No.481055

IS/3th Kind Of Cybertronian 「Intermission/1」

ジガーさん

にじファンから移転。本作品は、ISとトランスフォーマーシリーズのクロスオーバーSSです。オリジナル主人公および独自設定を含みますのでご注意ください。

2012-09-07 22:34:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2701   閲覧ユーザー数:2572

熱いフライパンの上に放り込まれた小さなバターの塊が、急速に溶けてゆく。

涎が出そうな匂いがキッチン中に広がった。

実際、青いエプロンを身につけて、ガスコンロの前に立っている田中一郎の口内には唾液が分泌されていた。

マクシマルやプレダコンの嗜好は、スキャンした生物にある程度作用される。

虎から姿を借りた者は、虎を友とするだろうし、肉を喰うだろう。

人間をスキャンした一郎も、一般的な人間が食べる物を好むのだ。

 

液状になったバターをフライパンに広げ、その上に細かく刻んだ玉葱、ピーマン、鳥肉を投入。じゃあっ、と耳に心地よい音が上がった。

そこへ、さらにご飯を加える。

ケチャップと胡椒で味付けしつつ、焦げ付かないように木製しゃもじで丁寧に掻き混ぜてゆく。もちろん、米粒を潰してしまわない配慮も必要だ。

 

「よっと」

 

一郎がフライパンを返すと、米が華麗に宙を舞った。一瞬後、誘導装置でも付いているかのようにフライパンに戻る。

チキンライスの完成だ。一郎は、甘酸っぱい香りが立ち昇る赤いご飯を、大きな器に移した。

 

次に登場するのは、四個の卵だ。新鮮で栄養がたっぷり。

中身をボウルに入れて、生クリームとマヨネーズを少々加え、しっかりと掻き混ぜる。

そうして作った溶き卵を、半分ほど油をひいたフライパンに垂らし、満月のような円形になるように広げてゆく。

ほどなく、ふつふつと泡が立ち始めたところで、菜箸で掻き混ぜる。

その上にチキンライスを乗せて、先ほどのようにフライパンを返してやれば……オムライスの誕生である。

 

「うん、おいしそうだ」

 

同じ工程をもう一度繰り返し、オムライスを合計二つ作ると、一郎は皿を両手にキッチンから出た。

倉持技研の食堂は静まりかえっていた。

時刻が十時を回っていることもある。だが何より、ディセプティコンとの戦闘データの分析と、自動再生には任せておけないほどのダメージを負った『八咫烏』の修復に、研究員が掛かり切りになっているからだ。

今後、ファンダメンツと戦ってゆくには、どちらも必要不可欠な作業である。

一郎も手伝いを申し出たが、きっぱりと断られてしまった。それよりも、今は休息を取って傷を癒すことが先決であると。

一郎は素直に引き下がった。考えてみれば、自分で何もかもしなくていいように、頼れる仲間を求めたのだから。

それに、相棒が働いていては千冬も休みにくいかもしれない。

トランスフォーマーと比べれば、肉体的にずっと脆い彼女には、より休息が必要なのだ。

 

「さあ、織斑さん。お待たせしました」

 

一郎はオムライスの皿をテーブルの上に置くと、千冬の向かいの席に座った。

千冬は、いつもの黒いスーツではなく、研究所に帰還してそのままのISスーツを着ていた。山のような検査に時間を取られ、着換える暇もなかったのである。

一郎はエプロン姿だが、これは外装を形成しているナナイトを変形させたものだ。データさえあれば、服装は自在に変えられる。

 

「………見た目はうまそうだな」

 

千冬はしばらく、疑わしげにスプーンで卵を突いていたが、やがて口に運び始めた。

一郎は、その様子にくすりと笑みを浮かべ、自身も食事を始めた。

ただでさえ、エネルゴンの供給がままならない状況である。しっかりと食べておかなければ、すぐにガス欠だ。

スプーンでオムライスを掬い、口の中に入れる。とろける半熟玉子と、ケチャップライスの甘酸っぱい味が舌の上に広がった。

一郎が、マクシマルに生まれたことを感謝する一瞬だった。

 

