No.480910

IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第三十三話

キキョウさん

恋夢交響曲・第三十三話

2012-09-07 16:27:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1025   閲覧ユーザー数:998

「・・・・・・」

 

旅館の一室。壁の時計はもう夕方の四時前を指している。ベッドで横たわる一夏は、もう三時間以上も目覚めないままだった。そして、そのかたわらに付き添っている箒は、ずっとうなだれたままでいる。

 

(私のせいだ・・・)

 

あの時、箒をかばって攻撃を受けた一夏は、ISの絶対防御機能を貫通して人体にまで届いた熱波に焼かれ、体の至る所に包帯が巻いてあった。

 

(私が、しっかりとしないから、一夏がこんな目に――!)

 

海から引き上げられ、どうにか旅館に戻った箒に千冬が言い放った言葉は、『作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまで各自現状待機しろ』 とのことだった。千冬は一夏の手当の指示をすると、すぐにまた作戦室へと向かう。箒は、責められないことがまた一層辛かった。

 

(私は・・・どうして、いつも・・・)

 

いつも、力を手に入れるとそれに流されてしまう。それを使いたくて仕方ない。

 

(何のために修行をして・・・)

 

箒にとって剣術は己を鍛えるためではなく、律するためだった。自分の暴力的衝動を抑えこむための抑止力。しかし、今回の一件でそれは非常に危うい境界線なのだと思い知った。

 

(私はもう・・・ISには・・・)

 

ひとつの決心をつけようとしたときに、部屋のドアが乱暴に開いた。その音に一瞬驚いたが、その方向に視線を向ける気力はない。

 

「あー、あー、わかりやすいわねぇ」

 

遠慮なく入ってきた女子は、動かない箒の隣までやってくる。その声は、鈴だった。

 

「・・・・・・」

 

「あのさあ」

 

話しかけてくる鈴に、箒は答えない、いや、答えることが出来なかった。

 

「一夏がこうなったのって、あんたのせいなんでしょ?」

 

ISの操縦者絶対防御、その致命領域対応によって一夏は昏睡状態になっている。すべてのエネルギーを防御に回し、操縦者の命を守るこの状態は、同時にISの補助を深く受けた状態になる。それ故、ISのエネルギーが回復するまで、操縦者は目を覚まさなくなってしまうのだ。

 

「・・・・・・」

 

「で、落ち込んでますってポーズ? ――っざけんじゃないわよ!」

 

箒の態度に怒りを顕にした鈴は、その胸ぐらをつかんで無理やり立たせる。

 

「やるべきことがあるんでしょうが! 今! 戦わなくて、どうすんのよ!」

 

「わ、私・・・は、もうISは・・・使わない・・・」

 

「っ――!!」

 

バシンッ! っと、鈴が一発箒の頬を叩く。その衝撃で床に倒れた箒を、鈴は再度締め上げるように振り向かせた。

 

「甘ったれてんじゃないわよ・・・。専用機持ちっつーのはね、そんなワガママが許されるような立場じゃないのよ。それともアンタは、戦うべきに戦えない、臆病者!?」

 

「――ど・・・どうしろと言うんだ! もう敵の居所もわからない! 戦えるなら、私だって戦う!」

 

やっと自分の意志で立ち上がった箒の様子をみて、鈴はふうっとため息をついた。

 

「やっとやる気になったわね。・・・あーあ、めんどくさかった」

 

「な、なに?」

 

「場所ならわかるわ。今ラウラが――」

 

言葉の途中でちょうどドアが開く。そこに立っていたのは、真っ黒な軍服に身を包んだラウラだった。

 

「出たぞ。ここから30キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩は持っていないようだ。衛星による目視で発見したぞ」

 

ブック型端末を片手に部屋の中に入ってくるラウラを、鈴はにやりとした顔で迎える。

 

「さすがドイツ軍特殊部隊。やるわね」

 

「ふん・・・。お前の方はどうなんだ。準備はできているのか」

 

「当然。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済みよ。シャルロットとセシリアの方こそどうなのよ」

 

「ああ、それなら――」

 

「たった今完了しましたわ」

 

「準備オッケーだよ。いつでもいける」

 

二人が部屋へと入ってくる。そして、それぞれが箒へと視線を向けた。

 

「で、あんたはどうするの?」

 

「私・・・私は――」

 

ぎゅっと拳を握り締める。それは後悔とは違う、決意の表れだった。

 

「戦う・・・戦って、勝つ! 今度こそ、負けはしない!」

 

「決まりね」

 

