『二番! 受験番号二番はいないか!』
試験官の怒号で、重たい瞼を開ける。いつの間にか寝てしまったらしい。
声のした方を向くと、室内にも関わらずサングラスをかけた教師らしき人物がデュエルリングに立っている。どうやらあの人が俺の相手らしい。
これ以上待たせるのもマイナス評価になるだけだろう。そう思い、言うことの聞かない体に無理矢理鞭を打ち、デュエルリングまで上がっていく。
「お待たせしました。受験番号二番、早乙女ケイです」
「うむ。では知っている通り、これよりデュエルアカデミア本校入学実技試験を始める。二番君、構えなさい」
「はい。よろしくお願いします」
デュエルアカデミア。現代に生きるデュエリストならその名を知らない人はいないとまで言われている、デュエリスト養成機関。その本校への実技試験を俺は受けに来ていた。
互いに腕に装着した盾のような機械、デュエルディスクを起動させ、対面する。
そして、勝負の開始を宣言する掛け声を告げる。
「「デュエル!!」」
試験官 LIFE4000
早乙女ケイ LIFE4000
「このデュエルはあくまで試験。先攻と後攻、どちらが良いか選びなさい」
「……では、後攻で」
「うむ。ならば私のターン、ドロー。モンスターカード『ビッグ・シールド・ガードナー』(DEF2600)を守備表示で召喚する。ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー」
大きな盾を持った色黒の男が、身を守るように盾を構えている。
どうやら相手のデッキは守備重視、防御型のようである。
正面突破するにはやや骨が折れる。となれば、正面突破以外の道を選ぶしかない。
「俺は『人造人間7号』(ATK500)を攻撃表示で召喚します」
「そのモンスターは確か直接攻撃モンスター。なるほど、モンスターを相手にせず直接ライフを削る方選んだのか」
まさにその通りである。
だが当然このまま攻撃なんてしない。
このままただ攻撃すれば、後々低攻撃力のモンスターを攻撃表示で残すことになる。
「……失礼ですが、このターンで終わらせます」
「なに?」
「魔法カード『機械複製術』を発動。自分フィールド上の機械族、攻撃力500以下のモンスター一体を指定して、同名モンスターをデッキから二体まで召喚します。『人造人間7号』は攻撃力500の機械族。よってこのモンスターを二体デッキから特殊召喚します」
発動した瞬間、デュエルリングの床を破って二体の『人造人間7号』が姿を現す。
だが本当に床を破ってきたわけではない。
これはソリッド・ヴィジョン。即ち幻影である。
デュエルディスクの見せる幻影は使用されたカードによって様々なものが映る。
このモンスターの登場のように、ユニークな演出をすることもあるらしい。
「そして装備魔法『デーモンの斧』を最初の『人造人間7号』に装備させます。装備された『デーモンの斧』の効果発動。装備モンスターの攻撃力を1000上げ、『人造人間7号』の攻撃力は1500になります」
「だが、それでも合計2500。私のライフ4000ポイントを削るには、まだ1500ポイントも足りないぞ」
「いいえ。このターンで終わらせます。『人造人間7号』三体で直接攻撃!」
「なに!?」
三体の人造人間が地面に潜った。
イラストを見るとわかるが、どうやらこのモンスターは潜入工作員のようで、直接攻撃の際はこうして相手を掻い潜り、直接相手の下に攻撃を届けるらしい。
そして、俺はここで一枚のカードを発動する。
「速攻魔法『リミッター解除』を発動! 自分フィールド上の機械族モンスターの攻撃力を二倍にする!」
「なっ! それではモンスターの総攻撃力は……」
『人造人間7号A』ATK1500 → 3000
『人造人間7号B』ATK500 → 1000
『人造人間7号C』ATK500 → 1000
「三体の攻撃! ドライ・ダイブ・ボンバー!!」
「ぬ、オオオオオオォォ!!」
試験官 LIFE4000 → 1000 → 0 → -1000
地面を潜っていた三体の人造人間は試験官の足元から飛び出すと、次々と殴りかかった。
総攻撃力は5000となり、試験官のライフを根こそぎ奪った。
──ザワ……ザワ……
静観していたギャラリーの間でこそこそと話し声が飛び交う。
話の内容を聞くと、実技試験で一ターンキルをしたのが珍しいらしい。
だがどうにも俺にはその感慨がなく、ただ五月蠅いと思えてしまった。
「う……し、試験デュエル終了だ。お疲れ様……」
「はい。ありがとうございます」
試験官へ向かって一礼すると、俺はそのまま会場を後にする。途中周りから好奇の視線が突き刺さってきた。
──…………終わった。
そう安堵する。
デュエルアカデミアノース校中等部から単身乗り込んできたは良いが、どうなるか心配だった。が、それは無事杞憂に終わった。
筆記試験では二番。そして実技試験ではライフを削られることなく一ターンキル。落ちる要素は何一つない。
大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせながら、試験のために泊まっているホテルへと戻っていく。
そしてホテルに辿り着いた俺は、徹夜の疲れから泥のように眠った。デッキ調整のためとはいえ、徹夜はするものじゃない。
寝ると同時に、一つ願った。
──どうか受かっていますように。
アカデミア本校の合格通知が届いたのは、それから一週間後のことだった。
「亮ー!」
「む……吹雪か。どうしたんだ」
「なんだいつれないなぁ。あ、それより今のデュエル見たかい?」
「今の、というと、一ターンキルの二番か?」
「そうそう! 立ち振る舞いも堂々としていて、なんか気品があったよね!」
「ああ。それに直接攻撃を駆使してのコンボは見事なものだったしな」
「だよねぇ。受験番号も僕らと一つ違いだし、オベリスクブルー決定かな」
「さあな。ただ……」
「? ただ?」
「あの顔は、寝起きで本気が出なかった、といった感じだったな」
「ははっ! そりゃ面白い! 傑作じゃないか!」
「そうだな。……翔。お前への良い土産話ができたよ」
To be continued...
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