はやてがカリムを訪れて3日後、零冶達はボース少将と共にとある部屋へ連れてこられた。そこには三人の高齢な男女がいた。
ボース 「紹介しよう。右から順番にレオーネ・フィルス法務顧問相談役、ラルゴ・キール武装隊栄誉元帥、そして最後に
ミゼット・クローベル本局統幕議長だ。」
レオーネ「よろしく。君たちの事はボースから聞いているよ。」
ラルゴ 「ほぉ、これがDOG隊のメンバーか?」
ミゼット「あらあら、可愛らしい子達ね。」
彼らが管理局黎明期最大の功労者、伝説の三提督だった。いきなりの大物相手に零冶以外のDOG隊メンバーは唖然とした。
零冶 「初めまして。本日より発足するDOG隊の隊長を務めさせて頂きます、黒澤零冶と申します。」
零冶は特に動揺した風になく言う。
ミゼット「あらあら、私達の名前を聞いても全く動揺しないなんて中々できるわね?」
レオーネ「ふむ、面白い。」
ラルゴ 「はっはっは!気に入った!」
三人は零冶を気に入ったようだ。
ミゼット「零冶君、管理局を代表して零冶君にお礼を言うわ。ありがとう。」
するとミゼットが零冶の前に来て突然、礼を言った。
零冶 「・・・?お礼を言われる理由が見つからないのですが?」
レオーネ「そんなことは無いよ、零冶君。君は我々管理局が長年に渡って苦しめられてきた“闇の書”を倒してくれた。
本来なら我々大人が片を付けなければならない事だった。それを結果的とはいえ君に背負わせてしまったんだ。
申し訳ない。」
レオーネが頭を下げた。
零冶 「顔を上げて下さい。・・・俺は守りたい人を守ろうとしたに過ぎません。もっとも・・・俺は守れませんでしたが。」
零冶は自嘲気味に言った。
今でもあの時の事は零冶を苦しめ続けている。
ミゼット「・・・。」
ラルゴ 「ふむ・・・。まぁ、ともかく本題に入るとするか。」
ミゼット「ええ、そうね。今日、私達がここに来たのは“Dragon Of Guardian”部隊の発足に立ち会うためです。」
本来部隊発足する事で三提督が立ち会う事はないが、この部隊は特別である。何せ、三提督も部隊発足に関わっているのだから。
ボース 「それでは非公式かつ簡略ながら、部隊の設立式を行う。名前を呼ばれた者は一歩前に出よ。」
そして、全員が一列に並び、背筋を伸ばす。零冶を除いた四人はガチガチに緊張しているのが分かる。
ボース 「エリス・ノーレッジ二等陸士!」
エリス 「は、はい!」
エリスが一歩前に出ると、ミゼットがエリスの前に立つ。
ミゼット「エリスさん、貴女はいつも零冶君を支えていると聞いています。隊が発足してからも零冶君を支えていってあげてくださいね?」
ミゼットはそう言うとDOG隊の制服とDOG隊を象徴するワッペンを渡した。
エリス 「あ・・・は、はい!!」
エリスは一瞬だけ呆けたがすぐに戻り、恭しく受け取った。
ボース 「次、バライカ・カーマイン二等陸士!」
バライカ「はい!!」
次はバライカが一歩前に出る。エリスの様にガチガチでは無かったものの、若干顔が強張っている。
ミゼット「バライカさん、貴女はエリスさんの親友であり、共に零冶君を支えているそうね。それに、零冶君を取り合ってるとか?」
バライカ「なっ!?」
エリス 「ちょっ!?」
ミゼットは少しだけ悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
ミゼット「うふふ、頑張ってね。~~~。」
バライカ「っ!は、はい!!必ず!」
ミゼットは制服とワッペンを渡す時、バライカに耳打ちしていたが、内容は聞き取れなかった。
ボース 「次、ヘンリー・ダグラス二等陸士!」
ヘンリー「はっ!!」
ヘンリーが一歩前に出る。
ミゼット「貴方がダグラス家の御子息ね?噂は聞いているわ。ダグラス家始まって以来の天才だとか?」
ヘンリー「光栄であります!ですが、天才などと言われておりますが私はまだまだ未熟な新米陸士に過ぎません。これから更に
鍛えて行く所存であります!」
ミゼット「ふふふ、しっかりと自分の力を把握できて目標を立てられるなら心配はなさそうね。これから頑張ってちょうだいね。」
ヘンリー「はっ!!」
そしてミゼットは制服とワッペンを渡す。
ボース 「次、キール・ランギーニ二等陸士!」
