No.474930

魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 四十五話

狂戦士は夢の中へ

2012-08-25 00:24:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4355   閲覧ユーザー数:4125

 

 

騎士たちに異変が起こる少し前

 

カリフによって強制的に眠らされていたはやてをシャマルは離れた所で介抱していた。

 

そして、その横にはボロボロに倒れ伏すロッテとアリアもいた。

 

その様子にシャマルは戦慄していた。

 

「凄い……傷は派手なのに骨折も少ないし、内臓はいくつかダメージ負っているだけで命に別状はない……」

 

見た目からしたらまさに奇跡的な状態だった。

 

この状態だけでカリフがどれだけ慣れているのかも理解できる。

 

そのことに冷や汗をかくシャマルだが、今はそんなこと言ってられない。

 

「少し心が痛むけど、悪く思わないでね……」

 

猫姉妹を気の毒に思いながらもシャマルは闇の書を開く。

 

そして、二人の胸からリンカーコアを出して蒐集する。

 

「これで……終わり!」

 

そして、遂に悲願は成った。

 

『闇の書……起動』

「これで……やっとはやてちゃんが……」

 

目の前で起動する闇の書を見て感極まったシャマルは涙を浮かべる。

 

これが全て終わったらはやてにまず謝ろう。

 

そして、許されるならこのまま静かに暮らしていこう

 

それから管理局の目の届かない世界まで逃げていけばいい

 

そんな未来を胸に闇の書を見つめていた時だった。

 

 

 

 

 

 

『ナハトヴァール……及び管制プログラム起動します』

「え?」

 

突如として闇の書から多数のヘビが湧きだし、闇の書全体を覆い尽くした。

 

その光景に嫌な予感と薄気味悪さを覚えてシャマルは後ずさる。

 

「だ、大丈夫、きっと私の考えすぎ……」

 

この嫌な予感が杞憂だと自分に言い聞かせながら頭の中では別のことを考える。

 

「闇の書さえ完成すればはやてちゃんは……」

 

―――なんだか大事なことを忘れてる気がするんだ……

 

「だから私たちは今まで頑張って……」

 

―――駄目なんです! 闇の書を完成させてしまったら……!

 

 

 

 

 

 

 

(そうだ……なんで忘れてたんだろう私たち!?)

 

シャマルは極限状態にまで追い詰められて遂に思い出した。

 

今までの蒐集の最後の記憶の断片

 

闇の書の覚醒後の世界の結末

 

そして、闇の書の主の運命を……

 

「そ、そんな……シグナ……!」

 

ノイズだらけの記憶から全てを思い出し、シャマルは皆を呼ぼうとするが、そこから声が出なくなった。

 

一度蒐集したはずのシャマルの胸からリンカーコアが露出させられていた。

 

魔力は吸われ、シャマルの体も実体を失いかけている。

 

「あ……ぁ……」

 

動けないシャマルの背後

 

はやての体はまるで浮くように起き上がる。

 

「湖の騎士……深き闇に眠れ……」

 

はやての口から出た言葉はまさに覚醒の証だった。

 

はやての短髪は伸びて白銀と変色を経た。

 

変貌していく体は幼い少女から黒い羽の女性へと移り変わる。

 

「はや……て……ちゃ……」

 

そして、シャマルの体は

 

 

 

闇の書の中へ

 

 

 

 

飲み込まれた。

 

 

残された銀髪の女性は涙を流していた。

 

「鉄槌の騎士、将、盾の守護獣……今、迎えに行くぞ……」

 

こうして飛びたったのだった。

 

これが少し前の出来事であり、舞台は現在へと変わる。

 

 

カリフは訝しげに突如として現れた女性を睨む。

 

「魔道書? お前が?」

「あぁ」

「家にあったあのタウンページもどきが随分と成長したものだ……」

 

皮肉気に言いながら後ろ目でなのはたちに介抱されながらも消えていくシグナムたちを一瞥する。

 

「シグナム!」

「ヴィータちゃん! そんな……!」

 

