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超次元ゲイムネプテューヌ『女神と英雄のシンフォニー』チャプターⅡ第二話『友が選ぶ生きる道』

月影さん

ラスティションへと足を運んだケイト達。そしてシアンという少女から受けたモンスター退治の依頼の中、彼らはケイトが探していた親友、譲崎疾風と出会う



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2012-09-11 23:15:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1165   閲覧ユーザー数:1136

 あの後、ローブの男性を安全な場所まで送っていくと言って俺達とは待ち合わせ場所を決めて、一旦疾風とは別れ、俺達は中央市街へと戻りシアンから報酬を受け取ったのだが

 

「ラスイテイションって景気があんまりよくないのか? プラネテューヌと比べると報酬が結構少ない気がするが……」

 

 その額はプラネテューヌでモンスター退治をした時のそれと比べると結構少ない

 

「どうやらその通りみたいです。なんでも……アヴニールって言う大きな会社さんがお仕事をみんな持ってっちゃってるらしいですよ?」

 

「確かに。中小の工場がアヴニールのあおりで潰れてるってのは、あるみたいだけど。……別にそのせいだけじゃないんじゃない?」

 

 確かに、一企業の力で大陸や世界規模の経済を動かす事なんてそうそう出来るもんじゃない。出来るとすれば、経済全体に影響するほどの後ろ盾、地球で言うならば政府そのものを味方に付けてなければ難しいだろう

 

「でもそれって悪い会社だよね!? お仕事、独り占めしちゃってるんでしょ? それはすなわち、悪だよね!?」

 

「……そこでウンって言ったら襲い掛かりそうね。でも別に世界征服をしてるワケじゃないんだし。そもそも会社を善悪で分けるのはどうかなー」

 

「単に企業間の競争でアヴニールが独走してるだけだろ? 結局、どの企業のサービスや商品を選ぶかなんて、そこに住む人々次第だしな」

 

「でも、その会社のせいで困ってるなら放っておけないよ! そこを、倒せば、景気も良くなるんでしょ!?」

 

 それに対しても下手に同意できない。例えそのアヴニールが黒だったとしてもここで頷こうものなら、さっきアイエフも言ったとおりネプテューヌなら本気で今すぐにでもアヴニールに討ち入りしそうだ……

 

「一般的に会社は倒すものじゃないんだけど。そういう時は武力じゃなくて協会や女神様に、相談するのが普通なの」

 

「でも……追い出されてまだ間もないですよ? これじゃあ、鍵の欠片も打倒アヴニールさんも打つ手なしですぅ」

 

「それ以前にアヴニールに何か黒い噂でもない限り、相談のしようも……って、即にアヴニールを潰すのも決定事項なのか!?」

 

「そんなの当たり前じゃん! 人々を困らせているならモンスターだろうが会社だろうがやっつけるのが私達の使命だよっ!!」

 

「はいはい、どっちにしても現状じゃ打つ手無しなんだからとりあえずその問題は置いといて、疾風との待ち合わせの場所に行きましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、こっちだこっちっ!!」

 

 疾風との待ち合わせ場所になっていたカフェに行くと、テーブル席の一角で疾風がこちらに向かって手を振っていた。すぐに俺達も席に着き、それぞれ適当に飲み物を頼む

 

「さてと、そんじゃま改めて、だ。俺は譲崎疾風、こっちの世界じゃアゼル=ハイウィンドって名乗ってる。ある程度桂斗から聞いてるだろうけど、こいつとは地球に居た頃からの幼馴染だ。よろしくな!」

 

「わたし、ネプテューヌ! よろしくーっ!!」

 

「わたしはコンパって言うです。よろしくです、アゼルさん」

 

「わたしはアイエフよ。でも、よかったじゃないケイト。友達、すぐに見つかって」

 

「まぁな。とりあえず俺の目的はこれで達成、だな」

 

 そこで先に頼んでいたのだろうアゼルが自分のコーヒーに口を付けると、ふと思い出した様にこちらに目向けて

 

「そういや、ケイトも俺と同じ経緯でこっちに来てるんだろ? こっちじゃなんて名乗ってるんだ?」

 

「名前の方は大して変えてない。こっちじゃケイト=リンドブルムって名乗ってる」

 

「そんじゃ、今までどおりケイトでいいな」

 

「そうだな、それでオッケーだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、ケイトは俺の事を探して……」

 

「ああ。失踪してからすぐに手掛かりを探しにあんたの家のPCから女神大戦をプレイしようとして此処に飛ばされた。とは言え、まさか事が異世界にまで及んでて、俺まで飛ばされる事になるとは思わなかったけどな」

 

「だなぁ。まさにミイラ取りがミイラだな」

 

 アッハハハハハ、と疾風ことアゼルが豪快に笑っていると、アイエフが二人だけで盛り上がってたことに対して軽く咳払いをした

 

「それで?」

 

「それで? ってのは」

 

「だから、これからの事よ。とりあえずケイトの友達を探すっていう目的は達成された訳だし、これからどうするつもりよ? やっぱ普通に考えれば元の世界に帰る方法を探すの?」

 

