第十三話 ~~その先を・・・・~~
章刀 :「あ~・・・・・」
なんというか、もう半分お約束の様な冒頭をどうか許して欲しい。
俺だって、できる事ならこの書簡やら書類やらが無造作に積まれた机に拘束される毎日から解き放たれたいものだ。
でも現実ってヤツはどうやら俺に何か恨みでもあるようで、この同じ様な光景のリフレインが止む事はなさそうだ。
う~ん・・・・
もし現実に形があるなら、俺は三回まわって土下座でもすれば許されるんだろうか?
麗々 :「お兄様、大丈夫ですか?」
机の向かいに座っている麗々が、俺を心配して声をかけてくれるのももはやお約束。
そうして俺の方を向いていながらも麗々の手はシャカシャカと動いている。
俺がバカな事を考えている間にもこうして次々に仕事をこなしてくれるんだから、本当にありがたい妹様だよ。
麗々 :「先ほどからあまりはかどっていないようですが・・・・」
俺の手元を覗き込みながら、麗々が言う。
その言い方は一切俺をとがめるようなものではないけど、なんとも情けない事だ。
・・・・とはいえ、今日に限っては俺にも少々弁解の余地がある。
章刀 :「ああ、ごめん。 なんだか熱っぽくてさ・・・・」
実は今朝起きてからというもの、どうも体調が良くない。
放っておけばそのうち治るだろうとたかをくくっていたんだけど、俺の意に反して少しずつ悪化してきている。
麗々 :「大丈夫ですか? そう言えば、少し顔が赤いですよ」
そう言って麗々は立ち上がり、俺の額に手を伸ばしてきたが、俺は少し慌ててその手を止めた。
章刀 :「ああ、大丈夫だよ。 そんなに大したことないから」
こんな仕事の状態で言っても説得力が無いのは重々承知だが、麗々にいらない心配をかけたくなかった。
麗々 :「ダメですよ! 今日はもうお仕事は良いですから休んでください!」
熱があるなんて言わなきゃよかったと、少し後悔。
麗々は腰に手を当てたまま可愛らしく眉をつり上げて、まるで母さんみたいだ。
俺はそれが可笑しくてついつい笑ってしまいそうになるけど、それでは心配してくれてる麗々に失礼なので少し我慢。
章刀 :「わかったよ。 そのかわり、この片付いた分の書簡を璃々姉さんの所に持って行くのだけ手伝わせてくれ。 それで今日は終わりにするからさ」
麗々 :「はぅ~・・・・分かりました。 しかたありませんね」
少し困った様子の麗々だったけど、しぶしぶと言った様子で承諾してくれた。
正直、持っていく書簡だけでもかなりの量がある。
身体の小さい麗々だけで運ぶのは大変だろう。
これぐらいは手伝わせてもらわないとな。
――◆――
俺と麗々は、両手いっぱいに書簡を抱えながら城の廊下を歩いていた。
その途中にも、麗々は隣を歩く俺の顔色をしきりに窺ってくる。
麗々 :「お兄様、本当に大丈夫ですか?」
章刀 :「大丈夫だよ。 ありがとう」
璃々姉さんの部屋に着くまでに、このやりとりはもう三度目だ。
正直に言うと確実にさっきよりも熱は上がってきているんだけど、麗々の問いかけにはなん
とか笑顔で返す。
こりゃ、書簡を届けたら本当に休まないとヤバいかな。
そんな事を考えながら、璃々姉さんの所へと向かっていると・・・・・
章刀 :「ん・・・・・・・?」
丁度中庭に差しかかったところで、なにか小さな影が動いているのが見て取れた。
そいつは中庭を挟んで向こう側の廊下の柵の上をトコトコと歩いている。
目を凝らしてその姿をよく見てみる。
章刀 :「あれって・・・・・」
小さな身体は白い毛におおわれていて、ピンとした三角耳に鍵尻尾。
そしてそのいたるところに特徴的な青い虎シマ模様。
その姿はまるで・・・・
章刀 :「トラ・・・・の子供?」
俺は小さく呟いて、そのトラっぽい生き物をじっとみつめていた。
いやいやいや。
冷静に考えよう。
いくらここが中国だからって、こんなところにトラがいるわけ無い。
そもそも、あんな白毛に青シマのトラなんてみたことないし。
麗々 :「お兄様、どうかしたんですか?」
章刀 :「え? ああ、いや・・・・・」
俺が立ち止まった事に気付かずに少し先に歩いていた麗々が声をかけて来た。
俺は訳を話そうと麗々の方に振りかえり、もう一度中庭の方を見ると、そこにはさっきまで居たはずのトラの様な生物の姿はなかった。
章刀: 「あれ? さっきまであそこに・・・・・・」
中庭を見渡してあの特徴的な青いトラしまを捜すけど、既にどこにもその姿は見えない。
麗々 :「何かいましたか?」
章刀 :「なぁ、麗々・・・・・」
麗々 :「はい?」
章刀 :「この城ってさ、トラって飼ってたっけ?」
麗々 :「へ・・・?」
章刀 :「・・・いや、なんでもない」
麗々 :「はぁ・・・・」
俺の質問に麗々は完全にキョトン顔だったので、俺は質問を無かったことにした。
もしかして、俺の見間違いだったのかな・・・・・?
