9話 騎士達の戦場
その剣は誰を討つ為の物か
その盾は誰を守る為の物か
自問と苦悩と戦いの果てに
騎士達は答えを見つけ出す
夜の闇に支配されたアインツベルンの森の中を、セイバーはひたすら駆け抜けていた。
狂気で歪みに歪んだ外道を成敗すべく、恐らく自分が出せるであろう最大速度を持って最後に千里眼で覗き見ていたあの地点に急ぐ。
イーターの出現。それは切嗣にも流石に予測不可能だった。
キャスター討伐令からまだ半日と経っていない今、どうやってキャスターの居場所を突き止めたのか、そしてこの森を埋め尽くす途方も無い数の探知術式に監視機器の数々を潜り抜けて侵入して来たのか。
そんな芸当アサシンでもなければまず不可能だ。
だが、今はそんなことを考えている余裕など無い。一刻も早くあの場へ駆けつけなければならないのだから。
話によるとイーターのステータスは幸運と魔力を除けば全てAランク以上だという。
そんな男が本気で暴れ回れば近くにいる子供達にまで被害が及ぶ事は想像に難くない。
あの男ならばそんなことにはならないと思いたい所ではあるが。
そして、走りながらふと気が付いた。付近に異様な臭いが立ち込めている事に。
嗅ぎ慣れた臭いだ、いつも戦場を覆い尽くしていた生々しくて不快な臭い。
血潮の臭いが漂っていた。
否が応でも頭の中で最悪なビジョンが導き出され、焦燥が段々と脳裏を埋め尽くしていく。
(頼む、間に合ってくれ……!)
そして遂に進路を遮る木々が少なくなり、開けた場所に出た。先程まで見ていた場所だ。
次の瞬間、醜悪で凄惨な光景が広がっている事を覚悟で前方を見据える。
そして彼女は見た。
怯える子供達を背に庇い、漆黒の大剣で異形の怪物達を斬り伏せる男の背中を。
それを見た瞬間セイバーは思わず胸を撫で下ろしたくなるような安堵感を覚えていた。
やはり自分の見立ては間違ってはいなかったと。
あの夜に見た太刀筋から感じ取れた迷いも悪意も一切無い汚れ無き戦士の魂は幻などではなかったのだと。
そんな男の心意気に報いるべくセイバーはイーターの右方向から接近していたヒトデのようで、タコのようでもある海魔を横一文字に切り裂いた。
突然の乱入者を一瞬だけ一瞥し、イーターは軽く口元を釣り上げた後、いつもの調子で告げる。
「遅ぇぞ騎士王。お前らん家の庭なんだからもっと早く来いよ。」
「それを言うのならばイーター。あなたも私が駆け付けるまでにもっと奴らを間引いておけたのではないですか?見た所まだまだ得物は残っている様子ですが。」
「独り占めは良くないと思ってね。お前の分をとっといてやったまでよ。」
「それは嬉しい心遣いですね。」
ひとしきり軽口を叩き合った後、目の前の敵に視線を戻す。
飛び出した眼球が人間味を感じさせない男、キャスターことジル・ド・レェはセイバーの登場に際し歓喜に心を震わせていた。
「おお……ジャンヌ、よくぞおいでなさいましたね我が聖処女よ!!」
「黙れ、その口を開くな外道。」
キャスターの黄色い歓声を一刀の下に斬り伏せるセイバー。
一方で勇希は怪訝そうに首を傾げていた。
「ありゃ?お前さんアルトリア・ペンドラゴンじゃなかったっけ?」
「あちらが一方的に勘違いして付き纏っているだけです。私と奴の間には何の関係も無い。」
「うわ~…。ターゲット勘違いしたストーカーかよ。幼児誘拐の時点で変態だとは思ってたけど、ありゃ末期だな。(^_^;)そういえばお前さんが来るまでも訳の分からないことほざいてやがったし、声が裏返ってて半分以上聞き取れなかったけど。」
なにはともあれ、概ねの事情を理解した勇希は満足そうに頷いた。
そして、あの狂気に染まった男の言う聖処女とやらに思いを馳せる。
キャスターがこんなにも狂ってしまう程にその人物は素晴らしい女性だったのだろう。
この気高い魂を持ったアルトリアと見間違えてしまう程に美しく、高潔な志の持ち主だったのであろう。
「だったら……」
