一夏が目覚めた時には、昼下がりだった。一夏は昨日の戦いで体力を完全に消耗してしまい、一日中寝ていたらしい。
「ん・・・・」
起きた時には、横にあるテーブルの上に包みが幾つか置いてあった。メモも添えてある。
「日付が変わっちまってるじゃねえか・・・・・」
腕時計を見て自分の惰眠の貪る様を苦笑した。そんな時に腹の虫が鳴る。
「やべー・・・・腹減った・・・・」
包みに添えてあるメモを開くと、何人かの文字が綴ってある。
『起きたら食べて下さい♡ 楯無』
『兄様が起きるのを待っています!ラウラ』
『千冬さんが心配しているぞ、早く起きろ!篠ノ之箒』
『無茶しないでよ、一夏。C.D.』
「全く・・・・さてと、一日半は何も食ってねえから、これは余裕だな。頂きます。」
手を合わせると、ベッドに付属している折り畳みのテーブルの上に弁当箱(楯無のは小型の重箱だったが)を乗せて、それを開けた。
「お〜、これは・・・・何と豪勢な・・・」
色合い、栄養バランス、全てを考慮して作ってあるのだろう、そしてどれも一夏が好きな物だ。
「頂きます。」
そして一口食べた。
「・・・・美味い・・・」
そしてあっという間に全て完食した。
「ご馳走様。(皆、ありがとうな。)」
一夏は制服に着替えると、教室のドアを開けた。
「俺、
ヒュン! バシン!
拍手が響く中、真正面から高速で飛んで来た出席簿(と言う名の凶器)を蹴りで叩き落とす。
「いきなり何をする。」
「授業の邪魔をするな馬鹿者、席に着け。」
「悪い。あ、所で、飯作ってくれた方々、美味しく頂きました。」
そう言って席に着いた。バッグはいつも通りだが、プリント等が山積みになっていたのを見て、溜め息をつくと、左手でプリントの整理、右手でノートの作業を始めた。一日以上眠りこけていた所為か、効率も上がっており、いつもより倍近くは捗っている。
(やはり休息も時には必要、か。)
座学の間に四分の三程を終わらせた。授業が終わると、いつもの皆が一夏の周りに集まって来た。
「一夏、もう動いて平気なのか?」
「ああ。体力も箒の作った弁当で戻った。ありがとな。シャルロットも、あの煮物よく味が付いていた。ラウラは、料理出来るとは知らなかったぞ?シュニッツェルはボリューム満点だったが。」
「軍では日替わりで調理担当があるので。当然私も参加していますから、簡単な物でしたら作れます。」
「そうか。頑張れよ。」
一夏は立ち上がってラウラの頭を優しく撫でてやった。
「さてと、時間があるうちに回る場所が二つ程ある。箱も返しておかなきゃ行けないしな。」
悠々と四組の教室まで行くと、扉を開いて簪の席まで歩いて行く。だが、当の本人はいない。
「彼女なら、保健室に行くって言ってたわよ?」
「そうか、分かった。ありがとう。(入れ違いになったな・・・・仕方無い。楯無の所に行くか。)」
首を回すと、時間も押しているので二年の教室まで走って行った。だが、ここである事に気付いた。
(ヤベー・・・!楯無二年なのは分かるが、どこの教室か俺知らねーじゃないか!何やってんだ俺は?!)
一々二年の教室を回っていては時間が無くなるので、ダメもとで生徒会室に向かった。ノックすると、生真面目そうな眼鏡をかけた生徒が扉を開けた。
「はい。何か?」
「生徒会長は、今いますか?」
「はい。ご用件は私が承りますが。」
「はいはーい、ちょっと虚ちゃんどいてねー♪」
扉を全開にすると、楯無が現れた。今回、肩にはご丁寧に生徒会長の肩章がついている。
「一夏君何か用?」
「ああ、コレ。美味かった。本当にありがとう。」
「あら、お粗末様♪」
「いやいや、小型とは言え重箱だぞ?お粗末様なんて言うなよ、弁当の割には豪華過ぎたわ!」
「あら嬉しい事言うわね。」
「まあ、(強引にとは言え)ルームメイトになったんだからな。どの教室にいるか分からなかったから勢いでここに来たが、アテが外れなくて良かった。とりあえずそれだけ。時間無いから俺は今から戻る。じゃあな。」
「ちょ〜っと待って〜」
楯無が腕を掴んで引き寄せて来た。当然の如く弾力のある柔らかいナニかが当たる。一夏は平静を装っているが、あまり意味は無かった。
「ん〜?どうかしたー?」
「いや、別に。(胸がもろに当たってるんだよ・・・!!)所で、こちらは?」
「あ、紹介がまだだったわね、そう言えば。学園で三年の布仏虚ちゃん。整備科の主席で、私の幼馴染み。」
「布仏・・・本音の姉さんか。こう言っちゃ失礼かもしれないけど、似ても似つかないな。」
「本当にボーッとした妹がご迷惑をおかけしています。」
深々と丁寧にお辞儀をされて、一夏も思わずそれを返した。
「いやいや、こっちも色々と整備の方で手伝って貰ったから、寧ろ迷惑かけてるのはこっちだ。」
「さてと、本題に入るわ。」
楯無は先程とは打って変わって真剣な目付きになる。
「一夏君は、
「大した事は知らないが、師匠から聞いているのは、対暗部用暗部の家柄、先代の楯無が
「じゃ、私の事をもっと詳しく教えてあげるわ。私は、自由国籍権を持ってて、今はロシアの国家代表よ。楯無は私の本当の名前じゃない。只の家名なの。」
「成る程、道理で強い訳だ。流石学園最強は伊達じゃないな。」
パリン!