う~ん、幻覚を見るほど体調が悪化してるとは・・・・
これはマジではやく休んだ方がよさそうだな。
そう思って、俺は麗々と共に璃々姉さんの所へと急いだ。
璃々 :「はい。 確かに受け取りました。 お疲れ様です」
麗々 :「後はお願いします、璃々お姉さま」
章刀 :「頼むよ、璃々姉さん」
璃々姉さんの所にたどり着いた俺たちが運んできた書簡を渡すと、姉さんは快く受け取ってくれた。
はぁ~・・・なんかここに来るまでがやけに長く感じられたな。
これも熱のせいなんだろうか。
麗々 :「さぁ、お兄様。 仕事は済みましたから、大人しくお部屋に戻って休んでくださいね!」
章刀 :「ああ、わかってるよ」
そんな俺の考えを見透かしたように、麗々が俺に詰め寄ってきた。
情けないが、今の俺には大人しく頷く以外に選択肢が無い。
璃々 :「あら? 章刀様、どうかなさったんですか?」
麗々 :「実は先ほどから熱があるとおっしゃっているんですが、この書簡を届けるまでは休まないと聞かなくて・・・・」
璃々 :「あらあら、それはいけませんね。 麗々ちゃんの言うとおり、早くお休みになってください」
事情を知った璃々姉さんも、麗々と一緒に俺に心配そうな視線を向ける。
まぁ、こうなるだろうとは思ってたけどね。
麗々 :「ほらお兄様、お部屋にもどりますよ!」
章刀 :「あはは、わかったってば」
しびれを切らした麗々が、俺の身体をくるりと反転させて後ろから背中を押してきた。
もう抵抗する気力も無いので、俺はおとなしく足を踏み出した。
・・・・のだが、
グラ・・・・・・。
章刀 :「あれ・・・・・・・?」
突然大きく視界が揺れた。
なんだこれ・・・・・?
床が・・・・・一気に近くなって・・・・・・
あぁ・・・・・・こりゃ、やぱい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドサッ!
麗々 :「お兄様っ!!?」
璃々 :「章刀さまっ!!?」
麗々 :「お兄様っ! しっかりしてくださいっ! お兄様っ!!!」
必死に俺の名前を呼ぶ二人の声が遠くなっていくのを感じながら、俺の意識はゆっくりと暗闇の中に沈んで行った――――――――――――――――――――
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――◆――
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あれ・・・・・?
俺、どうなったんだっけ・・・・・?
頭がボーっとする。
確か璃々姉さんに書簡を届けに行って倒れて、それから・・・・・
章刀 :「ん・・・・・・っ」
重い瞼をゆっくりあけると、急に目に入ってきた光がまぶしくてもう一度目をつぶってしまった。
???:「お。 目が覚めたようだな」
すると姿は見えないが、すぐ近くから聞き覚えのある声がした。
少しずつ光に慣れてもう一度目を空けると、予想通りの人物が俺の顔を見て笑っていた。
章刀 :「華佗先生・・・・・?」
華佗 :「気分はどうだ、関平?」
章刀 :「えっと、俺・・・・・」
まだ状況がはっきり理解できずに辺りを見回す。
すると・・・・・
愛梨 :「兄上っ!!」
章刀 :「っ!? あ、愛梨?」
突然目の前に愛梨の顔が現れた。
どうやら俺の枕元にいたらしく、すぐには気付かなかった。
華佗 :「はは、言っておくが関興だけじゃないぞ?」
そう言うと、華佗先生は自分の後ろを指さした。
心 :「兄・・・・・起きた・・・・・・」
章刀 :「心・・・・・・?」
そこには心が、俺の顔を見て少し嬉しそうな表情を浮かべていた。
章刀 :「先生、俺は・・・・・・」
華佗 :「過労だよ。 日ごろの無理が祟ったんだろう。 丸二日も寝ていたんだぞ?」
章刀 :「えぇっ!? 二日も!!?」
なんてこった。
まさかそんなに眠っていたなんて・・・・・
華佗 :「まったく、無茶をするところは両親にそっくりだな。 たまたま俺が街にいたからよかったものの、他の医者ならあと二日は目を覚まさんぞ?」
章刀 :「えっと、すみませんでした・・・・・」
愛梨 :「全くですっ! こんな無茶をして、大事になったらどうするつもりだったのですかっ!」
俺が謝罪の言葉を口にすると、愛梨が眉をつり上げて怒鳴った。
それを見て、華佗先生が可笑しそうに笑う。
華佗 :「ははは、謝る相手は俺より他にいるぞ? お前が倒れてからの二日間、妹たちは交代しながらつきっきりでお前の看病をしていたんだからな」
章刀 :「え?・・・・そうなのか?」
なんでここに二人がいるのか、ようやく理解した。
俺がそう確認すると、心は黙って頷いたが、愛梨は少し照れた様子で顔を反らした。
愛梨 :「と、当然ではありませんか! 兄上は我らの兄上なのですから、何かあってはその・・・・私たちが困るのですっ!!」
章刀 :「愛梨・・・・・・」
少し素直じゃないその愛梨の答えが嬉しくて、俺は思わず笑顔になってしまう。
章刀 :「ありがとう、愛梨、心。 それから、心配かけてごめんな」