「イーター?どうしたのですか?」
「セイバーよぉ。お前さんこのガキ共連れて一端安全な所まで退いちゃくれないか?」
突然の聞き捨てならない提案にセイバーは当然の如く異を唱えようとするが、勇希が強い口調で黙らせる。
「左手が使えない状態じゃ本調子出せないだろ?今はガキ共の安全が最優先だ。意地の張りどこ間違えてんなよ。」
有無を言わさぬ凄みを放ちながらきっぱりと言い切られてセイバーは折れざるを得なかった。
勇希が行った事も尤もなのだ、元より反論の余地など無い。
「ですが奴の狙いは私です。どうやって注意を引くつもりですか?」
これまた尤もな問いだ。キャスターの狙いは元々セイバーであり、例えこの場に勇希が残りセイバーが子供達を誘導して逃げたとしてもキャスターは間違い無くセイバーに狙いを定めるだろう。
それこそ彼女について行った子供達が被害を被ることは疑い用が無い。
「そうさな。だからこうすんのさ。」
すると、突然黒炎を帯びた指先でセイバーの頬を切りつけた。
「っ!?一体何を「貴様アアアアアア!!!下賤のケダモノの分際でよくも我が聖処女に傷をオオオオオオ!!!」……なるほど、そう言う事ですか。」
「悪いね、仕方なかったとはいえ女の顔を傷物にしちまって。」
「いえ、戦場に立つ者として、この程度の傷の一つや二つなど気に留めるにも値しません。」
「そう言ってもらえると助かるよ。そんじゃ、行きな。」
「はい。すぐに加勢に戻ります。どうか武運を。」
最後の言葉には左手を軽く上げて答え、勇希は迫り来る海魔達に向き直る。
それと同時にセイバーは子供達を連れて走り去って行く。
気配が遠ざかって行った事を確認して、勇希は異形の群れに挑みかかった。
「さぁて仕切り直しだ。行くぜ!軟体動物共が!」
こちらが走り出すと同時に相手も一斉に押し寄せる。
それらを視界に捉えながら、ふと思った。「自分はつくづくこういう相手に縁がある」と。
前の世界でもこの手の相手は嫌という程倒して来た。それも一体一体がこんな海産物もどきのような雑魚などではないもっとタチの悪い連中をだ。
故に勇希には焦りも無ければ恐怖も無い。いつも通りである。
そう、これこそが彼にとってはいつも通りなのである。人外の怪物共に単身挑むこのシュチエーションは幾度となく味わってきたものだ。
「我が聖処女に傷をつけておいてただで死ねるとは思わない事ですね。精々足掻いて足掻いてその無意味さを思い知りながら朽ち果てるがいい!!」
「やれるもんならやってみな?テメェの方こそ今の内念仏でも唱えとけ!久々の怪獣退治じゃああぁぁぁ!!」
声を張り上げ、体を大きく捻りながら担ぐように構えていた大剣を振り下ろす。
大質量の刀身が先頭の海魔に叩き込まれ、数体の海魔が一気に吹きとぶ。
飛び散った血飛沫の中から大剣を地面に叩きつけた衝撃で飛び上がった勇希が更に剣を縦に一振りする。
その一撃で、丁度飛び掛かって来た海魔を真っ二つに叩き割り、着地際に左から右への一閃で三体を薙ぎ払う。
そこへ背後から五体の海魔が飛び掛かって来るが、その内の一番右端にいた個体に切っ先を深々と突き立てて、命一杯の力で左に振り払った。
海魔一体分の質量を加算した大剣は大型トラックの正面衝突にも匹敵する衝撃で残りの四体を醜悪な肉塊に変える。
そして、刀身に突き刺さったままの海魔を右に剣を振り戻す事で抜き払い、そのまま他の海魔達に投げつけた。
激突した二体程がそのままの勢いで背後の大木に激突し、あまりの圧力に圧壊していく。
更に次の得物に襲いかかろうとした時、背後から伸びてきたタコの足のような海魔の触手に左手を絡み取られてしまう。
「バッチイ手で触るんじゃねえよ気持ちわりぃな!」
大して焦るまでも無く触手を海魔の体ごと力任せに引き寄せて足元に叩きつけ、鋒を突き立てる事で止めを刺す。
そこへ十体以上の海魔が襲いかかるが、後方に跳躍する事で回避し、左手を大口径の大砲に変異させて敵の集団に向ける。
