No.478933 いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生したたかBさん 2012-09-02 17:56:14 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:16271 閲覧ユーザー数:15053 |
第五十八話 揺れない天秤
「…では、これが最後の質問だ。クロウ。君に反抗の意志はあるか」
「…ない」
管理局からやって来たアコース査察官にクロウの心理検査をやってもらったが、査察官の結果は反逆の意志ありと判断された。
「…クロウ。君は本当に変わってしまったのか?それともこれもスフィアの影響なのか?」
「何を言っているかわけが分からないな!さっさと俺をここから出せ!ブラスタを返せ!でないと、あいつが俺の」
「…女に手を出す?とでも言いたいの?」
取調室では幾つものリミッターで拘束されたクロウとアコース査察官の他に、クロノとリンディ。そして、離れた場所からモニタリングしているエイミィが取り調べを行っていた。
「…クロウ君。色欲を覚えるには早すぎるとも思えるけど…。少なくても高志君に彼女達をどうこうするつもりはないわ」
「…どうだか」
「…クロノ執務官。リンディ提督。少し、彼と話をさせてくれませんか?」
「…査察官。何を考えてらっしゃるのですか?」
碧の髪を有したクロノと同年代を思わせる青年。アコース査察官はクロウとの一対一での話し合いを設ける。
「彼もこんな複数の
「…わかった。だが、リミッターはもちろんだが彼の監視としてモニタリングは継続させてもらうぞ」
「ええ、構いません」
「…クロウ君。貴方自身が信頼されるためにも馬鹿な真似はやめて頂戴ね」
そう言ってハラオウン親子が取調室を後にする。
取調室の扉が閉ざされた瞬間にアコースは微笑みながらクロウを見る。
「…さて、それじゃあお話しましょうか」
「野郎と話す趣味はねえな」
クロウは未だにふてぶてしい態度をとるがアコースはその微笑みを崩すことはなかった。
「趣味は無くてもあなたには話すことがあるはずです。…例えば『傷だらけの獅子』に関することで」
「…さて、な。何のことだ?」
(伊達に査察官という立場じゃないってことか)
クロウは自分のスキルでアコースを見る。
彼からは興味という色がみてとれたがそれ以外には見ることが出来ない。
ただ、クロウは自分が知っているこの世界。いわば原作の未来を大体知っている。
それがアコースの心理を探る魔法に引っかかったのだろう。
そして、クロウは思い出した。
ゲームでの『傷だらけの獅子』のスフィアがもたらした事柄を。
「これ以上黙っていてもあなたが不利になるだけですよ?」
「…ブラスタを返してもらえるなら話してもいいぜ」
最悪、ブラスタを入手した後。
クロウは原作の知識を持ってとある
だが、それを話してはアコースはもとより今この場で捕縛。そのチャンスは無くなる。
だから、クロウは先にブラスタの返還を求めた。
『傷だらけの獅子』のスフィア。その力は死者をも蘇らせる。
つまり、アリシアの存在が管理局を揺るがす存在でもあるのだ。
もし、その力を管理局が知れば高志の拘束はもとより高志とアリシアを実験動物のように扱うだろう。
それほどまでに管理局にとってあの二人の情報は魅力的でもあった。
「…内容にもよります。そして、ブラスタを取り戻したらあなたはどうするおつもりですか?」
「…べつに。何もしないさ。ただ、俺の力であるブラスタを取り上げられたままじゃしゃくだからな。何、損はさせないさ」
(今は、な。だが、ブラスタがあれば迷彩システムと情報処理能力でアースラの連中も撒ける。そうすれば…)
クロウは顔をにやつかせながらアコースに話しかける。
すると、その様子を見たアコースはしぶしぶながら待機状態のブラスタをクロウの目に映るかのように手のひらに載せてみせる。
「…こちらですね」
「…ああ。それだ」
(…こいつ。…これは期待してもいいようだ。だが、ブラスタが手元に戻ればこっちのものだ)
「では、話してもらいましょうか。『傷だらけの獅子』について…」
アコースはクロウにブラスタを見せた後、再び懐に戻して話を続ける。
そして、クロウは語った。
アリシアは元々死んでいたと。そして、それは『傷だらけの獅子』のスフィアで生き返ったのだと…。
「…それが本当なら。…『傷だらけの獅子』。彼の存在は…」
「ああ、間違いなくロストロギアだろうな。なんせ、死人を生き返らせることが出来るんだからな」
「なるほど確かに貴方の言う通り損をしない情報ですね。…ブラスタをお返しします」
アコースはクロウにブラスタを手渡しながら言葉を続ける。
「それじゃあ、本題といこうか」
「…あ?話はこれで」
