料理教室の数日後…
エルザはラミナ・セントラル駅の地下にあるショッピングセンターでフュアと共に買い物をしていた。
「ふむ…それでエルザ、式はいつ挙げるつもりだ?」
「ああ、予定通り3ヶ月後には挙げようと思うのだが…」
「なるほど」
「それで…というわけでもないんだが、姉さんに折り入って相談があるんだ」
「ほう?」
するとエルザは深く頭を下げてこう言った。
「頼む。私に料理を教えてくれないか?」
「いや、料理なら一通り作れるだろ?今更頭を下げることも…」
「それだけじゃダメなんだ!レパートリーは多いほうがいいに決まっている…この通りだ!」
さらに両手を合わせて頼み込むエルザの姿を見て、フュアは少し微笑むと、
「…そうか、じゃあ私の家に来てくれ。全部と言うわけではないが、私の得意料理を教えてやるさ」
ラミナ市内、『フランバージュ・メカニサポート』…
ここはロボットの整備や修理を請け負う小さな工場のようなものである。
ロボットたちから見れば、小さな町の診療所と言ったところだろう。
フュアは普段、この2階にある部屋で生活をしている…。
「ヒロキ、今帰ったぞ」
「おう!」
フュアとエルザを出迎えたテラナーの男性は、現在この店の店主を勤めるヒロキ・フランバージュ。
その腕には幼い女の子が抱きかかえられていた。
やっと3歳になったばかりのリヒト・フランバージュだった。
見た目にはジャーマンシェパード形のファンガーに見えるが、
ヒロキの精子とフュアの人工卵子を利用して生み出された有機ロボットだ。
リヒトは父親に抱きかかえられて静かに寝息を立てている…。
「ところでフュア、今日は妹も一緒なのか?」
「ああ、エルザがそろそろ結婚するに当たって料理を学びたいと言うのでな」
「そういうことなんだ。すまないが、台所を貸してくれないか?」
「もちろんOKだぜ」
さっそく、フュアはエルザを連れて店の奥へと入っていく。
「さて、今回は私がヒロキに振舞っている料理の中から…これがいいな」
そう言って、ジャガイモにベーコン、卵を取り出していく。
彼女がエルザに教えようとしている料理は
言うなればドイツ風のオムレツである。
「なるほど、これなら私でも作れそうだな」
「まずはジャガイモだ。ゆでてから輪切りにするのだが…今回は電子レンジがあるのでバッグに入れて熱を通そう。熱が通ったらこれを輪切りにするんだ」
「ふむ…」
まさに料理教室の講師顔負けの的確な説明で、フュアは料理を作っていく。
「エルザ、今のうちにタマネギとベーコンを用意しておこう。タマネギは薄切り。ベーコンは角切りだが…これはざっくりでもいいぞ」
「ああ、わかった。…それにしても」
「なんだ?」
「私たちはロボットに生まれて本当によかったと思う」
「…ほう?何故今そう思ったんだ?」
「…タマネギを切っても目に染みることがないからなw」
「それは言えたw」
そんな話をしながら、次々に料理は進んでいく。
フライパンにオリーブ油がひかれ、先ほど準備した野菜が炒めあがっていく。
「さて、次はベーコンを加え、塩コショウで味を調える。炒めあがったらいよいよここに卵を流すんだが…」
「…?」
「その前にウインナーを入れる。まぁ、ウインナーは私が独自に入れているだけだ。別に入れなくてもいいし、他の具材でも問題はない」
「ふむ…」
「まあ、好みの具材を入れていけばいいという事だな。そうしたら卵を入れて、蓋を閉じて蒸し焼きにする」
やがて2、3分が経ち、フライパンの蓋が開けられると、そこには黄金色に輝く料理が出来上がっていた。
「あとはこれを皿に盛り付け、パセリをふって完成だ」
「…ありがとう、いい勉強になった」
そう言ってエルザは、手に持っていたメモ帳を閉じる。
「さて、ちょうど昼食の時間だしな…せっかく来たんだ。たまにはここで食事でもどうだ?」
「そうだな…では、失礼させていただこう」
「では…ヒロキ、リヒト、昼食にしよう」
「そうだな。リヒト、お昼ご飯だよ」
…いつもの昼食にが、少しだけにぎやかになったある日のことだった。
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こういうときは経験者に聞くのが何よりの近道、なんて。
◆出演
エルザ(http://www.tinami.com/view/375135 )
フュア(http://www.tinami.com/view/453370 )
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