「そりゃそりゃぁぁ!汚物は消毒じゃぁぁぁぁ!!」
どこぞの世紀末のようなセリフを叫んで大砲から火炎放射機のように炎を噴射する。
射線上にいた海魔達は一瞬で肉片一つに至るまで焼き尽くされて消滅してしまう。
「そらそらぁぁぁ!焼却処分じゃぁぁぁぁぁ!!」
人外相手の懐かしいシチュエーションでテンションが若干おかしな事になっていたせいか、一瞬だけ隙が生まれた。
ここぞとばかりに海魔が殺到し、勇希の手足を絡め取ろうと迫るが、それは頭上から飛来した二本の槍によって遮られる。
咄嗟に振り返りると、その持ち主が空中から颯爽と現れ、地面に突き刺さった己の得物を素早く引き抜いて構えを取る。
背中を合わせる形になったその男の名を勇希は静かに呟く。
「ディルムッド・オディナ……ランサーか。」
「お楽しみの所すまないな。ここからは俺も混ぜてもらおうか?」
軽い口調でそう言われはしたが、勇希は怪訝そうな視線を向けた。
ランサーのマスターは自分に恨みがあるようだったし、そのサーヴァントが突然背後に現れれば嫌でも警戒してしまう。
それを理解した上でランサ―は告げるのだった。
「案ずるな。俺がマスターより仰せつかったのはキャスターの討滅のみ。ここは共闘が最善と判断するが、どうかな?」
「そうさな。まぁ軽く手詰まりだった所だ。いかんせん数が多くてよぉ。おまけにどうやら大元を潰さない限りは堂々巡りは目に見えてると来た。」
「大元?」
「野郎が手に持ってる本、見てみな。」
言われた道りにキャスターが大事そうに抱えている本を横目に一瞥する。
茶色い表紙の古臭くて分厚い本からは見るからに毒々しい瘴気のようなものが上がっており、それがただの本出ない事を物語っていた。
「なるほどな。あれが奴の宝具という訳だ。」
「あぁ。あれを叩き落とせばコイツらが沸いてくるのを止められる筈だ。」
「だが奴の下に辿りつくにはこの雑魚共の壁を突破しなければならんぞ?話題を振ったならば、当然何か策があるのだろうな?」
「いんや。そんな大層なもんでもないさ。力任せで大雑把なただの博打だよ。チャンスは一度きりだろうが…どうよ?」
聞き用によっては「ここで断れば逃げだぞ?」と露骨なまでの挑発とも受け取れる言葉だった。
勇希にしてみれば本当に単なる提案に過ぎないのだが、それはそれで大した話術である。
ランサーがそれにどう応えるか、そんなことは最初から決まっていた。
「良いだろう。その賭け、乗ったぞ。」
「そうこなくっちゃ。」
不敵な笑みを浮かべる二人は互いに横に並んでキャスターと向き合う。
立場上は敵同士である筈が、彼らはまるで今まで長い時を共に闘って来たかのような、並んでいてしっくりする雰囲気を放っていた。
そして、一時の相棒に勇希は告げた。
「俺が宝具で連中の群れに風穴を開ける。そこにお前が突っ込んで野郎の本をお釈迦にするんだ。最速のサーヴァントって言われてるランサーなら、簡単な話だろ?」
勇希の発言にランサーは思わず片眉を釣り上げた。
今まで温存していた宝具をあまつさえ自分の命を狙っている陣営の前で使用する。
それは自分の切り札を白昼の下に晒す行為であり、場合によってはこれからの戦況を不利にしかねない行為でもあった。
それをこの男はいとも容易く行おうとしている。
未だに敵を見据えるその横顔からは「お前になら知られても良い」と、「正々堂々戦うと決めたから隠し玉なんて伏せてはおかずにいよう」といういっそ馬鹿正直な程に単純な意思が垣間見れた。
そのような真っ直ぐな信頼を寄せられては、ランサーは応える以外に術は無い。
「単騎駆けか。何かと思えば造作も無いことだな。ランサーの名にそぐわぬ働きをしてみせよう。」
思えば上手く誘導されているものだと思う。
この男の場合はそこに何の打算もやましい腹積もりも無いのだから更に質が悪い。
どうすればこんな真っ直ぐな目が出来るのだろうか?
