No.476864 バカテス 僕とプールと真夏の女神2012-08-29 00:22:42 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:18289 閲覧ユーザー数:18126 |
僕とプールと真夏の女神
始まりはムッツリーニがくれた2枚のチケットだった。
「ムッツリーニ。これは一体何?」
「…………プールの招待券」
8月のはじめ、夏休みの真っ最中に僕はムッツリーニに近所の公園に呼び出された。そして渡されたにのが『如月プールランド 招待券』と書かれたチケット。
「プールだったらムッツリーニと工藤さんで行けばいいじゃない。工藤さんきっと喜ぶよ」
ムッツリーニはA組の工藤愛子さんと仲が良い。もうほとんど彼氏彼女と呼んでも差支えない程に。けれど、ムッツリーニが奥手過ぎて未だに正式な恋仲になっていない。
そんな2人だからこそプールに行って親密度を高める必要が、少なくともムッツリーニにはあるんじゃないだろうか?
「…………俺と工藤愛子はプールに行く」
ムッツリーニは小さな声で顔を真っ赤にしながら答えた。
「あっ、そうなんだ」
ムッツリーニにしては頑張った決断だと思う。じゃあ、何故僕にチケットを渡そうとするのか……。
「もしかして、2人きりだと間が持たない訳?」
ムッツリーニは首を縦に何度も振ってみせた。
「せっかくのデートなんだから2人で楽しめば良いのに」
「…………2人きりで何時間もいたら、俺はプレッシャーで心臓麻痺を起こす」
ムッツリーニは胸を張って堂々と情けないことを述べた。
「けど、そういうことなら僕じゃなくて雄二と霧島さんにチケットを渡せば良いんじゃないの? ダブルデートって感じでさあ」
坂本夫婦なら、特に奥さんの方が一も二もなくプール行きに賛同するだろう。
「…………それも考えた。だが、それはダメだ」
「なんで?」
「…………統計上、あの2人は着いた早々に別行動を取っている可能性が高い。工藤愛子と2人きりにされてしまう未来が見えている」
「なるほど」
確かに雄二も霧島さんもあまり団体行動は好まない。そんな2人がムッツリーニ達と別れてデートを楽しむ可能性は道理だった。
「…………そういう訳で明久。お前が誰か女子を誘ってプールに来い。時は明後日の土曜日だ」
「女の子に人気のない僕に誰を誘えと?」
ムッツリーニの用件は無茶だと思う。何故なら女の子を僕1人で誘うのは普通の行為ではない。男女2人でプールに行くなんて、それはやっぱりデートと呼ばれる行為だと思うから。
グループで遊びに行くならともかく、僕とデートしようと誘われてイエスと言う女の子がいるとは思えない。
「…………姫路でも島田でも木下姉でも島田妹でも他の女子でも構わない。とにかく土曜日10時に女子と2人でプールに来い」
「そんな無茶苦茶な」
首を横に振って難易度が高いミッションであることを告げる。
幾ら仲の良いクラスメイトだからってデートに誘えるのかと言われれば違う。友情と愛情はやっぱりちょっと違うものだと思うし。
「…………じゃあ、頼んだぞ」
「あっ!? ちょっと……」
ムッツリーニは忍者のごとく煙のように消えてしまった。
こうして僕の手には2枚のプール招待券だけが残される状況となった。
「誰を誘えば良いのかなあ?」
大きな難関だった。僕とデートしても構わないという殊勝な心がけの女の子がいるとも思えない。
そしてもう1つの難題。
「明後日って、時間なさ過ぎだよぉ」
以前姫路さんや美波が言っていた言葉に従うと女の子がプールに行くのには色々と準備が必要らしい。主に水着を着る為の準備が。
つまり、かなり前もってプールに行くことを伝えておく必要がある。行くのが明後日ではもう伝えるのが遅すぎる気もする。けれど、可能な限り今日中に誘っておく必要があるだろう。
「今日中に女の子をプールデートに誘うなんて僕には難易度高過ぎるミッションだよ~」
昨夜やっていたテレビゲームの最高難度よりもまだ難しいと空を見上げながら叫ぶ僕だった。
「女性FFF団緊急総会を始めるわよっ!」
「「いっええええええいっ!!」」
「……ドンドンパフパフ」
「わ~いなのです♪」
「…………頼むからもうワシを一思いに殺して欲しいのじゃあ」
8月も後半の金曜日、アタシは文月学園2年F組で女性FFF団のメンバー達と共に緊急総会を開いていた。
出席者はアタシ、姫路さん、島田さん、代表、葉月ちゃん、そして半死半生の淫きゅべーだーだった。
「さて、本日の議題だけど……」
息を呑んで呼吸と思考を整える。
「優子ちゃんっ! 今日何の為に集まったのか教えて下さいっ! 気になって気になって仕方がありませんっ! 私、気になりますっ!」
「そうよっ! そんな溜めを効かせた前フリ程度でウチ達の気を惹けると思ったら大間違いなんだからねっ! さあ、早く教えなさいよっ! 教えてくれないとティロ・フィナーレなんだからね」
驚き役の2人は冷房も入らないこの蒸し暑い部屋の中でも元気一杯だ。
「じゃあ、言うわよ」
「「うんうん♪」」
「先ほどの映像を見てもらっても分かる通り……明久くんは明日女の子を誘ってプールに行こうとしているわ」
「「なっ、何ですって~~~~~~っ!?」」
2人はシンクロナイズドスイミングのように息の合った月面宙返りで後方に向かって高く優雅に飛んでいく。白と黒のパンツを晒しながら。どちらが黒かは言う必要もないだろう。より淫乱な方が黒を穿いている。
それにしても2人とも驚くことに満足を知らないらしい。まったく彼女達の強欲ぶりには呆れるを通り越して賞賛の拍手を送りたくなる。
まあ、それはともかく。
「つまり、何が問題かと言うと……」
驚きから回復した姫路さんが胸を反らしながら手を挙げた。
「つまり、この中で最も胸が大きくてエッチな体をしている私が明久くんにデートに誘われてしまうというのは世の必然ということですね。だって、男の子は胸の大きな女の子が好きなのですから仕方ありませんよね♪」
姫路さんは体を左右に振った。すると、巨乳キャラの特権よろしく姫路さんのバストが大きく揺れた。憎い。憎すぎる。おっぱい禁止っ!