もう言葉も発することのできない騎士たちを見据えた後、再び女性に問う。

 

「どうも気のせいか……お前の手に持っている本に奴等の魔力が吸われているように見えるのだが……一応聞いておく。何故だ?」

「これは私の意志であり、ナハトの意志でもある。騎士たちを深い眠りに誘い、苦痛から解き放つ」

「……はやては?」

「主も私の中で心地よい夢をみておられる……これが主の願いなのだから」

「はやての?」

 

依然として感情を見せない女性にカリフはさり気なく気を探る。

 

「主はこの絶望だらけの世界が夢だったらと願ったから……」

「あのバカが? 随分と面白いことを……」

「そして、主は夢の中で愛する騎士たちや友人を望んでいたが、最も望んでいるのはお前だ」

「ほう?」

 

ここで、なのはとフェイトたちがカリフの傍へとやってきた。

 

「カリフ!」

「カリフくん! この人は闇の……夜天の書の……!」

 

二人の声を遮って女性は漆黒の羽を広げた。

 

「主の最大の願い……絶望にまみれた世界の中でも決して消えること無い意志を抱く……愛する者の傍に永遠に寄り添うだけのこと……だから……」

 

女性はカリフに魔力弾を向ける。

 

「お前も私の中で安らかに……そして仇成す者には永遠の闇を……」

「急に現れて好き勝手言って……本来なら問答無用でぶっ殺してやるところだ……」

 

足元に魔法陣が展開され、女性の手から黒い球体が現れる。

 

「デアボリック……」

「お前の気にはやての気の残滓が感じられるからお前の中にいるのは事実らしい……が、それを承知で言ってやろう」

 

球体はやがて巨大化してなのはとフェイトが咄嗟に離れていくのに対してカリフは腕を組んで威嚇しながら叫んだ。

 

「オレにメンチ切ってタダで済むと思うんじゃあねぇぞコラァ!」

 

最大級の威嚇で憤怒の形相を浮かべるカリフの意に介さず女性の黒い球体は一気に膨張した。

 

「エミッション」

 

この瞬間、全てが闇に呑まれ

 

 

 

 

カリフをも呑みこんでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そう簡単には終わらない。

 

「ふん、雰囲気と違って節操のない奴だ」

 

瞬間移動で移動していたカリフは別の場所へ瞬間移動して空間攻撃を回避していた。

 

だが、あのはやての気と別の気配が混ざったような女性を無闇に殺してはまずいとも思っていた。

 

「専門家にでも聞くか」

 

自分で推測するよりもユーノに聞こうとはぐれたユーノたちの気を探る。

 

人差し指を額においていると、すぐに見つかった。

 

「よし」

 

ピシュンとその場から瞬間移動した。

 

 

 

そして、カリフはなのはたちのすぐ傍へと移動した。

 

急に現れたカリフになのはたちも驚愕する。

 

「わ! ってあんた! 無事だったのかい!?」

「あんなものでやられるとでも?」

 

アルフの言葉になんでもないように返す。

 

「あ、あの、カリフ……」

「フェイト、悪いが無駄な問答をしている暇は無い。それよりもユーノ」

「え? なんだい?」

「とりあえず分かっていることを話してもらおう。シグナム共やはやてはどうなったか、あの女はなんなのか、とかな」

「うん。時間もないから率直に言うよ。あの女性は闇の書……本当の名前は夜天の書っていうんだけど、それの管制プログラムなんだ」

「夜天の書? 管制プログラム?」

 

言葉の意味が分かってないように首を傾げると、補足してくれる。

 

「正式名称は闇の書なんて名前じゃなくて『夜天の書』。元は優秀な魔導師の魔法を研究する魔道書だったんだけど歴代の持ち主のだれかが悪意ある改変をした結果、持ち主と共に旅する機能と自動修復機能が暴走したのが闇の書となったんだ」

