No.477925

とーたく酔いどれ太平記 第一回 『月と詠』

先に予告を投稿していたものの、本編です。
酔っ払いがたくさん出てくる、そんな作品になるといいなと思います。

2012-08-31 15:13:22 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1698   閲覧ユーザー数:1534

【いんとろだくしょん】

 ~ 酔いどれ少女たち ~

 

「へぅ~。お月さまが綺麗だよ~、詠ちゃ~ん!」

「そうね。……でも月(ゆえ)の方がもっと綺麗だわ」

「わぁ、お星さまもキラキラ可愛いよぉ~、詠ちゃ~ん!」

「そうね。……でも月の方が可愛いわ。あぁ、月……すごく、キラキラして見えるっ」

 

「(ごくごくっ)へぅぅ~! お酒が美味しいよぉ、詠ちゃ~ん!」

 

「(ごくごく)ぷはっ。そうね。でも……月の方が美味しいに決まってるーっ!!」

 ✝✝✝ とーたく酔いどれ太平記 第一回 『月と詠』 ✝✝✝

「ううっ、あたま痛ぁ……。ボクとしたことが宿酔なんて……。久しぶりに月と二人きりだったから、つい飲みすぎたわ。正直、後半あんまり記憶ない……」

 

 なにやら独り言をつぶやきながら、よろよろと廊下を歩く眼鏡ボクっ娘――詠。

 またの名を賈駆、字を文和という。

 名前がいくつもあって面倒だが、そういうものなので仕方ないのである。

 差し当たり、彼女のことは詠と呼んでおくことにしよう。

 

「はぁ、はぁ。こ、この屋敷、こんなに広かったっけ? なんだか執務室が遠い……」

 

 さて、その詠だが、自分で言っている通り現在絶賛宿酔――二日酔いの身の上。

 小柄な少女然とした容姿、かつ実際いまだ少女と言っていい年齢の彼女が、肝臓さんで処理しきれないほどアルコールを摂取するなど現代日本では当然ご法度。

 しかし、これによって詠が「わるい子はいねがー!」と気合を入れて見回りしている補導員のおばちゃんに連行されちゃったりすることはない。

 なぜなら彼女が暮らしているのは現代でも、日本でもないからだ。

 じゃあここがいつの時代のどこなのか、と問われたら、詠ならばこう答えるだろう。

 

「今は漢朝二十七代皇帝の御世。ここは涼州隴西郡臨兆。我が主、董仲穎が治める街よ!」

 

 と。

 ✝✝✝

 

「あぁ、やっと着いた……」

 

 のろのろよたよた、通常の三倍くらいの時間をかけて歩いて来た詠が、とある部屋の前で立ち止まる。

 これといった装飾こそほどこされていないものの、他の部屋よりも大きくしっかりした造りの扉。

 一見すごく重そう。でも実は案外簡単に開けることのできるこの扉の奥が、街の政庁を兼ねる董家屋敷の執務室。

 詠が自業自得的宿酔の身体を引きずってここにやって来たのには、当然ながら訳がある。

 別にもったいぶることでもないのであっさり言ってしまうと、詠はここで仕事――政務を担う大切な役目を負っているのだ。

 もちろん働いているのは詠だけではないし、種々の最終的な決定は彼女の仕える主君が行う。

 しかし彼女がいるのといないのとでは、仕事の正確さからスピードその他、すべての面で雲泥の差となって表われる。

 若くして董家筆頭文官兼筆頭軍師、それが詠の肩書きであった。

 

「あ。やっぱり詠ちゃんだ」

「ゆ、月っ!?」

 

 そして若さという意味では、主君である董仲穎も変わらない。

 今、内から扉を開けて詠に声をかけた、やはり小柄で、どこか儚い印象の少女。

 姓は董、名は卓、字を仲穎。またの名を、月。

 この三百六十度どこから見ても可憐な少女が、ここ臨兆の街を含む周辺一帯を治める領主だった。

 

 …………ところで今突然思ったことがある。

 ↑の『三百六十度どこから~』という表現、三百六十度ということは、いわゆるCG(立体)キャラをぐりぐり色んな角度から見ることのできる格ゲーのおまけモードみたいな状態であろう。

