No.472990

緋弾のアリア 白銀の夜叉

赤井修也さん

恋人を失い、誰も信じられなくなった主人公がアリアたちとのふれあいで本当の強さを得ていく

2012-08-20 20:00:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1073   閲覧ユーザー数:1058

              第七話  明かされる真実と過去

 

 一昨日の事件でイライラしていた俺は学園島の外に出て美味いものを食べて気分を紛らわそうとした。 だが乗車したモノレールの中でアリアを見かけた。 やたらにめかし込んでいて更には髪型も少し変わっていた。 恐らくあの傷を隠すためだろうな・・・

 服装も初めて見る私服だった。 雑誌とかの表紙に載るくらいの。 行き先が気になったので俺は後を尾けることにした。 食べ歩きなんざいつでもできるし、もう卒業できる単位はあるからこれから授業をサボり続けてもいいからな。 アリアがJRで新宿に出たときにはあいつがどこに行くのか大体だが分かっていた。 キンジが後を尾けているのは最初から分かっていたが放っておいた。 へたくそだな、まがりなりにも探偵科なんだからしっかり気配消せよ。 埒が明かないので俺からアリアたちに声をかけた。

 「よう、アリアにキンジ」

 「竜也、何しに来たのよ。 それと、キンジも出てきなさいよ。 下っ手な尾行。 尻尾が丸見えだったわよ」

 「あ・・・その・・・お前昔言っただろ。 『質問せず武偵なら自分で調べなさい』って」

 キンジがアリアの隣に来ると同時に俺もアリアに近づく。

 気づいているなら何故言わなかったのかと尋ねるキンジにアリアは教えるべきか迷っていた。もう着いてしまったしどうせ追い払っても付いて来るんでしょうから付いてきなさいと言った。

 留置人面会室で三人の管理官に見張られながらアクリルの板越しに出てきた女。 あれがアリアのお袋か。 俺から見たら姉みたいに見えるが・・・

 「まぁ・・・アリア。 男の子を二人も連れてくるなんて、どっちかは彼氏さん?」

 「ちっ、違うわよママ」

 「じゃあ、大切なお友達さんかしら? へぇー。 アリアもボーイフレンドを作るお年頃になったのねぇ。 お友達を作るのさえ下手だったアリアが、ねぇ。 ふふ。 うふふ・・・」

 「違うの。 馬鹿面の方は遠山キンジ。 銀髪の方は天草竜也。 武偵高の生徒で―――そういうのじゃないわ。 絶対に」

 そこまではっきり否定しなくても・・・いや、今回はするべきかもな。 はっきりしないせいで嫌な思いしたりさせたりしたような気がするが・・・

 「・・・キンジさん、竜也さん、初めまして。 神埼かなえと言います。 娘がお世話になっているみたいですね」

 「あ、いえ・・・」

 「むしろ俺たちの方が・・・世話になってます」

 かなえさんは・・・その場の空気を柔らかく包んでくれているみたいな人だな。 何だ? こういう人の傍にずっと昔に一緒にいたような・・・いたいと願ったような・・・そんな気がする・・・

 そんな俺たちをよそにアリアはアクリル板の方に身を乗り出した。

 「ママ、面会時間があまり無いから手短に話すけど、馬鹿面の方は『武偵殺し』の三人目の被害者なのよ。 先週、武偵高で自転車に爆弾を仕掛けられたの」

 「・・・まぁ・・・」

 表情をかなえさんは固くした。

 「さらにもう一件、一昨日はバスジャック事件が起きてる。 奴の活動は、急激に活発になってきてるのよ。 てことは、もうすぐ尻尾も出すハズだわ。 だからあたし、狙い通りまずは『武偵殺し』を捕まえる。 奴の件だけでも無実を証明すれば、ママの懲役864年が一気に742年まで減刑されるわ。 最高裁までの間に、他も絶対、全部なんとかするから。 そして、ママをスケープゴートにしたイ・ウーの連中を全部ここにぶち込んでやるわ。 待ってて」

 最高裁までイ・ウーの奴らを全員逮捕って、最高裁までの期間にもよるが、できるのか?

 「アリア。 気持ちは嬉しいけど、それより『パートナー』は見つかったの?」

 「・・・それは・・・」

 「大きな敵に挑む前にあなたを理解してくれる人を見つけなきゃ」

 「あたしなら一人でも大丈夫」

 「いいえアリア。 あなたの才能は遺伝性の物だけど・・・あなたには一族の良くない一面―――プライドが高くて子供っぽい、その性格も遺伝してしまっているのよ。 そのままではあなたは自分の能力を半分も発揮できないわ。 曾お爺様にも、お祖母様にも、優秀なパートナーがいらっしゃったでしょう?」

 「・・・分かってるわよ。 いつまでもパートナーを作れないから、欠陥品と言われて・・・でも時間が!」

 「人生はゆっくり歩みなさい。 早く走る子は転ぶものよ」

 かなえさんはそう言うと長い睫毛の目をまばたかせた。

 壁際に立っていた管理官が壁の時計を見ながら面会時間の終了を告げた。 いくらなんでも早すぎるだろ。

 「ママ、待ってて。 必ず公判までに真犯人を全部捕まえるから」

 「焦ってはダメよアリア。 一人で先走ってはいけない」

 「やだ! あたしは今すぐにでもママを助けたいの!」

 「アリア。 まずはパートナーを見つけて。 その額の傷は、もう一人では対応しきれない危険に踏み込んでいる証拠よ」

 興奮するアリアを宥めようとアクリル板に身を乗り出したかなえさんを管理官が二人がかりで羽交い絞めにして引っ張り出し、アリアが乱暴するなと言う中、俺の頭の中はある感情で一杯だった。

