No.480136

天の迷い子 第十二話

へたれど素人です。
やっちまった~~!!
一回投稿したやつをまたアップしちまった!
本当に申し訳ない!
投稿し直しです。

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2012-09-05 19:23:09 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1620   閲覧ユーザー数:1458

Side 北郷一刀

 

朱里の放った斥候によれば敵の兵数は約四万。

さらに率いる将軍は猛将と名高い華雄将軍。

率いる兵は精強で、士気も高いらしい。

対してこっちは、総大将の袁紹が出した作戦は“雄々しく、勇ましく、華麗に前進”っていうもの。

作戦なんて無いと言ってもいい。

しかも、連日の奇襲もどきによって、一部の軍を除いて、士気は低下している。

こんな状態で策も無く本当に戦えるのだろうか。

 

そう言ってみると、雛里は、

 

「攻城戦の関して言えば、作戦や策というものは必要ではないんです。」

 

とのこと。

何でも、攻城戦では圧倒的に篭城側が有利だから、野戦と違い策というのは調略方面でしか活躍できないらしい。

 

「う~ん、何か弱点みたいのがあればいいんだけど。」

「弱点ですか…。華雄将軍は自分の武に誇りを持っている様なので、そのあたりを突いてみるのもいいかもです。」

「ふむ、自らの武に誇りを持つものならば、彼奴を罵って関より引き出す、というのもありかも知れんな。」

 

雛里の意見に愛紗も頷く。

 

「しかし、一流の将がそのような見え透いた挑発に乗るものか?」

 

と、星が疑問をぶつける。

しかし、愛紗は鈴々を見て「乗るさ」と言い、星も「確かに」と笑いながら同意する。

鈴々は何もわからないようで、頭に?マークを浮かべ、首を傾げていた。

その姿を見て、穏やかな笑い声が上がっていた。

 

その後、突出してきた華雄をどうするかを話し合った。

 

作戦はこうだ。

関から出てきた華雄を一度受け止め押し返す。

そして、再度押し返してくる華雄を受け止める振りをしながら袁紹に擦り付ける、というものだ。

 

上手くいく保証はない。

だけど、愛紗も鈴々も星も、歴史に名を残す武将だ。

だから俺は必ず成功すると信じてる。

 

「ご主人様…。この関雲長、必ずご主人様の期待に答えて見せます!」

「鈴々だってたくさん頑張るのだ。お兄ちゃんは安心して見てるといいのだ。」

「ふっ、二人とも張り切っているようだ。では私もその勢いで見せ場を取られぬように力を振るうとしましょう。」

 

三人は力強く言葉を返すとそれぞれの持ち場へ向かっていった。

 

愛紗、鈴々、星、無事に帰ってきてくれ。

 

Side 高順

 

開戦してから三日。

劉備・公孫瓉両軍の現在の攻撃は、はっきり言って超ぬるい。

散発的に弓での攻撃を仕掛け、引いていく。

どう考えてもまともに戦う気は無く、挑発する前段階ってとこだろうな。

まあ、普通に冷静な判断が出来る武将ならこんなことでイラついたりはしないんだが華雄将軍は、

 

「≪イライライライラ≫…何なのだ!あいつらは!毎日毎日ちまちまと矢を射掛けるだけですぐに退いて行きおって!戦う気が無いのか!」

 

とまあ今朝からこんな調子でイラついてるわけだ。

ここで相手から直接罵声でも浴びせられたらブチ切れるかも。

 

「董卓軍守将華雄よ!我が名は関雲長!劉玄徳が一の家臣なり!」

 

あ、来た。

 

「堅牢な砦に引きこもり震えている名ばかりの猛将よ!その武が偽りでなければこの私と戦え!………ふっ、言葉を返すこともできんとはやはり腰抜けか。貴様の武勇は所詮賊などの弱い輩を倒すことで手に入れた偽りの物なのだろう!?ならば仕方なし!そこで震えているがいい!」

 

ああ、あからさまな挑発だな。

 

