No.481293

亡国の制裁

ヒビトさん

織斑千冬と篠ノ之束に復讐を誓った亡国機業の少年は、自らの身を犠牲にし【天災】に挑もうとする――――。

2012-09-08 13:33:44 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4128   閲覧ユーザー数:3980

 

 

 俺は十年前のあの日、『地獄絵図』というものをこの目に焼き付けられた。

 

 米軍の持つ核を超える攻撃兵器・神の杖によって……。

 

 

 

 ――いや、正確にはそうではない。日本の首都・東京の中心に照準を合わせて音速の二十倍の速さで宇宙空間から落下してきたタングステン製の槍の破片が、たまたま俺の家族が住んでいた東京都の南にある小さな島にむかって無数に飛来してきたのだから、それは神の杖ではなく、その欠片という言い方が正しいだろう。

 

 

 では、その時速にして一万キロメートルで飛来する棒を破壊したのは誰なのか。

 

 

 

 その引鉄となった二人を、俺は両親と親友を一度に亡くしたしばらく後に知った。二人の名は……――

 

 

 

 

 

 ――――織斑千冬と、篠ノ之束だ――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『白騎士事件』。そう呼ばれるようになった、現代を生きる人間なら誰もが知る有名な出来事だ。

 

 

 世界中から日本にむかって海を超えて飛んできた戦略兵器を、白騎士と呼ばれたIS(飛行パワードスーツ)を駆る女性がたった一人で約半数を撃ち落としたという、とんでもない一件だ。

 

 

 その戦略兵器の中に、米軍が誇る最強の抑止力・神の杖も含まれていた。

 

 

 核兵器を超えるとまで言われたその力は、白騎士の攻撃によって破壊されたタングステン棒の破片からでも十分過ぎるほど解った。

 

 

 都から百キロ以上離れているというにもかかわらず、その破片は俺の住んでいた島全土を襲った。白騎士の攻撃力の高さが、あまりにも強すぎたのだ。

 

 

 頭上から降り注ぐ鉄塊の雨。長閑だった島は一瞬にして、悲惨な光景へと変わった。

 

 

 当時六歳だった俺は、十年経った今でもその惨状を刻銘に記憶している。忘れられない、俺の記憶の一つだ。

 

 

 俺は運良く、破片が着弾した時の衝撃で父に抱きかかえられながら吹き飛ばされ、頭を切る程度で済んだが……妹は、倒壊した家の瓦礫に押し潰された母の血を全身に浴びながら、母に守られて生き長らえた。

 

 俺を守ってくれた父も、俺を守るために亡くなった。全身骨折だったらしい。

 

 

 

 俺と妹は、それぞれ父と母の命と引き替えに生き長らえた。だが、それは決して良いこととはいえなかった。

 

 

 頼れる宛がない。雨風を凌ぐ家もない。今日を生きる食糧も、水も、なにもない。

 

 

 

 そんな状態が暫く続いたある時、一人の女性が俺達に手を差し伸べた。

 

 

「私と一緒に来なさい」

 

 彼女は俺達の両親の上司だと名乗り、戦場跡のようになってしまった島には似つかわしくない清潔なスーツを着こなしている。怪しい雰囲気は幼い俺でもハッキリと理解できたが、当時の俺にはその誘いを断ることはできなかった。彼女の一方的な誘いに、逆に惹かれるものもあった。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、亡国機業へ――――」

 

 

 そして、その女性……スコール・ミューゼルは、地獄の底から俺達を救い出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ン、起きて。アイン」

 薄暗い室内。抑揚のない声で、ベッドで寝ている俺の身体を揺する誰かが隣にいる。それが誰なのかを、俺はよく知っている。

 

「ああ……ツヴァイか。今、起きたよ」

 俺は寝ていた身体を起こし、隣に立っていた小柄な少女の髪をそっと撫でた。

 

「『起きたら第二格納庫に来い』。さっきスコールからメッセージが送られてきた。私も行く」

「格納庫……?」

 そんな所に呼び出して、一体スコールは俺に何をさせる気でいるのだろうか。いつもの事だが、彼女の考えていることはよく分からない。

 

 

「アインがこんな時間まで寝るなんて、珍しい」

「そうだな……。まあ、こんな日もあるだろう。飯食べたのなら先に行っててくれ。俺は後から追いつく」

 こくん、と無言で小さく頷いた後、ツヴァイは部屋を立ち去った。

 

 

 アイン、ツヴァイ……ドイツ語で『一』と『二』を表す俺達の名前は、本当の名前ではなく、スコールに付けられたコードネームだ。

 名前なんて、識別するだけの記号でしかない。それは言葉にできるなら、文字で表せられるのならば、何だっていいのだ。

 

 

 

 ツヴァイは俺の妹で、たった一人の家族だ。十年前の白騎士事件の惨劇で、母の血を浴びて生き残ったツヴァイは……その心を、失ってしまった。

 

 

 まるでロボットのような無機質な表情と、抑揚のない声。邪魔にならない程度の長さに切り揃えられたショートヘアーの黒髪。雪のように白い肌に、触れたら壊れてしまいそうな華奢な身体。普段からどんな時でも、自己というものを誰にも見せはしない。それが、俺のたった一人の家族であるツヴァイだ。

 普段から何を考えているか分からないので、オータムからは気味悪がられている。一方で、歳の近いエムとはよくいることが多い。特別仲がいい、というわけでも無さそうだが。

 

