現在古城
氷室「………。」
静寂に包まれた古城の個室、そこに置かれたベッドに氷室は身を預けていた。
翌日の昼まですることが無い上に燦々と輝く太陽に嫌気が差してか、氷室は特に何をするでもなしにベッドにスーツを脱ぎ捨てて寝転がっていた。
部屋の窓からはまだ昼の盛りの太陽が丁度真上に昇っているがダンピールにとって太陽は天敵、当然窓のカーテンは全て閉められていたが、所々からもれる光は部屋の明るさを保つには十分な量だった。
氷室は右手でネクタイを緩めるとまぶたを閉じ、そのまま意識を闇に沈めようとした……
氷室「………!!!」
が、そうは問屋が卸さない。
突如、氷室は両目を見開くと同時に顔を蒼白にさせ、ベッドから体を起こして頭を抱え込んだ。
荒い息遣いと共に疲れや暑さが招く類の物ではない汗が氷室の頬を伝い、床に雫となって落ちた。
――厄介なことになった
氷室は心の中で呟くと、傍に脱ぎ捨ててあったスーツを羽織り、慌ただしい足音を立てながら目の前のドアを思い切り押し開けた。
音を立ててドアが開くと氷室は真っ直ぐに廊下を急ぎ足で渡り、レオンの部屋の前まで進むとドアノブに手を掛けた。
氷室「おい、レオン!」
レオン「うおっ! 驚かせんなよ……ノックしろよな。」
氷室「それどころじゃねぇ!」
部屋に置かれた簡易的なデスクと椅子に座ったまま、レオンは嫌悪感をむき出しにしながら氷室の方に体を向けた。
手元に散らばっている書きかけのレポートから察するに、レオンはどうやら作戦の再確認と練り直しをしていたようだ。
だが息を弾ませながら蒼白な面持ちで大声を張り上げる氷室を見つめ、さすがにレオンもただならぬ出来事であることを悟った。
何があったかまでは分からないが、とにかく今は氷室の話を聞くのが先決と判断したレオンは咳払いを1つすると真剣な表情で氷室を見つめなおした。
話せ、その瞳は氷室にレオンのその思考を黙認させた。
氷室「……この間の4人組がラステイションに向かって動こうとしてやがる。追尾させてる蝙蝠からの確かな情報だ。このままじゃ、奴らは確実にラステイションにいる他のイレギュラーに接触するだろうな。」
レオン「!! マジかよ……くそっ、1番厄介な展開だな…。」
レオンもまた氷室と同じように顔色を蒼白に変え、拳を握ると同時にテーブルへと叩き付けた。
この2人が1番恐れていたことはイレギュラー同士が徒党を組むことだった。
実力は未だに不明だが、個々の力で4人が勝っていても対するイレギュラーは11人、それら全員が徒党を組んで一斉に向かってくるとなるとさすがに4人も無傷ではいられないだろう。
おまけに夜行性のダンピールと違って人間は昼行性、実力の出し切れない昼に奇襲をかけられれば、最悪の事態すら現実的な話になってしまうのだ。
レオンが作戦の決行を急いだのはそれが原因でもあったのだ。
だが現状、レオンの予想よりも早く事は動き出してしまった。
もはやこの4人に選択の余地などありはしなかった。
レオン「予定が狂うが……やるしかねぇか…。」
氷室「……もう1つ良いか?」
氷室が相変わらずの重苦しい口調でレオンに話しかけた。
テーブルに叩き付けた拳を開きながらレオンは氷室の表情を伺うように視線を向け、口を開いた。
レオン「……何だ?」
氷室「あの黒い
レオンの方をじっと見つめながら氷室が口を開いた。
話を聞き終わるとレオンは顎に手を当てながらしばらくの間、瞳を閉じて考え込んだ。
やがて目を見開くと同時にレオンは腰を持ち上げ、氷室に向かって神妙な口を開いた。
レオン「少々早いが……動くぞ。」
氷室「……了解だ。2人を叩き起こしてくる。」
その言葉を最後に2人は会話を止め、それぞれの行動に移った。
それからこの2人が顔を合わせるのは数十分後の事となった。
◆◆◆
現在バーチャフォレストのはずれ
レオン「これから予定の行動に移る。」
何時に無く真剣な表情でレオンが声を上げた。
2人もレオンの表情に呼応するかのように瞳の色には真剣さが込められていた。
ただ1人、エスターだけは緊張感も無く何処から取り出したのか知れぬエクレアをほお張りながら、緊張感の欠片も無く話を聞き流していたが…。
その言葉を聞く3人も言葉を紡ぐレオンもまた、茶色の毛色をした馬にまたがっていた。
だが魔界ではごくあたりまえのこの光景が、この世界では稀に見る光景であることをこの4人は知る由もなかった。
レオン「お前、一生ここでエクレア食ってるか? 亡霊になってよぉ……。」
眉間にしわを寄せながらレオンは右手に飛鳥剣を握り締めていた。
握り締められた手は怒りに震えており、放たれる殺気は尋常ではなかった。
だがとうの本人は気にも留めず最後のエクレアの一欠けらを口に放り込み、ゆっくりと噛み締めながら口の周りについたクリームを舌で舐めると緊張感の無い声を出し始めた。