「くっ!あそこまで言われてはもう我慢できん!討って出るぞ!」

「ちょい待ちぃ!何あほな事ぬかしとんねん!うちらの任務はここを護ること、ひいては月っちを護ることやろが!」

「しかし、我が武を愚弄されて黙ってなどおれん!霞!お前も武人ならわからんとは言わせんぞ!」

「気持ちはわかるし、うちかて仲間を馬鹿にされてめっちゃ腹立ってる!けどそれでも、ここは堪えなあかん!」

「くそっ!うああぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

あ~あ、こりゃ出てっちまうのも時間の問題だな。

流騎の奴に相談しとくか。

明日当たり手ぇ打っとかねえとやばそうだな。

 

 

 

んでもって次の日。

相も変わらずてきとーな矢での攻撃。

その後赤い服を着た桃色の髪の美女が前に出てきた。

 

「汜水関守将華雄に告げる!我が名は孫伯符!我が母、孫堅に破れた貴様が再び我等が前に立ちはだかってくれるとは、有り難し!その頸を刈るのにいかほどの難儀があろう!…いや無いな。稲を刈る程に容易い事だろう!どうした華雄!何も反論は無いのか!それとも江東の虎、孫堅のやられたことがそれほどに怖かったか!?ならば致し方なし!孫堅の娘、孫策が再戦の機会を与えてやろうと思ったのだがな!それも怖いと見える。ふっ、臆病者め!さっさと尻尾を巻いて逃げ出すがいい!さらばだ、負け犬華雄殿!」

 

うわー、よく舌噛まないであんな長い口上言えるよな。

さて、しょーぐんの方は、と。

 

「≪ブチリ≫うおぉぉおお!!もう我慢ならん!言わせておけばいい気になりおって!!今すぐ叩き殺してくれる!」

 

おお、キレた。

 

「ちょっ、待ちぃ!向こうはあんたを引きずり出すんが目的やねんで!このまま出て行ったら相手の思う壺や!」

 

張遼将軍が華雄将軍を羽交い絞めにして止める。

それでも収まらず、将軍は暴れている。

 

そこに救世主登場。

 

ぱんっ!

 

伝令から報告を受け、こっちに駆けつけた流騎が華雄将軍の頬を平手打ち。

将軍も二人とも唖然としてる。

 

「頭を冷やせよ、雄姉。そんな冷静さを欠いた状態で討って出てもやられるだけだ。」

「ば、馬鹿な事を言うな!あんな連中、簡単に叩き潰してやる!」

「…俺ごときの平手打ちも避けられないのにか?」

 

ごもっとも。

 

「それは、不意打ちだったからで…。」

「そんな言い訳、戦場で通じると思ってるのか?」

「そ、それは…。」

「ほら、そこまでや。完全にあんたの負けや。流騎の言うほうに理が有る。」

「うう、すまん。頭に血が上ってしまって。」

 

何時もの事の様な気もするけど。

 

「いいさ。そういう誇り高いところが雄姉の良い所でもあるんだ。ただ、ここで出すべきじゃなかったな。それに気がつけたんだから問題無い。」

 

ぽんぽん、と流騎が将軍の頭を撫でるとしゅんとなって俯いちまった。

ああしてると犬っぽいな。

とりあえず向こうは収まったみたいだし、こっちも言われっぱなしって訳にもいかねぇよな。

 

「お~い、孫策さ~ん!」

 

おっ、こっち見た。

それじゃ、おちょくってやるか。

 

「相手を罵倒するのはいいけどそこに親の名前を出すのはどうだろう。それって自分の小物さを宣伝してるようなもんじゃねぇ?ああ、もしかして虎の威を借るなんとかってことわざにひっかけてるのか?江東の虎だけに。親の名前を出せば自分が何割り増しかに見えるんだろうけど、激烈に情けなくねぇ?どこぞの馬鹿の名門袁家ですわってのと何がちがうんだろうねえ。まあ、作戦は失敗したんだから、陣に戻ってお母様のお乳でもしゃぶってれば?」

 

ドンッ!!!

 

うひゃっ!めっちゃ殺気飛ばしてるよ、あの人。

怖っ!

