少しの勇気。ほんの少しの勇気を振り絞ってプロデューサーに話しかける。
大丈夫。普通に話しかけたらいいだけ。普段通りにプロデューサーに話しかけるだけでいいの。
普通に会話をしながらプロデューサーにでで、で……デートのお誘いを……
「あ、ああ、あの……ぷろでゅーしゃー!」
う、うぅ……っ。早速やってしまいましたぁ。普通に話しかけるつもりだったのに、噛んでしまいました。
こんな予定じゃなかったのに。普通にプロデューサーに話しかけるつもりだったのに……
「どうしたんだ雪歩」
「こんなダメダメな私は穴を掘って埋まってますぅ~っ!」
デートのお誘いをすることの出来ない私は穴に埋まっていた方がいいんです。
こんな……こんな私なんて――
「はい、ちょっと待った」
「あうっ!?」
逃げ出そうとした所をプロデューサーに捕まえられてしまいました。
「あの、あの……」
「雪歩……お茶を淹れてくれないか?」
「ふぇ……?」
何を言われるのだろう。そんなことを考えていたら予想外の言葉がきました。
「お茶……ですか?」
「あぁ。喉が渇いてしまったからな。淹れてくれるか?」
そう言って湯呑みを私に渡してくるプロデューサー。
こ、これって絶対に気を遣われちゃったよね?
プロデューサーに迷惑をかけてしまった。そう思うのに……
「はいっ♪」
どうしても顔がニヤけてしまう。今、この瞬間プロデューサーが私だけのことを考えている。
それが堪らなく嬉しいって思ってしまうんです。
私って、こんなにも嫌な子だったのかな……? だけどプロデューサーに声をかけてもらえるのはやっぱり嬉しい。
私が情けない姿を晒しててもそれをフォローしてくれるプロデューサーが大好きなんです。
「プロデューサーお茶です……」
心を込めて淹れたお茶をプロデューサーに渡す。
「ありがとうな」
それを受け取ってズズズと音を立ててお茶を飲んでいくプロデューサー。
何度も思いますけど、やっぱりお茶を飲んでいる時のプロデューサーはお年寄りみたいですね。
お爺ちゃん……という年齢じゃないですけど、そんな雰囲気があります。
だからですかね、私がこんなにもプロデューサーに気を許すことが出来るのは。
勿論、プロデューサーが大好きだっていうのもあるけど、プロデューサーの雰囲気もあると思う。
とても優しい人だから――温かい人だから。
だから私はプロデューサーに恋をしてしまった。
「あぁ、雪歩の淹れるお茶は本当に美味しいな」
「えへへ……ありがとうございますぅ♪」
プロデューサーに褒められるだけで頬がニヤけてきます。
だらしない顔をしちゃいます。
「それで、俺に何か用があったんだよな?」
「は、はは、はいぃいっ!?」
プロデューサーの一言で緩んでいた顔が一瞬にして崩れてしまいました。
そ、そういえばそうでした。プロデューサーとお茶を飲んで和むのが目的じゃなかったんですよね。
プロデューサーをデートに誘う。それが今回の目的だったんです。
あうぅ……意識をしてしまったら恥ずかしくなって……
「雪歩……?」
「な、なな、なんでもないんですぅ~!」
「雪歩っ!?」
バタバタとその場から逃げてしまった。
「うぅ……本当に私はダメダメですぅ」
自分で掘った穴の中に埋まりながら自己嫌悪に浸る。
せっかくプロデューサーをデートに誘うって意気込んで声をかけたのに。
最初っから噛んでしまって出鼻を挫かれてしまうし、プロデューサーさんがフォローをしてくれたのにそれも無駄にしてしまいました。
たぶん、さっきのが最後のチャンスだったはずなのに……
「もう、プロデューサーをデートに誘うことなんて出来ないよぉ」
シクシクと穴の中で涙を流す。プロデューサーとデート……したかったなぁ。
だけどいくらそれを願ってももう時間は元には戻らない。
このまま誰かに先を越されてしまって――
「や、やっぱりそれだけは嫌! プロデューサーは私の――」
「雪歩にとって俺は……?」
「私にとってプロデューサーは…………っ!?」
聞き覚えのある声に驚いてしまう。だってこの声……
「ぷ、ぷぷ、プロデューサー!?」
どうしてここにプロデューサーが……? いや、そんなことよりもさっきの独りごとを聞かれて――
「探すのに苦労したぞ。俺も歳なんだからあまり走らせないでくれ」
「ご、ごめんなさいぃぃ」
すぐにプロデューサーに頭を下げて謝罪をする。
うぅ……もうしばらくは顔をあげることが出来そうにないです。
「別に怒っているわけじゃないんだけどな……」
プロデューサーの優しい声。たぶん言葉の通りプロデューサーは怒っていないと思います。
だってプロデューサーはそういう人ですから。
でも、それでも私が私を許すことが出来ないんです。
「まぁそれでも雪歩が許せないって言うのだったら――」
何を言われるのだろうか。ドキドキと心臓がうるさいくらいに鳴り響いている。
「今度、俺とデートでもしてもらおうかな」
「……え?」
あまりに予想外な言葉に顔をあげてしまう。
顔をあげるとプロデューサーはいつもの優しい顔を浮かべて――
「ダメ……か?」
そして何処か悪戯っ子のような顔を浮かべたのでした。
「……だ、ダメじゃないです」
「そっか。ありがとうな雪歩」
「い、いえ……」
ありがとうって言いたいのは私の方。
たぶん私の気持ちを汲んだうえでの台詞。プロデューサーは偶に心を読むことが出来るんじゃないかなってくらいに鋭いから。
だから私の気持ちを読んでの言葉だと思う。
それでも――
「雪歩。そろそろ穴から出てくれるか? 慌てて出てきたからまた喉が渇いたんだ。お茶を淹れてくれるか?」
「……はいっ♪」
今の私はきっと凄い顔をしてると思う。
それでもプロデューサーの優しさが嬉しいから、プロデューサーとデートの約束をすることが出来たから。
今の私の顔は仕方がないと思います。
だって、恋する女の子ですから♪
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雪歩編の続き?少しだけ進んでいる雪歩です。