第四話
俺は、昨日アスナとの約束の第74層の主街区ゲート広場でアスナを待っていたのだが・・・
キリト「来ない・・・」
時刻はすでに九時十分。
約束の時間を過ぎてもアスナが来ない
勤勉な攻略組が次々とゲートから現れ、迷宮区目指して歩いて行く中、俺はゲート前の銅像に持たれてスキル上昇具合を確認していると、転移門内部に何度目かの青いテレポート光が発生した。
俺はそろそろアスナが来たと思いゲートに目をやる。
アスナ「きゃああああ!よ、避けてーーー!」
キリト「おっと」
通常なら、転移者はゲート内の地面に出現するはずの所が、地上一メートル位の空中に人影が実体化し、そのまま俺に向かって突っ込んできた。
ボスッ
俺は突っ込んできた人物を受け止めた。
受け止めた人物は遅れてきたアスナだった。
アスナ「あ、あれ?痛くない」
キリト「そりゃあ、俺が体張って受け止めたからな」
と、アスナはやっと誰かに抱き締められている事が分かり、顔を上げた。
アスナ「キ、キリ、ト、君?」
キリト「よっ、おはよ、アスナ」
と俺は呑気に挨拶をした瞬間、アスナはどんどん顔を赤くして
アスナ「や、やーーーっ!!////////」
アスナは両手で俺を突き飛ばした。
俺はかなり強く銅像にぶつかった。
キリト「いててて」
俺はぶつかった銅像から体を起こした。
キリト「痛いだろうがアス――――」
アスナと言いかけた時、再び転移門が青く発光した。
アスナは、はっとすると後ろを素早く振り向き、慌てた様子で立ち上がると俺の背後に素早く回り込んだ。
キリト「どうし――――」
訳が判らないまま俺に対し、アスナをしっかりと背後に庇った。
ゲートは見る間に輝きを増し、中央から新たな人影を出現させる。
光が消えると、そこに立っていたのは、仰々しい純白のマントに赤の紋章のKoBのユニフォームを着た、やや装備過多気味の金属鎧と両手用剣を装備したクラディールだった。
グラディールは俺の背後に居るアスナに目を留めると、眉間と鼻筋に刻み込まれた皺をいっそう深いものにした。
確か彼は20代前半位かと思っていたが、皺のせいで余計に老けて見える。
クラディールはギリギリと音がしそうなほど歯を噛み締めたあと、憤懣やるかたないといった様子で口を開いた。
クラディール「ア・・・アスナ様、勝手なことをされては困ります・・・!」
ヒステリックな調子を帯びた甲高い声にアスナは不快そうに眉を寄せ、俺は厄介なことになりそうだと首を縮めた。
落ち窪んだ三白眼をぎらぎらと輝かせ、クラディールは更に言い募る。
クラディール「さあ、アスナ様、ギルド本部まで戻りましょう。」
アスナ「嫌よ、今日は活動日じゃないわよ!・・・だいたい、アンタなんで朝から家の前に張り込んでんのよ!?」
俺の背後から相当キレ気味のアスナが言い返す。
てゆうかコイツ、ストーカーなのか?
クラディールは不適に微笑み
クラディール「ふふ、どうせこんなこともあろうかと思いまして、私1ヶ月前からずっとセルムブルクで早朝より監視の任務についておりました。」
などと、得意げなアイツの返事に、俺は唖然とし、アスナは凍りついていた。
訂正、コイツは完全なストーカーだ
アスナ「そ・・・それ、団長の指示じゃないわよね・・・?」
クラディール「私の任務はアスナ様の護衛です!それには当然ご自宅の監視も・・・」
キリト「ふ・・・含まれないわよ、バカ!!」
アスナは少し怯えたように叫んだ。
その途端、クラディールはいっそうの怒りと苛立ちの表情を浮かべ、つかつかと歩み寄ると乱暴に俺を押しのけてアスナの腕を掴もうとしたので
キリト「悪いな、お前さんのトコの副団長は、今日は俺の貸切なんだ」
俺はアスナの瞳を見た瞬間、グラディールの腕を逆に掴んでクラディールは顔を歪め、俺の手を振り解いた
クラディール「貴様ァ……!」
軋むような声で唸ったその表情には、システムによる誇張を差し引いても、どこか常軌を逸した何かを感じさせるものがあった。
キリト「アスナの安全は俺が責任を持つ。別に今日ボス戦をやろうって訳じゃない。
本部にはお前ひとりで行きな。」
クラディール「ふ・・・ふざけるな!!貴様のような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるかぁ!!わ・・・私は栄光ある血盟騎士団の・・・」
キリト「テメェよりはマトモに務まるよ。」
俺はトドメの一撃を喰らわせた。
クラディール「ガキィ・・・そ、そこまででかい口を叩くからには、それを証明する覚悟があるんだろうな・・・。」
顔面蒼白になったグラディールは、震える右手でウィンドウを呼び出すと素早く操作した。
即座に俺の視界に半透明のシステムメッセージが出現する。
内容は見る前から想像は付いた。
【グラディールから1VS1デュエルを申し込まれた。受託しますか?】
無表情に発光する文字の下にYes/Noのボタンといくつかのオプションがあり、俺はチラリと隣のアスナに視線を向けた。
彼女にはこのメッセージは見えていないが、状況は察しているだろう。
彼女は驚いた事に硬い表情で小さく頷いた。
キリト「・・・いいのか?ギルドで問題にならないか・・・?」