でもさすがに突っ込んでは来ないな。

怒りに任せて突っ込んできたら矢でも浴びせてやろうと思ったんだけど、まあいいか。

 

Side 孫堅

 

華雄を挑発しに行った雪蓮が肩を怒らせながら戻ってきた。

 

「ああもう、ムカつくわね!何よあいつ!何がお乳でも~、よ!馬鹿にして!!」

「あっはは!またこっぴどくやられたわねぇ。でも、相手にもなかなか面白い子が居るみたいじゃない。」

 

ぷりぷりと腹を立てて雪蓮は奥に引っ込んでしまう。

はぁ、あの程度で取り乱すなんてまだまだ未熟だねぇ。

あの子には自身の血の欲求すらも押さえ込めるぐらいの心の強さが欲しい所なんだけど。

 

私は自分の脚を撫でながらため息を吐く。

あの劉表軍との戦いで動かなくなってしまった、両足を。

 

最初は、劉表軍との小競り合いから始まった。

どちらの軍が関を越えた越えないなどという下らない事が発端だった。

いつしか小競り合いは激化。

軍対軍の戦いになっていた。

無駄な犠牲を減らすため、私は前線に赴き、劉表と話をつけようとした。

同じ漢の臣、話し合えばわかるだろうと。

それが油断に繋がった。

道中、劉表軍の将、黄祖の伏兵に遭い矢傷を受けた。

矢には毒が塗ってあったらしく、私は生死の境を彷徨った。

幸い一命は取り留めたが、私の両脚は二度と動かすことが出来なくなっていた。

 

孫家は私の武の力によって地位を得た。

その私が歩くことすら出来なくなり、力を失うということは、孫家も力を失うということでもある。

家督を継いだ孫策はまだ若く、その補佐についている周瑜も才はあれどまだ未熟。

力で抑えてきた豪族たちはどんどん離散していった。

 

そして今は、袁術の客将に甘んじ、再起の時を伺っている。

 

雪蓮もようやく孫家の棟梁らしくなっては来たものの、その気性は激しく時折突っ走ってしまう傾向がある。なんとかならないものかしら。

 

それにしても以外だったわ。

あの華雄があれだけの挑発をされて飛び出してこないのだもの。

ただ、ここ数日の汜水関から感じる気勢や空気感から察すると、あの猪突猛進娘を止められる人間がいたというところかしら。

どんな子か一度会ってみたいわね。

 

 

Side 高順

 

「んじゃあ流騎、そろそろ始めるか?」

「そうだな、雄姉を引っ張り出す算段も失敗した直後にまさか討って出るとは思わないだろうし。」

 

流騎はおもむろに旗を持った。

 

「何?どういうことだ?何を始めると言うのだ?」

「簡単だよ。奇襲をかけるんだ。」

 

そう言うと、持っていた旗を左右に三度振った。

すると、左右両方の崖からゴーンゴーンという鈍い音が聞こえてきた。

 

「これは…。何や?何かの工作か?」

「説明は後でするよ。雄姉は下へ、遼姉はここで守備に徹していてくれ。」

 

俺たちは踵を返し、下へ降りる。

さあて、精々慌ててくれよ。

 

 

Side 一刀

 

なんだ?崖のほうから変な音が響いている。

何かを叩くような音が。

 

するとあわてた様子で雛里が駆け寄ってきた。

 

「あわわ!ま、まじゅいでしゅ!!!ご主人しゃま!桃香しゃま!さ、下がってくだひゃい!!」

「え?どうしたの?雛里ちゃん、急に。」

「時間がありましぇん!早く!」

 

言うが早いか、雛里は俺たちの馬の手綱を引っ張る。

すると、

 

ガゴンッ!!

 

という大きな音が響いたかと思うとその瞬間、左右の崖が崩れてきた!

 

「なっ!!!」

 

そんな馬鹿な!

この時代にはダイナマイトみたいな爆弾は無いはずだし、たとえあったとしても爆発音なんて聞こえなかったじゃないか!