愛梨 :「・・・・・はぁ。 仕方ありませんね。 無事に目を覚ましてくれたことですし、今回は許してあげましょう」
心 :「兄・・・・・・無事で、よかった」
寝たままの言葉で少し申しわけないとは思ったが、二人とも笑顔で答えてくれた。
華佗 :「さぁ、それでは俺はそろそろ行くとしよう。 もう俺の仕事はなさそうだしな」
俺たちの様子を見ていた華佗先生がおもむろに席を立った。
愛梨 :「先生、兄上は?」
華佗 :「もう熱も下がったし、心配は無い。 ただ、念のために今日1日くらいはおとなしく寝ているんだな」
愛梨 :「分かりました。 どうもお世話になりました」
章刀 :「先生、本当にありがとうございます」
心 :「・・・ありがとう」
華佗 :「気にするな。 それじゃあ大事にな」
それだけ言い残して、華佗先生は部屋を出て言った。
それを見届けると、愛梨は俺の方へ向き直り、再び眉をつり上げた。
愛梨 :「さぁ、兄上。 華佗先生も言っていた様に、今日のところはおとなしくしておいてもらいますからね!」
そう言いながら、愛梨は少しはだけた俺の毛布をそっとかけなおしてくれた。
章刀 :「ああ。 そうさせてもらうよ」
この状況でダダをこねるつもりはない。
ここで無理して、これ以上皆に迷惑をかけるのは嫌だしな。
それに正直、もう少し眠りたい。
今日のところは、お言葉に甘えて休ませてもらおう。
俺は再び、ゆっくりと目を閉じた――――――――――――――――――
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――◆――
章刀 :「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あれから、どれくらい眠っただろうか。
目を空けると、先ほどの様な眩しさは感じなかった。
章刀 :「夜、か・・・・・・・・・・・・」
身体を起こして、窓の外を見る。
そこから見える景色は既に真っ暗で、淡い月明かりが差しこんでいるだけだった。
章刀 :「ん?」
なにやら、太もものあたりに少しの重みを感じた。
目を落とすと、椅子に座ったまま俺の布団に前かがみで寝息を立てている桜香の姿があった。
そういえば、皆が交代で俺の看病をしてくれたって言ってたっけ。
多分今度は桜香の晩で、看病をしているうちに眠ってしまったんだろう。
まったく、自分だって身体が丈夫じゃない癖に・・・・
章刀 :「ありがとう、桜香」
そう言って髪を撫でてやると、『ムニャ・・・』という可愛らしい声が返ってきた。
俺は桜香を起こさないように布団から出ると、風邪をひかないようにとその肩に毛布をかけてやった。
そしてもう一度髪を撫でてから、音をたてないように扉を開けて外に出た。
さっき窓から見たとおり、既に外は真っ暗だった。
日が落ちてからどれくらい経っているのかは分からないけど、城の中は随分と静かで、もう明かりのついている部屋は見当たらない。
きっと皆、疲れて寝てしまったんだろう。
二日間も眠っていたと言う事は、その間の看病だけじゃなく俺のやるはずだった仕事も皆で片づけてくれていたんだろう。
明日、ちゃんと皆にお礼を言わないとな。
章刀 :「さてと・・・・・・・」
だけどその前に、俺にはやらなきゃならない事がある。
俺はその足で、城門の方へと向かった。
手には、部屋から持ってきた刀を握って――――――――――――――――――
――◆――
城門の前に着いて、辺りを見回す。
虫の鳴き声すら聞こえない、本当に静かな夜だ。
だけど・・・・・やっぱり気のせいじゃない。
俺は、スゥーっと軽く息を吸いこんだ。
章刀 :「今日は皆疲れてるんだ。 騒がしいのは遠慮願いたいんだけどな」
周りの暗闇に向かって、言葉を投げかける。
当然の様に返事は無い。
だが、その数秒後・・・・・・
ガサ・・・・。
タッ・・・・・。
ヒュ・・・・・。
後ろの茂みから、屋根の上から、木の陰から、次々と数人の人影が現れた。
そいつらは闇に溶けてしまいそうな黒づくめの服に身を包み、男か女かも分からない。
その数・・・・10人。
章刀 :「いった誰の差し金だ?・・・・って聞いたところで、答える気はないんだろうな」
敵 :「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さっき目を覚ましてすぐに、この気配に気づいてよかった。
同じ国内とはいえ、全ての国民が王のやり方を快く思っているわけではない。
ましてやそれが地方の権力者ともなれば、自分の思い通りにしようと企んでも不思議じゃない。
俺が寝込んだ事を知って俺を暗殺に来たか・・・・・それともこの機に乗じて国王の桜香を狙ってかは分からないけど、二日という時間から考えて他国からの刺客ってことはないだろう。
多分愛梨や他の皆は疲れ切っていて気づいていない。
とはいえこの人数で警備兵をかいくぐってここまで侵入するあたり、相当な手練か。
チャキ・・・・・。
黒づくめたちは俺をとり囲むと懐から短刀をとりだし、構えた。
俺も答えるように、手にしていた緋弦を抜く。
章刀 :「関雲長が長子、関定国。 どこの誰かは知らないが、お相手するぜ?」
ダッ・・・!
