No.483428

戦う技術屋さん 十七件目 捜査

gomadareさん

十八件目→http://www.tinami.com/view/484889
十六件目→http://www.tinami.com/view/483417

一挙二話。忘れないうちに上げないと、また忘れそうですし。
サーバーを圧迫して申し訳ない。

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2012-09-13 20:34:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1619   閲覧ユーザー数:1532

「正直、此方も手一杯と言った状況でして」

 そう言うのは、カズヤとギンガを先導する男。

 決して若くはないが、それでも背筋が伸び堂々とした出で立ちの男は、何を隠そう第8港湾の管理責任者である。最初こそ世間一般では子供とされる十代後半のカズヤとギンガに訝しげな視線を向けていたこの男は、二人が管理局員だと分かってからは、相応の立場のある者として、二人に接していた。

 そんな男の背中を、カズヤは少し離れた場所からギンガの肩越しに見つめる。

「元々職員があまり多くないにもかかわらず、あの空港火災から仕事も増えましたから」

「その様ですね」

 男の言葉にギンガは頷き。何も言わないカズヤも、やはり納得していた。

 今回っているのは第一倉庫。大きな港だけありかなりの広さを誇っているこの倉庫であったが、見かける人影は非常に疎ら。疑う訳では無かったが、本当に仕事をしているのかと、思えるほど。

(こりゃ、見落としがあっても然るべきって感じ?)

 認めてしまうのも頂けないのだが、パッと見ただけでも、職場環境は最悪。時折見かける職員らしき男達も覇気がない。

 こんなことを考えたくはなかったが、もしまたあの時の空港火災のような大惨事が起きるとしたら、現場は此処では無いだろうかと、カズヤはそんなことを思った。

(……しかし)

 前を行く二人が右折し、それに合わせて右折しながら、カズヤは一瞬だけ後方を確認する。それだけでもマルチタスクを使えば、その一瞬で入ってきた情報を瞬く間に分析、それにより充分な情報量を得られるのだから、全く便利なものだ。

(見えない……。でもやっぱり居る。誰だかは分からないけど)

 倉庫に入る直前辺りから、カズヤは何者かに尾行されている気配と視線を感じていた。

 とは言え姿は見えないし、管理責任者の男は仕方が無いにしも、ギンガも何か気がついた様子が無いところを見るに、気のせいと考えてもおかしくは無かったが。カズヤには気配の主は兎も角、気配の希薄さには覚えがあった。

(幻術。オプティックバイトで姿を消した時に似てるんだよな、この感じ)

 ティアナの魔法の練習に幾度も付き合い、自身もまた、幻術のサポートに必要な技術を知るために拙いとは言え幻術の心得がある。

 だからだろう。カズヤには幻術に対しての耐性にも似た物があった。姿を消し、気配を消しても何となく察することが出来るし、幻影はそれ自体を偽りとやはり何となく見破れる。全てにおいて、何となく分かるのだ。

(ギンガさんに話すか?でも確証は無いし)

 カズヤが困ったように頭を掻いているとその様子をギンガに見咎められた。

「カズヤ。真面目に仕事しなさい」

「あ、と。すいません」

 まだそのタイミングではないから話すわけにはいかず、カズヤは素直に頭を下げた。全くと呟き、ギンガは男を追う。

 その先、二人が入ろうとしていたのは、DANGER。危険と書かれた扉の向こう。

「……え?なんです、その部屋。扉全体で危険を訴えているのですが」

「カズヤ、何も聞いて無かったの?」

「すいません、考え事をしていまして」

「……はぁ」

 呆れた様子で溜息をつくギンガ。そんな態度は取られ慣れている事もあり、気にした様子無く、カズヤは「すいません」と再び謝罪する。

「大丈夫なの?外で待っていても構わないけど」

 それが心配からなのか、やる気が無いならついてくるなと言われているのか。カズヤには分からず、とりあえず「大丈夫です」とだけ返し、ギンガの後を追いDANGERと書かれた戸を潜る。

 その瞬間、カズヤは扉に書かれていた意味を知る。濃密な魔力の気配。自分達以外に誰も居ないのに、それこそ一個中隊同士が本気でぶつかり合った後の戦闘空域にも似た。圧倒するような魔力密度。

「ロストロギアが大量に?」

「流石に分かるか。私もちょっと気持ち悪いし」

 そう言うギンガも少し顔色が悪い。カズヤより魔導師として優秀な分、カズヤより影響は大きいらしい。

「こうあれだと、危険度は分かりませんけど。ロストロギアはあるみたいですね」

「聖教や管理局、研究機関とかからの輸送依頼はあるようだから。本当に聞いてなかったのね」

「申し訳無いです」

 素直にペコリ。

「しかしロストロギアが微量に魔力を放出しているって言うのは良くある話ですけど、幾ら数があるとは言えここまで酷いことってないものでは?封印処理がされていない物があるのかも」

 ロストロギアは単体で魔力を持っている物が多い。しかしその魔力を制御する機構はあっても、人間と違ってリアルタイムに抑えているのではなく、大昔に組まれたプログラムによるもの。綻びがあっても自動修復を行えるものなど滅多に無い。その綻びから魔力が漏れ出す事にある。キチンとした封印処理さえ行われていれば、体調に支障をきたす事など無い筈であった。

 だが、ギンガはそうは思っていない。

 