キール 「はっ!!」
キールは一歩前に出た。
ミゼット「貴方の事もよく聞いていますよ。なんでも、教官である零冶君相手に啖呵を切って、返り討ちにあったそうですね。」
キール 「うっ!・・・あの時はまだ世間知らずなガキだったッス。お恥ずかしい限りッス。」
ミゼット「うふふ、上には上が居ることを常に忘れない事ね?それと、私達は出生で軽蔑や卑下したりしません。貴方を受け入れてくれる
人が沢山いることを忘れてはいけません。貴方は今、立派に生きています。胸を張って努めて下さいね。」
キール 「っ!!あ、ありがとう・・ございます!」
キールはミゼットの言葉に感激し、感謝しながら制服とワッペンを受け取った。
ボース 「最後に黒澤零冶三等陸佐!」
零冶 「はっ!!」
ミゼットは最後に零冶の前に立つ。
ミゼット「零冶君、貴方がこの部隊の隊長です。私達が零冶君にしてあげられるのは貴方を昇格させてあげる事しかなかったわ。
ごめんなさい。」
ミゼットが零冶に頭を下げた。
零冶 「顔を上げてください。そのお言葉だけでも十分です。」
ミゼット「ありがとう。それと、“彼女達”には会わないのかしら?きっと零冶君に会いたがっているわよ。」
ミゼットは他のメンバーに聞こえるか聞こえないかぐらいの声で零冶に聞いた。
4人 「・・・?」
零冶 「・・・・・俺は彼女達を裏切り、傷つけた男です。今更俺にそんな資格はありません。」
零冶は拳を握りしめながら言った。
ミゼット「・・・・・・そう。」
ミゼットとしては言いたい事があったが、きっと零冶が思い直してくれると信じて今は何も言わなかった。
そして、零冶は制服とワッペン、それと三等陸佐の階級章を受け取って一歩下がった。
ボース 「それではこれにて設立式は終了するが、お三方より、少しだけお話がある。」
部隊全員が姿勢を正した。
ラルゴ 「ああ、楽にして構わんぞ。そんなに長く話をするつもりはないからな。・・・ゴホンッ。本日、DOG隊が発足したのだが、
一般にはまだ公開はしない。理由は色々あるのだが、面倒なので省略する。」
DOG隊「(おい!!!)」
DOG隊全員が心の中でツッコんだ。なんとも豪快?な人物である。そしてレオーネは苦笑いをしていた。
ラルゴ 「公開するのは恐らく3年後になるだろう。だが、それまでは極秘で任務に当たってもらう事になる。ちゃんと給料は
出してやるから安心せい。それと、公開する日までは任務で顔を一切知られることの無いようにしてもらうぞ。」
そして、ラルゴの言葉にレオーネが補足した。
レオーネ「これは、裏の者達への対策もあるけど、他の局員によって妨害工作を受けないようにするためなんだ。何処も人手不足だからね。
それに正体がバレると部隊そのものが無かったことになってしまう恐れもある。それから、任務の時はコレを被って貰うよ。」
レオーネはそういうと5つのフルフェイスマスクと全身がすっぽり収まるマントを取り出した。いずれも漆黒だった。
零冶 「・・・それを着用するのですか?」
レオーネ「顔を知られる訳にはいかないからね。まぁ、公開されるまでの我慢だよ。」
レオーネは一人ずつ配る。だが、零冶は断った。
零冶 「いえ、俺はいいです。自前のがありますので。」
レオーネ「そうかい?分かった。それと最後に大事な話がある。」
DOG隊はレオーネに注目した。
レオーネ「本来、各部隊には保有できる魔導師ランクがあるんだ。これは一つの部隊に戦力を偏らせないためにレジアス中将が施行した事だ。
さらに、高すぎる魔力ランクにはリミッターも強制的に付けられる。私達からして見ればそのような事はバカらしく思う。」
ラルゴやミゼットもレオーネの言葉に頷いた。
レオーネ「何故、態々自分たちの戦力を限定するのか、またリミッターを付けると、何が起きるか分からない戦場は迅速に対応できない。
それでは命を落とすことになる。」
ラルゴ 「確かにレジアスの言うことも解る。だが、それで掛け替えのない局員の命を失っては元も子もない。我々は反対したが、
当時のレジアスに賛同する者は多くて止めることは出来なかった。過去にもリミッターが付いていたせいで命を落とした
局員は何人も居る。」
ミゼット「だから私達は決めたのです。DOG隊の人たちにはリミッターを付けない事を。」