どうすればこんな真っ直ぐな魂を持っていられるのだろうか?
嘗て不幸な時の巡り合せのせいで悲劇の最後を遂げた若い騎士は、ほんの少し傍らに立つ馬鹿正直な男が羨ましかった。
「んじゃ、そろそろ行動開始と行きますか。奴さんお待ちかねだ。」
「末期の祈りはもう済みましたか?あなた方は聖処女の目覚めの儀の贄となるのです。下賤の者にとってこれ以上光栄な事は無いでしょう!!」
「悪いが願い下げだ。惚れた女の為ってんならそういうのは自分の体張りな!!」
声を張り上げると同時に勇希が大剣を大きく後ろに引いた。
すると、ノコギリ状の刀身が獣の唸り声のようなものを上げながら少しずつ形を変えていく。
その姿は群がる海魔よりも醜悪で、獰猛で、この世のものとは思えない…それこそ形容しようの無い黒い怪物の頭部だった。
主人と共にこれまで幾千万の人外を喰らって来た、剣の形すらとうの昔に捨て去った“バケモノ”はその口内に巨大な黒炎の塊を凝縮させていく。
まるで空間にぽっかりと大穴が出来た様なそれは脈動するように小刻みに低い振動音を響かせながら肥大化し、遂にその大口に収まり切らない大きさになった時、勇希がその名を呼んだ。
「
真名の開放と共に放たれた空間を喰らい尽くしながら猛進する捕食エネルギーの渦が海魔の群れに風穴を開ける。
「行けランサー!!」
「承知した!!」
黒炎の放射が終わると同時に互いに次の行動に入る。
ランサーはキャスターを討ち取る為に走り出し、勇希は一度作った穴を埋められないように後方からガトリングガンで援護する。
アーチャーの宝具の弾幕すらも相殺し得る光弾の束は海魔如きならば簡単に仕留められる。
ランサーを阻まんと立ち塞がる海魔を片っ端からハチの巣にしながらキャスターへの道を閉ざされまいとするも、もう一歩の所で遂に道が狭まり始めた。
「やっぱ分の悪い賭けだったか…!」
だが、完全に道が閉ざされる前に勇希のすぐ横を一つの人影が通過した。
その人物は手にしていた不可視の剣の鋒を海魔の群れに向ける。
「
凛とした声が響いた次の瞬間、彼女が突き出した剣から突風が吹き荒れる。
それは閉じかけていた海魔の壁に再び風穴を開け、更に追い風となった形でランサーの後押しとなり、更なる加速を促す。
「キャスター!覚悟!!」
キャスターは海魔を自分の周辺に呼び戻そうとするが、二人の迎撃に向かわせていた海魔の群れと自分との距離は絶望的なまでに離れている。
あの物量を乗り越えて来れる筈が無い。個の力を見誤ったが故の油断が己を追い詰めたのだ。
「抉れ!
魔を経つ長槍が、思わす己が身を守る為の盾とされたキャスターの宝具を抉り裂く。
それと同時に宝具の効果が無効化され、周囲に蔓延っていた海魔達は血飛沫となって地面に広がった。
「キサマ……キサマキサマキサマキサマァァァァァ!!!!」
己を守るモノを一片に失い、一気に不利な状況に立たされたキャスターが怒りのあまり奇声を上げる。
「どうかなキャスター。我が槍のお味は?」
怒り狂うキャスターを嘲笑う様におどけて見せる一方で、その両目は一切の油断なく敵を見据えている。
勇希もそこへ歩み寄り、ランサーの反対側に立ってキャスターを挟み込む形で追い詰める。
更にそこへ、先程の突風を放ったセイバーも加わって、サーヴァント三人による包囲網が敷かれた。
「さぁ。覚悟は良いか?外道。」
冷たく言い放った一言はキャスターに届いていただろうか?
