「――さぁて、話そうか」
そういった暁は自身の世界に伝わる魔剣士の伝説について話そうと宿舎の会議室に主要メンバーが集まっていた。
「あぁ~…出鼻をくじく様で悪いんやけど話す前に一つ質問が…」
怖ず怖ずと手を挙げるはやて、しかし視線は暁にではなく自分の前に置かれてる香ばしさ溢れる山盛りのクッキーと芳醇な薫りの紅茶だ。
恐らくアッサム茶葉を使用しているだろう。
見渡せば殆どのメンバーがクッキーをマジマジと見ていた。 スバルやエリオに関しては一段と魅入っていた、特にスバルはよだれを垂らしていた。 はっきり言ってはしたない。
「このクッキーと紅茶、誰が用意したんや?」
「……長話になるから食堂の調理場を借りて茶とお茶受けを用意した。 クッキーに関しては俺のオリジナルだ」
「え!? これお店で買ってきたものじゃないんですか!?」
まず実家が喫茶店のなのはが声を上げた。
「戻ってきてから姿が見えないと思ったら食堂の調理場にいたんだ」
続いてフェイトが苦笑いしていた。
「なんかアンノウンより先に神崎さんの素性が知りたくなってきた」
コクン―
皆一斉に頷いた。
「……悪かったな、凝り性なんでな、料理するの好きなんだよ」
余程意外だったのか全員が驚愕の声をあげる、これだけの人数で一斉に声をあげればその音量たるやかなりのものだろう。
「耳が痛いぞ」
瞬時に耳を塞いだもののやはり並外れて大きかった為ダメージを受けた。 特に鼓膜に。
「え、だって神崎さん男の人なのに…」
「それにイメージ的に……」
「なんだよそのイメージって……。 とりあえず俺の事は置いといて話しするぞ。 これは俺の世界でお伽話として語り継がれているが実際に起こった実話の伝説だ」
どんなイメージを抱いてたんだ、という暁は呆れながらも本題に切り替えた。
遥か昔、魔界にスパーダと言う魔剣士が存在した。彼の者、人々を愛し、正義に生きる者。
ある日、魔界の人間界進行により人々に恐怖と絶望を与え、混沌が支配しようとしていたその時彼は立ち上がった。
彼は魔界を封印すべく、自ら同胞に剣を向け、魔界の王にも戦いに挑む。
長きの死闘の末、スパーダは自らの強大な力と共に魔界を封印する事に成功すると言う伝説が語る継がれてきた。
しかし時と共にその伝説は人々の記憶からどんどん忘れ去られていった……。
「そして約2000年の月日が流れて今に至るという訳だ」
「なんだよそれ、よく出来たお伽話みたいなものだな。 悪魔とか魔界とかさ」
一区切りつけ皆の反応を待とうとした時ヴィータが鼻で笑う。
「お伽話、話しだけならな。 だが、実際はどうだ? これまでの確認例や先程のブラッドゴイル……その目で見たんだろ? これは間違いなく現実、だろ」
「……なんだとテメェ?」
「よせヴィータ」
暁の指摘にヴィータは目付きを細め待機状態のグラーフアイゼンに手を掛けるもシグナムが止める。 そんな様子を気にもとめず先を話す。
「それと、スパーダが施した封印についてだが。 例える話しで言えば『網』だな」
「網…ですか?」
シャマルが聞き返すと暁が肯定の頷きをする。
「そのおかげで強力な悪魔はこちら側、つまり人間界にこれなくなった。 逆に弱小な悪魔はその網をかい潜る事が出来るものの何かを媒体、依り代が必要となる。 あのブラッドゴイルだと石像と血だな」
要するに結界とは目の大きい網と比喩するのが適切というわけだ。
「八神、これまで確認出来た悪魔を表示してくれ」
「はいな」
はやてが端末を操作し、今まで確認できた悪魔の画像データがを呼び出しスクリーンに映した。
「こいつらの中でその強力な悪魔と言うのは……こいつ」
スクリーンの前まで歩き、ある悪魔をさす。
その悪魔は全身が黒で人型だが、見るもわかる獣のような強靭な四肢が伺える。
「こいつは上位種の悪魔だ、自称光を司る悪魔といっている」
鼻で笑うように説明した暁。
「ちょっと待って、その黒いアンノウ……悪魔って強力なものなんでしょ? なのになんで結界なんて通れるの?」
フェイトが暁に質問する。 先程の暁の説明じゃ、その結界という網に引っ掛かりこちらに来れないはず。
「結界に亀裂が生じてそこから来たか、魔界と繋がってこちらに来たか……最悪なパターンは―――」
一間を開け。
「何者かが『こちら側』から喚び出したか、だな」
流石にこれは皆驚くだろう。 人の手であのアンノウン達が出現するとなるならこれはれっきとした犯罪だ。
「そういうのは可能なんですか?」
「知識と『鍵』があればな。 俺の世界に至っては自らの欲望のために悪魔と契約しようとする奴も居た」
高町の質問に対し暁は自身の世界で実際に遭遇した事例を上げた。
「そしてある奴は悪魔とその力を利用し『楽園』を築くだとかおかしな世迷事を放つ奴もいる」
「なんでそんな…」
「それが人の欲望というやつだ。利己心でな……。 ところでこいつ、ベオウルフというんだがいつ姿を確認したんだ?」
暁一つ気になることがあるのかベオウルフに関する情報を聞いた。
「えっと、二ヶ月前やな。 それがどないしたん?」
「上位悪魔は言葉が喋れる知性が備わってるからな、何か言ってなかったか?」
「ちょっとまってな、今映像データ探すから」
はやてが再び端末を操作し目的のデータを探す。
「ん?…。 あ、あったこれや!!」
スクリーンに映し出された光景はベオウルフと対峙している管理局の局員達だった。
[…………!!]