DOG隊「!?」
DOG隊の全員は驚愕した。そんなことをしたら周りからの反感が高まり、三提督の立場が危うくなりかねないからだ。
ミゼット「ですから、その為の3年後なのです。3年で私達が周りを説得し、DOG隊だけでもリミッターを付けないようにするのです。」
ラルゴ 「お前達の任務はとても危険だ。これが私達がお前達にできる精一杯の事だ。」
レオーネ「これから君達が頑張っていくことを期待しているよ。」
そうして三提督の話は終わり、DOG隊はその場を後にした。
そして零冶はボース少将の執務室へ訪れた。
ボース 「聞きたいことがあるそうだな?まあ、なんとなく解るがな。」
零冶 「ああ。今年に入校するスバルのことだ。」
零冶はボースに頼みがあった。それはスバルが卒業するまで教官を続けると言うことだった。
ボース 「なるほど。教官を後1年続けたい・・・か。それは構わないが、ハードスケジュールになるぞ?」
零冶 「ああ、それには考えがある。最初の半年は基礎体力と基礎技術、基礎学力を付けるの訓練だろう?俺は残りの4ヶ月、
実践訓練でアイツを鍛える。」
ボース 「しかし、それでは期間が短すぎないか?」
零冶 「・・・それは仕方ない。できれば最初っから最後までやりたいが、DOG隊の任務もある。俺が我が儘言うわけには
いかないだろう?」
ボース 「そうか・・・。分かった。私から、4ヶ月前になったら担当の教官と変われるようにあらかじめ手配しておく。」
零冶 「助かる。」
ボース 「それと話は変わるが・・・少し厄介な事になった。」
ボースは真剣な表情になった。
零冶 「何かあったのか?」
ボース 「ああ・・・実は先日、聖王教会が黒髪で紅い眼をした男、つまり、お前の行方について秘密裏に捜索している情報を掴んだ。」
零冶 「・・・聖王教会が?」
ボース 「ああ。おおっぴらに黒澤零冶という名前を出してはいないが、探している人物の特徴からしてお前しかいないだろう。」
零冶は何故、聖王教会が自分を探しているか全く分からなかった。聖王教会とは一切関わりが無い上に、生きていることを
知られていないはずだったのだ。
しかし、零冶は知らない。この時、はやて達が零冶が生きている可能性があることを知り、必死になって探していることを。
零冶 「・・・分かった。なるべく外出を控えておくよ。」
ボース 「ああ、そうするといい。目的はこっちでも調べてみる。お前も気をつけろよ。」
零冶 「ああ。忠告に感謝する。」
そして、零冶は執務室をお出て、久々にジェイル達の所へ帰宅した。
零冶 「ただいmうおっ!?」
零冶が転送室から出て、食堂へ入るといきなり頭にナイフが飛んできた。零冶はギリギリで躱した。
零冶 「ち、チンク!俺を殺す気か!?今のは完全に頭を狙ってたよな!?」
チンク 「・・・でだ。」
チンクは俯いて肩を震わせていた。
零冶 「・・・ん?」
チンク 「何で・・・何も言わずに出て行った!?せめて一言ぐらい言ったらどうなんだ!!」
実は零冶はチンク達に何も言わずに訓練学校に行っていた。別に何かの思惑があったわけではない。
ただ忘れていただけなのだ。
しかも、今まで一度も帰って来なかった為にチンクの怒りは頂点に達していた。
ウーノ 「うふふふふふ。」
ドゥーエ「覚悟はいいかい?零冶。」
ノーヴェ「俺達にも何も言わずにいったよな?」
セイン 「どれだけ私達が心配したと思う?」
気がつくと、ドゥーエ、ノーヴェ、セインが零冶を囲んでいる。後ろを見るとウーノがとてもイイ笑顔で退路を断っていた。
よく見ると他の4人とも、とてもイイ笑顔でこめかみに青筋が浮かんでいる。
零冶 「あーー・・・・俺、もしかして言ってなかったか?」
零冶のその一言で全員はブチキレた。
ナンバーズ「言ってないわ(ねぇ)(ないわよ)ーーーーーー!!!!!!」
零冶 「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」
零冶は5人にフルボッコにされた。その時の様子をみていたゼスト隊は恐怖で震えていたそうな・・・。
ジェイル「やれやれ、自業自得だね。」
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