ふふん、と腕を組み、鈴は不敵に笑う。

 

「じゃあ、奏羅を交えて作戦会議よ。今度こそ確実に堕とすわ」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦は・・・大体これでいいな」

 

みんなが箒を奮い立たせに行っている間、俺は今ある福音のデータで作戦を考えていた。

 

(しっかし、機体の分析ができるからといって俺を作戦参謀みたいに扱わないでほしんだけど・・・)

 

作戦は古人が兵法として記したように、いわば一つの型がある。それに合わせていかにこちらのペースに持ち込むか、失敗した時のフォローはどうするか、などを考えなくてはならない。そこらへんは経験で補っていくべきなのだが、俺にはそれはない。

 

(うーん、一回ラウラに見てもらったほうがいいのかな・・・?)

 

色々な戦い方、連携モーションなどを考えていると、部屋のドアが開いた。

 

「どう、奏羅? 作戦決まった?」

 

入ってきたのは、鈴を先頭とする一夏を除く専用機持ちの面々。

 

「ああ、大体はな。ラウラ、軍経験者の意見を頼む」

 

俺は一緒に入ってきたラウラへ、作戦を説明する。

 

「ほう、いいと思うぞ。ただ、中~遠距離サポートとしてお前とセシリアとあるが、プラチナはどのフレームで出るんだ?」

 

「俺はエアリアルフレームで行く。何だったら近距離もできるようにと思って」

 

「ふむ、フォローのフォローというわけか。ならばそれでいこう。さて、では各々――」

 

「いや、みんなちょっと待ってよ」

 

ラウラがみんなに号令をかけようとしたとき、シャルが一旦話を止めた。

 

「織斑先生、気づいてないかな・・・?」

 

「確かにそうですわね・・・。織斑先生、わたくしたちの心を簡単に読んできますもの・・・」

 

シャルの言葉にセシリアも同意する。確かに、出発しようとして部屋を開けたら織斑先生とかは洒落にならない。

 

「教官の意識を私たちから一時的にでもそらさないといけないな・・・」

 

その問題にこの場にいる全員が頭を抱え始める。

 

「織斑先生を気を引く方法・・・」

 

腕を組みながら箒が言った。

 

「できるだけ予想していないことがいいですわね・・・」

 

セシリアが顎に指を当てて考える。

 

「それに、派手な方が気を引けるわよね・・・」

 

鈴がブツブツとつぶやく。

 

「しかも、できるだけ長く時間を稼げるような・・・」

 

シャルが頭に手を当てて悩む。

 

「私たち以外でそれが可能となると・・・」

 

ラウラが目を瞑りながら唸る。

 

(俺たち以外で、派手で、長く時間を稼いで織斑先生が予想もしていない出来事が起こせる人物・・・)

 

俺はこの状況でそれが出来る人物が、一人だけ思いついた。

 

「いた・・・」

 

「「「「「えっ?」」」」」」

 

みんながあっけに取られて俺の方を見る。

 

「一人だけ、俺達以外で、派手に行動できて、長く時間を稼げて、織斑先生が予想してないことが起こせる人物がいる!」

 

「そ、それは誰なんですの!?」

 

セシリアが急かすように俺に聞いてくる。

 

「それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

(しかし、厄介な状況になったものだな・・・)

 

作戦室、織斑千冬はこれからのことについて他の教員と話し合っていた。当初は専用機持ちを全機出撃、連携で福音を撃破するとの案もあったが、それは千冬が却下した。今学園が保有するISで、最高の攻撃力を持つ白式と最高のスペックを持つ紅椿で作戦をこなせなかった以上、現時点でのISでは、福音の広域特殊 射撃に対しわざわざ全機を向かわせる訳にはいかない。

 

「織斑先生、コーヒーはいかがですか?」

 

真耶が千冬に気を使い、コーヒーを持ってくる。千冬は「ありがとう」と一言告げると、コーヒーを受け取り口をつけた。

 

「山田先生、各専用機持ちはどうしている?」

 

「指示されたとおり、各員同じ部屋で待機してます。あ、篠ノ之さんも一緒でしたよ」

 

「そうか・・・。アイツらが命令違反をしないように見はっておいてください」

 

「そう・・・ですね・・・。織斑くん、あの子たちと仲いいですから、無茶しちゃいそうですし・・・」

 

「ああ、ここで貴重な戦力を減らすわけにはいかん」

 

そう言って、再度福音のデータをにらみ始める。今ある相手の情報で、こちらの戦力をいかに使って作戦を完遂させるか、千冬は再び考え始めた。

 