「明久くんもエッチなんですから~♪ でも、健康な男の子だから仕方ないですよね♪ これで私も来年にはお母さんですね。マタニティー制服を準備しないといけませんね♪」
こんなにも勝ち誇る姫路さんを見たのは初めてだった。彼女は自分の破壊力無限大の胸に絶対の自信を持っている。でも、そんな彼女に異議を唱える少女がいた。
「何を言っているのかしら、瑞希? アキはね、プールに泳ぎに行くのよ。幾ら胸が大きくても泳げないアンタと一緒にいたってアキは楽しくないのよ。泳ぎが上手でアキと同じ目線で遊べるウチを誘うに決まっているじゃない。来年お母さんになるのはウチよ。マタニティー制服はウチにこそ相応しいのよ」
島田さんは薄過ぎるその胸を誇らしげに叩いてみせた。確かに単なる水着鑑賞会であれば姫路さんの圧勝なのだろう。けれど、プールでは水泳を楽しむことも要求される。
泳げない姫路さんと一緒に行ったのでは明久くんも気を使ってしまい、心の底からは楽しめないかも知れない。島田さんはその点をよく突いている。
けれどこの2人、驚く役としては超一流なのに、メインヒロインにしゃしゃり出ようとするとどうにも安っぽく見えるのは何故だろう?
敗北決定のサブキャラに思えてならない。というか、妊娠してまだ学校に通えると本気で思っているのだろうか?
そんな訳で彼女たちではなくヒロイン指数が遥かに高い、先ほどから腕組みして黙している葉月ちゃんに意見を聞いてみることにした。
「葉月ちゃんはどう思う?」
葉月ちゃんは厳しい表情のまま瞳を開いた。
「お姉ちゃんも綺麗なお姉ちゃんもガツガツし過ぎなのです。そんな肉食系女子ぶりを発揮すると草食系なバカなお兄ちゃんは逃げてしまうのです。その点、異性であることをあまり感じさせず癒し系マスコットキャラでもある葉月は……といつもみたいに話に乗りたい所ですが、現状はそれを許さないのです」
葉月ちゃんは難しい表情を浮かべている。
「さすがは葉月ちゃん。状況把握能力がそこの驚き役2人とは段違いね」
「そこの2人と一緒にされては葉月は舌を噛んで死ぬしかないのです」
葉月ちゃんは真顔を崩さない。
「私達のどこが状況を把握出来てないって言うんですかっ!?」
「そうよそうよっ! ウチ達にも分かるように説明しなさいよっ!」
驚き役を魂で理解している彼女達は言動の一つ一つが前フリになっている。アタシたちも彼女達の期待に応えて解説役を貫き通さなければ。
「い~い。先ほど見た明久くんと土屋くんのやり取りの映像は昨日撮られたものなのよ。この意味が分かる?」
2人に話を振ってみる。
「つまり、優子ちゃんは土屋くんに負けないストーキングの天才であるということでしょうか?」
「ストーキングは20歳までに辞めないと後が大変だわよ」
呆れ顔でアタシを批判する2人。ちなみにこの映像を撮ったのは秀吉。双子の弟が姉の意思を勝手に汲み取って自発的に撮影したものでありアタシは一切関与していない。そういうことになっている。
まあそれはともかく超一流の驚き役である彼女達に推理力を期待するのは無駄だった。
「そうではなく、バカなお兄ちゃんは昨日の内に一緒にプールに行く女の子に声を掛けた筈。なのに葉月達の中で誰もデートに誘われていないことが問題なのです」
葉月ちゃんは問題点を的確に指摘してくれた。さすがはこのバカテスが誇る最強のメガネキャラだ。アタシや代表よりも遥かにメガネっぽい論理に通じている。
「えっ? それって……」
「それってもしかして……」
驚き役の2人が体を大きく震わせている。驚く為のフリは完璧だ。そして今回のトドメはアタシがさすことにした。
「要するに明久くんはアタシ達以外の女の子をデートに誘った可能性が高いってこと」
「「何ですって~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」」
2人は頭から窓を突き破り大空へと飛び立っていった。そして、やがて重力に導かれて地面へと頭から墜落した。パンツを惜しげもなく晒しながら。