          このままでは、引き裂かれる。

 「てめえら! 手荒なことしてんじゃねえよ!! 引き裂かれて・・・引き裂かれてたまるかよ!!」

 俺もアリアのようにアクリル板に飛び掛った。 アリアは飛び掛っただけだったが俺はアクリル板を殴っていた。 管理官もかなえさんも俺の様子に驚いていたようだった。 アリアに止められて自分が面会できなくなったら困ると言われて殴るのを止めた。

 

          キンジSIDE

 

 新宿駅へ戻るアリアに、俺はずっと声を掛けれずにいた。 竜也も何故かずっと俯いていて声を掛けずらかった。 アルタ前まで戻ってきたアリアは肩を怒らせ、ぴんと伸ばした手を震えるほど握り締めていた。その足元に滴が落ちる。

 それは・・・聞くまでも無い。アリアの涙だ。

 「アリア・・・」

 「泣いてなんかない」

 町を歩く人々は道の真ん中に立ち止まる俺たちを痴話げんかか何かと思っているのかニヤニヤ笑って見ている。

 ついに糸が切れたかのように、泣き始めた。

 「うぁあああぁぁあああ!」

 更に

 「てめえら! ジロジロ見てんじゃねえ!! 見世物じゃねえんだ!! 失せろ!!」

 竜也が怒鳴り、そして

       ダンッ!

 ビルの壁に拳を叩きつけて俯いていた。 その頬を見ると雨と混じっていてよく分からないが、滴が通った痕があった。

 「竜也・・・」

 「泣いてねえよ。 男ってのはなぁ、人前じゃ絶対に涙なんざ見せねえものなんだよ」

 この様子から見ると、竜也も泣いていたのだろう。 だが、いくら他人への思いやりが強くても、アクリル板を殴るほど取り乱したり、泣いたりするのか?

 そんな時、ある一人の六十代半ばの男性が俺たちの前にやってきた。

 その男性は、竜也の実家の天草家の執事、天野康太と名乗った。 竜也が何故あれほど取り乱して悲しむのかを年寄りの独り言としてでもいいから聞いてほしいと言って来た。 

 俺もアリアも一人にしてほしかったが、熱心に頭を下げたので、アリアも話だけは聞くと言った。

 京王プラザホテルのレストランに入り、食事をしながら話を聞くことにした。

 「こんな事は、竜也君の許可を得ずに話していいのか・・・しかし、是非とも独り言として聞いて下され」

 俺とアリアがうなずくと、康太さんは話し始めた。

 「竜也君は、我が天草家の家宝を受け継いだことで、宗家や他の分家の人間やその他の人々に疎まれながら育ったのです。 宗家の息子様には命を狙われた事もあったのです。 本来ならそのような事態からは親が救いの手を差し伸べるのですが、お父様は竜也君が生まれてすぐに、お母様も小学校に上がるころに、母方のお婆様も我が家のお爺様もお亡くなりになってしまったのです。 そして、生まれ育った山口を去り大阪武偵高校付属中学に進学されてからは強い力を恐れられて荒れてしまいました。 そのまま大阪武偵高校に進学されてからは恋をして、元の優しさを取り戻していきました。 しかし、去年のクリスマスイブにその恋人までも失ってしまったのです。 その時、竜也君は恋人を殺した犯人扱いをされたのです。 疑いは晴れましたがこのため竜也くんは誰も信じられなくなってしまったのです。 捜査の結果、竜也君とその恋人との仲を妬んだ何者かが引き裂こうとして恋人と竜也君を襲ったという考えが出ました。 竜也君は神崎殿、あなたとあなたのお母様の様子を見て自分とダブらせたのでしょう。 あの人は口は悪いですが、優しい人ですから・・・」

 俺とアリアは何も言えなくなってしまった。 たくさんの人間から疎まれて、挙句の果てには殺されそうにもなって、守ってくれる人は一人もいなくなっていたなんて。 そんな中見つけた恋人も何者かの嫉妬で失ってしまい恋人を殺した犯人扱いを受けるなんて。

 俺だったらこんな辛い状況に置かれたら武偵だけじゃなく、生きていることにさえ絶望してしまうのに・・・あいつは強いな。

 そんな時ふとアリアが話しかけた。

 「じゃあ、あたしに奴隷って言葉を取り消せばすぐに組むと言ったのも・・・」

 「はい。 竜也君はあなたがイ・ウーを追っていることを偶然知って、恋人の敵がそこにいるかも知れない。手がかりがあるかも知れないと思ったのでしょう。 そして、あなたのお母様の事も助けようとなさっているのでしょう」

 竜也もアリアと同じように悲愴な覚悟を決めている。 こんな場所に俺は場違いだと思い、別れた。

 


 
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