「あの女は?」

「……あの子は闇の書が具現化したような存在で、『闇の書の意志』って呼ばれている」

「はやて共は?」

「はやてはあの闇の書の意志に取り込まれた、謂わばはやてと融合して、シグナムたちは守護騎士プログラムとして一緒に取り込まれたんだと思う」

「思う……か。その様子だと解決策はないようだな」

「ごめん。間に合わなかった」

 

頭を項垂れて謝罪するユーノにカリフは不敵な笑みを送る。

 

「これは何も知らなかったオレの招いたことだ。お前は全力を尽くしたのだ。誰がお前を責められよう?」

「そうよ。こんな短時間にここまで調べ上げたのは普通じゃできない。もっと自分に自信を持ちなさい」

「カリフ……プレシアさん……」

 

二人からの激励にユーノは少し感激するが、フェイトたちは驚愕の方が大きかった。

 

あのフェイトを人形呼ばわりしていたプレシアがユーノを称えているのだから。

 

「……」

 

フェイトはその光景に複雑な想いを抱いていた。

 

だが、事態を把握しているクロノはすぐに立て直してプランを提示する。

 

「とにかく、僕は少し準備をしたい。だが、その間にあの管制プログラムを誰かが相手にしなければならないのだが……」

 

クロノの提示になのはとフェイトが手を上げる。

 

「私がやる!」

「私も! あの子を放ってはおけないから!」

 

立候補した二人にクロノは力強く頷くが、ここでカリフによって驚愕の事実が伝えられた。

 

「だが、近くに取り残された奴等もいる」

「なんだと!?」

「三人だ。二人は固まって動いているが、もう一人は一人で彷徨っている……とは言ってもあともう少しで三人は同じ場所で出会いそうだ」

 

カリフの言葉になのはたちは目配せして合図する。

 

「最初はその人たちから保護しよう」

「分かった」

 

そう言って頷いた後、フェイトはカリフに向き直る。

 

「その人たちはどこにいるの!?」

 

カリフは喋らずに首だけで示す。

 

「ありがとう! なのは!」

「うん!」

 

そうとだけ言うと、二人はその方向へと飛んでいった。

 

「僕は闇の書に降伏を呼び掛けてみる」

「そんなもの応じるとでも?」

「やらないよりは有益だ」

 

そう言いながらクロノも飛び去って行った。

 

残るはユーノ、アルフ、プレシアとカリフだが、カリフは少し考えて言った。

 

「アルフとユーノは一般人見つけてどっかに監禁なりなんなりしてここから離したほうがいいだろうな」

「分かった」

「じゃあアタシ等はフェイトたちの所へ行ってくるよ。でも……」

「……」

 

そう言ってアルフはプレシアを睨み、プレシアは居心地悪そうにしているが、カリフは知ったことじゃないと言わんばかりに返す。

 

「こいつは何の心配は無い。このまま連れて行く」

「でも……! こいつのせいでアンタと私たちの仲が……!」

「状況を考えろ。そんな都合など捨て置け」

「……!!」

 

アルフは納得できない様子でまるで逃げるように飛びたった。

 

残された三人だが、カリフはプレシアの隣で忠告する。

 

「感傷する暇があるなら何かしろ。でなければ帰れ」

「……そんなつもりはないわ。大丈夫」

 

そう言ってプレシアは再び表情を引き締めて飛びたった。

 

「……」

 

ユーノも何か複雑そうにしながらも飛びたったのだった。

 

残されたカリフは一人になったところで不安そうに呟いた。

 

「あいつ等大丈夫か?……」

 

 

 

 

 

一般人の保護へと向かって行ったなのはとフェイトはある程度接近してきた所でレイジングハートとバルディッシュも察知できてきた。

 

二人は急いで飛行し、遂に曲がり角の向こうの所までに辿り着いた。

 

「大丈夫ですか!? ここは危険ですよ!」

「なのは! 闇の書の意志がなんだかおかしい!」

 

見つけた一般人に呼びかけるなのは、街灯の上に立って上空を見据える。

 

だが、一般人が先に気付いた。

 

「なのは?」

「フェイトちゃん?」

 

