No.480630

戦う技術屋さん 十五件目 八神二佐とリィン曹長

gomadareさん

十六件目→まだだよ~
十四件目→http://www.tinami.com/view/473299

すっかりお久しぶりです。私書棚の方は更新してたのにね。
タグに戦う技術屋さんってつければ、タイトルにつける必要、ないんじゃないかな……。

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2012-09-06 22:33:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2014   閲覧ユーザー数:1885

 結局シャワーで制服を洗うことを諦めたカズヤは、びしょ濡れになった制服を諦めて、ロッカーに入っていた予備の制服に着替えると、給湯室で緑茶を煎れなおし、急須と共に湯呑を盆へ載せて。

 シャワーを浴び終えたカズヤが向かうのは、捜査部にあるギンガのデスクである。

「お待たせしました」

「ええ、本当に」

「……」

「……」

「そこは、今来たとことかいうところでは?」

「シャワーで制服洗おうとしていた人に優しい言葉をかける趣味はないわ。それにしても……洗えたの?」

「予備です」

 湯呑をギンガのデスクに二つおいて、急須から交互に茶を注いでいく。やがて八割ほど湯呑に茶が入ると、ギンガがそのうちの一つを手に取り、口をつけた。

 暫し流れる無言の時。やがてギンガが湯呑をデスクへおいて、カズヤの方を見た。

「温すぎ」

「そうですか?」

 ズズッと一口自分も飲んで。納得したように、カズヤは頷く。

「温いですね」

「極端過ぎよ。80度位でいいんだから」

「分かってはいるんですが。難しいです」

 更に一口飲みながら、カズヤは自身のデスクへ腰を下ろした。

「ところで、何か思いつきましたか?」

「……」

 既に椅子に座っていたギンガがカズヤの方を向く。

 その表情は無駄に真剣。何故だろうかとカズヤが首をかしげる中で、ギンガが口を開く。

「考えたは考えたけど――」

 そこから語られたのはカズヤの想像以上だった。勿論いい意味で。

「面白いじゃないですか」

「とうとう言い直さなくなったわね」

 勢いよく立ち上がって。拳を握るカズヤ。

「そうと決まれば練習です!テンション上げていきましょう!」

……………………

………………

…………

「……あれ!?さっきまでコンビネーションの練習を始めようとしてなかったっけ!?」

「何言ってるんです、ギンガさん?そりゃ、数日前からちょくちょく練習してますけど」

「そうじゃなくて!あなた、ハイテンションで『そうと決まれば練習です!テンション上げていきましょう!』って言ってたじゃない!?」

「いえ、ですからそれは数日前のことかと」

「何言ってるの!気をしっかり持ちなさい!」

「僕のセリフなのですが」

 何と戦っているのだろう、この人は。そんな視線をギンガへ向けるカズヤ。

 とりあえず何故か情緒不安定のようだから、とりあえずカズヤはギンガを医務室へ押し込み、無断で精神安定剤を注射する。先ほどまでとは打って変わって落ち着いた様子で寝息を立て始めた。

 

「……注射だけに、打って変わる?」

「別に上手くないわよ?」

「……」

 視線を移すも、ツッコミを入れてきたらしいギンガは眠っている。

 思考を読んだ上、寝言でツッコミ入れるなよと思わずにいられない。

「そういえば今日って八神二佐が来るんじゃなかったか?」

 現実逃避のため、今日の予定を思い返していたカズヤが、ふとつぶやく。

 来る時間は聞いていたため、時計を見上げて時間を確認し、それからギンガの方へ視線を戻す。

 ぐっすりだった。少し前の発狂っぷりとツッコミを思い出させないほどに。

 少なくとも、こんな彼女を起こそうとは、カズヤも思えない。まあ、薬のせいで当分起きないのだが。

「しょうがない……。ラッドさんに頼m」

 バフッとカズヤが言い切る前に、顔面に枕が飛んできて、言葉が中断される。

 重力に引かれ枕が落下し、投擲地点を確認すれば、当然ギンガ。眠っているはずなのに、その頭の下に枕が無い事から、飛んできた枕は間違いなくこれなのだが、一切布団が乱れていなかった。