(一夏が回復するのを待つか・・・? それでは逃げられる・・・か? しかし、これだけ時間が経っているのに福音はまるで動きを見せていない。まるで何かを待っているかのように――)

 

千冬がひとつの仮定を建てようとした、その時だった。

 

『~♪~~♪』

 

突然、旅館の外から、大音量でポップスのイントロが流れ始めた。

 

「っ!? いったい何事だ!?」

 

千冬はそばにいる教員に問いかける。

 

「わ、わかりません! 外に巨大な音源が設置されたと考えるしか・・・」

 

「くっ・・・。山田先生! 専用機持ちの様子を――」

 

「こ、この曲・・・」

 

真耶は外から流れてくる音楽、そして声に驚いた。

 

「山田先生? もしかして、この曲を知っているんですか!?」

 

千冬の怒鳴るような言葉に真耶は我に返ると、コクコクと首を縦に振った。

 

「は、はい! こ、これ、今話題のアイドルの生歌なんです!」

 

「あ、アイドルだと!?」

 

千冬は真耶の話を総合すると、どうやらアイドルの野外ライブが行われている可能性があるらしい。しかし、ここにはIS学園の生徒しかいない。そんな人物IS学園に入学していたら大騒ぎになっているはずだ。

 

(一体どうやってIS学園の臨海学校に・・・? いや、待て。そのアイドルとは――)

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー、奏君。呼んだ?」

 

俺は専用機持ちの待機している部屋へ、つかさとリリィを呼び出した。

 

「誰にも見つかってないか?」

 

「ああ、バッチリさ。この格好見ればわかるだろ?」

 

今二人が見にまとっているのは、この旅館の従業員の服。確かに、これならあまり違和感なく行動できる。

 

「えっと、奏羅さん・・・? なぜこのお二人なのですか・・・?」

 

セシリアが意味が分からないという声を上げる。

 

「そ、そうよ! あんたこんな時にふざけてんの!?」

 

「まぁセシリアに鈴、待てって。・・・リリィ、理由はプライベート・チャネルでさっき話したとおりだ」

 

「で、あたしたちの出番と?」

 

「ああ、そうだ。どうせお披露目するなら盛大な方がいいしな。・・・アイリスの調整は?」

 

「出来てる。ま、あたしたちは昼時は暇だったから時間はたっぷりあったし」

 

「そ、奏羅、いい加減どうやって織斑先生の気を引くのか教えてよ・・・」

 

「あ、ああ、悪い。そうだな」

 

シャルに急かされ、俺は意味が分からないという顔をしたみんなに向き直ると、つかさに指をさしながら告げる。

 

「今からこいつが歌を唄って生徒を焚きつけて騒がせる。その対応に教員が追われているうちに俺たちは出発する。それが作戦だ」

 

俺の作戦を聞いたみんなはキョトンとしていた。まぁ、意味が分からないだろうな。

 

「あ、あんたねぇ・・・。みんなでカラオケ大会でも開こうっていうの・・・?」

 

「そ、そうですわ! 大体そんなことで気を引けるのでしたらわたくしだって出来ます!」

 

「ああそうだ。俺達の中で誰が唄ってもみんなは騒ぎ立てないだろうな。でも、こいつならできる」

 

そういって俺はつかさの方を向いた。

 

「やってくれるよな、旭」

 

「ふふふっ・・・。いいよ、いつも私のワガママ聞いてもらってるし、私一肌脱いじゃうよ」

 

そう言って、旭は今までかぶっていたピンクのカツラ、大きめのサングラスを取ると、その素顔をみんなの前に晒した。

 

「あ、あんた・・・街中のポスターでよく見たことある・・・」

 

「わ、わたくしも、ファッション雑誌で・・・」

 

「ぼ、僕も食堂のテレビで・・・」

 

鈴、セシリア、シャルが驚愕の声を上げる。

 

「な、なんだ? どういうことだ?」

 

「貴様らは一体何に驚いているんだ・・・?」

 

箒とラウラは、まぁそういうことに興味はなさそうだからわからないのは仕方ないだろうな。

 

「どうも、はじめまして。私、奏君の幼馴染の塚乃旭です。職業でアイドルをやらせていただいてます。みんな、改めてよろしくね」

 

「「「「「え・・・」」」」」

 

「え?」

 

「「「「「エッーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!?????」」」」」

 

俺の目の前にいるみんながみんな、よくわからない声を上げる。多分、これは最近で聞いた中で一番の叫び声だった。

 


 
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