 

 

 エムとは訓練や、その休憩の時に俺も話したりする。不気味な女だが、動物とは違って言葉は通じる。

 

 この間、米軍の基地にあいつが殴りこんだ時も、俺が事前に潜入して色々と働いていたのだが、やはりISを持っているだけあってその戦力は俺なんかとは桁違いだ。そもそも俺の場合は、ツヴァイの助力もあってこそだし。

 

 

 本当は、ツヴァイはエムや、少し癪だがオータム辺りのISを動かせる輩と組ませるべきなのだ。男の俺には、逆立ちしたって動かせないあの忌々しい兵器を扱える、女と。

 

 

 それは指揮を執っているスコールも重々承知のはずなのに、なぜ俺なんかと組ませたのか。その理由を聞いたことがある。返ってきた答えは、

 

「彼女(ツヴァイ)も、その方がいいって思っているわ」

 と、茶化すように誤魔化されるだけで、その真意は謎のままだ。

 

 

 

 

 二段ベッドのすぐ隣にある冷蔵庫からゼリー飲料の容器を手に取り、一気に三つ飲み干した。これで、昼までのエネルギーを補給したことになる。

 

 ふと、自分のベッドを見下ろすと、ぐっしょりとシーツが濡れていた。おそらく俺は十年前の夢を見て魘されていていたのだろう。

 

 

「……まだだ。まだ、俺には復讐を果たす手段が――――ない」

 

 ギリッ、と奥歯を噛み締めながら、俺は握り拳を固めていた。復讐……それは、俺とツヴァイから幸せを奪ったあの二人への制裁だ。

 

 

 島を壊した張本人である織斑千冬は、現在ではIS学園とかいう存在意義の不明な高等教育機関でのうのうと教師を務めている。

 

 数ヶ月前、文化祭だとかでオータムが米国の第二世代型IS『アラクネ』と『剥離剤』を引下げてそこに乗り込んだ時、工作員としてそこに侵入していた。

 腸が煮えくり返るような思いだった。両親の仇がすぐ近くにいるというのに、俺は自分に与えられた任務しか遂行できない。何より、今挑んだところで俺に勝機はない。それが悔しくて、憎たらしくて――――。

 

 

 一方の篠ノ之束はと言うと、現在世界中の国や組織が血眼になって捜索しているというにも拘らず行方不明のまま。七月初頭にIS学園の臨海学校に現れたそうだが、すぐにまた行方不明になった。

 

 

 

 この二人だけは絶対に許さない。逆恨み、なのかもしれないが、俺にとっては譲れないことなのだ。

 

 

 

 俺は灰色のズボンに上半身裸の恰好だったので、引き出しの中に何枚も畳んであった黒いタンクトップのシャツを着て、その上に拳銃の入ったホルスターとジャケットを羽織り部屋から出た。

 

「よォ、アイン。こんな時間に出てくるなんて珍しいじゃねえか」

 通路を早足で歩いていると、角で『亡国機業』の工作員の一人、オータムと出くわした。

 

 

「お前には関係ない。それと、俺は今急いでいる。お前の愛しいスコールに呼び出されてな」

「私もそうだ」

 

 オータムまで……? ますますスコールの考えていることが分からなくなった。

 

 

 移動中、俺はオータムのスコールとの惚気話やエムへの愚痴やらを延々と聞かされていた。本当にこいつは……。

 

 

「おいアイン。呼び出されたのは第一格納庫だろ?」

「いや、俺は第二格納庫だと聞いた」

「どういうことだ、そりゃ……?」

「さあな。まあ、行ってみれば分かるだろ」

「それもそうだな。じゃあな、アイン」

 

 オータムはそれだけ言って、第一格納庫に入っていった。そして俺も、その先にある第二格納庫の扉を開ける。

 

 

「――遅かったわね、アイン」

 薄暗い格納庫の奥に進むと、そこにはスコールとツヴァイが立っていた。

 

「スコール、今回は何の用があって呼び出した?」

「見せたい物があるの。あなたにとって、とてもいい話よ。まずは、向こうを見なさい」

 

 そう言われ、俺はスコールが指さした方に歩を進める。そして、スコールが俺に見せたかったものの正体を、俺はこの目で目撃した。

 

 

「……おい、スコール。こいつは何の冗談だ?」

 背後からコツ、コツ、とハイヒールが床に当たる音が耳に入ってくる。そしてそのまま、スコールは俺の隣に立った。

 

 

「冗談に思えるかしら?」

「…………」

 俺は何も言えなかった。スコールがこんな冗談をいうためにわざわざ俺を呼んだとは到底思えないのだが、目の前にあるこれを見る限り、冗談にしか考えられないのだから。

 

 

 

 

「アイン。あなたには、この〈カラミティ〉に乗ってもらうわ」

 

 

 

 

 

 

 俺の眼前に鎮座していたのは――――黒い、全身装甲のISだった……!

