No.476734 いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生したたかBさん 2012-08-28 20:25:07 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:9385 閲覧ユーザー数:8307 |
第五十六話 失恋
「…なのは。大丈夫なの?」
「…大丈夫だよ」
「そんな顔で言われても説得力ないよ…」
ショックだった。
私はクロウ君のことを信じていたかった。
違和感を感じたのは、最初にヴィータちゃんと高志君に会った時だった。
次はプレシアさんと高志君がアースラに乗り込んできた時。
次は学校。病院。
高志君と顔を合わせるたんびにその表情を険しくさせていった。
高志君の方もフェイトちゃんとは出来るだけ顔を合わせないように私達とは出来るだけ離れようとしていた。だけど、それはプレシアさんとアリシアちゃんを守る為に…。
いやぁああああああああああっ。
………今、高志君の悲鳴が聞こえたような?
「あ、アリシア。助けなくてもいいのかな?」
「うーん、大丈夫じゃないかな?ちょっと心に傷を負う程度だってお母さんも言っていたし…」
「へー。…て、あかんやろ!それじゃ!」
…心に傷を負うのは大変だよね。
私が家に帰ろうとしたら待機室にいたアリサちゃんとすずかちゃんに呼び止められて、私を追いかけてきたユーノ君を交えて私がユーノ君と出会って魔法使いになったことを話し終えたところにフェイトちゃんとアリシアちゃん。はやてちゃんが待機室に入ってきた。
「あ、なのは。アリサに、すずかも」
「あれ?何で二人ともここにいるの?」
フェイトちゃんとアリシアちゃんが暗い雰囲気で私達が話し込んでいるのを見て驚いたかのように声をかけてきた。
「ねえ、フェイト。はやて。あと、アリシア。あんた達も魔法使いなの?」
「もしかして今まで時々いなくなったのもその魔法関係なの?」
「…う。…話すと長くなるんよ。日を改めてからにしてからでええかな?私、これから病院に戻らないといかんし…」
アリサちゃんとすずかちゃんの質問にはやてちゃんが頬を指で掻きながら答えるけど、二人は断った。
「…はぁ。仕方ないわね。本当はじっくり聞きたいところだけれど今日の所はここまでにしておくわ。なのはもなんでかは知らないけどこんな調子だし」
「でも、いつかきっと話してね。でも、なのはちゃん。無理しちゃ駄目だよ」
「…うん」
ごめんね。二人とも…。
私は未だにクロウ君が信じられなくなったことを二人には話していない。
そんな私を気遣ったのか二人は椅子から腰を上げた。
「え、えと…。それじゃあ、二人共転送するから僕についてきてもらえるかな?」
「…やっぱり、変よね。魔法ってさっきイタチの姿を見たけどやっぱり人型のユーノって、慣れない」
「…うん。うちの猫たちももしかしてユーノ君の何か惹かれたから追いかけまわしたのかな?…ユーノ君、今度人の形をしたままでうちに来てくれない?」
「か、考えておくよ」
ユーノ君は二人を連れて待機室から出ていく。
それからしばらくの間フェイトちゃんは私の様子を見ておろおろとしていた。はやてちゃんもどう話しかけたらいいか分からない。と言った感じだった。
…いけない。二人共、疲れているのに気を遣わせたら駄目だ。
「…あのね。フェイ」
「なのはちゃんはあのクロウが好きなの?」
私は大丈夫だよ。と言いたかったがアリシアちゃんがズバリと聞いてきた。
少し前の私だったら慌てていたけど…。今は…。
「あ、アリシアッ。そ、そう言うことはこういう所でじゃなくて…」
「じゃあ、いつ聞けばいいのかな?フェイト?」
「…う」
フェイトちゃんがアリシアちゃんを止めようとするけれどアリシアちゃんは追撃を止めない。
「私はお兄ちゃんのツッコミ。…かな?」
「あれ、疑問形なん?あれだけのことをしておいて?」
あれだけの事ってなんだろう?
私が高志君のいる部屋から出ていって何かあったんだろうか?
