No.475686

IS〈インフィニット・ストラトス〉 ~G-soul~

『姉』、『妹』。Ⅰ

2012-08-26 16:31:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1748   閲覧ユーザー数:1686

今朝起きた頃から、のほほんさんが元気ない。

 

「………………」

 

今は朝食を取っているのだが…

 

「のほほんさん、それふりかけじゃない。七味」

 

「へ…あ」

 

俺が指摘してようやくごはんに七味を振りかける行為を止める。

 

「大丈夫か? 元気ないみたいだけど」

 

「うん……大丈夫…」

 

こくり、と小さく頷いてごはんを口に運ぶ。 

 

「おいそれ七味かかって―――――」

 

「……………」

 

隣の一夏の指摘も聞こえてないようで、そのまま七味がかかったごはんを咀嚼し、飲み込んだ。

 

「……………」

 

「……………」

 

俺と一夏が唖然としているのに気づいたようだ。

 

「? なぁに?」

 

「あ…いや」

 

「なんでもない…」

 

「変なおりむーときりりん」

 

のほほんさんは再びごはんを食べ始めた。

 

(お、おい、やっぱ様子がおかしいぞ)

 

(あ、ああ…。おかしい)

 

俺は一夏に耳打ちする。

 

(虚さんと言い、のほほんさんと言い、姉妹そろってどうしたんだ?)

 

(俺が知るかよ、そんなこと)

 

二人でのほほんさんに顔を向けるとのほほんさんが話しかけてきた。

 

「ねえ…おりむー、きりりん」

 

「ん?」

 

「な、なんだ?」

 

「私って…頼りないかな…………」

 

「え…」

 

一夏が少々面喰ったように声をこぼす。

 

「なにかあったのか?」

 

俺が問いかけると、のほほんさんは席から立ち上がった。

 

「…ううん。なんでもない。じゃあね」

 

そのままのほほんさんは重い足取りで食堂から出て行った。

 

「…なんでもないわけ、ないなありゃ」

 

「ああ。確実になにかあった」

 

小さくなっていくのほほんさんの背中は、なんだか悲しかった。

 

「…と、いうわけなんですが」

 

それからしばらく後のほほんさんの様子がおかしいのを廊下で偶然会った楯無さんに伝えた。

 

「そう、本音もなのね…」

 

話を聞く楯無さんは閉じた扇子を口元に近づけている。

 

「布仏姉妹そろって、どうしたんでしょう」

 

一夏が楯無さんに問うように話す。

 

「そうねぇ…………」

 

楯無さんは少し思案顔をしてから顔を上げた。

 

「理由は大体想像ついてるわ」

 

「はぁ」

 

「と言うと?」

 

「んー」

 

俺が追及すると楯無さんは扇子を開いた。

 

「それは二人の個人の問題でもあるから私からは言えないわ」

 

「なんですかそれ…」

 

肩すかしを食らった。そんな俺を見て楯無さんはくすっと笑った。

 

「でも、このままってのも問題よね」

 

そうつぶやく楯無さんの目が、キランと光った。

 

 

「あの、会長。用ってなんでしょうか…?」

 

楯無に生徒会室に来るよう言われた虚は、一向に用件を話してくれない楯無に控えめに話しかける。

 

「もうちょっと待って」

 

しかし椅子に腰かけ、窓の外を見ている楯無の返答はさきほどと変わらない。

 

すると生徒会室のドアが開いた。

 

「あ―――――」

 

入ってきたのは本音だった。

 

「本音…………」

 

「……………ふん」

 

本音はぷいっとそっぽを向き、楯無に近づいた。

 

「お呼びですか?」

 

「そうね。二人とも揃ったことだし、用件を話そうかしら」

 

楯無は椅子を回転させて二人の顔を交互に見た。

 

「ちょっとお使いを頼みたいの」

 

「お使い…ですか?」

 

「実は紅茶の茶葉がなくなっちゃったのよ。買ってきてほしいの」

 