 

 

 

 

 

「スコール、遂に頭がおかしくなったのか? 男にISは操縦できない。何よりこいつは、五月に偶然鹵獲した、篠ノ之束の作った無人機で、そもそも人間には操縦できないだろ」

 

「背部を見てみなさい。装甲が開いて、カプセル式の搭乗空間があるでしょう?」

 確認してみると、確かにカラミティの背中の装甲は外側に開きその中を露わにしている。内部は人一人が入るのがやっとの非常に狭い空間で、普通のISとは全く構造が違っている。

 

 

「アイン。あなたの言う通り、男性にISは操縦できないわ。でも、強い心さえあればISを支配することは誰にでもできるのよ」

「ISを、支配する……?」

「そうよ。ISコアには『人格』と呼べる自我が存在するわ。この無人機は、その自我を用いて自らを動かしているの。だから、その自我を乗っ取ってしまえば――――男性でも、ISを動かすことができる。それはとても危険で辛いものだけど……それでも、する?」

 

 

 

「当然だ。あまり俺を失望させるな、スコール」

 

 俺はもう、引き返すことはできない。天災・篠ノ之束と世界最強・織斑千冬の二人を相手にするのだ。それに並び得る力が、俺には必要なのだから。

 

 

 そして漸く、その機会が俺の目の前に現れたのだ!

 

 

「中に入ったら、後ろ側にあるプラグをこのヘッドギアに挿しなさい。これはあなたの意識データをカラミティのISコアに流入させる装置よ」

 スコールからヘッドギアを受け取り、装着してから黒いISの中に乗り込む。そして後頭部にプラグの端子を挿し込み、装甲を閉じようと手を伸ばす。

 

 

「…………」

 

 そんな俺の姿を、ツヴァイは黙って見つめていた。いつもと何ら変わりのない無表情。普段なら気にせずに任務に臨むというのに、今回ばかりは、それが妙に気になった。

 

 

「心配するな、ツヴァイ。俺は――――死なない」

 

 ツヴァイにそれだけ言い残し、俺は装甲を閉じた。

 

 

 中は真っ暗で、自分の手すらも見ることができない。そんな中、スコールの声が耳に飛び込んできた。

 

 

 

「アイン、聞こえるわね。今からあなたの意識をISコアと同期させるわ。むこうも必死で抵抗してくるはずだけど、それを抑えこんで、完全に押し殺すのよ。そうでなければ、あなたの精神は破壊されてしまうわ」

「たかがIS風情が俺の精神を壊すだと? ッハ、有り得んな。スコール、ツヴァイ。今すぐ始めろ」

 

 スコールの心配を一笑に付し、俺は今すぐ装置を起動させるよう促した。

 

 

「じゃあ……始めるわよ!」

 

 

 

 バチィッ! と、脳に直接電流を流されたかのような衝撃が頭の中を駆け巡り、何かがそこに流れ込んでくる!

 

 

 ドロドロした汚水のような、決して気持ちの良くない奇妙な感覚が襲い掛かる!

 

 

 

(これが、ISをの自我、だと……!?)

 

 

 底無しの沼に足を取られたかのように――――呑まれる、この黒い奔流に!

 

 

 いっそ、このまま流れに身を任せるべきなのではないかという考えが脳裏をよぎる。その瞬間、苦痛が一気に引いていくような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

(ふざ、けんなあああああ――――!!)

 

 

 

 十年前のあの日のことを、俺は必死に思い返した。すると、心の底から無限に沸き上がってくる。この『黒』より遥に黒い、復讐心が!

 

 

 眼前に、さっきまで俺を苦しめていた存在が小さく丸くなっているように思えた。俺はそれを両手で掴みありったけの力を持ってして握り潰した!

 

 

 

 バギャァッ! と生々しく無惨な音を響かせ、黒い存在は完全に俺の前から消え去った。

 

 

 

 

 すると、急に世界が広がり、明るくなった。この光景は――格納庫?

 

 

「アイン、なの……?」

 

 スコールの驚いたような声が聞こえる。俺は声のした方を振り向いて、そして彼女たちを見下ろした。

 

 

 

 俺はこんなに身長は高くないはずだ。なのにスコールは俺を見上げ、俺はスコールを見下ろしている。戸惑いながらも、俺は自分がアインだと伝えるために頷く。

 

 

 

 

「……自分の姿を見てみなさい」

 

 そう言われ、俺は自分の手を見てみる。するとそれはとても巨大な、重厚な金属でできた機械の手だった。

 

 

(なんだ……どういうことだ!?)

 

「あなたは今、IS自体になっているのよ」

 

 俺の心の叫びに答えるように、スコールが答える。

 

 

 

 試しに体のあちこちを動かしてみる。それは本当の自分の体のように精密に動き、違和感は全くなかった。

 

 

 ――――俺は今、ISになっている――――!

 

 

 

 実感した。そして、高揚した。遂に、遂に復讐を果たす日が来たのだ! あの憎むべき二人に、制裁を与える日が!

 

 

 

 

 

「早くその力を試したいでしょう? 対戦相手を用意してあるわ」

 パチンッ、とスコールが指を鳴らすと、格納庫のシャッターがゆっくりと上がり、IS対戦用のフィールドが姿を現す。

 

 

(あ、あいつは……!)