…めぇえええええええええっ。
…聞こえない。聞こえていないよ。
高志君の悲鳴なんてものは聞こえない。聞こえたとしてもきっと山羊さんか羊さんだ。
「後は私を甘やかしてくれたりするところかな?」
「あ、甘えている自覚はあったんだ」
「…でも度が過ぎるとぐりぐりされる」
「その辺はしっかりしとるな、高志君」
アリシアちゃんは何かを思い出したのか眉毛をハの字に曲げる。
それから、良い所と駄目な所を言い出すアリシアちゃん。
正直な所、駄目な所が多い。
頭を撫で方は最初の頃は下手で何本か毛が抜かれたとか。夜は早く寝なさいとか。高志君やフェイトちゃんに捨て身タックルとかやめなさいとか。エッチな発言はやめてください。俺の命に関わるからとか。暗いところで本は読まないようにとか。
…最後の方で気になることがあったけど。
「…何が言いたいのかな?」
「それぐらいなの。なのはちゃんの好きだっていう想いは?」
「っ」
私はこの時、少し苛立っていた。
これ以上私に構わないで欲しいと思った瞬間。アリシアちゃんが言った一言に私はアリシアちゃんを睨んだ。
私のその動作にフェイトちゃんとはやてちゃんは驚いた。
「…わからないよ。アリシアちゃんに私の気持なんか分からないよ!」
「…なのは」
「…なのはちゃん」
クロウ君はジュエルシード事件の時、私を助けてくれた。
フェイトちゃんと戦うと決心した時、私との特訓に付き合ってくれた。
ブラスタを操ってジュエルシードの思念体を仕留めていく彼に憧れていた。
「高志君よりも格好良かったの!私のすぐそばにいてくれたの!でも、でもっ…」
今日あったことを振り返るとそれは嘘だったんじゃないかと思わされることが沢山あった。
高志君と出会ったあの日から彼は変わってしまったんだ。
「…変わらない人はいないよ。私がとてもとても長い間眠っている間にお母さんは変わっちゃった。お兄ちゃんもフェイトがお兄ちゃんの所の学校に転校してからは私の顔を見るたんびに何故か悲しそうな顔をしているよ」
「…それでも私は!」
「好きなの?あのクロウが?」
あのって、何!
私の知っているクロウ君はあんな風な人じゃない!
「アリシアちゃん言い過ぎやで…」
「なのはも落ち着いて」
「私が知っているクロウ君は!あんなんじゃない!」
「じゃあ、なのはちゃんの知らないクロウ君だったんだね」
「アリシア!これ以上なのはを…」
「私も知らないことばかりだよ」
アリシアちゃんは私のことなんか気にせず喋り続ける。
「お兄ちゃんが何で
「…なにが」
「痛がらせただけじゃない。怖い目に合わせただけじゃない。何かほかのことでも謝っていて、私には何も教えてくれないの。いつもお母さんと話し合ってはとてもとても辛そうな顔をするんだよ」
アリシアちゃんは悲しそうな顔をして私に話しかける。
「きっと『傷だらけの獅子』のスフィアに関することだと思う。ノットバニッシャーもスフィアに頼らないでアサキムに勝つために開発したものだというのも聞いている。でもね、スフィアの方が強力なのにお兄ちゃんは使いたがらないの」
「…リインフォースも言っとったな。スフィアは危険な物やて」
クロウ君も言っていた。スフィアは強力だけど危険なものだって。なのはの持つ魔力と同じように扱い方を間違えれば危険だって…。
でも、クロウ君は高志君やリインフォースさんより多くスフィアを使っていた。それはまるでその力を使いたがっているかのようにも見えた。
「きっとね。お兄ちゃんは私にスフィアがある限りずっと私に謝り続けると思うの。とても辛そうなのに無理に笑って私に心配かけたがらないお兄ちゃんが私は好きなの」
「…アリシアちゃんと高志君はそれでいいのかもしれない。ううん、もしそうじゃなかったら?私みたいに裏切られたりした時は?それでも好きだって言えるの!」
「言えないよ」
「なら!」