「明久くんが私達以外の子をデートに誘うってどういうことですか~っ!?」
「そうよそうよ。正妻であるウチ、二号である瑞希、それから三号、四号のアンタ達といるのにまだ飽き足らないって訳っ!?」
「何を言っているのですか、美波ちゃん!? 明久くんの正妻は私ですっ! 美波ちゃんが二号さんです。これは譲れません!」
「正妻はウチよっ!」
「私ですっ!」
地面に頭から突き刺さった割にやたらと元気な2人は戻って来てもうるさかった。
そのプロ根性には毎度頭が下がるが進行が遅くなるのが玉に瑕。
「どうもこうも明久くんはアタシ達以外の女とプールに行くルートを選択した。そしてその女が誰なのかアタシ達には分からない。今はそういう話よ」
明久くんはアタシ達にプールの1件を話していない以上、デートは水面下で進んでいる。
一番疑わしい犯人候補だった秀吉を尋問してみた。けれど死よりも辛い負荷を与えても潔白を主張し続けた。よってデート相手が誰なのかまるで分からない。
「そっ、それはアレじゃないですか? お姉さん、玲さんと一緒に行くことになったとか」
「玲さんじゃなくても、親戚で年の近い女の子と一緒に行くことになったとか」
2人は最悪なシナリオの可能性を打ち消そうと必死だ。アタシも今朝はそうだった。でも、それは叶わない。
「玲さんは今、お仕事でアメリカに出張中。明久くんの親戚の中にこの街に遊びに来られそうな年頃の女の子はいないわ」
秀吉を使った調査は完璧だ。
「えっとそれじゃあ……偶然道で出会った同級生の女の子に気軽に声を掛けたらオーケーされてしまったとかそんな感じなのかも」
「そうよ。相手の女が夏休み中に男とデートしたことがあるという見栄を張りたくて愛はなくてもオーケーする場合はあるじゃないのよ」
2人はデートが愛に基づいて行われるものでないことを必死に立証しようとしている。でも……。
「男が女をプールに誘うってそんな軽いものなのかしらねえ?」
2人に対して首を捻ってみせた。
「これはさる筋から入手した、男が何故女の子をプールに誘うのかその真実を描き出した映像よ」
アタシは再び映写機を回した。
『わたし知っているんですよ。男の人が、女の子をプールに誘う真の目的をですっ!』」
あやせたんは顔を真っ赤にしたまま吼えた。
『目的って何だよ?』
『腕を組ませてプールに行き、他のお客さん達に自分の女扱いして見せびらかすに決まっています。そしてプールから出たら、全身が疲れたので少し休もうとか言って強引にホテルに連れ込むに決まっているんです。そして、何もしないからと言いながら部屋に入った瞬間に野獣に変貌して襲い掛かるんです。そして嫌がる女の子を力尽くでモノにして、しかも何度もその体を貪りながら悦に浸るつもりに決まっています。更に更に、その時の映像をネタにして何度も呼び出して妊娠させるまで弄ぶつもりなんですよね? この変態っ! 犯罪者っ! 死んじゃえっ!』
あやせたんはスタンガンを振り回して必死に俺を遠ざけようとする。だが、俺はそんな彼女の右手首を取って動きを封じた。
『へっ! そこまでバレているのなら仕方がないな。プールに行く前に広いバスタブで2人きりの水泳練習といくか。さあ、ホテルに移動しようぜ』
『嫌ぁっ! 放してくださいっ!』
暴れるあやせたん。だが俺は逆に彼女の自由を更に奪って強引に歩かせ始める。
『今水着がないから2人とも裸で水泳練習になるけれど構わないよな?』
『いっ、良い訳がないじゃないですか、この変態っ!!』
『水泳とベッドの上での休憩は全部高画質カメラで撮影するから末永くよろしくな♪』
『けっ、ケダモノぉおおおおおおぉっ!!』
俺はあやせをそのままホテルへと連れ込み2人きりでの水泳大会を実施した。
ベッドの上に場所を移して人工呼吸や心臓マッサージ、痛覚を利用した蘇生術など人命救助のいろはをあやせの体を使って学んだ。
俺はこの日の大会と講習を通じてあやせととてもとても親密になったのだった。
そして翌年俺は大きくなったお腹のあやせと結婚した。
まったく、女子中学生は最高だぜっ!