 

 フィールドの反対側にいたのは、アメリカの第二世代型IS『アラクネ』を駆るオータムだった。俺の姿を見て意外そうな表情を浮かべながらも、すぐに口元を愉しそうに歪ませる。

 

 

 

「主装備は両腕に備え付けられた高出力ビームカノンと、両肩部のビームガトリング、拡張領域からバスターソードを召喚できるわ」

 

 スコールの言葉に合わせながら、武器の一覧画面をアイタッチで開いて確認する。エネルギーは満タンで、バスターソードも呼び出せるようになっている。

 

 

 

 

「エムもどこかで見ているわ。それじゃあ、胸を借りるつもりで思い切り模擬戦でもしてきなさい」

 

 スコールはそう言って下がり、ツヴァイの横に立った。俺はシャッター扉を越えてフィールドまでゆっくりと歩き、オータムと対峙する。

 

 

「なんだあ? この前拾ってきた無人機じゃねえか……スコールのやつ、私に何をさせたいんだ?」

 

 どうやらオータムは俺が乗っていることに気付いていないようだ。試しに回線でも開いて驚かせてやろうと思ったが、やり方が分からなかった。

 

 というか、回線を開くことができないのではないだろうか。今の俺はISコアと意識を完全に同化させている状態なので、俺の身体から肉声を発することは可能なのかどうか分からないのだ。

 

 

『アイン、聞こえる? 今あなたの身体には脳からの命令が一切伝わらない状態になっているわ。だからこちらから一方的に命令を送るだけで返答を仰ぐことができないの』

 

 やはりそうか。意思疎通ができないのは不便だが、指示と命令を聞けるだけ遥にマシか。

 

 

『何か異常があったらすぐアクションを起こして。模擬戦を中断して救助にむかうわ』

 

 とりあえず何か返事をしようと思い、俺は頭を振り向かせてコクンと頷いた。それを見たスコールの顔に、僅かな笑みが溢れる。

 

 

 

『それじゃあ、始めるわよ。三……二……一……!』

 

 ブザーが鳴り、それと同時にオータムは動いた。

 

 

 アラクネの強みは、背部から生えている八つの装甲脚にある。これはそれぞれの先端が刃物と銃器の切り替えが可能な可動式の装備で、近接戦において圧倒的な手数のアドバンテージを得ることができる。例えば、装甲脚四本を使って敵の剣戟を防ぎ、残り四本と操縦者の両手による一斉攻撃で大ダメージを与えられるのだ。

 

 だがそれは同時に短所でもある。いくら攻撃できる『手』があろうとも、人はそれをいくつも同時に扱うことはできない。繊細な動きを要求する分、集中力が必要となってくる。

 

 

 

 だが、その短所もパターン化すればかなり軽減されてしまうので――――

 

 

 

 

「喰らいな木偶人形がッ!」

 

 

 装甲脚八本のうち六本を砲撃モードに変形させ、弾幕を張りながらオータムは接近してきた。

 

 

 無人機の装甲は分厚い。なのでこの程度の衝撃ならそこまで深刻なダメージに成り得ないのだが、足が止まってしまう。

 

 

 

「オラオラどうしたぁ!!」

 

 

 懐に潜り込まれ、俺はオータムの装甲脚の爪に両肩部を引き裂かれる! そのままオータムは弾幕を張りながら距離を取り、間合いを取られてしまう。

 

 

 

(ヒットアンドアウェイかよ……チマチマと面倒くせえ…………!)

 

 俺は右手にバスターソードを構築させ、ブースターを使って接近攻撃を試みる。

 

 

 超重量の大剣を上段から振るうが、オータムは軽やかにそれを避ける。そして背後から装甲脚の爪によって、背部装甲を斬りつけてくる。

 

 

 俺はすぐに後ろを振り向き、左腕のビームカノンを発射させた。高出力の熱量弾はオータムの身体にわずかに掠る程度で終わるが、オータムの苦虫を噛み潰したような表情から、その威力は相当なものだと推測される。

 

 

 

「調子乗ってんじゃねえぞッ!」

 

 

 至近距離から弾幕を張りながら装甲脚の間合いへと入るオータム。だが俺は下手にそれを防ごうとはせず、逆に彼女を迎え討った。

 

 

 右手一本でバスターソードを上段に構え、間合いに入ってきた瞬間を狙って振り下ろす! 前に進んでいるオータムは急な進路変更はできないため装甲脚を使ってバスターソードを受け止めようとするが、超重量の剣はそれを一気に五本も破壊した!

 

 

 だが、五本止まり。残り三本の装甲脚を用いて、何とかオータムは攻撃を防いだのだ。ガッチリと剣は固定され、ビクともしない。

 

 

 

 

 蜘蛛に、捕まった。だが、それと同時に――――捕まえた。

 

 

 

 

 

 俺は残った装甲脚のうち二本を巨大な手で掴み上げ、両肩部のビームガトリングを乱射する!

 

 

 

 超至近距離からの連続ビーム攻撃を受けたアラクネのシールドエネルギーはみるみる減っていき、一瞬にしてレッドゾーンまで削った。

 

 

 あともう少し。そう勝利を確信した俺だったが、オータムは最後の最後で自分の手に直接バズーカ砲を構築させ、対IS用榴弾を撃ち放った!

 

 

 ズドォォンッ! と巨大な爆炎と轟音が響き渡る中、俺は何とか背部のブースターを噴射させてギリギリの姿勢を保ち左手でオータムの身体を掴んだ。

 

 

 

 そしてそのまま巨大な鉄拳を振り抜き、オータムが咄嗟に防御に回した残り三本の装甲脚を破壊させながら、俺はオータムを殴り飛ばした!