「どんな投げ方したんですか、貴女は」

 枕を拾い上げ、ギンガの頭を持ち上げて、その下に枕を滑り込ませる。若干布団が乱れてしまった。

「……はぁ、仕方がないか」

 元々ギンガさんの仕事だったのだから、その人が出来ない以上は、補佐の仕事だろう。

 八神二佐には会いたくないなぁ、とぼんやり思いながら、カズヤは一路、部隊長室へ向かおうとしたところで、I-01が人事部から来た八神二佐の到着の連絡を告げる。

「心構えとかしたかったなぁ」

 言っても無駄なことは分かっていても言わずにいられない。

 だが向かわないと今度は眠っているにもかかわらず、殴られそうだったので、カズヤは部隊長室を諦めて隊舎の正面玄関へ。辺りを探すことなく、見覚えのある狸フェイスとその傍らの謎の小生物を発見し、その背中へ声をかけた。

「八神はやて二佐。リィンフォースⅡ曹長」

「ん?ああ、カズヤ。そういえば此処に異動になったんやったっけ?」

「二週間ほど前に。ギンガさんが体調不良でして。代わりに僕が。不必要かもしれませんが、部隊長室までご案内します」

「ほな、お願いしよかな」

「では、こちらへ」

 そう言って、カズヤは歩き始めた。はやてはその横に並び、カズヤへ話しかける。

「捜査課やったね。仕事にはもう慣れた?」

「まあそれなりには。とはいえ、デスクワークが主です。書類整理とか。その辺の仕事は、386でもやっていましたから」

「そうやったね」

「スバルとティアナはそちらではどうなんでしょう?」

「二人共頑張ってるよ。部隊長ともなると忙しくて、私はあんまり練習風景は見れないんやけど。高町隊長のお墨付きや」

「それはよかったです。別れてから連絡を取っていないので、どうなったか不安だったんですよ。そういえば、デバイスについては何か聞いていますか?」

「ちょっと前、実戦用の新デバイスに持ち替えたって聞いてるで。今はそれに慣れるのと、個人訓練が主やね」

「……そうですか」

 少し視線をそらし、はやてとリィンから顔が見えないようにしたカズヤ。表情に少し悲哀が浮かび、少しだけ泣きそうな顔になり。それでもはやてに「カズヤ?」と呼びかけられ、はやての方を向き直った時にはいつものカズヤであった。

「すいません、目にゴミが。部隊長室はこちらです」

 ドアのブザーを鳴らし、許可を得てからはやてと共に部隊長室へ。

 はやてはともかく、カズヤを見てゲンヤは少し驚いた様子であった。

「なんだ、カズヤが案内したのか。ギンガはどうした?」

「少し体調不良でして。では、僕はお茶を煎れて来ます」

「あ、お手伝いするですよー」

 一礼と共に部屋を出て。その後を追いリィンも部屋から出てくる。

 共に給湯室へ向いながら、リィンはふと気になったことをカズヤへ問いかけた。

「カズヤ、もしかしてカズヤが組んだですか?ティアナとスバルのデバイス」

「はい?そうですけど」

「あのアンカーガンとローラーを組んだの、カズヤだったんですか!」

「……知らなかったんですか?」

「スバルもティアナも教えてくれなかったですよ」

「あー、なるほど」

 給湯室でこぽこぽお湯を沸かしながらそんな会話をする。

 危うく沸騰させそうになったところをリィンに止められ、慌てて火から上げて茶を煎れる。

「シャーリーも褒めてたですよ。凄いって」

「……あれはまだ未完成です。性能面でも耐久面でも問題が多い。ついいつも通り調整前のを渡して、そのままですから。そろそろぶっ壊れてるんじゃないかって思ってるんですけど」

「……その通り、って言ったらどうします?」

「二人に合わせる顔がありません」

 信じて使っていてくれたのに、その信頼を裏切ったのだから。当然だ。

「その様子じゃ壊れてるんですか……」

 ボソリと呟き、カズヤは給湯室を出ていく。後を追って慌ててリィンも外に出た。

「カズヤ!待ってください!待ってってば!」

「っと、すいません」

 呼び止めるリィンの言葉にカズヤは足を止めた。その横にリィンが並ぶ。

 

「すいません。リィンフォースⅡ曹長」

「いえ。私も無神経過ぎました。ごめんなさいです」

「悪いのは僕ですから」

「それはそうと、カズヤ。呼び方、長いのでリィンだけで結構ですよ?」

「……ではリィン曹長で」

 