突然窓ガラスが割れて矢が数本飛んで来た。一夏はそれを素手で叩き落とすと、袖の中から銃(改造済みモデルガン)を引っ張り出し、撃ち返した。
「ッたく何なんだよ、白昼堂々と・・・・」
一夏は窓の外を睨んだ。そこには弓道部と思しき生徒があたふたと逃げ出している所だった。
「生徒会長は学園最強。そして私を倒す事が出来たら生徒会長になれるって訳。だから私は年がら年中狙われてるの。」
「成る程。そりゃキツそうだ。俺はやりたくねえな。(魔化魍とかで十分だっての。)で?何が言いたい?」
「生徒会に入らない?」
ストレートに言われて、一夏は頭をぼりぼりとかいた。
「お前な・・・・俺の立ち場を考えろ。あ、虚さんは、幼馴染みって言う位だから鬼の事はある程度知ってるよな?」
「ええ。大丈夫、秘密は守るわ。」
ちらりと虚を見た一夏を楯無が取りなした。
「なら良いが。はっきり言うと、ここでも段々と魔化魍の活動が活発になって来てる。そして、現在ここにいる免許皆伝の鬼は俺だけだ。だから、出来る限り動ける様にしたい。只でさえ肩身が狭い生活をしているのに更に枷があっちゃこっちも都合が悪いんだ。生徒が食われて行ったら当然調査も入るし、行方不明になったら監査官だって入って来る可能性もある。魔化魍の事も、鬼の事も、果ては猛の事がバレたら、それこそ最悪の事態だ。」
「だからよ。」
「は?」
「小暮さんから貰ったディスクアニマルを貴方が持って来た分と合わせたらかなりの数になる。偵察は私達にやらせて。そして、貴方に教えれば今より早く魔化魍を倒せる。効率良くなると思わない?それに、一度手合わせしてみたいし。ISでも、ね?」
「とか言って、実際は俺を側に置きたいだけなんだろ?」
顔が赤くなるのを見て、図星を突いた事を確信した。
「それに、そうする前にお前は先に簪との蟠りを完全に失くすべきだ。俺の事より、まずは身内を大事にしろ。好きになってくれるのは正直嬉しいが、俺は二の次、三の次だ。
予鈴がもう鳴った。じゃあな。手合わせなら、放課後にでもやろう。簪にも来る様に伝えてくれ。」
一夏は楯無の額を指で軽く押して、軽い冗談のつもりで頬を撫でると生徒会室を後にした。教室にはギリギリ間に合った為、罰を受ける(撲殺される)事は無かった。
そして放課後。一夏の立ち会いの元、簪と楯無の模擬戦が行われた。二人は心配そうに一夏を見た。
「簪、楯無。これはお前らの為でもある。微妙にすれ違い合っている様じゃ、いつか溝は深くなる。手遅れにならない内に今からそれを修復する。俺が千冬姉とやったのと同じ事だ。どちらも、自分自身を、認めて欲しいんだろう?今がその時だ。」
「簪ちゃん・・・今まで、ごめんなさい。」
「お姉ちゃん・・・・見てて。私も、強くなったんだよ。」
二人はISを展開して空に舞い上がった。
(楯無のIS、アイツ一人が設計して組み上げたって言ってたっけ。どれどれ。)
一夏はハイパーセンサーを部分展開してみた。
『第三世代型IS、ミステリアス・レディ。』
(成る程。あのクリスタルみたいなのが引っ掛かるな。周りに液体の膜が張ってあるし、言うなればドレスみたいだな。さすが名前負けはしてない。正に優雅な
一夏はとりあえず観戦する事にした。
まずは簪が夢現を振るって接近しつつ春雷を使って牽制射撃を行った。楯無は砲撃を回避しこれを迎え撃つ。左手には蛇腹剣ラスティー・ネイル、右手には大型のランス、蒼流旋を持って。ラスティ—ネイルで攻撃を受け止めると同時に、右手に持ったランスに仕込まれたガトリングでゼロ距離射撃を行う。当然、シールドエネルギーはかなり削られた。だが、簪もこれで終わるつもりは無い。山嵐を手持ちの四分の一を使用した。全てマニュアルでロックオンしているが、標的は唯一人だけなので差程苦にはならない。十二本のミサイルが放たれ、一気に迫って来る。だが、それは全て命中する前に爆発した。
(あれは一体・・・・そうか、あのクリスタルから出る水か。水をどうにか一気に蒸発させる仕掛けが出来れば高熱を発する。そして熱に耐え切れずにミサイルが爆発した。)
「く・・・まだよ!」
簪は再びミサイルを二本射出、そしてそれの後を追いながら春雷で射撃を行う。だが、楯無はその場から動かず、近付くギリギリの所で指を鳴らした。再び爆発が起こる。