 

 

 

 Isを操縦するとき、操縦者が頭で判断してからISをがそれを実行するまでの間には僅かなタイムラグがある。これは人によって様々で、IS適正と称してその反応速度を段階的に分けている。

 

 オータムはB相当の適性があるらしいが、ISそのものとなっている俺の反応速度は適正にしてSランク以上だ。この僅かな反応速度の差と、オータムが油断していたこと、ISの火力と防御力の差が、この勝利のカラクリだ。

 

 

 

 

 

 フィールドの床に叩き付けられたオータムは苦痛に顔を歪めつつも、ISを捨てて自らの足で立っていた。

 

 

 

 

 対する俺は……PICによってなんとか宙に浮遊しているものの、ISの制御が効かなくなりつつなっていた。

 

 この無人機の持っていた自意識が、蘇ったというのか。いや、オータムに勝利したことで俺が油断したのだ。こいつはその隙を見逃さなかっただけで、気を抜いた俺が悪い。

 

 

 

(クソ、コントロールが……ッ!)

 

 俺は真っ逆さまにフィールドの地面に落下し、そのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めるとそこは医務室だった。硬いベッドの上に寝かされていた俺は、まず身体を起こして自分の状態を確認する。

 

 右手首と額に包帯が巻かれているが、大した傷ではなさそうだ。数日前、エムが独断行動をとった際に治療用のナノマシンをほとんど使ってしまったので、このような前衛的な治療になってしまったのだと思われる。

 

 

 

「……ツヴァイ?」

 

 部屋が薄暗かったせいで気づくのが遅れたが、俺の寝ていたベッドに寄り添うようにしてツヴァイが寝息を立てていた。寝顔には無表情も何もないので、こうして見ると普通の女の子のように見えてくる。俺はツヴァイの頭を優しく撫でてやった。

 

 

 

 

 

 ――――十年前、あんな悲劇さえなければ、俺達はどうなっていたのだろうか。

 

 

 俺達の両親は亡国機業の人間で、あの島は組織の保有する居住区のようなものだったらしい。基本的に個人がそれぞれ違った目的のために徒党を組んだのが亡国機業なので、加入、離脱もそこまで難しくはない。

 

 もしかしたら、俺は当時まだ生きていた同世代の友人と組織の工作員として暗躍していたかもしれないし、組織を抜けて普通の一般人になっていたかもしれない。

 

 

 

 ツヴァイだって、もっと普通の女の子として、人並みの幸せを手に入れることができたはずだ。

 

 

 

 

 

 ――――あの二人は、それを奪った――――。

 

 

 

 

 未来を、幸福を、あいつらは俺だけでなくツヴァイからも根こそぎ奪っていった。だからこそ、俺は立ち止まるわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

 

 

「――邪魔だったか?」

 

 ノックもなしに入ってきたのは、エムだった。廊下の光が開いたドアから差しこむが、エムはすぐにまたドアを閉め、ベッドの近くに寄ってくる。

 

 

「……今、何時だ?」

「朝の七時一三分だ。ちなみに、お前が気を失ってから二十時間以上経っている」

「なっ…………!」

 

 丸一日、俺は気絶していたのか!?

 

 

「ツヴァイはあれからずっとお前の傍にいた。今は疲れて寝ているようだがな」

「…………」

 

 ツヴァイなりに、心配していたということなのだろうか。こいつは自分の意見を持たないから、そういう感情があるのかどうかも微妙なんだが……。

 

 

「ああ、それから……スコールから伝言がある」

「なんだ?」

「今夜、五月に篠ノ之束によって破壊されたドイツの研究所に私とスコールが行く。お前は別の場所で派手な行動をとって、ドイツ軍のISを足止めして欲しいそうだ。……良かったな、アイン。この作戦が、お前の復讐の第一歩になるかもしれないぞ」

「そうか――――」

 

 俺はベッドから降り、パイプ椅子に掛けられていたジャケットを担ぎながら、部屋のドアノブに手をかける。ツヴァイも目が覚めたようで、無言で立ち上がって俺の後ろによってきた。

 

 

 

「思ったより落ち着いているな。てっきり狂犬のように騒ぎ立てるのかと思ったぞ」

 腕を組みながら、エムは得意げな表情でそう言った。

 

「そういうのはガラじゃねえんだよ、オータムじゃあるまいしな」

 

 

 ツヴァイとエムを引き連れながら、俺は医務室を出た。そして、まっすぐ自分達の部屋に戻る。

 

 

 

「アイン、ツヴァイ。お前達、復讐が終わったら……どうするつもりだ?」

 歩きながら、不意にエムが神妙な面持ちで問いかけてきた。

 

「さあな。俺達は義務教育も受けてないから、今さら普通の生き方なんてできやしねえ。このまま組織の工作員として居続けるのがお似合いだ」

 

 

 白騎士事件が起こるまでは、まさか自分がこんな人生を歩むだなんて思っても見なかったな。

 

(そういや、あいつは今頃何やってるんだろうな……)

 

 まだ五歳になったばかりの頃まで、俺達の家族は本土で生活していた。その時、近所に住んでいた同い年の男女とよく神社とかで遊んでいた思い出がある。顔も名前も忘れてしまったが、四人で楽しく遊んだことだけはしっかりと覚えている。その頃は、俺もツヴァイも普通の子供だったから。

 

 

 

「――アイン?」

 ツヴァイが覗きこむように俺の顔を見上げながら、俺の名を呼んだ。

 

「ん? ああ。どうした、ツヴァイ」

「アインが、ぼーっとしてたから」

「らしくないな。終わった後のことでも考えていたのか?」

「いや……むしろ、その逆だ――――」

 

 

 

 

 もしも、白騎士事件が起こらなければ……俺の家族が、あのまま本土に居続けていたならば…………思わず、俺はそんな事を考えてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛行機に乗ってドイツに向かい、日付が変わる頃、作戦が開始された。

 

 

 ドイツ郊外の森林に隠されていた、暗い緑色のカラーリングを所々に施したカラミティに乗り込み、あの苦痛に耐えて自我を抑えつける。

 

 前回のデータより、俺のカラミティの最大搭乗時間は最大で三十分とスコールから告げられた。なので、〈カラミティ〉となった俺は即座にビームカノンのエネルギーを充填し、山に向かって発射した!