「……………?」

 

「それくらいなら、構いませんが…………」

 

二人は首を捻る。わざわざ自分たちを呼んだのはそんな為だったのか。

 

「それと、書類を纏めておくバインダーも数が足りないから一緒に買ってきて。十個セットのやつね」

 

しかし、追加されたお使いの内容を聞いて虚はさらに首を捻る。

 

「購買に売ってないんですか?」

 

「いやぁ、私も売ってると思ったんだけど、納品が遅れちゃってるみたいで売ってなかったのよ」

 

「は、はぁ」

 

「結構大変かもしれないけど、私も用事が立て込んでて。頼めるかしら?」

 

「じゃあ、私が―――――――」

 

「私が行きます」

 

虚が言いかけると、本音が一歩踏み出して言った。

 

すると楯無は扇子で隠した口で小さく笑う

 

「そう。じゃあコレ、買い物のメモとお金ね」

 

楯無からそれらを受け取り、本音は生徒会室を出て行こうとする。

 

「じゃ、じゃあ私も…………」

 

虚がその後を追おうとする。

 

「いい。いらない」

 

「なら、桐野くんか織斑君を―――――」

 

「一人でいい!」

 

「!」

 

本音の声に足を止められ、虚は俯いてしまう。

 

本音は生徒会室から出て行った。

 

「いってらっしゃ~い」

 

楯無はひらひらと手を振り、本音を見送った。

 

「………………」

 

虚は黙ったままである。

 

「…さ、用は済んだからもう行っていいわよ」

 

楯無は椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとする。

 

「会長…………」

 

絞り出すような声で虚が楯無を止めた。

 

「ん?」

 

「どうしたら…いいんでしょう……………!」

 

震える虚の声を聞き、楯無は小さくため息をついて椅子に座りなおした。無言だったが、それは話の続きを促すものだった。

 

「卒業したら…もう学園にはいられないから、そしたら……本音がしっかりやれるか心配なんです」

 

虚はさらに続ける。

 

「織斑くんも、桐野くんもいるから大丈夫なのは…分かってるんです……分かってるのに…!」

 

「虚」

 

楯無が虚に声をかける。

 

「『姉』っていうのは『妹』をとっても大切に想うもの。そうでしょ?」

 

「……………」

 

虚は小さく頷く。

 

「私も姉だから、簪ちゃんが大切よ。それはもう、掛け替えのないくらい。大切に想い過ぎて余計なことしちゃったこともあるけどね」

 

困ったように笑いながら言う。

 

「でも、姉は妹が大切だから、だからこそ心配もする。今のあなたみたいに」

 

楯無は椅子から立ち上がり、窓の外に顔を向ける。

 

「布仏の家の事情は私も知ってるわ。そういうのもあなたの状態の原因でしょうけど。でもね虚」

 

楯無は振り返って虚を見た。

 

「妹を心配するのも姉の役目だけど、それ以上に、妹を信じてあげることも姉の役目なのよ」

 

「かい…ちょう…………!」

 

「って、私よりあなたの方が年上なのに、私がこんな大人ぶったこと言うのも変だけどね」

 

苦笑する楯無に、虚は涙をこぼしながら告げた。

 

「わたし…本音と…うっ………えくっ、けんか……喧嘩しちゃって…………!」

 

「そう………」

 

「あや…まりたい………のにっ…どう言ったら…………!」

 

「わからない?」

 

しゃっくり上げる虚は頷いた。

 

「はい…………!」

 

「力になってあげたいけど、私がしてあげられるのはここまでよ」

 

「え…」

 

「私より、ずっと妹と接してる人を、あなたは知ってるでしょう?」

 

「…………あ…」

 

ハッとする虚に微笑んで、楯無は部屋から出て行った。

 

「…………」

 

一人になった虚は目をごしごしとこすって涙を拭い、顔を上げる。

 

「…うん………大丈夫」

 

そして、迷いない足取りで生徒会室を出た。


 
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