俺が言い終えると同時に、黒づくめのうち数人が俺に向かって走り出す。
正面から一人。
後方から二人。
一斉には来ないか・・・・・・。
さすが、相当訓練を積んでるな。
章刀 :「はあぁーーーっ!!」
ギンッ!!
俺はまず正面から来た敵の攻撃を受け、それをいなして敵の後方に回った。
その敵は後方から来ていた二人の進路を塞ぐ形になり、一瞬だが三人の動きを止める。
よし、この隙に・・・・・
ビュン!
章刀 :「くっ・・・・・・!」
だがすぐに後ろから別の一人が俺に向かって短刀を振り下ろし、俺はそれを間一髪でかわす。
さらにそのかわした先には、すでに新たな敵が短刀を振りかぶっていた。
さすがにこれはかわせない。
だったら・・・・・
章刀 :「なめんなっ・・・・!!」
敵 E:「!?」
ギィィンッ!!
俺は敵の攻撃をかわさずに更に踏み込み、振り下ろされた短刀を思いっきり斬りはらった。
その勢いで敵の手から短刀はすっぽ抜け、暗闇に飛んで行く。
章刀 :「破ァッ!!」
ズドォッ!!
がら空きになった敵のみぞおちに俺は渾身の左掌底を叩きこみ、敵は後方に吹きとんだ。
よし、これでまず一人。
ビュン!
章刀 :「チッ・・・・」
今度は右側からの敵の一線が、俺の髪をかすめた。
章刀 :「せいっ!!」
バキィッ!
俺は後ろに飛びずさると同時に、足で敵の顎を蹴りあげる。
敵の顎が、身体ごと上に跳ね上がった。
章刀 :「ハァァッ!!」
そこにすかさず、刀を返して首筋に一閃を叩きこむ。
これで二人。
刀はまともに首にめり込み、敵はうめくような声を上げてその場に倒れこむ。
その時、敵の手から短刀がこぼれ落ちた。
俺はそれを拾い上げ、前方から迫っていた敵に投げつけた。
敵 G:「っ!!?」
ギィィン!!
敵はそれを間一髪で弾き飛ばす。
その反応はさすがだけど、その隙に俺は既に間合いを詰めていた。
章刀 :「寝てろーーっ!!!」
ドバキィィ!
俺は渾身の力で刀を振り抜き、刀のみねは確実に敵の同体をとらえた。
そのままの勢いで敵は吹き飛び、後方の木に背中を打ちつけてその場に崩れ落ちた。
これで三人。
一気に三人の仲間をやられて少しまずいと感じたのか、残る七人は一度俺から距離をとっていた。
俺もその間に体勢を立て直す。
だが・・・・
章刀 :「ハァ、ハァ・・・・・・。 くそ・・・・・」
身体が重い。
いつもならこの程度で息が上がったりはしないはずなのに、やはり病み上がりでいきなりはきつかったか。
残りは7人・・・・。
正直きついが、やるしかない。
俺は大きく深呼吸をし、もう一度刀を握りなおした。
その時・・・・・
???:「まったく・・・・・病み上がりで無茶をするからだ」
章刀 :「!?・・・・・」
敵 :「!?・・・・・」
突然、どこからか声がした。
それに敵も驚いた様子で辺りを見回すが、どこにも姿は見えない。
だけど、今の声は・・・・・
俺はふと気付いたように、城の屋根の上へと目を向けた。
そこには予想通り、声の主が立っていた。
章刀 :「晴っ!?」
晴 :「やぁ、章刀。 こんな夜中に剣の練習とは精が出るね」
俺が驚いた様子で名前を呼ぶと、晴は屋根の上からこちらを見下ろしたまま、挨拶でもするように片手を上げた。
いやいや、そんなヨユーかましてる場合じゃないんだけど!