 

 

 二筋の熱線が大地を焼き、抉る。通常のISとは比較にならないほどの出力。なるほど、オータムのやつがあんな顔をするわけだ。

 

 

『アイン、ドイツのIS部隊が右翼方向から接近してる。そのままそこで待機して。それから、迎撃のためにエネルギーの充填を』

 回線からツヴァイの無機質な声が入ってきた。今の俺は返答できないので、何も答えずにエネルギーをチャージしながら待ち構えた。

 

 

 そしてそのすぐ後、遂にドイツのIS部隊を補足した!

 

 

 数は三機。どれもが黒を基調とした、手強そうな外見をしている。

 

 

『そこの所属不明のIS! 無駄な抵抗はせず、我々に同行しろ!』

 回線から入ってくる、強気な女の声。だが俺はそれに返事をすることはできないし、何より俺の目的は時間稼ぎだ。無駄な抵抗をすることが目的で、ここに来ているのだ。

 

 

 俺は両腕を突き出して、ビームカノンを同時に射出した。桃色の光線が夜の闇を引き裂き、三機のISに襲いかかる。

 

 

 だが、訓練を積んできたプロフェッショナルとだけあって、一切の無駄な動きもなくそれを回避し三方向から同時に攻めてくる。一機は後方からの射撃で、残りはレーザーか何かで刃を構成された近接系の装備で、俺を制圧しようと迫る。

 

 

 

 

(やれるもんなら、やってみやがれぇっ!!)

 

 

 迎え撃つように、俺は硬く握りしめた拳を振りかざした――――!

 

 

 

 

 

 

 

 ドイツにある〈シュバルツェア・ハーゼ〉の司令室に、クラリッサ・ハルフォーフ大尉はいた。

 

 日本の文化にかなり独特な偏見を持っている彼女も、いざ護国の任務とあらば市の表情は凛々しく締まる。

 

 

 だがそんな彼女でさえ、モニタに映しだされた映像には驚愕を隠せなかった。

 

 

 自分の部隊の精鋭三名が、完膚なきまでに叩きのめされ、返答もない。最後に送られてきた映像に映し出されていたのは、黒い全身装甲のISが巨大な剣を振りかざす瞬間だった。

 

 

 その姿はまるで悪魔……いや、【厄災】そのものだと、クラリッサは感じた。

 

 

 

 

 部下の敵を討つため、自らも専用機〈シュバルツェア・ツヴァイク〉で現場に急行するが、もうあのISの姿はどこにもなかった。

 

 幸い、三人の部下の命に別状はなく、精神状態も安定していた。

 

 

 

 だがクラリッサは、近頃世界中で発生しているISに関係する事件に不自然さを感じていた。

 まるで、一連の事件が誰かの意思によって事件が意図的に仕組まれているような、そんな感覚がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――アジトに戻ってきた俺は、戦慄した。実験用の施設があった山中の地下基地が、壊滅していたのだ。

 

 

 地面の上に敷かれたシートの上には、大勢の負傷者が寝かされていた。まだ、瓦礫の下敷きになっている人もいる。

 

 そんな中、瓦礫の中から救助された少女の姿が目に飛び込んできた。

 

 

 

(まさか、あれは――――ツヴァイ……!?)

 

 

 俺は必死になって駆け寄った。瓦礫に足を取られて転倒しそうになりながらも、何とか堪えて足を前に出し続けた。

 

 

「ア、アイン様……」

 少女を囲んでいた三人の男の一人が、申し訳なさそうな表情で俺の名を口に出す。

 

 俺は彼らを退け、そして膝から崩れ落ちた。少しだけ開いた口を、閉じることも出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の瞳に映っているのは、左腕が潰れ、顔を血で赤く染めているツヴァイだった――――!

 

 

 

 

 

 

「ツヴァイ……おい、しっかりしろ!」

「アイン様、落ち着いてください!」

「これが落ち着いていられるかッ! 一体何があったんだ!?」

「じゅ、十機近い数のISが急に現れ、オータム様が応戦したのですが……」

「なん……だとぉ…………!」

 

 俺の固めた拳からは、血が滲んでいた。俺の険しい表情に、三人は一瞬たじろぐ。

 

 

 

 怒りが、憎しみが、心の奥底から沸き上がってくる。もう止めることはできないと思われたそれは、しかしたった一言によって止めることができた。

 

 

「ア……イン…………?」

 か弱い声が、俺の耳に入ってくる。

 

「どこに……いるの?」

「俺はここだ、ツヴァイ!」

 薄っすらと目を開けながら上げたツヴァイの手を握り、俺はそう答えた。するとツヴァイは今にも消えてしまいそうな小さな声で、俺に何かを伝えようとする。

 

 