俺の妹の親友がこんなに可愛いのは世の必定 ―完―
監督・脚本・演出・主演 新垣☆あやせ
「これが……真実っ! 明久くんだって健康な男の子。例外じゃないのっ! 女の子とプールに行くというのは、こういうことなのよっ!!」
血の涙を流しながら語る。
「それじゃあ明久くんは明日プールに一緒に行く女の子と……」
「結婚するつもりってことっ!? しかも外道な手段を使ってっ!!」
2人の声に無言で頷いてみせる。
「私……明久くんと相手の女の子を痛くないように一瞬であの世に送ってあげるのが友情なのかなって思います」
姫路さんは病んだ瞳で包丁を取り出してそっと一舐めしてみせた。さすが第二期アニメで病んだ表情ばかり見せていた娘は年季の入り方が違う。
「怒りをダイレクトに拳に乗せて、自分達の何が悪かったのかあの世で反省する機会を与えてあげるのが友情ってもんじゃないの?」
島田さんの右腕にはあり得ない程の闘気が込められている。聖帝の名は伊達じゃない。
「2人の気持ちはよく分かる。アタシもほとんど同じ気持ちだから。でもね……」
葉月ちゃん見る。
「敵の正体と戦略が見えない内は動かないのが吉なのです」
葉月ちゃんはとても悔しそうな表情を浮かべている。後手に回るのは策士である彼女にはキツい決断だろう。だけどそんな彼女の決断を驚き役2人は快く思わなかった。
「葉月ちゃんのやり方はぬるすぎます。私がこの胸でどんな強敵も払い除けてみせます」
姫路さんはその大きすぎる胸を反らしながら教室を出ていった。
「ウチも瑞希と同じ考えよ。座して死を待つなんて出来ない。胸はなくてもお色気作戦は出来るんだから」
島田さんも悠然と出ていった。
「2人とも行っちゃったわね」
「いいのです。どうせ2人には鉄砲玉になってもらうつもりでしたのです。おだてて乗せる手間が省けたのです」
黒いことを述べる葉月ちゃんにいつものキレはない。
「葉月はどんなに頑張ってもまだお母さんになれないのでこういうお色気全開勝負は厳しいのです。拳王のお姉ちゃんはどうするのですか?」
葉月ちゃんはアタシの胸を見ながら言った。まるで胸の大きさが自分と同じで残念ねと哀れみの 視線を伴いながら。
「葉月と胸の大きさが同じ残念な拳王のお姉ちゃんはどうするですか?」
「そこまで小さくないわよ。でもね……」
今にも息絶えそうな弟を見る。
「アタシも動く準備だけは色々としておくわ」
「女子高校生が羨ましいのです。葉月も早くおっぱいバインバインになりたいのです」
葉月ちゃんは溜め息を吐いた。
こうして真のラスボスでさえ展開が読めないプールイベントが始まろうとしていた。
「……私も雄二を連れて明日プールに行こう。雄二とラブラブ」
「代表はなんか楽しそうね」
「……雄二との赤ちゃんを作る。絶対」
一部の人は楽しそうにしながら。
そして運命の土曜日。
アタシは明久くん達の集合場所であるプールの入口に一足早く到着していた。
弟の変装をして男装しながら。
「明久くんがデートに誘った女の子が誰なのかまずは確かめなきゃ」
昨日あれから色々探ってみたけれど成果はなし。自分の目で直接相手を確かめることにした。
ちなみに今現在アタシは1人。姫路さんと島田さんはプールの中で各自明久くんをお色気誘惑するつもりらしい。会長は坂本くんをデートに誘って普通に中で遊ぶらしい。
葉月ちゃんにいたっては今回はとても嫌な予感がすると不参加。「葉月にはきっとまだ早い展開が訪れるに違いないのです」とは本人の弁。真のラスボスが恐れを抱く今回の事態、果たしてアタシだけで立ち向かえるだろうか?
「弱気になっちゃ駄目よ、優子。今日は水着勝負。お色気満載の勝負回。しかも明久くんが最もお気に入りの秀吉の真似をしていれば……勝機はある筈っ!」
拳を突き上げ気合を入れ直す。天が割れて雲が全て吹き飛ぶ。アタシの持ち味を最大限に発揮すればまだ勝機はある。そう固く信じて決戦に臨む。弟の真似という時点で心の中を寒風が吹いているのは確かなのだけど。
「あっ! 明久くん、来たわね」
物陰に隠れて明久くんの様子を窺う。明久くんは1人で到着したのではなかった。その隣には少女の姿があった。あの女の子は……。
「嘘っ!? 明久くんがデート相手に選んだのって……美紀、なの?」
明久くんの隣を歩いているのはアタシのBL道の師にして盟友である玉野美紀だった。
「玉野さんが偶然街中で会った僕の頼みを聞いてくれて助かったよ」
「いえ。私の方こそ誘って頂いてありがとうございます。まさかアキちゃんのプール総受けイベントを間近で見られるなんて……。幸せすぎて死んでしまいそうですっ!」
美紀は両手を組みながら天を見上げて感動の鼻血を流している。
……何て言うか、今の会話だけで大体の概要は把握出来た。
でも、まだ安心は出来ない。
何故なら美紀は腐女子として明久くんの総受けをこよなく愛するけれど、一方で乙女として明久くんを愛してもいる。つまり、アタシと同じスタンス。
よって明久くんの水着姿を見れば野獣の血が騒いで襲い掛かる可能性は否定出来ない。
だけどこれで明久くんがデートに誘った相手もその理由も分かった。
敵の正体が見えた以上、アタシも攻勢に打って出るっ!