晴 :「その個性的な格好の人たちは、君の友達かい?」
章刀 :「そんな風に見えるか? ってか、正直ちょっとしんどいんだ。 できれば加勢してくれないか?」
俺が呆れ交じりにそう言うと、晴は快くニコっと笑う。
晴 :「ああ。 その為に来たんだ」
すると、晴は屋根の上から高く跳んだかと思うと、次の瞬間に俺の目の前にフワリと着地した。
そして俺の顔をジッと見て、フゥ・・・と小さくため息をつく。
晴 :「こんな無茶をして、また倒れでもしたら愛梨の雷が落ちるぞ?」
章刀 :「悪い、気を付けるよ。 でも、今はこいつらを何とかしないと・・・・」
晴 :「ああ、分かってる。 でも君は休んでいるといい。 ボクひとりで十分だ」
章刀 :「え? でも・・・・・・」
晴 :「いいから、ボクに任せておけ」
そう言うと晴は俺の肩をポンとたたいて、一人で七人の敵の前に歩み出た。
晴の強さはよく知ってるけど、今戦った限り相手も一兵卒とは比べ物にならない使い手だ。
一人で七人を相手にするのは簡単じゃないはず。
晴の武器は“七天罰刀”・・・・七本の刀を自在に持ちかえて戦うトリッキーなスタイルだけど、刀が七本あるからと言って七人を同時に相手にできる訳じゃない。
けどそんな俺の心配をよそに、晴はいまだに短刀を構えたまま動こうとしない敵に向かって自信満々に言い放った。
晴 :「さぁ、ここからはボクが相手になろう。 ・・・・・と言っても、あと数秒で全て終わってしまうだろうけどね」
言い終わると、晴は目の前にいる敵を指を差して数え始めた。
晴 :「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・・・・七人か。 うん、丁度いいな」
章刀 :「晴・・・・・?」
晴の言葉の意味はよく分からない。
しかし晴は敵の人数を数え終えると薄く笑みを浮かべ、七本ある刀の内、左肩と右腰の刀にそれぞれ手をかけた。
だが、敵もいつまでも大人しく待ってはいない。
晴が構えたのを見て先手を取ろうと考えたのか、敵の内三人が晴に向かってかけ出した。
対する晴は先ほどの構えのまま動かない。
章刀 :「晴っ! 来るぞっ!!」
俺の声にも答えず、動こうとはしない。
敵との距離が、どんどん近付いて行く。
このままじゃ・・・・・
晴 :「七天罰刀――――」
章刀 :「っ!?」
敵との間合いが詰まろうとした刹那、晴が何かを呟いたのが分かった。
同時にまるで斬り裂かれる様な鋭い殺気が、晴から放たれる。
晴 :「“瞬・天”(しゅんてん)―――――――――」
その瞬間、辺り一帯を風が吹き抜けた様に感じた。
ズバババババババッ!!!
敵 :「「「ガハァッ!!!」」」
敵 :「「「「グフッ!!?」」」」
章刀 :「なっ・・・・・!?」
俺は思わず、言葉を失っていた。
一陣の風が吹いたと思った直後、敵が次々と悲鳴を上げて倒れこんだのだ。
しかもそれは晴に襲いかかっていた三人だけでなく、距離の離れていた残りの四人までも。
当の晴はさっきの場所から一歩たりとも動いておらず、刀も鞘に収められていた。
敵 C:「バカな・・・・・、どうやって・・・・・・」
まだ意識を保っていた敵の一人が顔を上げ、うめくように晴に言った。
晴 :「どうやって? 別に、どうもこうも無いよ」
対する晴は少しけだるそうに答え、地面に這いつくばる敵を見下ろす。
そして戦う前と同じ様に、フゥ・・・と小さく息を吐いた。
晴 :「一人一太刀・・・・七回斬っただけさ」
敵 C:「今の一瞬で・・・・・そんな、事が・・・・・・・」
敵は信じられないと言う反応だったが、どうやらそのまま気を失ってしまったようだった。
信じられないのも無理は無い。
傍らで見ていた俺でさえ、今のは目で追うのがやっとだった。
簡単に言えば、晴が使ったのは抜刀術・・・・俗に言う居合切りだ。
それを超高速で七回、七本の刀で全て行っていたのである。
最初に右手に持った刀を抜刀し、その刀を鞘に戻す前に左手の刀を抜刀、そしてまたその刀
を戻す前に右手で違う刀を抜刀・・・・・これを今の一瞬で七回繰り返したわけだ。
でも理屈で言うのは簡単だけど、今のスピードは尋常じゃない。
正直俺があの技をやられたら、受け切る自信が無い。
まさか、晴の本気がここまでだったなんて・・・・・・
俺は驚きと興奮で、しばらくその場から動けないでいた。
晴 :「さて、終わったよ章刀」
章刀 :「あ、ああ・・・・」
晴の声で、ハッと我に帰る。
晴の顔には疲れの色すら浮かんではいなかった。
章刀 :「ありがとう、助かったよ」
晴 :「気にしなくていい。 それより、今から一杯付き合わないか?」