「私、いつもすごく怖かった……。アインが、いなくなっちゃいそうで…………でも、アインはいつも、私の傍にいてくれたから――――すごく、嬉しかった」

 

 所々声を霞ませながら、ツヴァイはゆっくりと言葉を紡いだ。だが、俺は思わず「もう喋るな!」と叫んでいた。心の底では、きっと気付いていたのだろう。それを認めたくなかっただけで。

 

 

「アイン、生きて。私の分も……」

「馬鹿野郎っ! 縁起でもないこと言うな!」

「私は、もう……助からない。だから、十年間……ずっと言いたかった事を…………」

 

 ツヴァイは一筋の涙を零しながら首を傾け、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、兄さん――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安らかな笑顔でそれだけを言い残した後、ツヴァイの手から力が抜け、彼女は静かに息を引き取った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイン」

 エムが俺の名を呼んだ。俺は無言で振り向き、背の低いエムを見下ろす。

 

「スコールから言伝だ。篠ノ之束は私達にとっても脅威となる存在だから殺しても文句はないが、無茶な行動だけはするな、とな。医務室のベッドの上で、オータムも言っていたぞ。リベンジするまで首を洗って待っていろ、だそうだ」

「……そうか」

 エムの話を聞き流し、俺は彼女の隣を通り抜けようとする。だが、彼女の続けざまに放った一言が俺の足を縛る。

 

 

「織斑千冬は私が戦い、お前が殺す。そう誓ったはずだ。勝手に死なれては、私が困る」

「…………」

 エムはそう言うが、俺は何も答えない。「そうか」「善処する」、このくらいの返答ならば以前の俺はしていただろうが、生憎、今の俺はそんな気分じゃない。

 

 

 

 突如現れた十機近い数の無人IS。そんなことが可能なのは、篠ノ之束しか存在しない。

 

 

 

 束は……両親だけでなく、妹までも俺から奪った。そんな仇を目の前にして、正常でいられるはずがない。

 

 

 今俺達がいるのは太平洋のど真ん中。この近くに、どんなレーダーにも反応せず、光学迷彩を施した束の本拠地である城が浮いているらしい。

 

 

 では、そんな城をどうやって見つけ出すのか。それは、至極簡単なことだった。

 

 

 

 なんと、オータムがアジトを襲撃した無人機に発信器を取り付けていたのだ。その電波の足取りを追って太平洋の真ん中までこうして追ってきた次第だ。

 

 

 今俺達がいる場所は海の上ではなく、空。大型の飛行機にカラミティを乗せて、ここまでやってきた。

 

 

 

「二人とも、準備して」

 スコールに言われ、俺はカラミティに乗り込んだ。

 そしてすぐに自我を奪い、自分の意識をISのコアに上書きする。

 

 飛行機の後部が開き、下には青い海が広がって見えた。もうすぐ、俺とエムはここから飛び降りて篠ノ之束の移動拠点を攻撃する。そう思うと、血が熱くなるように感じた。

 

「準備はいいわね。――――始めて」

 インカムを通してスコールが誰かにそう指示すると、飛行機から次々と爆弾が投下された! それらは海中で爆発し巨大な水柱を作り上げていった。

 

 

(なるほどな……)

 この爆撃の理由を、俺はすぐに察した。

 

 

 移動拠点がレーダーに映らないといっても、光学迷彩で覆われているといっても、物体はそこに必ずある。いると思われる場所の近くに爆弾を投下し続ければ、絶対に迎撃をしてくるはずだ。

 

 

 そして俺の予想は的中した。爆弾が当たり光学迷彩が破損し、遂に移動拠点がその姿を晒したのだ。

 

 

 形状はまさしく中世欧州の城そのものだったが、迎撃装置も多数見受けられる。

 そしてその中から、数十機の無人ISが飛び立ってきた!

 

 

 俺とエムは即座に飛行機から飛び降り、無人機との戦闘を開始した。

 

 束の繰り出した無人機は、ついこの間IS学園を襲った時に使ったあの機体だった。生徒らが奮闘し全機撃破したらしいが、学園に侵入している同胞からの情報によるとこの無人機はジャマーなどを搭載した対IS用ISという、非常に厄介なものらしい。

 

 

 

 だが俺達はそんな物に遅れを取るほど未熟ではない。元々重装甲のカラミティに、高度な技術を持つエム。何も心配することはないのだ。

 

 

 俺は両腕のビームカノンを最大出力で撃ち放った。すると、無人機の周りを浮遊していた球体が輪を作りエネルギーシールドを展開することで、俺の攻撃を防ごうとする。

 

 

 が、カラミティの熱戦はその程度で完全に抑えきれるものではなく――――無人機は三機、その熱戦を受けて消滅した。

 

 

 だが、猛スピードで背後から黒い影が襲いかかってきた! ビームカノンの反動で硬直していた俺は判断が遅れ、回避が間に合いそうになかった。

 

 

 ドドォォン!