「おおっ! 明久く…と美…玉野ではないか。今日も気持ち良い総受け日…晴天じゃのう」
偶然を装い弟のフリをしながら2人へと近付く。アタシと秀吉は双子。同じ声優が演じ分けているぐらい声もそっくり。しかも弟の考えていることは全て分かる。だってアタシは優等生だから。アタシの物真似は完璧よ。
「やあ、秀吉。今日は何だかいつもより豪傑だね。まるで世紀末覇王みたいだよ。……ブッ!?」
アタシの拳が明久くんのお腹にめり込んだ。まったく、その正体は可愛い女の子であるアタシが男である弟よりも豪傑である筈がないのに失礼な。
「アタ……ワシがいつもと変わる所など何もないのじゃ」
ハッハッハと笑ってみせる。
「つまり木下くんがアキちゃんを白濁に染め上げるデコレイターの1人なんですね。水着姿のアキちゃんに欲情して襲い掛かって貪り尽くす。分かりますよ。ええ、分かってますから♪」
美紀がアタシの手を握って目を爛々と輝かせている。
「って、美紀…じゃなくて玉野は一体何を言っているのよ…おるのじゃ!?」
あ、アタシが明久くんを白濁に染め上げるって……。
『さあ、明久くんの大好きなアツアツ飲むヨーグルトを全身に浴びせてあげるわよ。はぁはぁ』
『やっ、止めてよ、優子さん。そんな熱くて濃厚ドロリなものをこれ以上浴びせられたら、ぼっ、僕は……っ』
『フフフ。今日は理性がぶっ飛ぶぐらいに白濁に染め上げてあげるわよ。さあ、たっぷりと楽しみましょう』
『い、嫌ぁああああああぁっ!! 優子さんのケダモノぉおおおおおぉっ!!』
……って、違うでしょ。
アタシは女で明久くんは男なんだから。逆でしょ。逆。いや、逆もおかしいか。
「えっ? 秀吉もプールに行ってくれるの?」
一方で明久くんがパッと顔を輝かせた。こっちは期待通りの反応を見せてくれている。よしっ!
「アタ…ワシは演劇のトレーニングの為に泳ぎに来ただけなのじゃが、明久達と一緒というのも楽しそうじゃの」
偶然を装って参加。計画通り。
「そうですよね。木下くんはアキちゃんのお尻目当てですもんね。一緒にいる方が良いに決まってますよね♪」
「だからアタ…ワシは明久の尻なぞ狙ってはおらんのじゃっ!」
「そうだよ。秀吉は女の子なんだから僕のお尻を狙えるわけがないよ。玉野さんは冗談が上手いなあ。はっはっはっは」
アタシの参加で盛り上がっている2人。明久くん達の勘違いには困ったものだけど、とにかく溶け込むことには成功した。
「…………明久。玉野美紀を誘ったのか?」
「意外な組み合わせだねえ。っていうか、瑞希ちゃんと美波ちゃんを粗末にしちゃって良いのかな~?」
アタシ達が騒いでいる間に土屋くんと愛子の新婚ペアが到着した。
にしても愛子ったら、どうして姫路さんと島田さんの名前だけ挙げてアタシを述べないわけ? アタシは明久くんにお似合いでないとでも?
