あと一戦だけやると決まったのなら、向かう場所は決まっている。この迷宮の敵は扉の奥で待ち構えていることが多い。しかも、その扉の向こうが部屋のような空間になっている場合、まず間違いなく敵がいる。よって、地上への階段に最も近い部屋が最適の場所になる。この条件を満たすのは、階段から東の一本道だ。行き止まりの途中の左手側に、扉が一つだけある。その向こうはやや広い部屋になっていて、前に行ったときには犬のような人型の敵が3体ほどいた。簡単に倒せた上に何もなかったのでもう行くことはないと思っていた場所だが、覚えておけば何かの役には立つものである。パーティは地上への階段を通り過ぎて、その扉の前まで移動した。
「いつものように出来る限り早く火炎の魔法を使うから、守りは頼むわよ。前衛が1人でも倒れたら、同時に私も倒れると思って」
自信満々で自らの虚弱さを語るのは、魔法使いの矜持なのだろうか。出来ることと出来ないことをしっかりと見極めて、やるべきことをやろうとする生き様なのだろうか。パチュリーは言っておくべきことを言い終わると、すぐに魔法を放つ手順の確認と集中に取り掛かった。近寄られた時点で負けだと確信しているからこそ、事前の準備を完璧なものにしていたいのだ。
「敵の数が今までと同じくらいなら、いつものように私が突っ込んで攻撃を引きつけるわ。咲夜も状況次第で、必要と判断したら陽動しながら攻撃を仕掛けておいて。魔理沙のところまではなるべく行かせないようにするけれど、前衛の立ち居地じゃあかばい切れないから、自分の身をしっかりと守るのだけは忘れちゃダメよ。パチュリーまでは隊列の関係で攻撃が届かないはずだけど、知らない敵が出たら守りのことも頭に入れておくこと。火炎の魔法の後は、生き残った敵を私と咲夜で一掃する。魔理沙も魔法で攻撃したいでしょうけど、今回は自分の守りだけを固めておいて。私たちも疲れが出ているのだから、危険はできる限り排除していきましょう」
レミリアは一人一人の顔を見て、準備ができていることを確認すると、「じゃあ、行くわよ」と言って扉を開けた。
敵は4体、出合ったことのない人型だ。少し幅の広い剣と、小さな盾らしきものを装備している。やや多めだけれども、レミリアは当初の予定通り突っ込むことを選択。咲夜はそれに続いた。魔理沙は扉の少し入ったところで杖を構えながら様子をうかがっていて、パチュリーはすでに呪文の詠唱へと入っていた。
レミリアは2体の人型と交戦中で、咲夜は1体の人型を相手取っている。残り1体の動きはやや遅れているが、恐らくはどちらかに飛びかかってくるだろう。過去にあったパターンと全く同じ形を作くことができたレミリアは、行けると判断して剣での攻撃を行った。今までの敵は、持ち前の力と技術でほぼ一撃で倒し切っていた。例外は2階のゾンビくらいだから、その攻撃で1体を仕留められるはずだった。そう計算していた。が、敵は左手で持っている盾を綺麗に使って衝撃を防ぐと、右手の剣を振り下ろして反撃をしてきた。
レミリアは体力が高く、パーティ内で最も良い装備をしているので、少々の攻撃なら堪え切ることができる。2階の敵の攻撃を受けても平気だったのだから、1階でどうこうなるわけがないと思っていた。咲夜も自分の回避能力には自信があったので、そうそう攻撃を当てられることはないだろうと思っていた。そして、レミリアと咲夜は共に、この迷宮に入って最も鋭い攻撃をまともに食らってしまった。
「ぐっ……これは」
「…………お嬢様、だいじょうぶで……す、か」
尋常ではない攻撃力と鋭さだ。レミリアたちは事前の情報で『階層が深くなればなるほど敵は強くなる』と聞いていた。その、つもりだった。が、いつもの幻想郷の住人らしく、情報をもたらしてくれたアリスの話をまともに聞いていなかったのだ。正しくは『階層が深くなればなるほどに、敵が強くなる”傾向にある”』で、地下一階最強の敵だとすれば、地下二階の敵よりも強くて当然だ。なお、この敵は地下一階の番人と位置づけられている、地下一階最強の敵である。
最悪の事態は、最悪の状況でこそ訪れるもの。極低確率の危機ならば、それは最も起こって欲しくない時に起こるものなのだ。
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地下一階:忍び寄る危機と出会ってしまった少女たち