キャスターはセイバーの問いには応えず、切り裂かれた本を握り拳で思い切り叩いた。
すると、周囲一帯に広がっていた血潮が一気に噴き上がり、赤い霧が視界を奪う。
即座に勇希が獣の頭部と化した剣を振り払って血飛沫を丸ごと喰い尽くす。
だが、視界が晴れてもその場にキャスターの姿は無かった。どうやら逃げられてしまったようだ。
「この状況下でも逃げ切るとは、しぶとい奴だね~。ああいう奴ほど案外死に難かったりするから嫌になる。」
飄々としたいつもの調子は崩さないが、その言葉には怒気が含まれていた。
散々やりたい放題やってくれて不利になったら尻尾を巻いて逃げだす。
昔は名高き騎士だったらしいが、今となっては夢幻である。
セイバーも悔しげに歯軋りするが、ふと気が付いた。ランサーが俯いて浮かない顔をしていたのだ。
「どうしたランサー?」
セイバーの言葉で我に帰ったようにランサーはハッとした後また顔を伏せる。
思えば先程も何かに気を取られているようであった。
でなければキャスターは腕を振り上げた瞬間、彼が後ろから串刺しにしていた事だろう。
「俺のマスターが…危機に瀕している。」
「何?」
「どうやら…単身そちらの本丸に乗り込んだらしい。」
ランサーの一言に、勇希は「アレならやりかねない」と胸中で呟いて思わず嘆息した。
途切れ途切れに告げるランサーの表情は実に気まずそうだった。
当然だろう。今しがた助けられた者の本拠地に自分の主が攻め入ったなどと容易く口に出来る訳が無い。
今感じているであろう罪悪感は如何程のものかは想像に難くはなかった。
「恐らく、私のマスターの仕業だろう。」
そう返すセイバーの声色にも暗い感情が乗っていた。
彼女とて自分のマスターが好敵手のマスターを殺そうとしているのだから気持ちの良いものではない。
それに二人にはまだつけていない決着があるのだ。
ならばこそ
「行くがいいランサー。己が主の救援に向かえ。」
「セイバー…」
「我々は互いに尋常なる決着を誓ったのだ。このような形でそれが果たされなくなるのを認める訳にはいかない。お互いに騎士としての誇りを貫こう。」
彼女はランサーを見逃した。
彼ならば間違ってもその場で切嗣を殺すような真似はすまいと信じているから。
「イーター。あなたも異論はありませんね?」
「ああ。人様の事情にチャチ入れる気はねえよ。」
「セイバー、イーター…感謝する。」
深く頭を垂れた後、ランサーは霊体化して消えて行った。
その場に残された勇希はセイバーに向き直る。
また不真面目そうな事を言うのかと思っていたセイバーだったが、勇希の表情は珍しく鬼気迫るものを感じた。
「セイバー。ここから反対方向で三人程人を補足したんだが、アンタの協力者かい?」
「ああ、それは……」
言いかけた所で引っかかるものを覚えた。
今彼は“三人”と言わなかったか?
確かにここから反対方向にはアイリスフィールと舞弥がいる。
だがもう一人は誰だ?切嗣か?否、彼はたった今、城でランサーのマスターと対峙している筈、ならば考え得るのは……
その時、セイバーの未来予知のレベルにまで研ぎ澄まされた直感がアイリスフィールの危機を知らせた。
「どうやら面白いシチュエーションじゃないらしいねぇ。なら早く行きな。手遅れになっちまうぞ。」
その好意をありがたく受け取って、セイバーは一礼した後アイリスフィールのいる方角に向かって駆け出した。
そして、とうとう一人になったイーターはその場で独り、月を見上げる。
「結局成果は無し…否、一人も犠牲者を出さなかったから万々歳か。」
気だるそうに呟いて踵を返し、再び勇希は翼を広げて夜空に舞いあがって行った。
4つの勢力が入り乱れた聖杯戦争2度目の戦いはキャスターの敗走とランサーのマスターが再起不能の重傷を負うという結果で幕を降ろしたのだった。
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勇希&ランサー&セイバーvsキャスター
こうして読むだけだとただの集団リンチですね