そこには、二人にとって見慣れた顔ぶれがあった。

 

はやてのお見舞いの後に別れたアリサとすずかだった。

 

「ア、アリサちゃん……すずかちゃん……」

 

なのははまさかの二人の登場に戸惑い、フェイトに向いてどうするかを尋ねるが、フェイトも同様に戸惑っているようだった。

 

「なのは? その格好……というより何が起こってるの!? 突然空が暗くなったり……!」

「それに人もいなくなっちゃって……」

「えっとね、アリサ、すずか、今は……」

 

戸惑うアリサとすずかをフェイトが治めようとしていると、そこへ新たな声が響いた。

 

「あっれー? カリフとお母さんどこに行っちゃったんだろう?」

 

響いた声にフェイトたちがそこへ視線を向けた時だった。

 

「……え?」

 

フェイトにとっては信じ難い光景だった。

 

なぜなら、そこにはフェイトと瓜二つの少女・アリシアが息を切らせてやってきたのだから。

 

「あ、あれ……だれ?」

「フェイトちゃんにそっくり……」

「え? え?」

 

アリサやすずかだけでなく、なのはまでもがこれには言葉を失った。

 

そんな奇異な視線に気づいたアリシアは明らかに不味いって表情をした。

 

(やばっ! フェイトに見つかっちゃった……でも、今ならそっくりさんということで誤魔化せるかも……)

 

そう思いながら弁明しようと口を開けたときだった。

 

「アリシア!? あなたなんでこんな所に!?」

「ちょっ! お母さん空気読んで!」

 

タイミング悪くやって来た母に毒づく娘

 

アリシアの言葉にプレシアはハッと気付いた顔で口を押さえたが、既に遅かった。

 

フェイトは体を震わせてショックを受けていた。

 

「アリ……シア?」

「あのねフェイト、話を……!」

「な、なんだってんだい……これは……」

 

そこへ、さらに駆けつけてきたアルフまでもが信じられないと言った様子で立ちつくしていた。

 

フェイトとアルフ、二人を苦しめた事件の大元であるフェイトの姉、アリシア

 

そのこともあり、これは無視できるような状況ではなかった。

 

「おい嘘だろ……なんでアリシアが……」

 

アルフまでもが平静を失ってパニックに陥ってしまったこの状況にプレシアとなのはは戸惑った。

 

中でも、この混乱の原点はプレシアなので、自分で治めることはできない。

 

どうしたらいいか分からなくなってしまっていた。

 

混乱が混乱を招くこの悪循環な状況を上空で見下ろしていたのはカリフだった。

 

溜息を吐いてカリフは今まさに、魔力を集め始めている闇の書の意志を見つけた。

 

「探すのに飽きて一掃を決めたか。仕方ない」

 

呆れながらも地上に降り立ち、なのはとプレシアの傍に寄る。

 

「おい、これからというときになんてザマだ」

「で、でも……」

「……ここからはお前等の戦いだというのに、これで大丈夫なのか?」

「え、それってどういう……」

 

カリフは大きく息を吸って

 

 

 

吐いた。

 

 

 

 

「いつまでじゃれているつもりだ貴様等っ!!」

『『『!!』』』

 

カリフの常人離れした肺活量と声帯から繰り出される怒号は周りに波紋を起こした。

 

周りのビルのガラスはガタガタと振動し、フェイトたちは身をちぢこませた。

 

咄嗟に耳を押さえていた手を恐る恐る離すと、目の前には腕を組んでいるカリフを見た。

 

フェイトたちは戸惑いを隠せてはいなかったが、カリフから見たらさっきの今の事態の理解が消えてしまったが、同時に混乱も消えたと見た。

 

そのままカリフは諭すように続けた。

 

「フェイト、今は思うことがあるかもしれんが後にしろ。ここで手をこまねいていたら奴はこの辺りを破壊し尽くすぞ」

「う、うん……」

「アリサとすずかとアリシアはアルフ、お前がなんとかしろ」

「あ、あぁ……」

 