「もしそうなら、とっくに暴走してると思うわよ?」

「え?でも、これだけの密度ですよ?ロストロギアの封印が切れかかってるとしか」

「大丈夫よ。封印していても微量に魔力は漏れてしまう。でも、この部屋は基本的には密閉されてる。だから漏れた魔力がこの部屋から出てなくて滞留しちゃってるのよ」

「あー……納得です」

「――そろそろ戸を閉めて貰えます?」

「あ、はい。すいません」

 既に部屋に入っていた管理責任者の男の言葉に従い、カズヤが慌てて戸を閉めようとした時

「っ!」

 違和感が起こった。目に見えない誰かが、自分の傍らを抜けて室内へと入っていく。

 先ほどから隠れて付き纏っている術者かと慌てて振り返るも、ただでさえ曖昧にしか分からないカズヤの幻術に対しての感覚は、ロストロギアによる大量の魔力により精度は更に低下。

 すっかり見失ってしまった。

「くっ」

「カズヤ?どうしたの?」

 ギンガに聞かれ、少し迷ってから「何でもありません」と声に出しながら、『驚かないで聞いてください』と念話で話す。

『実は倉庫の外辺りから、ずっと俺達の事を尾行していた幻術使いがいるんです。確証は……無いんですけど』

『……本当?』

『こんな嘘、付きませんよ。さっき俺のそばを抜けてこの中に。今は見失ってます。いる事は確かですけど』

『……分かった。何かプランは?』

『一本道の長い通路で挟み撃ちにできれば。炙り出せると思います』

『一本道……、分かった』

『ありがとうございます』

***

 それからしばらく危険物の保管倉庫を見て回り。

 カズヤとギンガ、管理責任者の男は船内に来ていた。既に幾らか積まれた荷物を見たいと言ったギンガの言葉を汲んでのことであり、そんな現在。船内の通路はギンガがお花摘みに行ったため、カズヤと男の二人きりだった。

(窓はあるけど開かないし……。個室に通じるドアもない。一本道の長い通路。ギンガさん、良く思いついたな)

 危険物保管庫を出て、再びカズヤの幻術に対しての感覚は復活。視線と気配、両方を感じており、その気配は隠れる場所がないからだろう。廊下の中程を陣取り、カズヤと男ヘ視線を向けている。

(ギンガさん目当てって訳ではないのか。まあ、ギンガさんについて行ったら行ったで、背中から飛び蹴りしそうだったけど)

 少なくとも性犯罪者とか迷惑防止条例違反者ではないらしい。一安心……というのもおかしな話だが。

(さて、問題はこの管理責任の人にバレないようにどうやって伝えるかだよなぁ)

 魔導師かどうかはわからないし、仮に魔導師でも男直通の念話のチャンネルが分からない以上、念話は使えない。

 暫し悩み、ふと思いつき。カズヤは足で床を叩いてみる。その音に男と術者が反応する気配を感じる中、カズヤはそれを続ける。数度叩き、時々磨り潰すように、足を地面につけたままスライド。

 更に叩き、スライドと叩く動作とスライドの動作を織り交ぜる。

 術者の方はそれをただの貧乏ゆすりと感じたのか、すぐに興味を失う。しかし男の方は違った。

 驚き、しかし顔つきが変わり。確認するようなカズヤへの視線に、カズヤは頷いて返す。

(伝わった……。凄いな、マニア?)

 やっておいて何を言っているのだろうか、コイツは。

 とりあえず、伝わったのだしいいかと納得し、カズヤは意識を術者へ戻す。術者が自身の存在をまだ気付かれていないと信じていることを望みながら。カズヤはギンガへ念話を繋げた。

『ギンガさん。此方は準備完了です。そちらは?』

『こっちも大丈夫。いつでもいけるわよ』

『では――』

 3――ポケットに手を入れる。その中の待機状態であるT-04αとA-21α・βを握る。

 2――すかさず抜き放ち、T-04αのみ起動。

 1――威力は考えず。10発の弾丸を形成!

「ギンガさん!」

 カズヤの言葉に応じ、術者を挟んだカズヤの向こう側から現れたギンガ。

 リボルバーナックル、G-04、バリアジャケットとフル装備のギンガはすかさずプロテクションを起動し、カズヤはそこめがけ10発の弾丸を放つ。

「シュートッ!」

 放たれた10発は特別な軌道を描くことなく直進し、そのうちの8発はギンガの張ったプロテクションへとぶつかり、消える。

「この弾丸は特別製なんです。威力は無いですが、弾丸の生成速度に加えて――」

 では残りの2発は?

「指定した対象物へ接触した場合に限り、破砕せずに吸着。離れません。本来ならマーカーの代わり程度にしかなりませんが――」

 残りの2発は、カズヤの狙い通り、きっちりと吸着していた。

「姿を消せる幻術使いにとっては致命的ですよね?」

「……地味だけど、効果的ではあるわね」

 苛立ち混じりにカズヤの言葉に答えるように、カズヤのマーカーがついた幻術者が姿を見せる。

 女性であった。身長は自分より上。茶髪に変則的なツインテール。メガネをかけていて、ボディスーツに似た服の上には季節外れな白のロングコート。特徴的なのは胸元に見える『Ⅳ』の文字だろうか。

 ギンガ同様にA-20と大差無い形状のA-21αとA-20と違いリボルバーナックルの歯車に似た物が新たに装備されたA-21βを起動。更にバリアジャケットを発動し、フル装備になりながら、カズヤはマルチタスクを使い、一瞬でそこまで情報を手に入れる。

「さて。一応義務だから言いますが、現在此処にいる時点で不法侵入の現行犯。それにさっき危険物保管庫にも入ってきていましたし。まあ、今ならその程度です。武装があるならそれを解除。大人しく投降すれば、貴女には弁護の機会があります」

「……ふふ」

 嘲るような笑みを浮かべながら、Ⅳの女が両手を上げた。

「降参」

 


 
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