 つまり、もし万が一スカートだったりしたら、三百六十度中、三十度くらいは「ぱんつ」に違いない。

 そして幸いにも(?)、月が身につけているのは裾の長いスカートらしき衣服。

 なので、よし、ちょっと文章を変えてみる。

 

『どこからどう見ても可憐な少女、ただし真下から見た場合は「ぱんつ」なこの娘が、ここ臨兆の街を含む周辺一帯を治める領主だった』

 

 うん。なるほど。…………これはダメだ。

 

 さて。

 以降、何事もなかったかのように続けよう。

 どうかついて来ていただきたい。

 ✝✝✝

 

「へぅ。平気なの、詠ちゃん? 辛いなら、今日はお休みでも良いんだよ?」

「な、なに言ってるの月。この程度の体調不良で音をあげるようなボクじゃないんだからねっ」

 

 主従が執務室に籠ってほどなく、詠の不調に気付いた月が気遣う。

 それに対し、「ややツン」入りのセリフを返す詠。

 なんと詠は眼鏡ボクっ娘にしてツンデレでもあるのだ!

 びっくり!

 

 と、まぁ詠のことはとりあえず置き、ここでは月に注目してみたい。

 まず彼女の書簡をさばくスピード、これは今の詠とほぼ同じ。

 「二日酔いの人間と同じってアカンがな」と思うかも知れないが、相手が他の文官らであれば頭一つ抜けた処理能力ということがわかるはず。

 また、仕事中でも先のように、周りに対する気遣いを忘れないのが月の特徴でもある。

 「月は偉いんだから、そんな気を使い過ぎちゃダメよ!」とか、詠に言われたりもするが、無理に気を使わないようにすると逆に疲れてしまう、さらには相手に気を使われても疲れちゃう、上に立つ人間としてある意味難儀な性分だった。

 そんな性格を自覚しているので、今の立場が自分に向いているなんてこと、月は露とも思わない。

 時々、「もっとふさわしい人がいたら譲りたいな」みたいなことを考えぬでもない。

 しかしだからと言って、仕事の手を抜いたり、愚痴を零したりなどということと、彼女は無縁だ。

 

 幼馴染でもある詠を筆頭に、こんな自分に従ってくれる人たちがいる。

 ――へぅ。有難うございます。

 自分たちが頑張れば、領地に暮らす民が幸せに、笑顔になれる。

 ――へぅ。嬉しいです。

 

 そうして花のように笑うのが、月という少女だった。

 

  ~第二回へ続く。

【おまけ】

 

「へぅ。もう暗くなるね、詠ちゃん。そろそろ、御仕舞にしよう?」

「そうね。だいたい一区切りついたし。……んー! なんか今日はいつもより疲れたわ」

「あはは。だって詠ちゃん、『くっ! 最初の遅れを取り戻すっ!』とか言って、酔いが抜けてからすごく張り切ってたんだもの。当たり前だよ」

「うっ。だ、だって月に迷惑かけけたくないし……っていうか、宿酔って気づいてたの? 『へぅ。詠ちゃん、寝不足なの?』とか、言ってなかった?」

「うん。実は。でも……詠ちゃん宿酔? って聞いても、きっと違うって言うと思ったから。……ごめんね?」

「い、いいんだってば月、いちいち謝らなくて! ……それに、たぶん実際そう言ってたと思うし。ところで、月は大丈夫だったの?」

「へぅ? なにが?」

「だから、宿酔。昨夜、ボクより飲んでたでしょ?」

「そう、だっけ? ……ん、でも私は平気だよ。だって――」

 

「――あのくらいだったら、お水と変わらないし。へぅ」

 

「……え゛っ? あ、ああ、そうね、そういえば月、ザルだったもんね……」

「そんなこと、ないと思うけど……。あ。あのね、詠ちゃん。お話のついでに、昨夜のことで聞きたいことがあるの」

「ん? なにかあったっけ?」

 

「うん、詠ちゃん。もしかして、詠ちゃんは――私を食べようと思ってるの……?」

 

「え、え゛え゛っ!? ち、ちょっと月、な、なに言ってんのっ!?」

「へぅ!? だ、だって、昨日『月の方が美味しいに決まってる』って……へぅぅ、た、食べないで詠ちゃんっ。私、やせっぽちだし美味しくないよぉっ!?」

 

「ああっ、逃げないで月っ!? う、ううっ…………昨日のボクのバカァーーっ!!」 

 

 


 
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