冷静に指示していくカリフをその場の全員が凝視する。

 

その中でも狂暴な知り合いが初めて見せる姿にアリサもすずかも何も言えなかった。

 

そこで、ある程度冷静だったプレシアが聞いてきた。

 

「あなたはどうするの?」

「決まっている。あそこで呑気に眠りこけている家主を叩き起こす! だから……」

 

カリフはまさに魔力を撃ちだそうとしている闇の書の意志を見据え、確かに言った。

 

「“そっち”はお前等がなんとかしろ。“こっち”はオレがなんとかする」

「え?」

 

突然、改まったような口調で言う台詞にフェイトが何を言ったのかと耳を疑った。

 

「フォーク!」

 

だが、返事を返す暇も与えずにカリフはアスファルトの地面に腕を突っ込んだ。

 

「ナイフ!」

 

手刀で腕の周りのアスファルトをケーキのように切り裂く。

 

「オラァ! こっち見やがれぇ!」

 

遥か遠くにでも聞こえるような声に案の定の反応を見せた闇の書の意志。

 

「!?」

 

だが、これまでとは違い、若干の驚愕を見せる。

 

その視線の先には五階建てビルと同じ高さ、太さの石柱がゆらゆらと傾いていた。

 

そして、その下にはその石柱に片手を突っ込み、足を九十度に開いて野球投手のように振りかぶっている。

 

「オォォォォォォォォラァァァァァッ!」

 

そして、その巨大な石柱を闇の書の意志に投げた。

 

「随分とデタラメなことをする。人間とは思えぬ底力だが……」

 

向かってくる石柱の迫力にも闇の書の意志は怖気もせずに片手を添えて今まで溜めていた魔力を放つ。

 

「咎人たちに滅びの光を……」

 

魔力は収束されていき、その光景はまさに流れ星が一カ所に集まっていくようだった。

 

そして、自身の身長と同じくらいの魔力弾を生成し、放った。

 

星の輝きは向かってくる石柱もろともなのはたちに攻撃する気なのか、極太の砲撃を撃ちだした。

 

このまま撃ち抜けば石柱とぶつかり合い、一時的なしのぎくらいにしかならない。

 

闇の書の意志はそう思っていたのだが……

 

突如、石柱が僅かにずれて真正面にぶつかるはずだった起動が石柱の側面に鋭角に当たった。

 

そして、予想を遥かに裏切られる形となった。

 

「なに?」

 

石柱を滑り、軌道をずらされた。

 

未だに放出し続ける砲撃に石柱は直接当たらずに擦っている形ではある物の、すぐに膨大な力に負けて石柱は瓦解した。

 

だが、砲撃はなのはたちの位置を大きく外されてしまった。

 

「これは一体……」

「今の、なのはの技だったな……それがお前の能力か?」

「!?」

 

一瞬驚き、声の聞こえた上空を見上げるとそこにはカリフがいた。

 

まさかの接近に闇の書の意志も感情を隠せない。

 

「どうやってここに……」

「気で薄くコーティングした石柱で途中まで乗ってたからな」

「なるほど、それで石柱を使って軌道を逸らした後にここへ……」

 

拳を構え、地面から幾つもの触手を出して周りを囲ませた。

 

「そう言うお前も蒐集した魔法は使えるようだな。反則じゃねえのっ!?」

 

同時にカリフは闇の書の意志にハイスピードで向かってくる。

 

闇の書の意志も出した触手と、自身の出すバインドでカリフの体を拘束しようとした。

 

「ナマっちょろいぞ!!」

 

しかし、カリフは腕の一振りで何重もの拘束を引きちぎった。

 

拘束を諦めた闇の書の意志は自分の前にプロテクションを張った。

 

「おっと」

 

案の定、カリフは止まってプロテクションの前で止まったが、直後にとんでもない行動に出た。

 

プロテクションに思いっきり顔を押し付けたのだった。

 

「何を……!?」

 

そこからさらに顔を押し付けるようにしながらじりじりと迫っていく。

 

(このまま押し切る気か!?)