 

 

 二回の爆発が無人機を襲い、大きな隙が生まれた。その間に無数のビームが無人機を穿ち、それは空中で爆発し鉄屑と化した。

 

 

 それをやったのはエムだった。本来当たらないはずの射角から偏向射撃(フレキシブル)によって軌道を逸らし、えの球体の防御を通り抜けて射撃したのだ。

 

 

 相変わらず、器用な戦闘をしやがる。

 

 

 

「アイン、ここは私に任せて先に行け。お前がいても、足手まといにしかならない」

 エムが直接俺にそう言いながら、いくつものビームを同時に曲げてその全てを無人機に命中させた。確かに、俺がいても彼女にとっては邪魔なだけなのかもしれない。

 

 

「アイン……ツヴァイの仇を討て。そして――――必ず、生きて帰って来い!」

 珍しく、エムが感情的になって声を荒らげていた。彼女にとっても、ツヴァイを殺した篠ノ之束は許せないのだろう。

 

 俺はエムに背中を向け、束の城にビームカノンを発射する。突破口を強引に作り上げた俺は右手にバスターソードを構築し、ブースターを使って最高速で一気に乗り込もうとする!

 

 

 だが、その前に二機の無人機が立ちふさがった。俺は上段からバスターソードを振り下ろし叩き斬ろうとするが、右腕のブレードによって防がれてしまう。

 

 

 しかし、俺は同時に左腕を前に突き出し、至近距離から熱線を撃ち放った! 球体による防御も間に合わず、無人機は上半身を消し飛ばされ、爆発した。

 

 もう一機は足下から襲いかかってくる。左腕の掌から近距離で超高密度の熱線をうちはなってくるが、俺はスラスターを使ってそれを回避し、無人機の身体を掴んでビームバルカンを乱射した!

 

 

 

 その衝撃で空中に投げ出され無防備となった無人機をバスターソードで斬り伏せ、落下中にビームカノンを撃って完全に破壊した。

 

 

 

 もう、俺の行く手を阻む敵はいない。俺は拳を固め、城へと殴りこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、城内で立ち塞がった敵を薙ぎ倒しながら、一時間後、俺は見つけた。篠ノ之束を――――!

 

 

 カラミティは左腕を破壊され、エネルギーももう尽きていた。バスターソードを構成するだけのエネルギーも残っておらず、残っていたのは両足と右腕だけだった。

 

 

(お前さえいなければ…………ツヴァイはァッ!!)

 

 一際大きな部屋に突如姿を現した束を前に、俺は我を失い、生身の束に殴りかかった!

 

 

 

 

(報いを受けろ、シノノノタバネェェェェェェッ!!!)

 

 

 

 

 

 床が抜けるほど強力な打撃は、束を瓦礫の山の下敷きにして押し潰した。

 

 

(やった……のか?)

 

 俺はISとの接続を切断し、外に出た。身体が鉛のように重かったが、束の生死を見届けるために、身体にムチを打って瓦礫の山を見下ろした。

 

 

 束の頭に付いていたうさ耳が転がっている。それ以外は特に何も見受けられなかったが、生きている可能性は極めて低いだろう。

 

 

 

(終わっ、た…………)

 

 そう思った途端、身体から一気に力が抜けていった。

 

 

 なんとか城から脱出しようとするが、俺が天井を撃ち抜いた場所まで来た時、遂に限界を迎え俺は倒れ、空を仰いだ。

 

 

「悪い、二人とも……約束、守れそうにねぇ…………」

 

 

 

 何かを掴むように空に向かって右腕をつき出すが……俺の意識は、闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 気づくと、俺は懐かしい場所にいた。そこはどこかの神社のようで、セミが喧しく鳴いている。

 

 

「お! いたいた!」

 誰かが俺の方に駆け寄ってくる。その後ろからは、ポニーテールの少女も一緒に着いてきていた。

 

 

 彼らは、俺が本土にいた頃に一緒に遊んでいた親友だった。

 

 

(なんてこった。まさか……

 

 

 

 俺の復讐の相手は親友の姉だったのかよ――――)

 

 

 

 

 

 やっと思い出した。と言うよりも、自分で記憶を封印していたのだ。気持ちが揺らがないように……。

 

 

 

「兄さん」

 

「――――――!」

 

 

 背後を振り返ると、そこに立っていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あーあ、せっかくの隠れ家が台無しだよ」

 

 アインの死体の傍でそう悪態をついたのは、篠ノ之束だった。

 

 

 

 彼女は生きていた。いや、アレは偽物だったのだ。

 束はこうなることを予測し、自分の偽物を作り、亡国機業を誘き寄せたのだ。

 

 

 

「束さま、準備ができました」

「うん。ありがとう、くーちゃん」

 少女に振り返り、束はいつもの人参の形をしたロケットに彼女と乗り込んだ。

 

 

 城は崩れ、そして、アインもそれに巻き込まれてしまう。

 

 

「よくもまあ、自分の命を捨ててこの私に挑もうとしたものだね」

「私にはわかりません。無駄だということが、どうして分からなかったのかが」

 束に抱きかかえられながら、少女はそう呟いた。

 

「いいんじゃない、分からないままで。そんなの考えるだけ無駄だよ」

 

 

 

 

 二人の乗ったロケットは、誰にも追いつけない速さで飛び去っていった。

 

 

 

 その姿を、エムは見逃さなかった。ライフルで狙撃することも出来たが、避けられてしまうとすぐに理解していた彼女は、引き金を引くことはなかった。

 

 

 

 

(アイン……せめて、ツヴァイとともに安らかに眠れ――――)

 

 そっと瞳を閉じ、アインへ黙祷を捧げたエムは、崩れゆく城を見守り、そして帰還する。

 

 

 

 その時の彼女の眼は、少し潤んでいるようにも見えた。

 

 

 

 

 

 
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