タバサSide
「ふむ。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな・・・・。美人だったもので、何の疑いもせず秘書に採用してしまった」
学院に帰った後、学院長に事の次第を説明したら、そのように返答してきた。
「いったい、どこで採用されたんですか?」
「うむ、街の居酒屋じゃ。気立てが良くてのぉ。さらに美人じゃしなかなか良い尻しとってな。ついつい手を伸ばしてしまったんじゃが、それでも怒らず笑顔で接してくれたもんじゃから秘書にならんかと」
「バガですか?このエロジジィ」
「・・・・・・・・・カァーーーー!」
ミスタ・コルベールの言葉にオスマン学院長は色々と誤魔化すように無駄な迫力で叫んだ。しかし、この学院長、昔はトリステイン最強の騎士と言われていたらしい。しかも学者としても優秀だったとか。
「・・・学院長」
「・・・・・・今思えば、あれも魔法学院に潜り込むためのフーケの手じゃったに違いない。くつろいでいたワシの前に何度も来て愛想よく酒を勧めたり、魔法学院学院長は男前で痺れます、などとホントのことじゃが媚を売ってきたりと。終いにゃお触りしても笑顔のまま。この娘、惚れてる。っと思うじゃろ普通。な?」
・・・・・・本当は名を騙った偽者なのではないかと思うぐらい、無茶苦茶な発言をした学院長に部屋にいる皆が呆れた目を向けた。
「・・・・・・・・・・・・・・さて、あの土くれのフーケを捕まえたお主たちには『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう」
まるで、先ほどの醜態は無かったとばかりに真面目な態度で話し始めた。しかも、物で話を逸らそうとしている。そんなことで、釣られるわけが
「「本当ですか♪」」
あった。キュルケとルイズの表情は輝かんばかりの笑顔でいっぱいだった。
「(ニヤリ)うむ。それと、すでにシュヴァリエの爵位を持っている、ミス・タバサとミスタ・アルベルトには精霊勲章の授与を申請しておいたからの」
・・・・・・・まあ、貰っておいて損をするものでもないので、別に構わない。
「あ、あの。リオンたちには何かないんですか?」
と、学院長が褒章の話をし終わるとルイズがそう言った。
「・・・・残念じゃが、彼らは貴族ではない」
「で、でも・・・」
納得できなかったのか、ルイズがさらに言おうとしたら
「別に僕はそんなものいらない。ただ、あんたに後で少し話を聞きたいんだが構わないか?」
「あ、私も聞きたい事があります」
と、リオンとチトセは学院長に向かって言った。ルイズはなんだか、まだ納得していないようだったが仕方ないといった具合に黙っていた。
「うむ。構わんよ。さて、話がまとまったところで、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。このとおり、宝物も戻ってきたことじゃし、予定どおり執り行う。今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」
学院長が笑顔で言い、私たちは部屋を出た。
リオンSide
「それで、お主らの聞きたい事というのはなんじゃ?」
ルイズたちが出て行ったのを確認した学院長は僕たちに向かってそう切り出した。
「ああ。僕が聞きたい事と言うのは、その『竜の心臓』とあんたらが言っている宝石のことだ。それは、僕が居た場所では『レンズ』と言われているエネルギーの結晶体だ。あんたは一体何処でソレを手に入れたんだ?」
「うむ。これはワシが若かった頃にとある遺跡で手に入れた物じゃ。と、いってもコレ自体はほんの一部に過ぎんがの」
「一部だと?」
「そうじゃ。遺跡の奥にあった元々のコイツはとてつもなく巨大での、しかも何故か魔法を無効化してしまい、持ち出せんかったので一部を砕いて持ち帰ったのが、この『竜の心臓』なんじゃ。さて、チトセ君の方はなんじゃ?」
学院長は僕にあのレンズのことを説明した後、次にチトセに質問した。
「わたしは、そっちのことです」
「ほう。『破壊の杖』かの」
「はい。それは、私の知り合いの物なんですけど、どのように手に入れたんですか?」
チトセは破壊の杖を指差して学院長に聞いた。
「・・・・・知り合いのぉ。しかし、チトセ君。これもワシがまだ君と同じくらいの時にとある友人から貰った物じゃ。知り合いと言うのは、ちと無理があるのではないのか?」
「そんなことはありせん!だって、ほらここ。『フォルテ・シュトーレン』って名前書いてありますもん」