「えっ?」

 

 何故かアイエフの問いに反応したのはネプテューヌだった。虚を衝かれたように、アイエフの方を振り向く

 

「なんで、ねぷ子がそこで反応するのよ? それとも、私なんか変な事でも言った?」

 

「あ、ううん。何でも……」

 

「まぁ、大体アイエフの言うとおりだな。勿論、イースンの救出の方も最後まで手伝うつもりだし、地球に帰るとしたら、その後だな」

 

「と言う事は、これからはアゼルさんもお仲間ですね。よろしくお願いしますです」

 

 と、こんぱがニコニコ顔でアゼルにそう言ったが、当の本人は「あー……」とどこか歯切れが悪い感じになっており

 

「その、なんだ……探しに来てくれたケイトには悪いんだけどよ……」

 

 片目を閉じ、頭をガシガシと掻きながらそこで言葉を詰まらる。やがて意を決したように目を開くと

 

「俺は……もう帰らない。このラステイションで生きてくって、決めてんだ」

 

 予想外とも言える言葉にネプテューヌ達は「えっ?!」って表情になった。てっきりアゼルはアゼルで地球への帰還方法を探しているものだと思っていたのだから

 

「えぇーっ!! そ、そうなんですかぁ!?」

 

「流石にこれは予想外ね。てことは、アゼルはずっとラスティションにいたの?」

 

「ああ、だいぶ前からラスティションに定住してるし、ある仕事、というか役目に就いてる。そう簡単に投げ出せない重要な役目だ」

 

「理由、聞いていいか?」

 

 ネプテューヌ達が驚きを隠せずに居る中、俺は自分でも驚くぐらい冷静にその理由と問う事が出来た。全く驚いていない訳ではなかったが、その言葉を聞いた瞬間、なんとなくだが、どこかでその理由が予想できたからだ

 

「その、俺は……ていうかケイトもなんだけどよ、俺達はあっちの世界じゃ、一人暮らしだったんだ」

 

「一人? お母さんやお父さんとか、家族は居たでしょ?」

 

 ネプテューヌの問いかけにアゼルはすぐには答えず俺の方に目を向けてきた。言っていいか?って事なのだろう。それに対し、むしろ俺の方から口を開き

 

「居たには居たけど、みんな死んだ。何年か前に俺達の住んでいた場所で大規模な震災が起こってな。家族から他の友達からみんな、な……」

 

 とは言え、あれだけの大震災ならばこの様なことはとりわけ珍しい悲劇でも無い。むしろ生き残れた分、俺達は幸運な方だ

 

「おかげで俺達はあっちの世界じゃ毎日を生きていくのが精一杯だ」

 

 お互い以外に頼れる人が居ない状態での一人暮らし、毎日を生きていくのがやっとだった。そこまで話した所でアゼルが言葉を引き継いで

 

「そんな時に俺はこのゲイムギョウ界に飛ばされた。最初は俺も元の世界への帰還をと思って、4つの大陸全部を渡り歩いたさ。けど、手がかりらしい手がかりも見つかんなかったし、むしろ旅をしている内にこう思ったんだ。ここなら、俺は俺の思うとおりに生きられるんじゃないか、って」

 

「アゼルの望む生き方って?」

 

「勿論! 俺の力で誰かを守れる。そんな生き方さ。詳しくは言えねぇけど、さっき話した役目だってまさに俺の望んだ生き方そのものだしな」

 

 力強い目でアゼルは窓の外に目を向ける

 

「こっちでも最初は頼れる奴なんて居なかった……でも、理由はしらねぇけどこっちじゃ俺には力があった。それはケイトも同じだろ?」

 

「まぁ、な」

 

 恐らくはアゼルも俺の棒術同様にトンファーを使った格闘術を自然と使えるようになったのだろう

 

「地球に居た頃みたいに全てを失っていた時とは違う。ここでなら新しい生き方を見つけられるんじゃないかと思った。そして、俺は新しい俺を始めることが出来たんだ。誰かを守る事が出来る、アゼル=ハイウィンドとしての俺を……」

 

 そして、アゼルは俺の方に目を戻すと深々と頭を下げた

 

「だから、すまん! 迎えに来てくれたのは嬉しいけど俺はもう地球には帰らねぇ。ここで、アゼルとして生きていくって決めたんだ」

 

「ケイト……」

 

 ネプテューヌが心配そうにこちらを見てくる。そりゃそうだ、こちらは必死の思いで探しに来たっていうのに当の本人は即に帰らないつもりなんだから。しかし――

 

「顔を上げろよアゼル。なんでそこで頭を下げる必要がある?」

 

「「えっ!?」」

 

 俺は自然と笑みを浮かべてそう言う事が出来た。その反応にみんながキョトンとしている

 

「アゼルの生き方はアゼル自身で決めるもんだ。俺がどうこう言う資格なんて無い。ただ、最後に一つ確認させてくれないか」

 

「ああ」

 

「ゲイムギョウ界でなら、アゼルは地球で生きるよりも幸せになれる。そうだな?」

 

「……ああ! その通りだ」

 

 迷い無いはっきりとした答え。ならば、俺から言うことは一つだけだ

 