狼狽する俺に雛里が説明をしてきた。

 

「おそらく、あらかじめ杭を崖が崩れるギリギリのところまで打ち込んでおいて、機を見て最後の一押しをすることによって崖を意図的に崩したんだと思います。事前の調査で多数の杭が打ち込まれているのは確認されていたんです。ただ、まさかそれが崖を崩すための物だとは。ごめんなさい、軍師である私達が気付かなきゃいけなかったのに。」

「そんな、雛里や朱里のせいじゃないよ。それよりも愛紗達の無事を確認しないと。」

 

皆の安否を確かめる為に、俺は伝令を走らせた。

 

皆、無事でいてくれよ。

 

 

Side 関羽

 

くっ、崖を崩すなどなんという出鱈目な策だ!

ただでさえ狭い峡間の道がさらに狭くなったうえに左右から兵が中央によって動きが制限されている。

 

「…まずいぞ、愛紗。いったん下がって主達と合流した方が良いかも知れん。」

「何?どういうことだ、星?」

「がけ崩れによって兵が混乱し、道幅が狭くなったことで陣形が崩れている。さらに我等のような将はともかく、他の者達は意識が崖側に集中してしまっている。これが相手の策だとすれば、この機会を逃すとは………遅かったようだな。」

 

はっ、として門のほうを見ると、敵軍がすでに布陣していた。

そこには漆黒の華旗、つまり華雄が出てきたのだ。

 

「行くぞ!華雄隊突撃いぃぃぃいいい!!!!」

 

号令とともにこちらに向かって怒涛の勢いで突進してくる。

 

「このままでは全滅も有り得る。愛紗よ、ここは我等が前に出て奴らの勢いを止めるしかあるまい。」

「わかっている!劉備軍の勇者たちよ!敵の姑息な策略に乗せられるな!!よく見ろ、敵は我等よりも少ない!隊列を整え冷静に対処すれば負ける相手ではない!!皆我等に続け!!!」

 

 

 

怒涛の勢いで疾走する軍を見ながら霞は言う。

 

「しかし、あんなに上手いこと崖を崩せるとは思わんかったなあ。石切の業っちゅうのは大したもんや。ようあんな奴ら連れてこれたなあ、蔡楼はん。」

 

それを聞いてやや後ろに立っている老人、蔡楼が口を開く。

 

「今も昔もわし等のような商人の武器は人脈ですからな。それに、どのような事柄においても、まず優先するべきは人材の確保。このくらいの事は朝飯前でございますよ。」

「さすがは大陸で五本の指に入る大商人、ちゅうことか。そんな大物を流騎が連れて来た時は素直に驚いたけど、なんであいつの頼みを聞こうと思ったんや?」

「ふぉっふぉっふぉ、先ほども言いましたが、人材の確保こそ何より重要な事。優秀な将や軍師とのつながりが持てるというのはとても魅力的です。それが中央で力を持っている人間なら多少の苦労をしてもつながりを持っておくべきでしょう。例え貴女方がこのまま負けたとしても、中央や他の有力者に取り入るきっかけにもなりましょうしな。」

「つまりは、打算あってこそっちゅう訳か?」

 

眼を細め蔡楼を睨む。

 

「そういうことです。…ただ、この歳まで商人をやっておりますと人の醜さを身をもって知ってしまいます。大切な友の誕生日にうんうんと一生懸命に贈り物を選び、その人の笑顔を思い浮かべてはしまりの無い顔をしていた少年が、親友の一大事だから力を貸して欲しいと地面に頭を擦り付けて頼む姿と真摯な表情に心を打たれた、というのも理由の一つではありますがな。」

 

目の前の風景、おそらくはその中のたった一人を見て、わずかに口元を歪ませる。

 

「ははっ、なんや結局はあんたも流騎の事を好いてしもたっちゅう事やんか!」

 

ばしばしと蔡楼の背中を叩く。

そして蔡楼は何も言わず、頭を軽く下げ去っていった。

 

 

汜水関を見上げ蔡楼はつぶやく。

 

「流騎か。ただの少年にしか見えんのに、董卓軍において重要で特殊な立場に身を置いておる。なかなかに先が見えん奴じゃ。天はあやつに何を求めておるのか、それとも天の意図とは外れた場所におるのか、興味が尽きん。叶うなら生きてまた会いたいものよな。」

 


 
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