別に嫌じゃないよ。むしろなんだろう、嬉しい。けどさ、やっぱり、享受しちゃいけないよねえ。
「さーすけっ」
洗濯物抱えて廊下を歩く俺様の背後から、弁丸様が腰に抱きついてきた。実は意味はない。何が弁丸様を刺激しているのか、事あるごとに抱きついてくる。
立っている時は、主に腰だ。座っているときなどは、もうなんだろう、一種の動物に近い。
ある日、縁側で武器の手入れをしている時だった。
全く隠れない気配が、いつも通り俺様の背中に抱きついてくる。ちゃんと弁丸様が怪我をしないように、抱きつかれる前には、暗器から手を離している。
問題はここからだ。俺様が止めなければ、どんどんと自分の居心地の良い場所を探して、あちこちグルグルしがみついてくるのだ。
最終的には、頭の上に覆い被さってきたので、流石に何の大道芸だと思う。帽子じゃないんだからさ。
「弁丸様、重いよ」
「じゃあ、弁とあそぼうっ」
「じゃあの使い方、なんか違わない?」
とはいえ弁丸様の誘いを断る俺様ではない。だってね、主の言う事は絶対でしょ。でもこれって俺様の方が、誘われるのを待っているように見えなくもないな。
まさかなあ、これでもやる事はいっぱいあるんだよ。
弁丸様が食す全部の毒味から、掃除に洗濯物、繕いものも溜まってきているし、甘味の研究も余念はない。あ、今夜は暗殺が一人入っていた。本当に、色々あるんだって。
「さすけは弁の忍なのだから、弁とあそぶのは、さすけのしごとだっ」
説得力があるように見せかけての凄い理屈だが、頭の上に乗ったままではどうなんだろう。
でもまあ、ね。この重みも嫌いじゃなかったりする。むしろなんだろう、弁丸様が触れてくる温もりが嬉しい。
お互い慣れちゃいけないんだけど。
両刀論法に悩んでいると、上に飽きた弁丸様が、俺様の背中まで降りてきた。体に這いつくばって頭から降りる様は、まるで崖を下る四足動物。
むしろ俺様と、じゃなくって、俺様で遊んでいる状態。
あまり遊ばれても、色々隠している暗器に当たっては危ない。俺様は弁丸様を引き剥がして立ち上がる。
「それで弁丸様、何をして遊びましょうか」
おやつの時間まで半刻も無い。それぐらいならまあ、大丈夫だろう。
弁丸様は一寸考えた後、喜色満面の笑みで、高らかに提案する。
「しゅりけん投げっ」
「すみません弁丸様、ちょっと俺様草屋敷に行って所用を済ませてきます。あっと言う間に終わらせますから、遊ぶのは待っていてもらえませんか」
「分かった、ではここでまっておるぞ」
「猿飛佐助、忍び参ってきます」
俺様は磨いたばかりの暗器を握り、今頃は草屋敷で久しぶりの休暇で寝ているであろう奴を、屠りに向かった。
弁丸様に、いらない知識と実力を与えるのは、奴しかいない。
結局は四刻半の説教となり、待ちくたびれた弁丸様に全力で抱きつかれた。今度は足元から始まり、よじ登られ、俺様の右腕が抱きつく着地点となる。
やっぱり俺様で遊んでるよね、これ。うん、嫌いじゃないよ、勿論。享受しまくっているけど、主が望んでいるんだから、問題ないでしょ。
《了》
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
おまけSSのボツ原。予定より倍の文字数になったのと、絶対ネタ被ってるという悶絶に耐え兼ねて却下にしました。推敲ゼロ投下。新刊が暗い話の反動で、佐助が何かアホっぽい。作中に出る「奴」は、お好きな想像上の十勇士を入れて下さい。そして書き直した結果、これより長いSSになった件