「うん? そっちにいるのは……木下くん?」
愛子が疑わしげな視線でアタシを見ている。まずい。ここでアタシの正体がバレる訳にはいかない。
「なっ、何を言っておるのじゃ、工藤よ。アタ…ワシは正真正銘淫きゅべーだー木下秀吉じゃ。好きなものは男の尻じゃ。君達が何を言っているのか訳が分からないよ」
これで完璧に秀吉を演じられた筈。
「ふ~ん。まあ、良いけどね」
愛子は疑わしそうな表情でアタシを見ている。けれどもアタシの正体にこれ以上踏み込む気もないようだ。
その理由、アタシには分かる。
愛子は冷静を装っている。けれど、その体は非常に微かだけど震えている。呼吸も僅かに乱れている。
そう。愛子は土屋くんとのデートに緊張しているのだ。しかも彼氏の前で水着姿を披露することに強い重圧を感じている。この子、貧乳だから。どうしようもない貧乳だから。
つまり今日の愛子は恐れる必要が無い。精々リア充デートを楽しんでいるが良いわ。アタシも明久くんとリア充の座に辿り着いてみせるから。
「土屋くんも来たということは、木下くんと土屋くんが交互にアキちゃんを攻め抜いて白濁に染め上げるんですね~♪ 素敵過ぎます~~♪」
再び感涙の鼻血を流す美紀。この子はTPOも弁えずにヘヴンに突入出来る業の者にいつの間にか進化していたようだ。
やるわね。でも……羨ましくはないわ。だってアタシは優等生だから。
「明久。お前は集合するだけで何をそんなに大騒ぎすることが出来るんだ?」
「……いつも愉快」
そして最後に坂本くんと代表の熟年夫婦ペアが登場。並んで歩いているだけでもカップルとしての貫禄が桁違い。
いつかアタシも明久くんとあんな風に一緒にいるのが当たり前のカップルになりたい。
「坂本くんまでっ!? つまり、アキちゃんのお尻を狙って坂本くん、土屋くん、木下くんの3人の男が骨肉の争いを繰り広げるのですねっ!? いえ、3人でアキちゃんを滅茶苦茶に白濁し尽すつもりなんですね! やはり乱交。アキちゃん総受けなんですね! ありですっ! 大有りですっ!!」
坂本くんを目にして激しい妄想に駆られている美紀。腐女子としては正しいが人間としては間違った反応。
当然その腐女子魂は明久くん達にも影響が伝わってしまうわけで。
「あのね、玉野さん。君は何か誤解しているようだけど、僕は普通に女の子が好きだからね。例えば秀吉みたいな可愛い女の子が」
「木下くんは男の子じゃないですか。つまり、明久くんは本当は男しか愛せないと認めたも同然ですよね」
「何でそんな解釈になるの!?」
「明久。何でお前は姫路や島田ではなく玉野を誘ったりしたんだ? お前、それ絶対死亡フラグに繋がる選択だぞ」
「幾ら仲の良いクラスメイトだからって2人でプールに誘うなんて出来ないよ。断られるに決まってる」
「お前の脳みそは何をどう解釈したらそんな結論を導くことが出来るんだ!?」
「アキちゃんには坂本くんらお友達、おホモダチがいれば十分ですもんね。男のお尻さえあればプールは楽園ですもんね♪ 美少女なんか要りませんよね♪」
「そんなプールに行きたくはないよっ!」
「……やっぱり雄二は吉井のお尻を狙っている。浮気される前に死んでもらうしかない」
「って、翔子。バールのようなものを振り回すんじゃないっ! 危ないだろうがぁっ!」
結局いつものようなドタバタになっている。
それがまあアタシ達らしいのだけど。
……でも、玉野美紀というイレギュラーが何をもたらすのかアタシはまだよく理解していなかった。
屋内プール施設に入る。いよいよ戦いの本番。
そして中には姫路さんも島田さんもいる。油断など出来るはずがない。
でも、油断などしなくても突き崩されることもある。それが戦い。
アタシは美紀によってそんな戦いに巻き込まれることになった。
「それじゃあこれから更衣室に向かう訳だが……」
ここでも仕切り役を任されている坂本くんが男女に分かれて更衣室に行くように指示を出す。だが、アタシを見ながら困った表情を見せた。
「問題は秀吉をどうするかだが……」
坂本くんは頬を引き攣らせる。
「……男子更衣室に入れるつもりなら雄二の目を潰す」
代表のスタンガンが坂本くんの目を向けられていたから。
「分かってるさ。秀吉を男子更衣室に入れる真似はしない。俺とムッツリーニの命の為に」
「…………グホォッ」
土屋くんは激しく吐血を繰り返し、口と鼻からも血を吐き出していた。
血の池に沈む土屋くんを見てアタシもようやく理解する。着替えをどうするか考えていなかったことに。秀吉のフリをしているのは非常に厄介だった。
男子更衣室で着替えたりすれば、坂本くんや土屋くん、そして明久くんの裸を目の当たりにしてアタシは死ぬだろう。腐女子としてあるべき妄想が抑えられなくなり、土屋くんと同じく鼻血過多による失血死は避けられない。
もしくは、逆に着替えている場面を男の子達に見られたら……恥ずかしさから舌を噛んで死ぬしかない。
『へぇ~。優子さんって綺麗な体をしているんだねぇ。でも、男の前で平然と着替えちゃうなんて破廉恥な子だなあ』
明久くんはアタシの腕を掴んで拘束し、胸をジロジロといやらしい目で見ている。
『こっ、これは違うの。違うのよ、明久くんっ! て、手を離して。恥ずかしいわよぉ』
必死に逃れようとする。でも手首を押さえられてしまって逃げることは叶わない。それどころか明久くんはアタシの体の向きを反転させた。
『どう違うって言うんだい? まあ、優子さんが破廉恥な子かどうかはみんなに見てもらってから決めてもらえば良いさ』
アタシの目の前には坂本くんをはじめ無数の男達が見えた。みんな、着替え途中のアタシの裸を凝視していた。
『み、みんなって……? えっ? い、い、嫌ぁあああああああああぁっ!!』
『優子はこの僕がこうやって羞恥プレイを叩き込んで僕好みの女に仕立ててあげるよ』
『こんな恥ずかしいことさせなくても……アタシは明久くん色に幾らでも染まるのに…』
アタシはもう明久くんから逃れられないことを運命として感じるのだった。
「もっ、もおっ! 明久くんのエッチィ~~~~~~~♪」
「ブベラァッ!?!?!?」
明久くんに苛められている自分を想像すると胸がドキドキする。アタシってば、こんなイケない趣味を持っていたと言うの?
