「ぐうっ!」
魔理沙の火球の呪文が直撃したと同時に、振り下ろされていた剣が体をかすめる。いつもの服の上に冒険者用のローブを纏っているとはいえ、斬られたという感覚と衝撃は容赦なく魔理沙の身体と精神に襲いかかる。火球が直撃した骸骨の剣士は、盾を持っていた左手どころか肩と胸も吹き飛ばされて首がこぼれ落ちそうになっている。しかし、まだ崩れ落ちていないことからも、生きているとみなさなければならない。
『アンデッドに対して”生きている”なんて言葉、使いたくもないけれどね』
魔法使いの割には素早い魔理沙に遅れること数秒、パチュリーは魔法の発動手順を終えて皆が待ちに待った攻撃魔法を放つ。
「火炎っ!」
急に襲ってきた骸骨の剣士5体を全て巻き込む火炎の呪文だ。威力も1体を攻撃する火球の呪文よりはるかに優れていて、骸骨の剣士は炎に包まれるとカラカラと音を立てて崩れ去っていった。
戦闘が終わったことを確認したパーティが緊張を解くと、慣れない前衛を務めている魔理沙がへなへなと崩れ落ちた。
「流石にこれは、霊夢か美鈴のどちらかでも復活してもらわないと持たないぜ。今のだって、火球の発動が間に合ったから良かったものの……一瞬遅れていたら大怪我で済んだかどうかわかったもんじゃない」
「まあ、私なら確実に一撃で終わるでしょうね」
同じ魔法使いであるパチュリーは、その斬撃を見て改めて思う。曲がり角で急に襲われた先ほどの展開なら、場合によっては死の危険すらあった。たまたまレミリアに3体、咲夜に1体、魔理沙に1体とばらけて向かったから良かったものの、例えば魔理沙に3体の攻撃があったとすればどうか。先ほどの斬撃を見る限りでは、魔理沙は3度の攻撃に耐えることはできないだろう。そうすれば後衛のパチュリーにも攻撃が届くようになるので、火球の呪文を唱えるよりも早く攻撃を食らう可能性が出てくる。体力の少ないパチュリーならば、まず一撃で終わってしまうだろう。
パーティとしても、レミリアと咲夜の肉弾戦に任せるしかなくなる上に、魔法使いの2人は永遠亭行きになる。動ける者が2人になった時点でこの探索はほぼ詰んでしまう。やはり、この4人体制にはかなりの無理があると言える。
「1階ならいけると思ったのだけれど、急に襲いかかって来られたらちょっとキツいわね。私は大丈夫だけど、私だけ生き残っても仕方ないもの。ああ、パチェ。さっきの、あとどれくらいいけそう?」
「火炎のことなら、あと1回が限度よ」
「なら、入口近くの扉を開けたら敵がいると思うから。初手でいきなり唱えちゃって。今日はそれでお終いにしましょう。咲夜っ」
はい、と言った従者の盗賊は、皆が所持しているお金を集めて数えはじめた。
「総額で347GPです。敵の強さと拾えるお金についてはかなりのバラつきがありますので、運が良ければ次で400に届く可能性があります」
「400なら、霊夢は回復させられるわね。魔理沙、きついだろうけどいける?」
「ああ、霊夢の回復がかかっているのなら、もうひと踏ん張りしないとな」
座ったままではあったが、笑顔を浮かべながら返事をした。
「たぶん、パチュリーまで回れば一撃で終わるわ。先制攻撃だけはされないように、みんなも気をつけて。魔理沙は自分の身だけを守ってくれればいい」
「ああ、わかった。もう前衛はこりごりだ。次で最後にして欲しいぜ」
魔理沙は、心の底から疲れ果てたという声で語った。
その願いは、次の一戦ですぐに叶えられることになる。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
地下一階:慣れない肉体労働とまだ気づかない少女たち