そう言って、晴は口の前で“クイ”と盃を傾けるジェスチャーをして見せた。
章刀 :「おいおい、病み上がりに酒をすすめるなよ」
晴 :「何を言っている。 酒は百薬の長だというだろう? それに、どうせ昼間寝てばかりで今から寝ようと思っても眠れまい? だったら、今の礼の意味も込めてボクに付き合ってくれてもいいじゃないか」
章刀 :「・・・・はぁ~。 わかったよ」
俺は、少し苦笑しながら承諾した。
正直、いきなりいろいろな事がありすぎて身体が昂ぶったままだ。
少し落ちつけるためにも、晴に付き合うのも悪くは無いかな。
――◆――
晴に連れられて、俺は城の屋根の上へと来ていた。
どうやら晴はさいしょからここで酒を飲むのが目的だったようで、そこには徳利と盃が二つ
用意されていた。
ちなみにさっきの刺客たちは、警備兵を呼んで捕えてもらった。
明日にでも詳しい話を聞いて、処分を決めるとしよう。
晴が俺の盃に酒を継いでくれて、お返しにと俺も晴の盃に酒を継ぐ。
章刀・晴:「「乾杯」」
カチャ・・・と互いの盃を当ててから口に運ぶ。
酒を飲みながら空を見上げると、そこには満天の星空が広がっていて俺は少々面食らった。
思えば、この世界にきてからこんな風に星を見る事なんて無かった気がする。
未来の世界ではそうそう見られはしないこの星空が、この世界ではこうして見上げるだけ
で視界全体に広がっている。
ここは自分の故郷のはずなのに、なんだか不思議な気分になった。
章刀 :「星が綺麗だな」
今飲んだ酒の感想も言わぬまま、俺はそんな言葉を口にした。
晴 :「だろう? ここはボクのお気に入りの場所でね、よくここで酒を飲むんだ」
章刀 :「ひとりでか?」
晴 :「ああ。 ひとりの方が静かで落ち着く。 でも、章刀がどうしてもと言うなら、これからは誘ってやらなくもないぞ?」
章刀 :「はは、それは光栄だね」
互いに笑い合い、再び盃を口に運ぶ。
そして俺は、ずっと気になっていた事を口にした。
章刀 :「なぁ、晴。 もしかして、今日敵が来る事も、俺が戦うことも分かってたのか?」
あのタイミングで晴が来た事、それに盃が二つ用意されていた事。
この二つの状況は、偶然にしてはあまりに出来過ぎな気がした。
でも晴は、俺の質問に対してクスクス笑いながら首を振った。
晴 :「まさか、それは買いかぶりすぎだよ。 僕は予知能力者じゃない。 ここで酒を飲むときは、偶然出会った誰かを誘えるようにいつも盃は二つ用意するんだ。 でもまぁ、敵が来る事に関してはある程度警戒していたけどね」
章刀 :「なるほど、さすがだね」
晴 :「とは言え、章刀が起きて来ることはさすがに想定外だったよ。 気配に気づいて城門に行ってみたら、もう君が奴らと対峙していたからね」
章刀 :「ええ!? だったら最初から助けてくれればよかったじゃないか!」
晴 :「何を言ってるんだ。 せっかく君が頑張っているのに、水を差しちゃ悪いだろ?」
章刀 :「う~ん・・・・・」
なんだか上手く丸めこまれた気がするけど・・・・・
俺としては、一刻も早く助けて欲しかった。
晴 :「ははは、まぁそうふてくされるな。 結果的に勝てたんだから良いだろう?」
章刀 :「はいはい、感謝してるよ」
晴が笑いながら空になった俺の盃に酒を継いでくれて、俺は苦笑いでそれを受ける。
そして盃になみなみ注がれたそれを、また口に運んだ。
???:「ニャーー」
章刀 :「ん? 猫か・・・・?」
とつぜん聞こえた猫の様な鳴き声に辺りを見まわしてみる。
まぁ別に野良猫なんて珍しくも無いし、この城には心の飼ってる動物がたくさんいるからな。
晴 :「お。 この声は・・・・」
章刀 :「え?」
だけど晴の方は、どうやら声の主に心当たりがあるようだった。
???:「ニャーー」
シュタ。
章刀 :「ん?」
少しして再び聞こえた鳴き声と同時に、なにやら小さな白い影が晴の隣に現れた。
その姿を見て、俺は心底驚いた。
章刀 :「あ! こいつは・・・・・」
いきなり現れたそいつは、綺麗な白い毛にピンとした三角耳と鍵尻尾。
そして身体のいたるところに特徴的な青いトラシマ模様。
そう。
俺が倒れたあの日に中庭で見かけた、あのトラの様な生物だった。
晴 :「やぁ、虎助(こすけ)。 お前も来たのか」
驚く俺をよそに、晴はそのトラの様な生物の頭を撫でながら名前を呼んだ。
章刀 :「え!? 晴、そいつの事知ってるのか?」
晴 :「ん? 知ってるもなにも、虎助はボクの猫だよ」
章刀 :「えぇっ!!?」
思わず俺は声を上げた。
まさかこのトラが晴のペットだったなんて。
ん?・・・・ていうか、猫ぉ・・・・・?
