No.483417 戦う技術屋さん 十六件目 ルートgomadareさん 2012-09-13 20:19:00 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1453 閲覧ユーザー数:1402 |
ミッドチルダ、クラナガン。公道を流れに従い走る車達。
そんな中を走る、クリークブルーマイカのユーノスコスモ20B。
正式名称『ユーノスコスモ 20Bロータリーターボ タイプS』。ミッドチルダ製ではなく、地球製のもので、90年~91年の間発売。新車時価格は420万(税抜)である。
振動が少なく、乗り心地がいい。内装が個性的で、ゆったりできるなど、利点が多いこの車だが、特に書かれるべき点は長所でもあり短所でもあるエンジン。
エンジンが3ローターであり、280馬力という出力も41kg・mというトルクも当時ではナンバー1だった品。加速性能は最高だった。
だが、それに比例するように燃費が最悪であった。ロータリーエンジンのため元々燃費が悪いにもかかわらず、3ローターにツインターボ。リッター2~4kなどざらである。渋滞に捕まれば更に悪い。ガソリンメーターがガンガン減っていく様はまるで戦車。地球環境とお財布に優しくない車である。
最もエンジンの回転数を上げる……言ってしまえば速度を出せば、普通のレシプロエンジンと遜色ない燃費になるのだが。それでも酷い。
「まあ、そこがいいんだけどね~」
「何言ってるのよ」
そんなユーノスコスモの現運転手はカズヤであり、助手席にはギンガが乗っていた。
「いえ、こっちの話です」
「……まぁ、いいけど。それにしても、この車。ミッドのじゃないでしょ?」
「ええ。高町一尉や八神二佐の出身世界のものです。最も、ガソリンエンジンですから、それがミッドの内熱機関になってますけど。一応それを元々の3ローターのコピーにして色々手は加えましたので、燃費は相変わらずですが、馬力は天井知らずの謎スペックになってますよ」
「……そうなの。いくら位かかったとか、聞いていいのかしら?」
「I-O1とG-04を一般市場で買おうと思えば、セットで5つ位買えますかね?」
「貴方、金銭感覚おかしいわ」
何言っているんだこいつはと言った目をカズヤに向けるギンガ。
「そうは言われましても。結構貯めてますから。本局技術部時代に、何個か特許を取りましたので。それで儲けてます。そうでもなかったら買えませんよ」
「それはそうかもしれないけど」
「自動車代、こっちに持ってくる送料、改造代、それに必要な場所代を考えると、やっぱり結構かかってますが。まあ、ガソリン車のまま乗り続けているよりは安いです」
エコやら燃費やら。様々な謳い文句の元、ガソリン車の肩身は喫煙者並みに狭いのがミッドチルダの現状だ。新暦になる以前、大きな戦争時の環境汚染などが原因の一つというのは、学校の歴史の教科書にも書いてある話である。
「それでもねぇ。金銭感覚おかしいんじゃない?」
「使う時に一気に使っちゃうタイプなんですよ、俺は。貯め込むだけ貯め込んで使わないよりマシです」
「他に何かアホな買い物したことあるの?」
「アホって、失礼な。そんなに何度も買いませんよ。船舶免許を取ったくらいで。それ以外はコイツの維持費です」
ハンドルを叩きながら、カズヤ。十字路に差し掛かり、左へ曲がりながら更に言葉を続ける。
「それにデバイスの特殊なパーツとかは結構値が張るといった話は、ちょっと前に言った通りですし。使う対象は基本そんな感じです」
「趣味に関しては浪費を惜しまないにしても、限度があるわよ。もうちょっと、気をつけなさい」
「はーい」
信号が赤に変わり、車を停める。満タンだったはずの燃料メーターが三分の一ほど減っており、相変わらずだなぁとカズヤはなんか安心した。
「ところでカズヤ。今更だけど、行き先、ちゃんと覚えてる?」