「意外だな」

オムライスを食べ進みながら、千冬が口を開く。

 

「何が?」

 

「いや、人間と同じような物を食べるとは聞いていたが、まさか料理を作れるとは。……味も、なかなか悪くない」

 

一郎は、コップに注いだ水を少し口に含んでから答えた。

 

「料理は、僕の研究対象ですからね。これまでも、いろんな星の料理のレシピを集めてきました」

 

惑星調査員に与えられた任務は、友好を結べそうな知的生命体が住む星や、有用な資源が数多く存在する星の探索である。

特に前者の場合は、その星に百年ほど滞在して、現地の文化を体験することが多い。

その中で、一郎がもっとも興味をひかれたのが料理だった。

 

単なる栄養補給ではない食事は、加工法にあまり幅のないエネルゴンを動力源とするセイバートロン星では滅多に出会えない、新鮮な概念だった。

そのままではとても食べられないような素材を、手を尽くして摂取可能にする知恵も、一郎を感動させた。

もともと、彼が食いしん坊であったことも外せない要因だ。

 

以来、一郎は任務を遂行する傍らで、個人的な趣味として、立ち寄った星の料理を食べ歩き、習得し、レシピを蒐集した。彼のデータバンクには、既に何億という料理が記録されている。

 

「ファンダメンツとの戦いがなければ、帰れないにしても、地球で平和に暮せたのにな……」

 

必要に応じて武器を使うことはあっても、戦闘は一郎の専門ではない。どちらかと言えば研究者で、セイバートロンと他星を結ぶのが任務なのだ。

それが、同族と殺し合いを演じているどころか、地球の人々を巻き込んでしまっている。

平和を愛するマクシマルとしては、スパークが締め付けられる思いだ。

そんな一郎を慰めるかのように、千冬が口端を持ち上げた。

 

「必ず勝って、平和を取り戻そう、田中。故郷に帰せるかどうかは保証できないが、たとえ無理でも、私が面倒を見てやる」

 

心強い答えだった。

元気づけてくれる仲間の存在の有り難さを、一郎は噛み締めていた。

 

「ありがとうございます、織斑さん」

 

オムライスを食べ終わり、満腹になると、食堂に弛緩した空気が漂った。

一郎が淹れた緑茶を湯呑みから飲みながら、千冬が口を開く。

 

「ファンダメンツの目的を、一度整理してみるか」

 

現れた敵にただ対処しているだけでは、最終的な勝利を掴むことは難しい。

どうにか先手を打つ方法を考えて、ファンダメンツにひと泡吹かせてやりたいところだ。

 

「セイバートロン星の制圧……というのは、まあ置いといて。この地球では、ダークエネルゴンを手に入れることですね」

 

一郎は思い出しながら言った。

ダークエネルゴンは、彼も資料でしか目にしたことがない、凄まじいエネルギーを秘めた物質だ。

ファンダメンツがそれを欲しているのなら、絶対に阻止しなければならない。

だが、一郎はそれが地球にあるらしいということしか知らないし、実際に連中がどこまで近付いているのかも定かではなかった。

雲を掴むような話だ。本当に雲なら、どれほど気が楽だろうか。

一応、ダークエネルゴンの映像データその他を開放し、協力者達に捜索を依頼してはいるものの、これといった情報はない。

 

「そういえば、関係があるかはわからんが……キラーウィンドの奴は、なにやらISを奪おうとしていたな」

 

千冬が言った。

彼女が初めてトランスフォーマーと交戦した時のことである。

キラーウィンドは謎の光線を発射して、千冬の体から『打鉄』を分離させたのだ。

 

「ああ、言ってましたね。……何に使うつもりなんだろう」

 

一郎は思案顔になった。

ISはたしかに優秀な兵器だが、それは地球人たちにとっての話だ。

肉体を兵器化するトランスフォーマーには無用であるし、かつて彼が属していた宇宙には、もっと優秀な人間用のエグゾスケルトンがいくらでもあった。

計画失敗の可能性を少しでも下げるために、人類側から武器を奪おうというのなら、その場で破壊してしまえばいいのだ。

わざわざ、使用できる状態で奪取する必要はない………筈だが。

そうするということは、ファンダメンツにとって、ISは何か特別な意味を持っているに違いない。

人類の未来を守るために思考を巡らせて、二人は口を噤んだ。

食堂内に、時計の針が進む音だけが降り積もる。

そして、一郎はふと思いついた。

 

