No.480099

ソードアート・オンライン デュアルユニークスキル 第四話 風見鶏亭で

やぎすけさん

デュオは自分のこと悪い奴とか言ってますが本当はかなり良い奴です。

※注 デュオはロリコンではありません。

2012-09-05 17:41:53 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4006   閲覧ユーザー数:3820

シリカ視点

風見鶏亭の一階部分はホテルのロビーになっていて隣接してレストランが置かれている。

 

デュオ「とりあえず、チェックイン済ませてくるから、適当な席に座って待ってて。」

 

そう言ってこちらを見るデュオさんに頷いて返すと、デュオさんは受付へと向かった。

あたしは奥の隅の方の席に座ってデュオさんを待つ。

少しするとチェックインを終えたらしいデュオさんはこちらを見つけると、小さな丸テーブルをはさんだ向かいの席に座った。

 

シリカ「あの……」

 

あたしは不快な思いをさせたであろうデュオさんに謝ろうと口を開くが、手で制されてしまった。

 

デュオ「まずは食事にしよう。話はそれからでも遅くは無い。」

 

デュオさんがそう言ったちょうどその時、ウェイターが湯気ののぼるマグカップを二つ持ってきた。

中には不思議な香りの立つ赤い液体が満たされている。

あたしはその不思議な熱い液体を一口すすった。

 

シリカ「おいしい・・・」

 

スパイスの香りと、甘酸っぱい味わいは、昔父親に少しだけ味見させてもらった

ホットワインに似ていた。

しかし、自分はこの宿に既に二週間近く滞在していたにもかかわらず、この味におぼえがなかった。

 

デュオ「NPCのレストランってのはボトルとか、飲み物の持ち込みも出るんだ。これは【ルビー・イコール】って言うアイテム。カップ一杯で敏捷力の最大値が1上がる便利なアイテム。」

 

シリカ「そ、そんな貴重な物・・・」

 

デュオ「まだまだいっぱいあるから。なんなら、いくつか持っていく?」

 

シリカ「い、いえ、大丈夫です。」

 

とは言ったものの、実は欲しいと思った。

どこか懐かしいその味は、悲しみのせいで硬く縮んだ心をゆっくりと解きほぐしていくようだった。

やがてカップが空になっても、その暖かさを惜しむようにしばらくそれを胸に抱いていた。

あたしは視線を落とし、ぽつりと呟く。

 

シリカ「なんで・・・あんな意地悪言うのかな・・・」

 

デュオ「さぁね。俺は、いじめられる側の人間だったから。」

 

あたしの呟いた言葉にデュオさんが意外な答えを返してきた。

 

シリカ「そうなんですか!?」

 

あたしは顔を上げるとデュオさんの目を見る。

するとデュオさんは気にしていないような感じで言う。

 

デュオ「まぁね。それでいじめられてる内に、段々いじめられることに慣れていって、今じゃ何も感じなくなった。」

 

シリカ「味方してくれる人はいなかったんですか!?先生とか・・・」

 

デュオ「残念ながら、その先生からもいじめを受けていた。ついでに家族からも。」

 

シリカ「そんな・・・」

 

デュオ「もういいんだよ。慣れたから。」

 

あたしはデュオさんの話を聞いていて心が痛くなった。

周りから常にいじめを受けていて、それでいてそれに慣れるなど普通の人には到底耐えられない。

目の前にいるこのプレイヤーは軽い人当たりをしているが、

どこか影のような印象を持っているのはそのためなのだろう。

このプレイヤーはその余裕そうな雰囲気に似合わない、深い闇を何となくだが感じ取っていた。

 

デュオ「まぁ仕方ないのかもな。俺は悪い奴だし。」

 

自嘲気味に笑うデュオさんのその姿は、さっきまでとは全く違うもので、

見ていることさえ辛かった。

いたわりの言葉を掛けたかったが、言いたい事を上手く形にする事が出来ない。

その代わりにあたしはテーブルの上に置いてあったデュオさんの右手を、無意識に両手で包み込んでいた。

 

デュオ「デュオさんは良い人です。あたしを、助けてくれたもん!」

 

デュオさんは驚いて一瞬硬直するが、すぐに力が抜けるとどこか遠くを見るような微笑を浮かべる

 

デュオ「そんなふうに言われたのはいつ以来だろうな・・・ありがとう、シリカ。」

 

その時、あたしは胸の奥のほうがずきん、と激しく痛むのを感じた。

わけも分からない内に心臓の鼓動が速くなり、同時に顔が熱くなる。

慌ててデュオさんの手を放し、両手で胸をぎゅっと押さえた。

でも、依然として深い胸の疼きは消えない。

 

デュオ「どうした?」

 

テーブル越しに身を乗り出してくるデュオさんにぶんぶんと首を振り、

どうにか笑顔を作る。

 