「はい。ミッドチルダ北部の第8港湾です。この調子なら後一時間程で到着じゃないですかね」
信号が変わり、動き出した車の流れに従い、走り始める。
そんな中で「それにしても」とカズヤが言い始めた。
「なぜ第8に?密輸ルートの捜索ですよね?確かに、海路を使った密輸もありますけど、いくらなんでもあそこは違う気がしますけど」
「どうしてそう思うの?」
「だって第8ですよ?ただでさえミッド北部は聖王協会のお膝元です。それにあそこの港湾、71年の空港火災の目と鼻の先じゃないですか」
新暦0071年4月に起こった空港火災と言えば、今でも爪痕を残している大災害だ。スバルとギンガも巻き込まれたこの火災は、空港だけでなく都市の一部すらも焼き、その都市は空港閉鎖に伴い廃棄都市になってしまっており、今なお手付かずのまま。
「聖教に関しては問題無いわ。第8はベルカ自治領外。中で起こった事ならともかく、外で起こったことには、ロストロギア関連を除いては必要以上に聖教は絡んでこない。荷物の中身がわからない密輸になんて絡んでこないわよ」
「そういうもんですかね?」
「実際そうだしね。それに空港火災についてもそう。寧ろ第8の密輸ルートの可能性の高さは、あの火災によるところも大きいわ」
「はい?それは――あ、ちょっと待って下さい」
直線を走りながら車線を変え、いくらか速度を落とし料金所を通過。そのまま高速に乗り、徐々に速度を上げていく。
「それで?どういうことですか?」
「あなたが言ったとおり、第8港湾があるのはあの火災で廃棄都市になった場所の目と鼻の先。ベルカ自治領を除けば、ある意味でミッド最北端にある」
「はい」
「現在あそこで働いている人たちには悪いけど、だからこそ仕事が粗いところがあるのよ。そうでしょう?あの火災が原因で、廃棄都市になったせいであの辺に住んでいた職員たちが纏めて引越し。それに伴って仕事をやめた職員だって多い。それに立地条件的に、あそこで働きたいと思う人員もいないだろうから、あの火災から第8港湾で働く人間は港湾の規模に対して少な過ぎる。にもかかわらず、空港火災で空路が一本潰されたから、そのしわ寄せであの港湾の輸出入量は増加。仕事は増えている」
ギンガの説明に、なるほどとカズヤは納得する。
「少人数で大仕事ってわけですか。穴があってもおかしくないと」
「そう。それに元々密輸する側は、事実隠蔽の為にあらゆる手を使って隠そうとするから尚更。下手したらあそこならバレないと思って、第8を使った密輸が増えてるかも。そうすれば荷物が増えて」
「仕事が荒くなって、結局見つからない、と」
「そういうこと」
右肩下がりに悪化の一途を辿っているらしい。
海路は空路と違い、時間はかかるが一度に運べる量は多い。下手をすれば、本来海路で数度に分けて運ぶ量を一気に運んでいるのかもしれない。
聞いた感じ、人員を増やすのが最も手っ取り早いのだろうが、そう簡単にもいかないのだろう。
「――あ、見えましたよ。空港」
フロントガラスの向こうがわ。そこに湾岸第8空港の跡地が見えてくる。廃棄都市に認定されたからだろう。壊れた建物を壊すでもなく、そのまま残っている様は、どこか痛々しい。
あれを教訓に、今後の安全保護の徹底化を図りたいらしいのだが、効果の程はカズヤにはわからない。
そこから横目で視線だけをギンガへ向けると、やはりカズヤ同様にギンガも複雑な表情である。
「さっきの話の続きなんだけど、あの空港火災の原因って知ってる?」
「いえ、何も」
テレビでは何らかの事故というアバウトな表現しかしていなかった事もあり、カズヤ自身にその知識は無い。一応386での災害担当時の研修でも空港火災の話題は上がったが、その時も対した情報は無く、ああなった時の対処法のようなものを叩き込まれた。
「私も後で事件の捜査資料を読んで知ったんだけど。あの火災、火元が輸送物資仕分け室である可能性が高いそうなの」