「織斑さん。僕はISを直接触ったことはないんですけど……ISって、どんなエネルギーで動いているか知ってますか?」

 

千冬は少し考えてから、

 

「……いや。私もよく知らないな。コアが生成しているらしい、というくらいだ。だいたい、コアが何で出来ているのかすら知らん」

 

ISコアの数は、全部で四六七個。それが世界各国に撒かれていると思えば、決して多いとは言えない。

増やしたくとも、ブラックボックス化されたコアを解析することができず、複製すらままならないのが現状だ。

せめて類似品を、という試みもあった。だが、ISと同じサイズで同じ性能にするには、エネルギーがまったく足りない。

手の平に収まるような大きさで、そして強力な火器やシールドの展開を可能とするISコアの如きエネルギーユニットを、どうしても作ることができなかったのだ。

当然だ。そんな魔法のような物質は、この地球には存在しない。

 

だが一郎は、長年の宇宙探索によって、広い宇宙にはそういった物がいくつも存在することを知っていた。たとえば………

相棒の考えていることを察して、千冬が顔色を変えた。

一郎は腰を上げると、やや強張った顔で言った。

 

「織斑さん。僕がISコアを解析できるように、上の方に許可を取ってもらえませんか」

 

 

 

 

北極。青と白に埋め尽くされた氷の世界。

海の上には無数の流氷が浮かび、中には巨大な氷山がそそり立っている。

そこに生息するホッキョクグマやアザラシ、時々砕氷船に乗って海を横切る人間たちは、警戒こそすれ、氷山の一つ一つに着目することはほとんどない。

 

ましてや……巨大な氷山の中に、機械仕掛けの宇宙人を乗せた輸送艦が隠されているなど、誰が想像するだろうか。

艦内の会議室には、リーダーのサヴェッジファングを中心に、何体ものトランスフォーマーが集まっていた。

ディセプティコンはディセプティコン、プレダコンはプレダコンで固まっている。

任務中で現地を離れられない者を除いた全員の顔を見渡すと、サヴェッジファングは口を開いた。

 

「では、諸君。中間報告会を始めるとしようか」

 

最初に前に出たのは、プレダコン達を代表してテンタクルスだった。背後にはシザーハンズ、キラーウィンドが控えている。

腕代わりの触手をくねらせ、データを送信する。

 

「……バイオエネルゴン計画。施設は完成した。後は実験台を調達するだけだ」

 

それに続くのは、大柄の黄色と黒のカラーリングをしたディセプティコン。

以前、サンダーソードと千冬の前に姿を表し、カットオフとスイングを回収した者だ。名をスナッパーと言った。

背後には、二体のディセプティコンがそれぞれの武器を抱えて待機している。

 

「ドローンアーミー計画も順調だ。操作装置も、間もなく完成する」

 

サヴェッジファングが訊ねる。

 

「カットオフとスイングのリペアはどうなっている?」

 

スナッパーは苦い声を出した。

 

「外装はともかく、中身がずたずただ。神経回路を取り変えなきゃならん。全快まで、もう少しかかるだろう」

 

けけけけ、と嘲笑が響く。

ビーストモードのキラーウィンドが、スナッパーの左肩の上にとまった。

 

「図体の割に、大したことのない奴ら。所詮は骨董品の敗残兵だな。生かしておいてもエネルゴンの無駄じゃないか?」

 

轟、と鋼の巨拳が唸る。スナッパーの右拳を避けて、キラーウィンドは天井近くまで舞い上がった。

 

「お前が言えたことか、キラーウィンド! 油断して、手負いのマクシマルに痛い目を見せられたお前が……下りてこい!」

 