ギィンッ。
突如アコースとクロウを中心に結界を張られた。
全身の背景を圧迫し、心臓をも握り潰されそうな魔力の濃度。クロウはこの魔力に覚えがあった。
「…な、な、な」
「…さあ、君が知っている未来の事を話してもらうよ。『揺れる天秤』」
クロウの目の前にアコース査察官の姿はなかった。あったのは魔王を髣髴させる黒騎士甲冑。そして、『知りたがりの山羊』のスフィアを持つ青年アサキム・ドーウィンがいた。
「…な、なんで?」
「僕が査察官に化けられるかって?僕は一度、この姿をした青年と会っているんだよ。とある教会でね」
クロウはアサキムがミッドにある教会を襲ったのを思い出した。
そして、そこにいる修道士の女性とアサキムが化けていた青年が知り合いだったこと。
そして、『知りたがりの山羊』の力。相手の情報をさらけ出し真実を知るという力を今さらながらに思い出した。
「…未来を予知する少女よりも君は明確な情報を。いや、確定していただろう未来の事を知っている。…君の言う原作とやらにね」
アサキムはそこに『興味』を引かれた。
クロウはあの予知能力の少女よりも明確な情報を持っていて、その中に少女が予知した『悲しみの乙女』とは別のスフィア。『偽りの黒羊』に関することが含まれているだろうと。
「あ、あ、あああ」
クロウはアサキムの登場で自分の末路をかすかに感じ取った。
「…喋れないのか?僕としてもあまりここには居たくないんだ。…君の知る『原作』とやらを見せてもらう」
キィンッ。
アサキムの纏うシュロウガの瞳が怪しく光る。
そして、クロウの脳裏にはこれから始まるだろう『闇の書』事件の
「…く、くくく。くははははははは。なるほど、なるほどな!『揺れる天秤』が揺れない訳だ!ははははは!」
アサキムは自分がクロウにやって来た挑発が無駄だという事を知る。
クロウは知っていたから…。
自分が『選択』しなくても、なのはたちについて行けば必ず勝てる。勝ち組になると『原作』を知っていたから…。
「…と、なれば『揺れる天秤』。いや、クロウ。君はもう必要ない。そのスフィア『揺れる天秤』を君から解き放つ!」
アサキムは自分が愛用する赤黒い剣。ディスキャリバーを召喚してクロウの首元に押し付ける。
「…ひ。ま、待て。俺を殺したら『揺れる天秤』は転生しちまうぞ!」
クロウは自分の持っているスフィアに関する情報を必死に引き出す。
「…それは知っている、さ。揺れる…。いや、×××」
×××。
それはクロウが転生する前の名前。
手の付けようのない不良だった前の世界での彼の名前だった。
「っ!?」
「スフィアは転生してしまうだろうが、君では完全に覚醒させることは出来ない。それに『揺れる天秤』は新たな主を見つけたようだからね。後は彼に託すさ」
「…まさか。そいつは」
「…ああ。そうさ。君が忌み嫌う『傷だらけの獅子』。沢高志。彼は『痛み』を感じながら『選択』していくだろう。君の知る『原作』に似て非なるこの世界でね」
アサキムは優しく微笑む。
未だに休眠している『揺れる天秤』。クロウを殺せば次の主を求めて転生する。それは既に別のスフィアリアクターの元に渡るという事も考えられなくもないのだ。
『知りたがりの山羊』は知った。
クロウの持つスフィアが新たな主の候補として高志を選んだことを…。
「…なんで。なんでだよ!ここは俺の世界!俺が、俺がぁああああ」
ザンッ。
クロウはブラスタを展開しながらアサキムに銃を向け、魔力の銃弾を放とうとしたがその時、既にアサキムはクロウの後ろに立っていた。
そして、無造作にブラスタを着込んだクロウの上半身を足で押し、下半身と分離させた。
「…『揺れない天秤』×××。君はスフィアを持つにふさわしくない」
そう言ってアサキムはその場から転移した。
アサキムがいなくなると同時に異変に気が付いたクロノと守護騎士の皆が部屋の中に押しかけたが、そこには上半身と下半身を両断されたクロウがいた。
とっさの判断でクロノがデュランダルでクロノ斬られたところを凍らせ、シャマルが出血を抑えるために回復魔法を使い続けた。
そういった緊急措置で時間を稼ぎ死地をさまよっていたクロウに対して、急遽呼ばれた高志とアリシアがガンレオンを用いて
その代償としてクロウは『原作』の知識。そして、魔力の源リンカーコアを破壊してしまった。
そして、クロウはアサキムに一度殺された恐怖で魔方に関する一切の記憶を失った。
それはなのは達の事を完全に忘れ去るというほどの心の傷を残して…。
『傷だらけの獅子』のスフィアリアクターである高志が、『揺れる天秤』のスフィアがガンレオンの中に転生したのを知ったのはそれから数日後のことである。
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