チトセは机の上にあった破壊の杖を持ち上げ、学院長に白で文字が書いてある部分を見せ付けた。
「むむ。その白い文字は何と書いてあるのか分からんが、確かに破壊の杖を譲ってくれた者の名はチトセ君の言う通りじゃ」
「そうでしょう。で、一体どうやってこれを?ついでにフォルテ先輩は今は何処にいるかも教えてください」
「そうじゃのう。まず、彼女達の居場所に関して言えばわからないのじゃ。彼女達とは、ワシが若かった頃に森で複数匹のワイバーンに襲われていた時に助けてもらったのが始まりじゃ。
なんでも、ミルフィーユ殿がマジックアイテムをうっかり使ってしまい故郷から海を越えてこのハルゲギニアに飛ばされてしまったとのことでの。それで、故郷へと帰るためにマジックアイテムの魔力を回復させなければならないと、そう言うのでワシは命を助けてもらった恩返しにその手伝いをする事にしたんじゃ。
ほんの十日程度しか旅をしておらんかったし、最後はマジックアイテムで故郷に帰ってしまったからの。ノーマッド殿のが確かジカンジクがどうのとか、クウカンソウイがなんちゃらなど言っておったが、ワシにはよう分からんかった。そんで彼女達が帰ってしまう際にフォルテ殿が
ちなみに、彼女達のマジックアイテムの魔力を回復させたというのが、先ほどリオン君に話した遺跡の宝石なんじゃよ」
と、学院長が破壊の杖とレンズ(竜の心臓)の説明を終えた。巨大なレンズがある遺跡か・・・・。
「その遺跡とはどこにあるんだ?」
「アルビオンと言う名の国にある。のじゃが、ワシはあれ以来その遺跡には行っておらんからのお。今はどうなっておるのか・・・」
僕の質問に学院長は丁寧に答えてくれたが、あまり有益な情報ではなかった。しかたないか・・・。
「さて、他に聞きたい事はないか?」
「いや、もう大丈夫だ」
「私もとりあえず大丈夫です」
僕とチトセが言い返すと学院長は微笑み、
「そうか。では君達も舞踏会に行きなさい。本来ならお主たちを主役とするべきなんじゃろうが、貴族ではない故に色々あってのぉ。すなない」
学院長との話も終え、僕たちは舞踏会の会場であるアルヴィーズの食堂の2階の大ホールに向かった。ホールには生徒たちや教師がすでに居り、食事をしたり話をしていたりと思い思いに過ごしていた。
「わあぁ。文化レベルが低いくせに、なかなかのパーティーじゃないですか。・・・あ、これ美味しそう」
と、チトセはホールに入るなり、辺りをキョロキョロと見渡しながら料理を取って食べ始めた。僕は騒がしいのがあまり好きではないので、適当に料理を皿に取り、バルコニーへ出る。
「ふぅ」
僕は一息ついた後、月が二つの夜空を見上げ、考えにふける。もちろん頭に浮かぶのは例のレンズのことだ。遺跡で見つけたと言っていたが、あのレンズを学院長だけが持っているなどと言うのは都合が良過ぎる。レンズを所持又は集めている者もいると考えるのが妥当だろう。
しかし、どうやらレンズの使用法は理解していないみたいだな。この世界の魔法は晶術とは全然違っていたしな。
『おおぉぉぉ!』
と、つらつらと考えていたらホールの中が一層騒がしくなり、気になって目を向けてみると着飾ったルイズ、キュルケ、タバサ、ジンの4人がパーティー会場に入ってきたところだった。キュルケには直ぐに男共が集まり口説きはじめ、タバサは料理がのったテーブルに行き、食べ始めた。その隣にはいつの間にかキキが同じ様に料理を食べている。ジンはチトセの所に素早く近づき何かを叫んでおり、そしてルイズはキョロキョロと辺りを見渡し、僕を見るとこちらにやってきた。
「あんた、パーティーなのになんでこんな所いんのよ」
「僕は騒がしいのは好かないんだ」
「なによそれ。・・・・ねえ、リオン。ずっと気になってたんだけど、あなたって本当に自分の世界に帰りたいと思わないの?」
ルイズが不安そうな表情で僕に聞いてきた。
「はぁ。前にも言ったと思うが、僕は向こうの世界では死んだことになっている。今更戻ったところで、僕の居場所なんてものは、もう無いんだ。だから帰ろうなんて思わないし、必要も無い」
「・・・・・居場所」
ルイズが僕の話を聞くと俯いて、ボソッと何かを呟いたみたいだが、声が小さくて聞こえなかった。僕がいぶしかんでいたら、ルイズは急に顔を上げて、
「ね、ねぇリオン。わ、私と、その・・・踊ってくれないかしら?」
と、ルイズは顔を赤くして手を出してきた。・・・まあ、ダンスぐらいなら構わないか。僕はルイズの手を取り、
「じゃあ、1曲だけならな」
僕はそう言って、ルイズと共にホールに入っていった。
Tweet |
|
|
4
|
2
|
追加するフォルダを選択
フリッグの舞踏会