完璧な優等生、木下優子にこんな他人に言えない様なイケない秘密が♪
そして何で明久くんは廊下の端まで移動して蹲って死に掛けているのかしら?
「と、とにかく秀吉の着替え場所の問題を早く解決しないと死人が増える」
「なら、良い解決法がありますよ」
美紀が手を挙げた。
「良い解決法とは?」
「ここのプールには男子更衣室、女子更衣室の他に秀吉更衣室がちゃんと完備されていますから木下くんも安心して着替えられます」
美紀が廊下の奥まった一角、丁度明久くんが倒れている辺りを指差しながら言った。確かにそこには『秀吉更衣室又は楠幸村更衣室』と看板が立っている部屋があった。
みんなで歩いてその部屋の前まで移動する。
「これで秀吉の着替えの問題はなくなったな」
坂本くんはホッとしたように息を撫で下ろした。
「じゃあ、この部屋で木下くんとアキちゃんに着替えてもらいましょう」
そして美紀はとてもおかしなことを言い出した。
「えっ? 何で僕までここで着替えるの?」
やっと起き上がった明久くんが目を点にして尋ねている。美紀は明久くんに笑顔で答えた。
「はい。明久くんにどうしても着て欲しい水着があるんですけど、それを着るのに男子更衣室だとちょっと困った問題が生じると思いますから」
美紀の言葉を聞いて周囲が静まり返る。どんな水着か予想が付いてしまったから。
「あの、ちゃんとウイッグも用意しましたから最高に可愛くなると思います」
弁明する美紀。でも今の言葉は決定打となった。
「女物の水着を着るのはいや……」
「オーケー。分かった。明久をコーディネートしてこのプールイベントを盛り上げたいという玉野の崇高な意志は理解した。存分にやるが良いさ」
文句を言おうとする明久くんを遮って坂本くんが代わりに了承してしまう。事態を面白がっている悪い目。
「雄二っ!? 何を勝手なこと…モグアッ!?」
「それじゃあアキちゃんも秀吉更衣室で着替えということで決まりですね♪」
嬉しそうに微笑む美紀。
「…………コクコク」
こっちも嬉しそうな土屋くん。既に手には大きなカメラを構えている。
「まっ。吉井くんが男子更衣室で着替えようと他で着替えようとボクには関係ないし」
中立を気取る愛子。でも、その判断は間違いだと思う。土屋くんの喜び方半端ないから。
「……雄二が吉井の着替えを覗かないから丁度良い」
代表も美紀の案に賛成している。でも、アタシは危ないと思う。坂本くん、普段よりちょっと嬉しそうだから。下手をすると想い人を男に盗られかねない。
まあアタシも雄二×明久、ムッツリーニ×明久は好物だけどねえ。
「それじゃあ木下くん。アキちゃんのことをよろしくお願いします。2人きりだからって襲っちゃ駄目ですよ。襲ったら話を聞かせてください」
そして美紀はアタシに水色のスカート付き女性用水着を手渡すと女子更衣室に向かって歩いていってしまった。
「えっ? アタシが、明久くんと同じ室内で水着に着替えなくちゃいけないわけ!?」
明久くん以外のみんながいなくなってからアタシは問題の恐ろしさに初めて気付いた。
「……明久くんの隣で水着に着替えるって、そんなのストリップショーと同じじゃないの」
狭い更衣室で明久くんと2人きり。
「何で僕が女物の水着を着て玉野さんを楽しませなきゃならないんだ。トホホ」
明久くんはブツブツ言いながらサクサクと服を脱いでいる。既に上半身は裸。意外と逞しくて厚い胸板にドキドキしてしまう。頬なんか茹で上がってしまいそう。
いや、だって、リアルで男の子の胸板なんて間近で見たことないし。好きな人だし。というか腐女子的にもガン見の状況でしょ?
「あれっ? 秀吉は着替えないの?」
弟を半端に男扱いする明久くんはアタシが着替えを始めないことに疑問を抱いている。今だけ男扱いしていることが分かってしまう。大ピンチ。
「えっと、その今から着替えるのじゃ」
返事はするものの、薄手の白いパーカーのジッパーに掛けた手を動かせない。服を脱ぎ出せばさすがにバレてしまう。アタシの正体が優子だということに。
そうしたら明久くんはきっとアタシを飢えた獣の瞳で見るに違いない。
「どうしたの? 早く着替えないと雄二達に怒られちゃうよ」
明久くんは硬直して動けないアタシの代わりにパーカーのジッパーを下ろした。更に両肩口を掴んでパーカーをアタシの体から回収した。
へっ? アタシ、明久くんに脱がされている!?