エスター「大丈夫でさァ。あのチビんとこ行って情報取って、あわよくば首も取る。それで終いでさァ。」
レオン「……分かってんなら態度で示せ! 氷室、俺とライをあの4人の所に。お前ら2人はこのまま馬でしばらく駆けた後にそれぞれの相手の下へ向かえ。」
氷室「了解だ。送るぞ。」
氷室が感情のこもっていない返事をすると、手の平を2人の方向へ向けて腕を伸ばした。
刹那、氷室の手の平からどす黒い炎があふれ出し、轟音と共に渦を巻いて2人の前にそびえ立った。
2人は何の躊躇も無く、馬をその場に残して黒い炎の中にその身を落としていった。
そして黒い炎に2人の姿が完全に包まれると同時に炎は徐々に小さくなり、その場から音の余韻を残して消え失せた。
氷室「俺達も行くぞ。」
エスター「ヘイヘイ、そら!」
2人はほぼ同時に両手に持つ手綱を緩め、両脚で馬腹を圧迫した。
すると2人を乗せた馬は抵抗も無く前進を始め、ものの数十秒で最高速度を保つまでに安定した。
その手綱捌きはさすがに普段から乗り回しているだけはあって手馴れていたが、それを差し引いてもこの馬の速度は異常だった。
通常の馬の最高速度は70km/hほどだが、今現在2人を乗せて走っている馬の速度は優に110km/hほどは出ているであろう。
魔界の技術によって潜在能力を極限まで高めた馬だからこそ出来る芸当だが、それでも馬は馬、自動車の最高速度と比べればやはりそちらのほうが上である。
それでも氷室たちにとっては貴重な機動力、2人は脇目も振らずにただ手綱を握る腕と先を見つめる目線にのみ意識を集中し続けた。
やがて目的の通過ポイントが目に入ると今まで無言を貫き通してきた氷室が声を上げた。
氷室「エスター、この辺で良いだろう。俺達も散るぞ。」
エスター「んじゃ、この辺で失礼しまさァ。」
氷室(とりあえず俺は……そうだな、最初は鎧女よりも兎女の方に行くか…。)
そう言い残すとエスターは馬から飛び降り、自らが発生させた突風に乗って遙か彼方へと飛び去っていった。
氷室はその様子を馬の手綱を引いてスピードを緩めながらただ傍観していた。
少しの間をおいて馬が静止すると氷室は馬から降り、目の前に広がる緑の地平線を見つめながら右の手の平に力を込めた。
すると先ほどと同じ要領で黒い炎が氷室の手の平を中心に渦を巻き、全身を覆いつくすほどの大きさへと変化した。
頃合いを見計らって氷室は右腕を下ろし、2人と同様に黒い炎の中に身を沈めた。
◆◆◆
現在プラネテューヌ
テラ「これで必要な物全部か?」
紅夜「ああ、とりあえずこれだけあれば十分だろう。」
街中の大通りをややゆっくりとしたスピードで歩きながら、テラ達4人はラステイションへ行くための準備を進めていた。
ラステイションへ行くと決めてからしばらく経つが、4人の行動は極めて迅速だった。
まずは行動、そう決めたテラ達はとりあえずラステイションへ向かうために必要最低限の物を買い集めに手近な店を探し歩いていた。
結局そう歩き回らずとも欲しい物は順当に見つかり、金銭的にも最小限の出費で済んでいた。
いままでのハプニング続きの展開からは思いもよらぬ順風満帆さからか、何時しか4人の足取りはかなり軽くなっていた。
両手に紙袋をぶら下げたテラとメモを見つめる紅夜が会話をしている時、残りの2人はテラと紅夜を追いかける形で後ろから声を上げた。
クァム「で、これからどうするんだ?」
キラ「もうこれで買い物は終わりましたよね?」
紅夜「ああ、これでもう……!!! テラ!」
テラ「!!! ああ、何か来る!」
突然、テラと紅夜の背筋に悪寒が走った。
困惑するクァムとキラを尻目に2人は辺りに注意を向けながら咄嗟に身構えた。
嫌な感覚は勢いを増して膨れ上がり、それと同時に4人の目の前に黒い炎が小さく渦を巻いて出現した。
徐々にその渦は大きさを増し、それに伴って辺りに轟音が響き渡った。
耳を押さえながら4人が黒い炎に注目していると、炎の中から2人の人影が目に見えた。
レオン「お、さすが氷室だな。ピッタリだ。」
ライ「あの映像の4人だな。んじゃ、打ち上げますか。」
困惑する4人を尻目にライは胸ポケットの中から小銃を取り出し、銃口を上空に向けた。
引き金に指が添えられ、その指に力が入ると同時に辺りに小さな破裂音が鳴り響いた。
そして、それと共に不気味な空に一筋の緑の信煙が柱を形成した。
いや、それに呼応するかのように東の空にもう一本、さらに間をおいてもう一本、合計三本の緑の信煙がほぼ同時に柱を形成した。
――それが
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今回の話、やらかしました。
全力で謝罪します、ごめんなさい。
既に執筆途中だった方のシナリオを大きく狂わせてしまったかもしれません。
本当に申し訳ありませんでした(土下座)