可能性が高いと、不確定な情報なのは、あれだけ大型火災であった事に加え、消火の方法がはやてによる広域凍結魔法だった事も一因に挙げられる。火こそ消えたが、その後の捜査が難航したためである。
しかし、今のカズヤにそれは関係なく。気になったのは火元の可能性が高い部屋。
「輸送物資仕分け室?随分妙な場所ですね。災害担当の頃に習いましたけど、あの部屋って盗難防止やら無断侵入禁止するためにかなり頑丈な部屋のはず。あそこが出火元なら、あんな大惨事にならなかったのでは?」
「カズヤは出火時の火元の特定をどう行なっているか、知ってる?」
「目撃情報や焼け具合ですね。災害担当時にそんな感じでした」
カズヤの言葉は的を射ており、ギンガは首を縦に振る。
「それで、捜査資料には目撃情報も少ないながらに書いてあった。複数人が別の場所から。それぞれが示した方角に共通してあったのが、輸送物仕分け室。それに焼け具合もそこが一番酷かったって書いてある」
「では本当に?欠陥工事だったとか?」
「施設に問題はなかったわ。そうなると」
「積荷に問題があったと?」
「そうなるわね。捜査資料に当時そこにあったもののリストもあったし、その中の一品に取り扱い危険物があったことも事実」
「ならそれが原因?」
「恐らくは。そして問題はその取り扱い危険物の送り主が架空の会社だったってことよ」
ギンガの言葉にようやく合点の言ったカズヤが、驚いた表情でギンガの方を向く。
それに合わせて体が僅かに動きハンドルが切れ、暫し蛇行運転。
慌てて立て直しながら、前を見たまま、しかし驚いた様子は消えない。
「まさか密輸品だったと?その危険物が」
「可能性としては充分ね。わざわざ架空の会社を立ち上げている所を見るなり、よっぽど大事な品だったらしいわね。さて状況から鑑みて、その品はまず間違いなく火災の原因。加えてあれだけの被害を出したところを見るに、あの品は」
「ロストロギア。しかも弩級の危険物ですね」
「ええ」
しかしその言葉を聞きながら、カズヤは新たな疑問を覚えた。
「でもギンガさん。空港火災がロストロギアの暴走、もしくは、それを使って意図して起こされた物として。その話が今回の第8港湾とどんな関係が?」
「単純な話よ。その品。密輸とはいえ正規ルートだったから、送り主だけじゃなくて、運送先も書いてあったの。そして空港無き今。その運送先に物品を送っているのが、第8港湾から出ている貨物船なの。理解した?」
「流石に分かりました」
目的地周辺に差し掛かり高速から下りる。あとは道なりに進むだけ。少し目を凝らせば海と数隻の貨物船も見えている。
「つまり、その架空の会社名義で密輸をしていた連中が、今は第8港湾を使っている可能性が高いわけですか」
「そういうこと。さて、カズヤ。今日の目的は二つ」
「二つ?」
「一つは今までの話の流れの通り。密輸の捜査。もしそう言った品があるなら検挙しないといけないし、ますますもって調べないとね」
「はい」
「そしてもう一つは、貴方」
「俺ですか?」
「そう。今日一日で仕事に慣れさせて、現場でも使い物になるようにすることが、もう一つの目的。その為に、重要ポイントに連れ出して、仕事を嫌でも覚えさせようって魂胆よ」
「なるほど。了解です」
現場の仕事は初めての為、カズヤは言われた言葉を素直に受け止める。
その反応に気を良くしたのか、少しだけ笑みを浮かべたギンガは、その表情をすぐに仕事へと切り替えた。
そして、車は第8港湾へ到着する。
エンジンを切り、深呼吸をして。僅かに緊張を自覚しつつ、カズヤも同じく表情を引き締めた。
視線を合わせ、頷きあってから、二人は共に外に出て、カズヤは車の鍵を占めた。
「さて、行くわよ。アイカワ捜査官補佐」
「はい。ナカジマ捜査官」
そうしてギンガが先導し。二人は一先ず第8港湾の事務所を目指して歩き始めた。
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