新暦72年 12月 ミッドチルダ北部 とある広場
はやて 「これは・・・違うな。これも・・・違う。」
はやてはベンチに座って報告書と5・6枚の写真を見比べていた。写真は共通して黒髪に紅い瞳、又はそれに近い色の瞳の
15歳前後の少年が映っていた。報告書はその写真の人物のプロフィールだ。
はやて 「はぁ・・・・そう簡単に見つからんとは思っとったけど・・・なぁ。」
この写真、以前カリムに頼んで調べて貰った者達だ。しかし、どれも零冶に似ても似つかない者達ばかりだ。
はやて 「黒髪に紅い瞳なんてそうおらんのになぁ・・・。」
この時、零冶はボースの忠告を受け、外に殆ど出ていない。出るとしても帽子とサングラスで顔が分からないように
していた為、カリムの情報網になかなか引っかからなかった。
はやて 「あーもう!今日は止めや!止め!こんな気分じゃ見つかるのも見つからん!」
はやてはそう言うと写真と報告書をカバンに仕舞い、深く腰掛けた。
はやて 「今は他の事でお考えて気分を一転させな・・・。」
そうしてはやてはふと思い出した。
はやて 「そういえば・・・リィンが言ってたなぁ。今年の一部の新人はかなり強いって。確かウチのおる104部隊に来た・・・確か、
キャシー・フェリルとルインヴォルテックやったかな?」
はやてがそんなことを思い出しているとはやてを呼んでいる声が聞こえた。
??? 「はやてちゃ~ん!」
はやて 「ん?あ、リィン!どしたん?」
リィンと呼ばれたのは体長30㎝前後の女の子?が飛んできた。
リィンⅡ「今日の仕事が終わったので探しにきたのですよ~!」
はやて 「そっか。・・・あ、そうやリィン。今年、104部隊に入隊した子で強い子がおったやろ?」
リィンⅡ「はいです。キャシーちゃんとルインちゃんですね。それがどうかしましたか?」
リィンは首を傾げてはやてに聞いた。
はやて 「うん、ウチが今度新たに創る部隊、機動六課のメンバーに加えられんかなぁって思ってな。」
リィンⅡ「それは良い考えです~!あ、それと他の部隊にも腕の良い新人さんもいるですよ?」
はやて 「そうなん?今年はえらい人材が豊富なんやなぁ。何かあるんやろか?」
はやては頬に指を当てて考えた。すると、リィンがその理由を言った。
リィンⅡ「リィンもそれが気になって調べたのですよ。すると今年入隊した新人さんは皆、第4訓練学校のとある教官に教わった人たちなのですよ。」
はやて 「ある教官?一体誰や?」
リィンははやてに聞かれると、懐から、メモ帳を取り出した。
リィンⅡ「えっとですね・・・、ボース本部長直属の部下で第4訓練学校に出向している特別戦技教導官、ゼロ・ユンカース一曹ですね。
年齢ははやてちゃんと同じ15歳。訓練学校の教官としては最年少ですね。魔導師ランクはAAAです。」
そこまで聞いてはやては疑問に思った。
はやて 「?何で本部長直属の部下が教官なんかやっとるんやろか?」
リィンⅡ「一応表向きは訓練生の戦闘技術の底上げとなっていますが、派遣されたのはユンカース一曹だけなんですよ。」
はやて 「それはおかしいな。訓練生のスキルの底上げっていう理由はまだ分かるんやけど、派遣する人数が
一人だけっていうのはおかしいやろ?」
はやてが顎に手を当てて考えた。そこでふと思いついた。
はやて 「よっしゃ!それなら一度見学してみよか。どんな訓練なのか気になるしな!」
はやては少し意気込んで言ったが、リィンは困った表情になった。
リィンⅡ「・・・はやてちゃん、それは無理なのですよ。」
はやて 「え?何でなん?」
リィンⅡ「以前・・・何人かの人が彼の訓練内容を見たいって言ってきたらしいのですが、全て校長から断られているのです。」
はやて 「校長が!?なんでや!?」
リィンⅡ「それが、どうもボース本部長の圧力らしいのですよ。理由は分かりませんけれど。」
はやてはそれを聞くと再び考え込んだ。
はやて 「・・・何か裏があるんやろか?でも、裏があるなら目的が解らへん。なんのメリットがあるんやろ?」
そしてはやては決めた。
はやて 「・・・本部長に会って直接探りを入れてみよか。」
そうと決まったら、はやては陸上本部へと足を向けた。
その頃、第4訓練学校では。
零冶 「思ったより時間が掛かったな。まぁ時間はあるからいいか。」
零冶は訓練学校の廊下を歩いていた。つい先ほど前任の教官との話が終わって訓練生が待機している教室へ向かっている所だ。
今回で零冶の教官職は最後となる。終わり次第、ジェイルのラボに帰ったり、DOG隊の仕事をしたりしなければならない。
ちなみにラボに戻るのはチンク達に終わったら一度、必ず戻るように言われているためである。もし戻らなければ・・・・
この先は言わなくても理解出来るだろう。
零冶 「さて、ここだな。」
そして訓練生が待機している教室に零冶は着いた。
零冶 「よし、やるか・・・。」
そして零冶は教室へ入った。
そこには訓練生が静かに待っていた。零冶は何も言わずに教卓へ立った。そして
零冶 「俺の名前はゼロ・ユンカース一曹だ!話は聞いているだろうが、残りの4ヶ月間お前達ヒヨコ共を実践で使い物にできる様に
するのが俺の役目だ。それと、俺の訓練はそこら辺の教官より遙かに厳しい。耐えられん奴は今すぐ止めろ。止めはしない。」
そして訓練生は誰も動かなかった。
零冶 「・・・いいだろう。お前等、後悔するなよ?それでは早速訓練に入る!全員、1000時にグラウンドへ集合せよ!」