章刀 :「猫って・・・・そいつ、トラの子供じゃないのか?」
俺がそう聞くと、晴は虎助とやらの頭を撫でながら可笑しそうに笑った。
晴 :「ハハハ、バカだな章刀。 いくらなんでも、こんなところにトラがいるわけ無いだろ?」
章刀 :「いや、まぁ・・・・それはそうだけど・・・・・」
俺だってそう思うけど、こいつの風貌はどう見てもトラの子供だよ。
晴 :「虎助は、昔野良猫だった所をボクが見つけて連れて来たんだ。 それからずっとこの城で飼ってるんだよ。 まぁ、確かに見た目はトラっぽいけどね」
章刀 :「なんだ、そういうことか」
よかった。
あれは俺の見間違いじゃなかったんだな。
晴 :「飼っているとは言っても、こいつはすぐ勝手にどこかへ行ってしまうから、城にいる事はあまり多くは無いけどね。 まぁ、章刀も仲良くしてやってくれ」
章刀 :「りょーかい。 よろしくな、虎助」
初対面の挨拶にと、虎助の頭に手を伸ばすが・・・・・
晴 :「あ! よせ・・・・・」
虎助 :「ニ゛ャッ!!」
バリッ!!
章刀 :「ッて“ええええェェェーーーーーーーッ!!!!!」
引っ掻かれた!
トラに思いっきり引っ掻かれたーー!
晴 :「だからよせと言ったのに・・・・・。 虎助は気位が高くてな、慣れていない者が気安く触ろうとすると容赦ないんだ」
章刀 :「言うのおせーよ! 触る前に言っといてくれ!」
虎助 :「ニャ~~♪」
俺は引っ掻かれた手をさすりながら引っ掻いた張本人を見る。
だが当の虎助は悪びれた様子も無く、猫らしく丸まって実にリラックスしていた。
まったく、なんてやつだ。
晴 :「まぁ、こういう態度を取るのは最初だけだ。 章刀なら、すぐに慣れるだろう」
章刀 :「はぁ~・・・。 そうなる事を願うよ」
晴 :「ああ、それはそうと章刀。 君を誘ったのにはちゃんと理由があったんだ」
章刀 :「理由・・・・?」
いきなり晴がそんな事を言い出したので、俺は首をかしげた。
理由って言ったって、さっきも聞いた通りたまたま今日は俺と会ったから誘っただけのはず
だ。
他に何か理由があるんだろうか?
そう聞こうとしたところで、晴の表情が少しだけ引き締まったように見えた。
晴 :「最近、何か悩んでいないか?」
章刀 :「え・・・・・?」
晴の質問が意外すぎて、俺は相当間抜けな表情になっていたと思う。
悩んでる・・・?
俺が・・・・・?
章刀 :「悩んでるって、一体何を・・・・?」
晴 :「それを聞いているのはボクの方だよ。 自分じゃ気づいてないかもしれないけど、ここ数日少し様子がおかしかった気がしてね。 あいにくと、ボクはそういうのに敏感な方なんだ」
章刀 :「・・・・・・・・・・・・・・」
晴に言われて、少し自問自答してみる。
・・・・実を言うと、心当たりはある。
多分、晴の言っているのはその事なんだろうな。
晴 :「言いたくないのなら無理には聞かないが、ボクでよければ話してみてくれないか? お兄ちゃんが悩んでいるのを見ると、妹としては心配なんだ」
考えている俺の顔を見て何かを察したのか、晴が優しくそう言ってくれた。
確かに、自分ひとりで考えていても仕方が無いな。
俺は意を決して、胸の内を晴に告げることにした。
章刀 :「実は少し前、司馬懿に会ったんだ」
晴 :「ほぉ・・・・あの司馬忠達に・・・・・」
俺の答えを聞いても、晴は特に驚いた様子も見せなかった。
さすがに、この答えを予想していたわけじゃないと思うけど。
章刀 :「ああ、それで少し話をした。」
それから、俺は司馬懿と会ったあの日の事を全部話した。
司馬懿が戦う理由の事。
それに掛ける彼の覚悟の事。
俺の考えは、ただの理想に過ぎないと言われた事。
それに対して、何も言い返せなかった事。
そして、この先の魏との戦いに不安を抱いている事。
あの日から俺が一人で抱えていた事を、全部吐き出した。
晴 :「なるほど・・・・」
俺の話を全部聞き終えた晴は、少し考えた後納得したように頷いた。
章刀 :「司馬懿の言っている事は正しいよ。 誰も死なせずに平和を手に入れようなんて、俺の愚かな幻想だ。 まるで子供の夢物語だよ」
晴 :「確かに、君の理想は限りなく不可能に近い。 それこそ、手を伸ばそうとすればあの星より遠くに感じるほどにね」
夜空に光る星を見ながら、晴は言う。
その言葉が、俺の心に大きく重くのしかかった。
晴 :「だが章刀、これだけは覚えておくといい。 この世には、永久に続く平和も、永久に続く争いもないって事をね」
章刀 :「え? なんだよ、それ・・・・」
晴 :「そのままの意味さ。 どんな平和な時代にも必ずいつか争いが起こり、そしてその争いが終われば必ず次は平和が訪れる。 つまりたとえ今は争うしか無くても、その後には必ず和になるってことさ。 その平和が、どんな形であろうとね」
章刀 :「・・・・・・・・・・・・・」
晴の言葉は、あの日司馬懿が言っていた事に似ている。
――――『重要なのは過程じゃないさ。 たとえこの戦いが終わるまでに何百万の命が失われたとしても、後世に残るのは平和になったという結果だけだ』――――――
