていたが、体格もあり思うように射れないようだ。一刀様の後ろから両手を添えるようにして御指導する。
「的に対して真っ直ぐに立ち、弓の高さをある程度決めます」
「うん」
「胸を張るように弓を引きます…頭が前に倒れないように。失礼します」
「…」
一刀様の顎と額を軽く起こす。
「照準を合わせて…離します」
ヒュン、と音がして的の手前で矢が落ちる。しかし、一刀様だけで射られたときよりも弓勢は強い。
「ではもう一回」
「う、うん…」
再び一刀様の背後にぴったりとつき弓を引き絞るが、今一つ姿勢が宜しくない。
「一刀様、少し姿勢が前屈みになっておられますので胸を張るようになさって下さい」
一刀様の両脇の下から腕を入れ、私の方へ引くように肩の辺りを押さえて抱き起こす。
「ちゅ、仲達お姉ちゃん」
「はい?」
「その…当たってる…」
「?当てるのはこれからで御座いますが…あ、いま少し体を起こす感じで、」
「…!」
あわてた様に射られた矢は力無く方向も逸れてしまった。私の教え方が悪かったらしく、多少お怒りなのか耳朶が赤く、弓はやめようと仰られた。
かわりにご関心を持たれたのは竹刀だった。
これも私がお相手をしていたが、受けるだけでなく打ち返して欲しいと仰るので空いた胴や面に寸止めで添えるようにしていた。しかし途中から倒されるまでやめないと叫ばれ、懸命に打ち込まれて来たため、ある程度受け流したところで足を払って抱きとめるようにしたが、顔を赤くされて再び打ちかかってこられ、打ちかかって来ては体を崩して御体を地に付けぬように抱き締…抱きとめるという事を繰り返した。
一刀様はもう息が上がっており、そのお体なりの打ち込みの速度も遅くなって来ていたが一向にお止めになられないのでつい役得、もといお付き合いしてしまっていたが十何度目かで一刀様を御起こしする際、その反動を利用されて私の足を払って縺れる様に倒された。
決して態と倒された訳ではなく不意を衝いた一刀様の見事な作戦の結果で、荒い息でやったー、と一言呟かれてそのまま私の胸の中でお休みになられてしまった。
ずっとそのままで居たかったということは決してないが其の侭でいる訳には行かず、お部屋にお運びしてお休み頂いた。
お部屋では既に詠様が戻っておられ、私の事を不思議そうに見られていたので何か御用でしょうかと伺うと、あんたホント不思議ねぇ、と仰られた。
何がでしょうかと答えると、『弓にかこつけておっぱい押し付けたり稽古とか言ってイチャイチャベタベタしてたくせに、そのままヤりたいって思わなかったの?外の連中なんかあの通りよ?』
と言いながら親指で指差す方向からは剣戟の響きと
「恋どいて!一刀ぉ、私とイケナイことしましょー!」
と言う孫策様の声と、
「いーや、うちとイイ事しよなー!」
という張遼殿の声が聞こえた。
成る程、そういう事か。
つまり少年の一刀様と、…一刀様を…一刀様と!?
あのような事を!むしろ私がお姉さんなのだから優しく手解きして!?
穢れ無き一刀様に女を教えて差し上げるなど、なんと素敵、いや不埒な!
(一刀様…万事この仲達に、お任せ下さい)
(仲達お姉ちゃん…)
これくらいの大人の女の余裕は必要だろう。
「仲達?」
(…如何ですか?これが、女で御座います)
(や、柔らかい…ね…それに、すごく、綺麗だ…)
言えるほど立派なものではないが、一刀様が初めてであればこれ位の事を言っても笑われないのではないか?
「仲達どうしたの?ちょっと聞いてる!?」
(そうです、そのまま、中へ…あぁ…!)
(仲達お姉ちゃん、仲達お姉ちゃんっ!!)
一刀様の少年らしい懸命さを優しく包んで差し上げなくては。
「仲達ー!ちょ顔赤っ、今頃思い出して照れてんの!?っていうか聞いてる!?」
(あぁ一刀様、一刀様っ、どうぞお心のままに、いかに激しくして頂いても構いません、仲達は、仲達は…!)
(仲達お姉ちゃん、お、俺、もうっ!)
(ああああっ…!)
いとけなくも熱い一刀様の情熱を、全身、全霊をもって受け止め―――――
なくてはならないと思ったところで視界が明滅し、倒れていく自分を理解した。
遠くで詠様が下手に聞くんじゃなかったわ、白蓮呼んで、と言っている気がした。
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目が覚めると、そこは宿直休憩室だった。
近くの机で事務仕事をしていた元直が私に気づいて一刀様が元に戻られたと教えてくれ、なんか色々いい思いしたらしいじゃないのとからかわれた。
若干顔に血が上るのを覚えながら倒れた事を思い出し、その後はどうなったのかと聞いたところ主に公孫瓚殿が一刀様の面倒を見たらしい。元直が「白蓮さんってあらためてすごいわねぇ、常に普通でいられるって…一刀様もすごく自然に彼女と遊んでたらしいしねぇ」と妙な感心の仕方をしていた。下着展示会の時も思ったが彼女には何か非凡なものがあるのだろう。
今度機会があれば公孫瓚殿に、どうしたら貴女の様に普通でいられるのかと聞いてみたいと私が言うと、元直が貴女そんなに白蓮さんのこと嫌いなの?いじめは感心しないわよと真顔で窘められた。
…何故だ?
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あああああ!
今回は私も肝が冷えましたよ!うまく行って良かったですが!
本来はあの人達用だったはずの薬を一刀様に誤飲してもらっちゃうんですからねぇ、それにうちのババァも一枚噛んでたらしいですし…
あれ?こんな時間に誰か来客みたいなんで今日はこれで失礼しますね!
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拙作「司馬日記」の外伝で、仲達さんの弟子の士季(鍾会)ちゃんが悪戯をします。