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IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第十五話

キキョウさん

恋夢交響曲・第十五話

2012-08-23 00:48:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:967   閲覧ユーザー数:939

「ここ・・・どこだ・・・?」

 

気づいたら俺は花畑のど真ん中にいた。最初は何が起こったのか分からず唖然としていたが、よくよく考えると俺は侵入してきたISと戦って意識を失ったことを思い出し、これが夢だと理解した。

 

「なんか、まるで天国みたいだな・・・」

 

夢の中で夢と理解することは珍しいが、周り一面ヒマワリの咲き誇る花畑という幻想的な風景を見ていると、ああ、やっぱり夢なんだなと思ってしまう。

なんとなく周りを見渡すと、俺は遠くに人影を見つけた。

 

「女・・・の子・・・?」

 

白いワンピースを着た女の子がヒマワリの花束を持っている。後姿だけしかわからないが、その女の子は、どこか懐かしい感じがした。

 

「まさか・・・」

 

彼女はこちらに気付いたのか振り返り、ほほ笑むと、その場から去っていく。

 

「ま、待ってくれ!」

 

呼びかけるが彼女は気にもせず進んでいく。俺はあの子を知っている。絶対に間違えるはずもない。

 

「未来(みく)――」

 

俺はその子の名前を叫ぶ。俺の呼びかけに反応した彼女はこちらに振りかえると

 

「――――――――――」

 

俺に向かって何かをつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・」

 

目を覚ますと保健室。なぜここにいるのか疑問に思ったが、侵入してきたISと戦って、あの後倒れたということを思い出した。

 

(またISを動かして倒れるなんて、格好悪いよなぁ、俺)

 

自分の体の弱さにあきれながら、前にも一回見たことがある天井を眺めていると、言い知れない焦燥感に襲われた。

 

(そういえば、俺夢をみてなかったか?)

 

眠っている間、なんらかの夢を見たことがうっすらと記憶に残っている。なんだろう、思い出したいのに思い出せない。とても大事な夢だったような気もする。

 

「・・・人間ってのは不便だよな」

 

どうでもいい夢は覚えているくせに、何か大切な夢はまったく覚えていない。思い出せないことにもどかしさを覚えながら、諦めて体を起こした。

 

「起きたか、天加瀬」

 

シャッとカーテンがあき、織斑先生が現れる。その顔は無表情に近いが、一応お見舞いに来てくれたようだ。

 

「先生、一夏や、凰さんは・・・?」

 

「二人とも無事だ。一夏のほうは全身に軽い打撲はあるがな」

 

一夏がアイツと戦っているときを思い出す。そういえば、衝撃砲をエネルギーとして瞬間加速していたような気がする。

 

「先生、あのISはどうなったんですか?」

 

「お前の攻撃により完全に機能を停止した。分析しようにも機能中枢が焼き切れて修復は困難だ」

 

「そうですか・・・」

 

しかし、織斑先生の言葉により、自分の中にあった疑問が結論へと変わる。

 

「『完全に機能を停止した』ってことはやっぱりあれは・・・」

 

「ああ、お前の想像通り、あれは無人機だ」

 

やっぱり、俺の予想は当たっていたようだ。そしてこの疑問が解決したことにより、新たな予測が立った。

 

「今の話からの予想ですが、あのISのコアは世界政府にも登録されていないコアだったんでしょう?」

 

その言葉に織斑先生はにやりと笑う。

 

「フン。伊達にISの開発者を目指しているわけではないようだな。そうだ、あれは未登録のISコアを使用している」

 

これでもう一つの予測も核心へと変わる。ISは人が操縦しないと動かないという定義を捻じ曲げ、なおかつ、登録されていないコアを搭載して作られた無人機のIS。これを作ったのは――

 

「制作者は篠ノ之束博士・・・」

 

「だろうな。送り込んできたのがアイツかは定かではないが、アレを作ったのは間違いなく奴だ」

 

しかし、送り込んだ理由がわからない。何のためにあれがこの学園にやってきたのか。ISのデータ収集? いや、これはあり得ない。篠ノ之博士くらいになれば、データを収集するよりも自分で考えたほうが早いだろう。テロリスト目的も考えられるが、彼女が得られる利益がわからない。