たしかに、その通りかもしれない。
現に俺がもと居た世界は平和だったけれど、その前にあった戦争の事なんてほとんどの人
が詳しく知ろうともしない。
平和な時代しか知らない人にとって、過去の争いなんてどうでもいい事なんだ。
だけど、いま俺がいるのは平和な時代じゃない。
大事なのは、今のこの争いの時代でどうするかだ。
その為に俺は、どうすればいい・・・・・
章刀 :「なぁ、晴・・・・」
晴 :「ん?」
章刀 :「だったら逆に聞きたい。 何で、平和は永久に続かないのかな・・・・・?」
思った事を、そのまま口に出してみる。
そもそもこんな事を晴に聞くこと自体、お門違いなんだろうけど。
晴 :「フム・・・・。 その答えは、案外簡単かもしれないね」
章刀 :「え?」
晴 :「人間って生き物は、争いの愚かさは忘れなくとも、平和の尊さは案外すぐに忘れてしま うからだよ」
章刀 :「平和の、尊さ・・・・?」
晴 :「そう。 戦争の時代を生き抜いて平和を過ごす者は、争うことの悲しみや辛さを決して忘れない。 だから、その平和を維持しようと努力する。 けれどその子供や、そのまた子供にまでその感情を伝える事は難しい。 逆にその先を生きる者たちは自分たちが生きている平和の尊さを忘れ、もっと良い生活を手に入れようと欲をかき、それがやがて戦争になる。 そんな愚かな連鎖が、今までずっと繰り返されてきたんだだ」
平和しか知らない人間は過去の争いなんて気にも留めない。
でも争いしか知らない人間は、過去の平和を渇望する。
章刀 :「今のこの時代も、その連鎖の中のひとつってことか・・・・」
晴 :「そういう事だ。 だからといって、今の争いを正当化する理由にはならないけどね」
章刀 :「ああ、そうだな・・・・・」
晴はすごいな。
俺なんかよりもずっと、戦う意味や覚悟を知ってる。
なのに俺は晴の話をきいてもまだ、だれも傷つかずに済めば・・・なんて事を考えずにはいられない。
ほんと、これじゃ子供だよ・・・・・・。
章刀 :「はぁ~・・・・・」
晴 :「章刀・・・・・。 むぅ・・・・・・・・・・・あ。 ならばこう考えてみたらどうだい?」
章刀 :「え・・・・?」
頭を抱える俺を見てなにやら考えていた晴が、思いついたようにパンと手を叩いた。
晴 :「章刀の言うように、だれも犠牲にならずに平和を手に入れる事は正直難しい。だったら、平和になったその先の事を考えてみるんだよ」
章刀 :「その先・・・・・?」
晴 :「ああ。 この争いが終わって平和になったら、その平和をいかに長く続けられるかを考えるんだ。 平和が長く続けば、その間争いによる犠牲は出ない。 つまり結果的には犠牲者を減らせるじゃないか」
章刀 :「それは、そうだけど・・・・・」
晴 :「だろう? 世の中には、考えたってどうにもならない事がある。 だったら、どうにかなる可能性がある事を考えればいいんだ。 君は、これからそれを考えていけばいい」
章刀 :「晴・・・・・・」
晴にしてはめずらしく、少し熱のこもった言葉だった。
それだけ俺の事を勇気づけようとしてくれるんだという気がして・・・・
章刀 :「・・・・・はは。 そうだな」
俺は、思わず笑みがこぼれた。
不思議だな。
さっきまであんなに悩んでたのに、今は随分とすがすがしい。
章刀 :「考えてみるよ。 この先にある平和を、ずっと続けられる方法を。 けどその前に、まず
今の戦いに勝たなくちゃいけない」
そうだ。
だから俺は、司馬懿と全力で戦わなきゃならない。
あいつに、俺の覚悟を見せる為に。
晴 :「ああ、章刀ならできるさ。 君は、ボクたちの兄だろう?」
章刀 :「ああ、頑張るよ。 ・・・・それから、晴」
晴 :「ん?」
章刀 :「ありがとう。 お前に相談して良かったよ」
晴 :「む、むぅ・・・・・。 そう言われると、その・・・・少し照れるな」
章刀 :「あははは」
晴 :「むぅ・・・・・。 わ、笑うな章刀!」
虎助 :「ふにゃ~~・・・・・」
照れ隠しに少し顔を赤くして反論する晴をみて、俺は笑う。
晴のとなりでは、そんな二人を意にも介さず虎助があくびをしていた。
たぶん屋根の上からはこの後もう少し、二人と一匹の賑やかな声が響く事になるだろう。
でもこの日は、俺にとってずいぶんと有意義な夜になったのだった。
<あとがき>
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
今回初登場の虎助くんですが、なんかマスコット的な動物が一匹いたらいいな~と思って考えました。(もちろんオスです)
一応デザイン書いてみたので張ってみますww↓
近いうちカラーで見せれたらいいなぁ・・・・・汗
虎助↓
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なかなか話がまとまらず投稿が遅くなりました。
今回は章刀ガンバって感じの話になってます。