訓練生 「了解!」
訓練生は一斉にグラウンドへ駆けていった。
零冶 「・・・最低限の訓練はできていると思うが・・・耐えられるといいな。」
そう呟いて零冶もグランドへ行った。
グラウンドへ着くと、訓練生は整列していた。
零冶 「揃っているな?・・・これより、実践訓練を始める!A班から順番に前に出ろ!俺が相手をする。」
訓練生 「っ!」
訓練生は動揺する。基本、教官自ら相手になる事は無いからだ。もちろん、今までに教官が模擬戦の相手になったことはない。
零冶 「どうした、早く返事をして前に出ないか!!」
A班 「は、はい!!」
零冶 「さあ、構えろ。これからみっちり鍛えてやる。・・・来い!!」
そして、零冶の地獄の訓練は始まった。
後に、この訓練があまりにも厳しすぎるために“ゼロの悪夢”と呼ばれたのはまた別の話だ。
零冶の訓練から2ヶ月後、とある寮の部屋で少女が一人悩んでいた。
??? 「・・・・・・なんでだろう?教官と何処かで会った気がする・・・。」
その少女は青い髪をショートヘアにした活発そうな女の子だ。そして、別の少女がドアを開けて入ってきた。
??? 「スバル、どうしたの?」
スバル 「あ、ティア・・・ううん、別に何でも無いよ。」
ティアと呼ばれた女の子はオレンジ色の髪をツインテールにした子だ。
ティアナ「嘘。」
スバル 「・・・え?」
ティアナ「スバルがそんな表情をするなんて私が知る限り2度しか無いわ。さあ、きりきり吐きなさい!」
そういってティアナはスバルの頬を引っ張った。
スバル 「い、いひゃいいひゃい!わはったわはったはら!(い、痛い痛い!分かった、分かったから!)」
そういうとティアナは引っ張る手を離した。
スバル 「うぅ・・・酷いよぉ。」
ティアナ「うるさい。さあ、何を悩んでたの?」
スバル 「本当に大したことは無いんだよ?ただ、2ヶ月前に来た教官、ユンカース教官と以前何処かで会った気がしたから、
少し考えてたんだよ。」
ティアナ「あの教官と?で、思い出したの?」
スバル 「ううん、全く。あ、でも似ている雰囲気の人なら知ってるよ。」
ティアナ「?・・・誰なの?」
スバル 「ティア、2年前の臨海空港火災の事を覚えている?」
ティアナ「ええ。覚えているわ。大規模な火災だったみたいね。」
スバル 「うん。それで私ね、あの空港へお姉ちゃんと遊びに行ってて、運悪く火災で取り残されたの。」
ティアナ「っ!」
ティアナが何かを言う前にスバルは続けて言った。
スバル 「そして突然、石像が倒れてきた。私はもう助からないって思った時、助けてくれた人がいたんだ。その人は真っ黒な鎧と
髑髏の兜、そしてとっても大きな剣と銃を持って、私を助けてくれた。その人の背中とね・・・教官の背中が
同じに見えたんだ。」
ティアナ「そう・・・。」
ティアナは真剣にスバルの話を聞いた。スバルの表情がとても真剣そのものだったからだ。
スバル 「さて!こんな話は止~め!もう寝よ、ティア。」
ティアナ「・・・そうね。明日の訓練も教官が相手するらしいから、体を休めないとね。」
スバル 「ゔっ!折角思い出さないようにしてたのに・・・。あれってもう訓練じゃないよぉ・・・ただの拷問だよぉ~。」
るーるー、とスバルは涙した。
話は変わって、その頃はやては管理局地上本部、本部長室へ来ていた。だが、はやてとボース少将は
はやて 「何で見学させてもらえへんのですか!?」
ボース 「何度も言っているだろう?本人が拒絶しているからだ。」
はやて 「ちょっと見るだけやないですか!なんで拒絶されなアカンのですか!?」
ボース 「彼は『訓練を見世物にするつもりは無いし、訓練生達が訓練に集中できない』と言ってたんだ。彼が受け持った訓練生の
訓練内容に関しては全権を与えてある以上、それはできない。」
と言った風に言い争っていた。さっきからこのループである。
はやて 「だから!何故彼にそこまでの権限が与えられとるのですか!?おかしいやないですか!」
ボース 「八神一等空尉!!それ以上の詮索は無用だ!今すぐ自分の仕事に戻りたまえ!これは命令だ!」
はやて 「っく!・・・分かり・・・ました!」
はやてはしぶしぶながら退室した。本部長から命令と言われた以上、逆らうことはできない。
はやて 「・・・やっぱりおかしい。何かある事は間違いないな。」
はやては通路を歩きながら言った。
はやて 「でも、強引に調べるのはアカン。新しい部隊を創る以上、問題を起こしたらこのこの件が白紙に戻ってしまう・・・仕方ないなぁ。我慢するか・・・。」
その頃、ボース少将は。
ボース 「まったく、まさかここまで乗り込んでくるとは思わなかったぞ?」
ボースは多少呆れながらも何処か嬉しそうにしていた。
ボース 「あそこまで私に食い下がったのはあの子が初めてだ。将来きっと優秀な魔導師になるだろうな。それにしても、八神はやて・・・か。」
ボースは少し悲しそうな表情をした。
ボース 「すまんな。彼が自分の気持ちに整理が付いていない以上、会わせるわけにはいかんのだよ。だが・・・あと3年。
あと3年経っても彼の気持ちが変わらないようであれば、その時は・・・。」
ボースは窓の外を眺めて呟いた。
ボース 「・・・必ず会わせてやろう。それまで辛抱していてくれ。」
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あまり進まないので無理矢理終わらせました。