 

「まさかあれは――」

 

「ここまでにしよう。この出来事は学園関係者全員に緘口令がしかれている」

 

俺の言葉は織斑先生によってさえぎられる。少し不満だったが、ここは織斑先生の言うこと聞いておくことにした。目が覚めてすぐには出席簿で殴られたくはない。

 

「それに」

 

「それに?」

 

「やかましい連中が見舞いに来たようだからな」

 

その言葉とともに保健室のドアが勢い良く開く。

 

「奏羅さん! 目が覚めたのですか!?」

 

「奏羅、生きてるか?」

 

「ふん、お前よりは無事だろう」

 

「アンタは他人の心配よりも自分の心配をしなさいよ」

 

ぞろぞろと入ってくるクラスメイト三人と違う組の一人を見て、みんなの無事を安堵したことと、病人として扱われてないようなみんなの態度に呆れてしまったことで、俺は微妙な表情を作ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり自分の部屋が一番だな・・・」

 

保健室から寮に戻ると、自分の使い慣れたベッドに寝転ぶ。保健室とは違う、いつもの感覚に安らぎを感じる。すぐに睡魔に襲われ、うとうととしていると、突然部屋のドアがノックされた。

 

「あのー、天加瀬くん、いますかー?」

 

この聞き覚えのあるとぼけた声に起こされ、俺はドアを開ける。そこには我らが副担任、山田先生が立っていた。

 

「どうしました、先生?」

 

「あ、はい。お引っ越しです」

 

「引っ越し?」

 

主語がないのでよくわからない。俺が引っ越せばいいのか、山田先生が引っ越してくるのか。

 

「えっと、何かやらかして職員寮を追い出されたんですか?」

 

「ち、違います! 天加瀬くんがお引っ越しです! 部屋の調整がついたので、織斑君の部屋にお引っ越ししてもらうことになりました」

 

ああ、そういうことか。しかし、せっかくこの部屋に慣れたのにここを離れるのは少し寂しいな。しかし、山田先生も一生懸命調整をしてくれたようなので何も言うまい。

 

「えっと、私もお手伝いしますから、すぐにやっちゃいましょう」

 

「・・・変なところいじらないでくださいね」

 

「な、なにを言ってるんですか! いじりませんよ!」

 

目を離したらCD1枚くらい消えそうな気がするんだがなぁ・・・。山田先生が大のファンでもある俺の幼なじみ、塚乃旭のCDは売れ行きが大好調なようで、 一般の音楽ショップなどでは常に売切れらしい。しかし、幼なじみのよしみなのか、CDが出るたびに発売前に旭が送ってくるので俺は自動的に手に入れることができるのだ。そのことを知っている山田先生に、CDが手に入らなかっと泣きつかれたことがあるので、少し警戒しておかないと持ってかれそうである。

 

「ふわぁ、これ限定版のブロマイドじゃないですかぁ・・・。通常盤しか手に入らなかったんですよねぇ・・・」

 

「や、山田先生!? よだれたれてますよ!?」

 

何回かこんな調子の山田先生だったが、準備は一応きっちりとしてくれたので、予定より少し遅いくらいで引っ越しの準備が終わった。

 

「あとは自分で運びます。山田先生、ありがとうございました」

 

「いえいえ、転ばないように気を付けてくださいね」

 

そう言って去っていく山田先生。隣に移動するだけなのに転ぶことは万が一じゃないとないんじゃないだろうか。・・・山田先生なら転びそうだ。

俺は荷物を持つと隣の部屋の前へと移動し、ドアを開ける。

 

「おい一夏、荷物入れるの手伝って――」

 

「ら、来月の、学年別個人トーナメントだが・・・。わ、私が優勝したら――つ、付き合ってもらう!」

 

「・・・はい?」

 

「・・・へ?」

 

間の抜けた一夏と俺の声。軋むような動きをしながら顔をこちらへと向ける箒。その顔は絵の具で塗ったような赤。

 

時が止まった気がした。

 


 
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