 

まさかの力押しに流石に疑ってしまった。

 

だが、できるわけがないと思うと同時に段々プロテクションを維持するのが酷になってきた。

 

(バカな……大火力の質量兵器でも通さないプロテクションを手も何も使わずに……)

 

その不安を助長するようにプロテクションはカリフの顔を模って、まるでビニールのように伸びて行く。

 

「きゃっ!」

 

鬼の形相が目の前に近付いてくることへの恐怖で小さく悲鳴を上げる。

 

そして、遂に亀裂が入ったときだった。

 

闇の書の意志は咄嗟に傍らに浮かぶ闇の書を開いて魔法を使った。

 

「む?」

 

カリフは体の異変を感じて動きを止めて自分の体を見た。

 

そして、自分の身体が光りながら透けていることに気付いた。

 

「……お前も主たちと共に闇に眠れ」

「なんだよ、つれないねぇ。もっとやろうぜ」

 

気丈に振る舞う闇の意志は再び無感情な表情に戻す。

 

「もう間も無く、この身は自動防衛プログラムの管制へと移る。時間はないのだ」

「また機械的な口調か? さっきの悲鳴は中々面白かったのによ」

「あ、あれは忘れろ!!」

 

自分が吸収されているというのにヤレヤレと首をふる姿に闇の書の意志も恥ずかしさを隠せず、素に怒鳴った。

 

その表情を見たカリフは不敵に笑って言う。

 

「ま、こっちはあいつ等に任せて、オレははやてを叩き起こすとするか」

「……そのためにここへ来たのか? 私の中に入るために……」

「オレを眠らせるって言っただろ? やってみろよ」

 

訝しむ闇の書の意志にカリフは何の疑いも無く答える。

 

だが、闇の書の意志は首を横に振る。

 

「無駄だ。人は必ずしも過去を振り返る……違うか?」

「まぁ、そうだな」

「それならお前も安らかに眠れるだろう……だから眠るがいい」

 

遂に、カリフの身体が一層透けてきたときだった。

 

カリフは小さく笑いながら言った。

 

「オレは人の思い通りになるのが嫌いでな。だからあらかじめ言っておく」

 

ニンマリと嫌らしい笑みを浮かべた。

 

「またな」

 

そして、カリフの体は光り……

 

 

 

夜の街から姿を消した。

 

 

 

「……っ」

 

突然、目の前が光って目を閉じてしまった。

 

闇の書の意志に吸収されたはずなのだが、自覚症状は無い。

 

「ここが……奴の中……!?」

 

カリフは目を開けると、そこには信じ難い光景が広がっていた。

 

「カ、カプセルコーポレーション……だと?」

 

そこには我が家だった頃の懐かしきカプセルコーポレーションがあった。

 

「これが……夢だと?」

 

幼き頃に遊んだ庭、修業を繰り返した重力装置、見慣れた街並みが目の前に広がっていた。

 

「こういうことか……」

 

辺りを見回していると、背後から声が響いた。

 

「おう、こんなところにいたのか?」

「バカヅラ引っさげて何をしている。修業の時間を忘れたか」

「!?」

 

気取られずに背後から周って来た輩の方向へと向いた。

 

そして言葉を失った。

 

「久々におめえと戦ってみてえぞ。オラ、ワクワクすっぞ」

「オレたちの問題だ。貴様は後にしろ」

「ケチケチすんなよベジータぁ……」

 

目の前で譲らない感じでいがみ合う二人

 

だが、それも見慣れた光景であり、懐かしくも思う。

 

目の前で喧嘩し合う二人は宿敵であり、良き永遠のライバルである。

 

「悟空……ベジータ……!」

 

二人の恩師が今、目の前にいた。

 

そして、カリフの頭の中は真っ白となり……

 

両手を二人に向けて

 

 

 

莫大なエネルギーで

 

 

 

二人を、カプセルコーポレーションを

 

 

 

 

呑みこんだ


 
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