「でも、私やお母さん。フェイトに対してやってきたことは嘘じゃない。そう思うんだ」
「それも嘘だって思えるようなことがあったらどうするの!」
「…泣いちゃうかな。そんなことないって。嘘だって泣いちゃう。でも、そうはならない。絶対に」
「なんでそう言い切れるの!」
「信じているから」
アリシアちゃんは私を真っ直ぐに見て言う。
「お兄ちゃんはそんなことは絶対にしない。なのはちゃんはクロウを信じられないの?」
「…私は」
私は…。
……………信じられない。
少なくてもあのクロウ君が高志君と仲良くなってもらわないと彼の事を信じることが出来ない。
「…アリシアちゃん。なんでなのはちゃんを追い詰めるような真似をするんや?」
「同じ恋する乙女だから。…悩んでいる同志を助けたかったからかな?家族の為に頑張るお兄ちゃんみたいに…」
はやてちゃんの質問にアリシアちゃんは答えた。
「ごめんね。なのはちゃん。余計な口出しだったかもしれない。でも、私はフェイトの友達のなのはちゃんに元気になってほしかったから…」
「…アリシア。…なのは、今日は帰ろう。送っていくよ」
アリシアちゃんの言葉を聞いてフェイトちゃんが私の傍に近寄ってきて私の手を引いて行こうとしたけど…。
「…ごめん。フェイトちゃん。アリシアちゃん。はやてちゃん。一人にさせてくれないかな?」
私はテーブルに突っ伏して顔を隠すように腕で自分の顔を覆う。
「…なのは」
「…フェイトちゃん。悪いんやけど私から送ってくれへんか?さすがに無断外出しすぎやと思うんで…。リンディさんと話し合っているシグナム達にも連絡入れてもらえる?」
「…うん。…なのは。……すぐに戻るからね」
はやてちゃんのお願いを聞きながらフェイトちゃんとアリシアちゃんも待機室から出ていく。そして、最後に出ていこうとしたアリシアちゃんが私にむかって小さな声で「ごめんね」と言い、三人は部屋を後にした。
「…は。…のは」
いつの間にか疲れて眠っていた私を誰かが揺さぶって起こそうとしていた。
うっすら浮かび上がるシルエット。それは見覚えのある細長い体ではなく、同い年くらいの男の子の格好をしたユーノ君だった。
「…ユーノ君」
「よかった。起きてくれた。もう、遅いから今日はリンディさんがアースラで休んでいきなさいって言っていたよ」
「…そう」
「……なのは」
「…なに?」
「…いや。なんでもないよ。…ただ、いつもより元気が無かったからね、心配だったんだ」
「うん。ごめんね。ユーノ君」
「あのさ、僕でよければなのはの愚痴くらいは聞いてあげられるよ。だからさ…。今日は思いっきり泣いた方がいいと思うよ」
「私は泣いてなんかいないよ…」
「…じゃあ、今もその目から流れているのは何?」
「…え?」
私は自分の頬を伝う涙に今更気が付いた。
それを自覚した瞬間に私の目からは涙が大量に流れ始めた。止めたいのに止めきれない。
「…なのは。ごめんね」
「ふぇ?ゆ、ユーノ君?」
ユーノ君が私の顔を自分の胸に押し付けるかのように抱きしめた。
「…なのはが泣いている理由は何となくわかる。僕もすぐそばにいたからわかる。…こんな事をするのは卑怯だとも思う。だけど、しばらくこうさせてくれないかな。…なのはが泣きやむ時まで」
「ふ、ぐ、ふぅうううううううううう」
…クロウ君。
私は、あなたのことが…。
ユーノ君が私を抱きしめながら頭を撫でてくれる。
それが優しく感じられて私はもう、自分の中の感情を抑えることが出来なくなっていた。
「ふ、ぐ、ううう、うあああああああああああああああっ」
私はそれからユーノ君の胸の中で涙が枯れ果てるまで泣いた。
小学三年生のクリスマスの夜。
それが私、高町なのはの失恋した日でした。
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第五十六話 失恋