たちまち、会議室を喧騒が包み込んだ。

さすがに武器を使おうとする者はいないが、ディセプティコンとプレダコンに分かれて、今にも殴り合いが始まりそうだ。

サヴェッジファングは機械流の溜息をつくと、ろくでなしの部下達に向かって怒鳴り声を上げた。

 

「やめろ! お前たちは、いつもくだらないことで喧嘩ばかり……その度に栄光が遠のいてゆくのが分からないのか?」

 

トランスフォーマー達はしぶしぶ、自分たちのリーダーに従い、拳を引っ込めた。

サヴェッジファングは頭を抱えたい気分だった。

もし、自分たちの目の前にいる二足歩行のガラクタ達が必要でないのなら、今すぐに処分してやりたいくらいだ。

 

サヴェッジファングは、ディセプティコンの遥かな歴史を記録するデータベースの守護者の一人だった。

そして、仲間に隠れてデータをつまみ食いし、かつての栄光に憧れ、現在の没落ぶりに落胆する毎日を送っていた。

現状への不満が限界に達した時、サヴェッジファングは革命のための準備を始めた。

強力に武装し、戦闘技術を学び、仲間を集め、ダークエネルゴンのことを調べた。そして、謀反に勘付いたプレダコン秘密警察の影が間近に迫った時……彼は計画を実行に移した。

 

盗んだ輸送艦・ガルガンテに乗り込み、セイバートロン星を出発した時の高揚感は、今でも忘れられない。サヴェッジファングは艦橋にある艦長席に腰かけ、自分がすべてのトランスフォーマーの頂点に立っている姿を幻視していた。

この計画に賛同したのは、プレダコンやディセプティコンのはぐれ者で、気は荒く、協調性というものに欠ける連中だったが、そのことに不安は感じなかった。この一時だけ、もてば上等という考えがあった。

 

だが、その夢の時間を邪魔する者が現れた。

サンダーソードという、マクシマルの惑星調査員だ。

せいぜい、ダークエネルゴンを手に入れる際、多少は現地住民の抵抗を受けるだろうとしか思っていなかったサヴェッジファングにとって、これはまったく予想外の出来事だった。

しかも厄介なことに、サンダーソードは地球人と手を組んで、キラーウィンド、スイングとカットオフの撃退に成功している。

単身にて宇宙の深淵に挑み、異星の住人と手を繋ぐ惑星調査員。その実力は本物だったというわけだ。

 

(……これ以上、邪魔はさせん)

 

サヴェッジファングは拳を握り締めた。

計画が破綻してしまう前に、なんとしてもサンダーソードを片づけたい。

しかし、やらなければならないことは、トランスフォーマーの能力をして山ほどあった。

普段の活動に必要なエネルギーを調達するだけでも、それなりの手間と人手がかかる。

サンダーソードだけに注力できるほど、ファンダメンツには余裕がなかった。寄せ集めの新興組織の弱みだ。

 

「エコーズ。ISコアの収集はどうなっている」

 

サヴェッジファングが天井に向かって呼びかけると、灰色の巨大な蝙蝠が下りてきた。空中でロボットモードに変形し、リーダーの隣に着地する。

エコーズは、ファンダメンツのメンバーの中でもっとも―――というより、唯一サヴェッジファングに忠誠を誓っているプレダコンだった。

 

「以前、例の亡国機業を壊滅させた際に手に入れた物を含めて、現在は十二個、我らが所有しております」

 

エコーズは恭しく報告した。

サヴェッジファングは、顎に手を当て、思考に埋没した。

ISコアはもっと必要だが、すぐにどうこうという話ではない。今はまだ、地道に力を蓄えるべきか………

 

「今回は大きな変更はしない。各員は、それぞれの計画を進めろ。以上だ」

 

サヴェッジファングが追い払うように腕を振ると、ディセプティコンとプレダコン達は速やかに退室した。

最後にエコーズが頭を下げて消えた後も、サヴェッジファングは会議室に残っていた。

そして、未だ手元にないISコア―――ダークエネルゴンに思いを馳せながら、呟いた。

 

「待っていろ、セイバートロンよ。すぐに完全なるダークエネルゴンの力を手に入れて、お前を支配してやる」


 
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