小声で聞いた俺に、同じく小さいがきっぱりした口調で答える。
アスナ「・・・大丈夫。団長にはわたしから報告しておくから。」
俺はアスナに頷き返すと、Yesボタンに触れた。
オプションの中から、《初撃決着モード》を選択する。
これは、最初に強攻撃をヒットさせるか、あるいは相手のHPを半減させた方が勝利するという条件だ。
メッセージは【グラディールとの1vs1デュエルを受託しました】と変化し、その下で60秒のカウントダウンが開始される。
この数字が0になった瞬間、俺とグラディールの間で、街区でのHP保護が消滅し、勝敗が決するまで己のエモノを打ち合うことになる。
グラディールがアスナの首肯を自分の都合のいいように解釈したのか、
「ご覧くださいアスナ様!私以外に護衛が務まる者など居ないことを証明しますぞ!」
狂喜を押し殺したような表情で叫び、芝居がかった仕草で腰から大ぶりの両手剣を引き抜くと、がしゃっと音を立てて構えた。
どんな腐った野郎でも名門ギルドの所属だ。
エモノは奴の方が格段に見栄えがいいな。
俺たちが五メートルほどの距離を取って向き合い、カウントを待つ間にも周囲には次々とギャラリーが集まってきていた。
無理もないか。此処は街のど真ん中。しかもゲート広場である上に奴もそこそこ名の通ったプレイヤーだ。
男性P1「ソロのキリトと、KOBメンバーがデュエルだとよ!!」
男性P2「ホントだ!『黒の聖覇王』がいるぞ!!」
女性P3「うそ!あの子があのEXボス聖龍王と覇龍王を一人で倒したって言う上級者プレイヤーなの?」
女性P4「私、初めて見た!」
ギャラリーのひとりが大声で叫び、周りがドッと歓声が湧いた。
普通のデュエルは友人同士の腕試しで行われるのだが、この事態に至るまでの険悪な成り行きを知らない見物人たちは、口笛を鳴らすし野次を飛ばすしの大変な騒ぎだ。
だが、カウントが進むにつれて、俺にはその声たちが聞こえなくなっていった。
相手を敵と見なす。
そうすることで、研ぎ澄まされた冷たい何かが体の全身を貫いて行くのを感じる。
グラディエールの剣の構え方、足開きといった体全体の《気配》を読むべく、俺はゆっくりと意識を集中させた。
人間にはモンスター以上に、繰り出そうと意図する剣技の癖が事前に現れる。
突進系、受身系、上段からくるか下段からくるか。
それらの情報を相手に与えてしまうことは、対人戦闘では命取りになる。
しかし、クラディールは剣を中段やや担ぎ気味に構えており、その上、前傾姿勢で腰を落としていた。
明らかに誰が見ても突進系の上段攻撃だ。
まぁ、無論、それがフェイントということもあり得るので油断はしないが。
俺は腰の愛剣『エリュシデータ』を居合の構えを取った。
カウントが一桁になり、俺はウィンドウを消去した。
最早周りの雑音など、聞こえない。
最後まで俺とウィンドウとの間で視線を往復させていたクラディールの動きが止まり、全身がぐっと緊張した。
二人の間の空間に、紫の閃光を伴って【DUEL!!】の文字が弾ける。と同時に動くが明らかに俺の方が早く、一瞬でグラディールの間合いに入った。
クラディールの初動は推測通り、両手用の大剣による上段ダッシュ技、《アバラッシュ》だった。
生半可なガードでは、受けることに成功したとしても、衝撃が大き過ぎて反撃すらできないだろう。
避けても突進力によって距離ができるため、使用者に立ち直る余裕を与える優秀な高レベルな剣技だ。
だが、俺には関係ない。
結果は一瞬だった。
大半の者は、何が起きたか解らなかっただろう。
何せ‘ほとんどのプレイヤーが俺が消えていつの間にかグラディールを抜かしている様に見えたのだあら’だが俺には、ある確信があった。
俺は『エリュシデータ』を鞘に戻した瞬間、グラディールの大剣が真っ二つに折れた。
回転しながら宙高く舞う奴の剣の半身が、上空でキラリと陽光を反射したかと思うと、俺たちの中間の石畳に突き刺さる。
直後、その剣先とクラディールの手に残った下半分が、無数のポリゴンの欠片となって砕け散った。
そう、俺が狙ったのは(武器破壊(ブレイク・アーム))
まぁ、この技は無論滅多に起きることではない。
技の出始めか出終わりの、攻撃判定が存在しない状態の時に、相手の武器の構造上弱い位置・方向から強烈な打撃を加えられた場合のみ、それが発生する。
周りの観客からは「スゲェ」「今の狙ったのか?」などと、口々に先程の一瞬の攻防を講評し始める声をを聞き流し、俺はため息を呑み込みグラディール方を向くと
キリト「武器を替えて仕切りなおすなら付き合うぜ・・・今度は手加減なしだがな」
クラディールは俺を見ることなく、両手で石畳に爪を立てて体を細かく震わせていた。
だがやがて、軋るような声で「アイ・リザイン」と発した。
別に日本語で(降参)又は、(参った)と言ってもデュエルは終了するのだが。
直後、開始の時と同じ位置に、デュエルの終了と勝者の名を告げる紫色の文字がフラッシュした。
この、戦い俺の勝ちだ!
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遅れてすみません!
では!スタート!