結婚したら毎夜のように行われるに違いない儀式。それが今、先取りされて執り行われている。
アタシの上半身を守るのは既にTシャツ1枚のみ。弟に扮しているのでブラはしていない。もし、このシャツも脱がされてしまうと裸の胸を晒すことになる。
そうすれば明久くんはアタシの正体に気付き、野獣と化す。そしてここは2人きりの密室。明久くんの方が扉側にいるのでアタシに逃げ場はない。
幾らアタシが腕っ節が強い方だからといって、本気になった男の子にはきっと敵わない。あっと言う間に押し倒されて、そして──
『おっ、お願いっ! 明久くん、正気に返ってっ!』
明久くんに組み敷かれてしまったアタシは必死に抵抗を試みる。だけど男の子に馬乗りになられてしまったら小さな抵抗は無意味で。むしろ暴れるアタシの様は明久くんの加虐心に火を付けてしまったのだった。
『優子さんはそんなに体をくねらせて僕を誘惑しているんだね。分かってるよ。ちゃんと引っ掛かってあげるからね』
明久くんの右手がまだ誰にも触れさせたことのないアタシの豊満な胸に伸びて来る。アタシにその欲望に満ちた手を止める手段はない。
『優子さん。僕達の子供の名前は男の子だったら優明、女の子だったら久子にしよう』
『一姫二太郎三なすび~~っ!! 真っ白い家で広い庭付き犬付きの一戸建て~~っ!』
アタシの涙と共に牡丹の花がボトンと落ちた。
「よっしゃっ! ご両親にはもうお腹にベイビーのいる婚約者としてご挨拶させてもらうからねっ! マタニティ制服を準備しておかなくっちゃ~~♪」
結婚までの障害をアタシにとっては一番容易に突破出来る最短ルートをみつけて感動のエンディング。優等生のアタシに死角が存在する筈が無い。
「あの、秀吉? 1人で騒いでいないでいい加減に着替えた方が良いよ」
呆れ声がして振り返る。
そこには長い髪の毛のウイッグをかぶり女物の水着を着た明久くんがいた。水色のワンピースに長めに準備されているスカートは明久くんの男の子の部分を隠している。また胸の部分にはパッドが入って増量中でどこからどう見ても美少女にしか見えない。
そう。アタシ以上の美少女にしか……。
「って、明久くんの着替えを凝視するのを忘れた。畜生~~っ!!」
頭を抱えてうな垂れる。明久くんの逞しい背筋も全ての男子を魅了するプリプリのお尻も、同人誌以外では全く見たことがない神秘の前側も全て見損ねた。
結婚すれば毎日見られるけれど今みたい全てを見損ねた。腐女子として恋する乙女としてあるまじき失敗。
「いきなり蹲っちゃって、一体どうしたの秀吉?」
「うるさいわね、ちょっと黙っててよ。木下剛翔波っ!」
「うわらばぁあああぁっ!」
つい、明久くんを乙女の柔拳で吹き飛ばしてしまった。明久くんはロッカーに頭からめり込んで気絶してしまっている。
「まあ、今の内に着替えちゃえば良いわよね」
明久くんの目を気にせずにようやく着替えられるようになった。
弟は元々上下隠れていないとプールに入れてもらえない。なので女の子用のセパレートタイプの緑色の水着に腰にパレオを巻く。このパレオは明久くんとは逆に女の子であることがバレないようにする為のもの。
これで準備は万端。
後はギャグ漫画みたいにロッカーにめり込んでいる明久くんを起こすだけ。
「明久くんったら、もういい加減に起きてよぉ。女の子のか細い力でちょっと叩かれたぐらいで大げさなんだから」
明久くんの背中の秘孔を突いて気つけにする。
「あれ? 気つけの秘孔ってこれだったっけ? う~ん、間違えたかしら?」
弟以外を木人形にすることがほとんどないので自信が持てない。
でも、そんな心配は杞憂で明久くんはすぐに目を覚ました。
「あれ? ここは?」
明久くんは物珍しげに周囲を見回している。一通り室内を覗き終えると今度は自分の格好を珍しげに見ている。女物の水着姿の自分を見て何やら戸惑っている。
「あれ? 僕……いや、わたし?」
明久くんは今度は泣きそうな表情でアタシを見た。
「あの、ここはどこなんでしょうか? そしてわたしは誰なんでしょうか?」
「へっ?」
明久くんの瞳は泣きそうだけど真剣。冗談を言っているようには見えない。
「その、わたしは一体何者なんでしょうか? 知っていたら教えてくれませんか?」
明久くんの目からは遂に大粒の涙が。
「えぇええええええぇっ!?」
この涙ではっきりしてしまった。明久くん、ううん、今の状態から言えばアキちゃんは記憶喪失になってしまったことが。
こうして如月プールランドに記憶喪失の美少女女装少年、もとい体だけは実は男の子だったりする真夏の女神が降臨することになった。
続く
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夏ということで水着と暴力。うん、いつも通り。そして女性FFF団に新たなる敵の登場