「……何言ってるか聞こえないな」
「ん??、じゃあこれなら?」
徐々に音声が拾えてきたがそれに比例してノイズ音もでかくなる。だがベオウルフの発した言葉はしっかりと聞き取れた。
[裏切り者、スパーダの血族は何処だ――!!]
咆哮といえる叫び声に画面越しからでも恐怖を感じる。 画面越しからでも感じる恐怖だ、これを直に受けた管理局員は身を硬直し動けないでいた。
そしてベオウルフが映像を記録していたであろう管理局員に近づき、その豪腕を見舞った。 そこで映像は途絶えた。
「…………」
「悪魔とは人の恐怖を与える風貌をしている。 闇を恐れることで悪魔は生まれいずる」
「こんな奴、見たことねぇ……なんなんだよ」
あの勝ち気なヴィータが恐怖故に少し震えている。
「八神、映像をきってくれ」
「りょ、了解や…」
操作する指の動きも恐怖により震えていた。見渡せば皆少なからず恐怖を感じていた。
「…………ひとまず話せる事は以上だ」
フォワード陣も恐怖していて特にキャロがぐずっていたので話を終了し暁は会議室を後にした。
*
「おいダンテ」
「なんだい坊や」
男性と青年。 以前とは違う森の中をふたりして木の枝を分けながら進む。
「ここどこだよ、明らかに遺跡じゃねぇぞ」
「俺だって知らないさ」
道に迷ったと言わんばかりの内容だ。
「あの機械を撃ち抜いたのがまずったな」
「おい! なに言ってんだ坊や、お前だって容赦なく撃ち抜いただろ」
森の中で木霊する二人の声、聞くからに子供地味た喧嘩だ。
「にしてもここ、何処だよ。 魔界じゃないだろうな」
「いや、それは無いな。 肌に感じる空気が違うからな」
昔、魔界まで行った事のあるダンテが自らの経験を元にここは魔界では無いと確信する。
「それに魔界はこんなに明るくないしな」
二人は森の中を歩いてはいるものの樹海のような暗さではなく森林浴出来そうな気持ちの良い木漏れ日が二人を包む。
「……なぁ思ったんだがアキラもここに飛ばされたって可能性はないか?」
「……なくはないな」
先に調査をしていた暁が消息不明になったと聞き今度はこの二人が遺跡を調査するはめになった。
暁が消息不明になったとしたら自分達のように何処かに飛ばされたという可能性はでかい。 しかし同じ世界に飛ばされた可能性は限りなく低い。
「とりあえずだ。坊や」
「なんだよ」
「食い物さがすぞ」
「……異議無し」
流石の二人も悪魔を倒しうる力があるが、空腹には耐えられなかった。
*
「――んで、俺に銃の稽古をつけて欲しいと?」
会議室からでた暁は愛銃の調整のために自室で手入れをしていた。 そこに来客が来たので扉を開けるとティアナが立っていた。
「はい、私は強くなりたいんです」
部屋の中に招き話を聞くと上の言葉が出てきた。
とりあえず立ち話も何だと思い、椅子に座らせ自分は備え付けの備品から紅茶を用意する。
「なかなか良い茶手に入ったんでなストレートでな」
「あ、いえ、お構いなく」
ティアナは遠慮しようとしているがすでに二人分用意しているので一人分をティアナに手渡し自分はベッドに座った。
そして一口啜るとティアナも倣いティーカップに口をつける。 すると予想以上の薫りと上品な苦味に驚いた。
「さて件の内容だが『強くなりたい』、そういい気持ちはわかる。 だが一朝一夕じゃ強くなれない、少なくとも今のおまえじゃ無理だ」
「な、なんでですか!?」
否定の言葉を受け怒りながら反論するティアナ。
「強くなる、ということはそういうことだ。 誰でも最初から強いなんて奴はいない、皆それぞれ修羅場をくぐり抜けてきた結果で『強さ』を手に入れたんだ。 実戦経験が少ないという点においてそれが自覚出来ないおまえじゃないだろう? だからムキになる」
「く…」
おそらく図星をつかれたのだろう、反論しようにも出来ないでいた。 そんな様子に暁はティアナが何を想うのかが気になった。
「………訓練に対して不満があるのか?」
「いえ、そんなんじゃないんです……、だけど駄目なんです今のままじゃ…」
管理局の『エース・オブ・エース』と言われる高町なのはによる訓練だ、不満などない…だけど。 そんなもどかしさに顔を下に向け肩を震わせる。
「………もしかして、焦っているのか?」
「ッ!?」
以前こういった状況に立ち会ったことがある暁にとって、ふと思いついた事を言ってみるがまさか図星だとは思わなかった。
「何をそんなに焦っているんだか聞かない。 だがな、前ばかり…しかも遠くを見すぎると良くないとだけ言っておく」
「……」
静寂が部屋を支配する中で暁が紅茶を啜る音がやけに大きく響く。
「……ふぅ、ティアナ外に出ろ」
「え?」
ため息を吐いた暁は調整の為にデバイス化していた双銃を待機状態にして立ち上がる。
「俺がいつもしている訓練を一緒にやるぞ。 それと先に言っておくが俺は遊撃に近い動物射撃型だ、静物射撃型のティアナとは逆のスタイルだがそこからなにか掴めるヒントがあるはずだ」
未だ話がわかってないティアナの横を通り抜け部屋から出る。
「ちょ、ちょっと待ってください!?」
果たしてこのあとティアナにどういう影響を与えるのか…、暁はティアナの内に秘めた危うさを感じ一抹の不安を抱いた。
「(きな臭くなってきたなこりゃ)」
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ここから徐々に原作とは違った話になっていきます。
ハーメルンにも投稿しています。