シリカ「な、なんでもないです。」

 

若干言い訳がましいと思いつつも、あたしは話をそらすためにそう言った。

 

 

デュオ視点

夕食を済ませた俺たちは時刻が8時を回っていたので、風見鶏亭の二階に上がった。

広い廊下の両脇に、ずらりと客室のドアが並んでいる。

俺は自分の部屋に向かうと、偶然にもそこはシリカの部屋の隣だった。

俺たちは顔を見合わせて、笑いながらおやすみと言う。

部屋に入ってから俺はアイテムの整理をすることにした。

部屋に入ってから30分が経った。大体の整理が終わったので

そろそろ寝ようと思って装備の解除を行おうとした時、屋に扉をノックする音が響いた。

 

デュオ「誰だい?」

 

?「あ、あの、シリカです。」

 

デュオ「ちょっと待って今開ける。」

 

俺はウインドウを閉じてから立ち上がり、ドアを開く。

そこにいたのは、可愛らしいチュニックを身にまとったシリカだった。

 

シリカ「ええと、その……よ、四十七層のことを、聞いておこうと思って・・・」

 

なんだか慌てて言っているようだが、特に気にすることもないだろう。

 

デュオ「あぁ、なるほど。とりあえず入れば?」

 

俺はそう言ってドアを大きく開けて一歩下がる。

シリカはおずおずと部屋に入ってくる。

俺はシリカをいすに座らせてからテーブルを出して

アイテムウインドウから取り出した小箱を置く。

その中には小さな水晶玉がランタンの光を反射してなかなか幻想的な光を放っていた。

 

シリカ「きれい・・・。それはなんですか?」

 

デュオ「【ミラージュ・スフィア】っていうアイテムだよ。簡単に言えば立体マップ。」

 

そう言って俺は水晶を指先でクリックする。

すると水晶玉が青く発光し、大きな円形の立体ホログラムが現れる。

 

シリカ「うわあ……!」

 

シリカが歓声を上げ、身を乗り出すようにホログラムを覗き込むと

目をうっとりさせている。

俺はホログラムを指で指しながら四十七層の説明を行う。

 

デュオ「ここが思い出の丘で、こっちが主街区。で、この道を通っていくんだけど・・・」

 

俺はここで話を中断する。

 

シリカ「デュオさん・・・?」

 

シリカが覗き込むようにこちらを見ている。

俺はシリカに人差し指を口唇にあてて静かにするように伝え

やや大きめの声で言う。

 

デュオ「ねぇ、君たちはシリカのファン?それともストーカー?」

 

プレイヤーは動く気配はない。俺は足音を殺してドアへと近づくと

勢い良くドアを開け放つ。

 

デュオ「ひどいな~無視しないでよ~」

 

不気味な笑みを浮かべ、腕を鳴らしながらそう言うと、

盗み聞きをしていたプレイヤーたちは一目散に逃げていった。

追いつくのは簡単だが、今は下手に捕まえず、泳がせて仲間が揃ったところを

一網打尽にするのが得策だろうと思い、そのまま逃がす。

慌てたようにシリカがドアから顔を出した時には、

既に盗み聞き犯は階段を飛び降りて下に消えたところだった。

 

シリカ「な、何・・・!?」

 

デュオ「盗聴だよ。」

 

シリカ「盗聴・・・!?で、でも、ドア越しじゃあ声は聞こえないはずじゃ・・・?」

 

デュオ「残念ながら、聞き耳スキルが高いと簡単に盗聴できるんだ。まぁ、そんなの上げてる物好きはあまりいないけど。」

 

とりあえず部屋に戻りドアを閉めた後、俺は再びいすに座る。

ベットに座るシリカを見ると、シリカは自分の事を抱くように両腕を自身の身体に回している。

 

デュオ「・・・大丈夫?」

 

シリカ「あ、はい。・・・でも、何で盗み聞きなんか・・・」

 

デュオ「単純に情報泥棒ってところだよ。ちょっとメッセージを送るから待ってて。」

 

と言いつつ俺は、机の上のスフィアを片づける。

そして手早くメッセージを入力して、送信する。

 

デュオ「さて、今日はもう遅いから続きは明日に・・・」

 

ウインドウ画面を閉じた俺が振り向くと、

シリカは俺のベットの上で静かな寝息を立てていた。

 

デュオ〈相当疲れていたんだろうな。〉

 

俺はすやすやと眠っているシリカにそっと掛け布団をかけて

シリカの頭を優しく撫でる。

 

デュオ〈おそらく俺たちはオレンジのターゲットにされたな。少し面倒なことになりそうだ。〉

 

そう思いながらベットから離れると

いすに座り、剣をアイテム欄(ストレージ)に戻してから

コートを掛け布団の代わりにして眠りについた。


 
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