「そっか。なら、もうこれ以上は何も言わんさ。アンタが望んでいた誰かを守るナイトとしての生き方。譲崎疾風としての自分を捨ててまで選んだんだ。やるからには何があっても徹底的に貫き通せよ」

 

 そう言って俺は拳を軽く突き出す

 

「当然だっ! なんてったって、俺は全てを守るナイトだからなっ!!」

 

 ニッといつもの明るい笑顔を返して同じようにコツンと拳をぶつけてくる親友に、俺も頷き返してやることが出来た。どうせ、家族も知り合いも居ない身の上。地球で過そうがここで過そうが同じ事だ。ならば、より自分が幸せになれる方を、それは当たり前の事だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、どうしたもんかなぁ……」

 

 ケイト達がカフェから去った後、すっかりさめてしまったコーヒーを口にしながら呟いた時だった

 

「どうしたの? アゼルが悩んでるなんて珍しいじゃない」

 

 と、横から声が聞こえた。とは言え特に驚く必要は無い、自分にとっては聞きなれた声だ。紺色と白を基調としたショートスカートのドレスに黒のツインテールをした少女が立っている

 

「おいおい、人を考えなしで生きてるみたいに言わないでくれよ」

 

 彼女がそのまま向かいの席に腰を下ろす

 

「誰かが困っていれば考えなしに突っ走る奴が何言ってるのよ」

 

 クスクスと笑いながら言葉を返すと、すぐに真剣な表情で

 

「で、ずいぶん悩んでるけど何かあったの? まさか、みんなの居る場所がばれたの!?」

 

「いや、今の所はまだ見つかってねぇ。が、それも時間の問題だな。尤もその時は俺が全力でみんなを守るから心配すんな」

 

「そう……なら、それならそれで一体、何があったのかしら?」

 

 少女は胸を撫で下ろすと改めて問いかけてきた

 

「教院長を助けた時に親友にあったんだ。ほら、前に話してたあいつ」

 

「ああ、確か……朝倉桂斗って名前だったわよね。こっちに来てたのね、よかったじゃない、あなた地球に残してきたそいつの事、ずっと気にしてたんだから」

 

「ただ、な」

 

「ただ?」

 

 彼女も注文した紅茶のカップを手に取りながら首をかしげる

 

「ただ、いまネプテューヌと一緒にいるんだよなぁ、あいつ……」

 

「ネプテューヌ、ですって……!? あの子が、此処に来ているの!?」

 

 その一言で彼女の表情が一気に強張る。まぁ、長年の宿敵でもあるし、何より他の二人と比べてもこいつはネプテューヌを特にライバル視しているから、この反応も当然だ

 

「ああ、初めて会った時は変身したあんたと似た様な姿をしてたから、たぶん間違いねぇ」

 

「もしかして“あの時”の事を根に持って仕返しに来たのかしら」

 

「いや、そんな雰囲気も無さそうだったな。なんでも鍵の欠片、とかってアイテムを探してるらしいぜ」

 

「鍵の欠片?」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

(どういうこと……?)

 

 ティーカップを置いて少女は考える。他人を巻き込むのはいただけないが仲間を率いてこちらに仕掛けてきたと言うならまだ判る。しかし。それをせずに、ただ何かのアイテムを探すだけにわざわざ敵地に来たというのかあの子は?

 

(まぁ、どっちにしても関係ないわね)

 

 そう、関係ない。あの子が此処に居るのならそれはそれで好都合、ここは私のホームグラウンド。アドバンテージはこちらにある。それに――

 

(人の大陸で勝手にウロチョロされるのも不愉快だわ……)

 

「判ったわ。今度、私の方から接触してみる。報告ありがとね、アゼル」

 

「おう。と、そんじゃ俺はそろそろ戻るわ。何時までも向こうを空けておく訳にもいかねぇしな」

 

 そう言って彼は会計用のレシートを手に取り、席を立つ。自分のせいで彼だけでなくみんなまで苦しい思いをしている。そう思うと自然と表情も暗くなってしまう

 

「ごめんなさいね。私のせいでこんな事になって……」

 

「気にすんなって、こう言う時の為に俺が居るんだ。なんてったって俺はあんたの『ガードナー』で――」

 

 けれど、その影すらも吹き飛ばすほど、とてもまぶしく見える笑顔で

 

「俺はいつだって、全てを守るナイトなんだぜっ!!」

 

 そして彼を“選んで”からと言うもの、耳にしなかった日なんて無いその言葉を残して、アゼルは店を後にした。使命とか責任とか、そんなのは一切関係なしに、どんな時でもただ純粋に自分の意思で誰かを守る事が出来る存在。私にとってはそれは少し、いや、とてもうらやましいものだった

 

(だからこそ、彼を選んだのよね私は……)

 

 時より暑苦し過ぎる事もあるし、考えなしな所に呆れる事もある。けれど、彼を選んだ事を後悔した事だけは一度たりとも無かった。さっきとは違う、穏やかな気持ちで彼女、ノワール=ラスティ=ブラックハートは紅茶に口をつけた


 
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