「きゃっ!」
楯無の悲鳴が上がった。
(楯無のシールドエネルギーが減少した・・・・)
「やるわね、簪ちゃん。」
「打鉄二式は一夏と一緒に作った・・・・・負ける訳には、行かない!」
今度は残っているミサイルを全て射出し、土煙が上がる中にイグニッションブーストで突っ込んで行く。武器のぶつかり合う音が聞こえるが、それがやがて止んだ。
(やはりか・・・)
結果的に僅差で楯無が勝利した。
「負けちゃった・・・・」
だが、簪はどこか清々しそうだった。やはり、姉に一矢報いる事が出来た自分が誇らしいのだろう。
「お疲れさま。で、すっきりしたろ?お互いの本気をぶつけ合って。」
「うん。」
「ありがとうね、一夏君。」
すると、二人はそれぞれ一夏の腕を掴み、それぞれの頬に唇を付けた。
「な、ちょ・・・・おい?!」
「えへへ〜。」
「あう・・・」
「ところで・・・・あの時の返事だが・・・・俺にはどうしたら良いか分からない。ズルい事は分かっているんだが・・・・」
「待った。」
更に続ける前に楯無がストップをかける。
「やっぱりね・・・だろうと思ったわ。良いのよ、別に?私達二人を好きになっても。」
「けど・・・・やっぱりそんなのダメだ。」
「もう、頑固者ね。強硬手段取るしか無いわ。」
一夏の顔を掴むと、何の躊躇いも無く一夏の唇を奪った。
「あーーーー!!!お姉ちゃんずるい!」
「やったもん勝ちよ、こんなの。」
頬は赤くなっていたが、自慢げに楯無はにんまりと笑った。
「じゃあ・・・・一夏・・・キス、してくれる・・・?」
(俺に振るなああああアーーーー!!!あー、もう仕方無い。こうなっちまった以上、最後までやるっきゃ無いか。さようなら、色々と・・・)
「弁当、美味かったぞ。ありがとうな。」
一夏はそっと簪に顔を近づけ、簪にもキスした。
「これで一安心ね。」
(俺の心臓が一安心じゃねえよ、一足先に破裂しそうになってるわ!)
楯無はどこからか扇を取り出し、開いた。そこには一件落着の四文字が
「さてと、後は一夏君との模擬戦ね。」
「仮に勝っても、会長はやらないぞ?」
「えー、でもそれが決まりだしー・・・」
「俺には似合わない肩書きだからな。大体、そんな事をやってる暇は無い。大生徒会に役員はある程度いるだろう?」
「私と、虚ちゃんと、本音ちゃんだけね。」
「少ないな、おい。俺より仕事出来る奴紹介してやるぞ?生徒会に俺が入っても意味は無いしな。そもそも、ディスクアニマルを持っているのは良しとして、操れるのか?」
「う・・・・」
そう、先代楯無は鬼の存在を報せはしたが、それ以外は何もしなかったのだ。小暮は元師匠であるが、娘達には鬼の修行は積ませていない。
「な?だから結局は俺がやるしか無いんだよ。」
「う〜、お願いお願いお願い!!」
楯無が子供の様に飛んだり跳ねたりして駄々をこね始める。一夏は首を回し、しばらく考え込むと、指をパチンと鳴らした。
「よし、分かった。じゃあこうしよう。ISと生身、両方で手合わせをする。どちらかが二連勝出来れば、事前に提示された相手の要求を全て呑む。これでどうだ?」
「でも、それじゃ一回ずつ勝って引き分けが続いたらどうするの?終わんないよ?」
簪が指摘する。
「それもそうだな・・・・」
「あ、でも一夏って織斑先生を倒したんだよね?お姉ちゃん勝てるかな?」
「おま、余計な事言うなよ!」
「もう知ってるわよ?学級新聞で読んだもん。」
一夏はがっくりと肩を落とした。
「黛か・・・・アイツならやりかねないとは危惧していたが、こうもご丁寧に期待を裏切らないとはな・・・・」
「じゃあ、こう言うのは?ISでの対戦は二ラウンド先取した方が勝ち。生身では三ラウンド先取した方が勝ち。合計の勝利数で勝敗を決める。時間はある程度かかるけど、終わらない事は無い。」
「簪ちゃんナイスアイディア!」
楯無が簪を捕まえてほおずりを始める。
「ちょっと、お姉ちゃん〜!!」
「決まりだな。じゃあ、そうしよう。話している内にかなり時間を使った。戻るぞ。」
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今回は長めです。ヒロイン登場と、生徒会スカウト、
そして楯無vs一夏フラグでーす。
では、どーぞー!