 さすがに長いと感じていたのか、言われるがまま、カズヤは呼び方を変える。

 その後、部隊長室で茶をはやてとゲンヤに差し出してから、リィンと共に医務室へ。

 その道中、108部隊へ来た理由の話をしながら。部屋に入れば、意外や意外。既に起きているギンガがいた。

「カズヤ、それにリィンさんまで」

「ギンガさん、具合は?」

「元々悪くないわよ」

 そう言うとまるでサボっていたように聞こえる。

「八神二佐は部隊長室へ。聞いた話では機動六課との合同捜査の件でした。捜査主任はラッドさん。副官にギンガさん。俺はギンガさんのサポートだそうです。六課の捜査主任はハラオウン執務官だそうで」

「そう。フェイトさんと一緒なら、張り切らないとね」

「元気ですねぇ。精神安定剤打ったんですけど」

「何やってるですか、カズヤ!?」

 カズヤからすれば、ついさっき合わせる顔がないと思っていたスバルやティアナ。それに加え六課の隊長陣と会いたくない顔が多くて憂鬱であった。

「それに伴い、ギンガとカズヤに六課からデバイスをプレゼントしたいのですが」

「結構です」

 カズヤは即答。ただでさえ多い手持ちデバイスを、これ以上増やそうとは思えなかった。

「え゛?」

「私も結構です。お気持ちは嬉しいですけど、そんなことしたら怒られちゃいますから」

「……怒られる?カズヤにですか?」

「俺は特に。ギンガさんの考えでしたら、別に構いませんが」

「カズヤじゃなくて」

『Ist es, unzufrieden mit mir zu sein?Ich streite mich.(私では不服だと?喧嘩なら買いますよ)』

「違うってば。ちゃんと断ったでしょ」

 ギンガのいるベッドの傍ら。棚の上に置かれたI-01が自己主張。

 苦笑いするギンガを見て、カズヤは(本当に仲いいな、この二人)と感心してしまう。

 その一方で驚いているのはリィンである。

「ふえ?デバイス?インテリジェンス……ギンガのですか?」

「ええ。カズヤが作ってくれて」

「カズヤが?」

「……識別名コールネームI-01並びにG-04。スバルに渡す予定だったものとは勝手は違いますが。これはこれで、結構完成型だったりします。まあ、ギンガさん用なので、スバルに渡しても使えないと思いますけど」

「はぁえぇ……」

スゥッと飛んで。待機状態のI-01を見つめる。

「I-01って正式名称ですか?愛称(マスコットネーム)は?」

「「……あー、忘れてた」」

『Ich wurde gerufen vollkommen durch I-01 und ist benutzt worden.(すっかりI-01で呼ばれ慣れてしまいましたからね)』

「……え?じゃあ、名前無いんですか?」

「「無いですね」」『Es gibt nicht es(無いですね)』

 三者同時に。さも当然の如く。

 そんな三人へ

「ダメダメですー!!」

 同じデバイスとしてリィンがキレた。先代リィンフォースの意思も継いでいる名前なだけあって、名前にはうるさいリィンフォースⅡ。

「三人とも、そこに正座しなさい!」

「嫌です」

「病人なので」

『Es ist ein Gerät.(デバイスです)』

「カズヤは正座!」

「何故俺だけ」

 そうは言いつつ、大人しく正座。

「いいですか!そもそも名前というものはですね――」

 そんな感じで始まったリィンのお説教タイム。

  かなり長続きしたこのお説教は、途中でラッドに呼ばれギンガが退出した後もカズヤと一対一で続いていき。

 後でギンガさんと相談して名前付けますから許してくださいと、カズヤが土下座するまで続き。

 その後。

「寒いわ痛いわ冷たいわ。酷かったです」

「大変だったわね、カズヤ」

『Ich bin, mein Meister dankt Ihnen.(お疲れさまです、我が主)』

「それはそうと。ラッドさんはなんと?」

「とりあえず、明日から数ヵ所。二人で密輸ルートを当たるから。覚悟しておきなさい」

「……了解しました」

 今からじゃないだけマシ。そう思わずにいられないカズヤであった。

 


 
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