No.472195

いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した

たかBさん

第五十一話 『悲しみの乙女』と『祝福の風』

2012-08-19 00:22:24 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8878   閲覧ユーザー数:7955

 第五十一話 『悲しみの乙女』と『祝福の風』

 

 

 『闇の書暴走体活動再開!』

 

 海鳴の海上には多種多様の魔導師たちが一点を見つめていた。

 誰もがその一点を屠る為に集中力を高めていると、目の前で注視していた黒い球体。『闇の書』。いや、『悲しみの乙女』の呪いから怪物が生まれる。

 そして、それが生まれた瞬間にエイミィの声が響き、補助組の四人が動く。

 

 「やるよ、あなた達!」

 

 アリアの声に答えて、ユーノ。アルフ。シャマルが

 

 「分かっている!」

 

 「しくじるんじゃないよ!」

 

 「クラールヴィント!本領発揮よ、導いて!」

 

 色とりどりの拘束の光が闇の書の暴走体である黒い球体に向かって行くと同時に、その黒い球体の中から様々な動物の一部をくっつけた怪獣。ここの世界で言うのであれば、合成獣(キメラ)というだろうが俺は別の事を考えていた。

 

 あれって、次元獣じゃね?!しかも、俺が知っているゲームだとブラスタを一撃で仕留めたモービディックに似ている。

 

 あの動物のサイの体に似ている怪物を見てそう思ったのは俺だけじゃない。

 なのはとクロノの隣にいるクロウもそう思ったのか少しだけ戸惑いを見せた。が、すぐに気合を入れ直す。

 

 『闇の書の暴走体起動!』

 

 暴走体があの黒い球体から出てくるなり暴れようとしたが、それを阻む補助組の拘束に捕らわれる。

 

 「それじゃ、作戦通りいくぞ!デュランダル!」

 

 [オーケー、ボス]

 

 「エターナルコフィン!」

 

 クロノが銀の槍の形をしたデバイスを暴走体に向けて氷結の魔方を放つと辺り一帯の温度が下がり、クロノの周り発生した氷の大蛇が暴走体に向かって伸びていく。

それと同時にクロノのすぐ下にもあった海も凍りつく。

 

 「よしっ。あの厚さなら問題ない。アリシア、行くぞ」

 

 (合点♪)

 

 魔導師組のいる海上から少し離れた陸地にいた俺はクロノの作り出した人工的な流氷の大地を見てガンレオンを疾駆させる。

 まずはクロノが暴走体の足止め兼ガンレオンの足場作り。

 闇の書対策として作られたデュランダルの氷結魔法が効くかどうかの確認と魔力障壁の破壊。そして、ガンレオンの足場作りと一度で三度もおいしい役だ。

 一気に前肢を氷づけにされた暴走体だったが、その氷をまるで脱ぎ捨てるかのように氷の中で暴れて自分の動きを封じ込めていた氷を叩き割る。

 

 バリィイイイインッ!

 

 「…く。だが、作戦にかわりはない!」

 

 クロノはそれを見て悔しそうに舌打ちをするが次の攻撃の射線上から退避する。

 次に放たれる攻撃は我等が主砲。高町なのは。

 

 「しくじんなよ!高町なのは!」

 

 「ヴィータちゃんもね!高町なのは。レイジングハート。いきます!」

 

 「八神はやての騎士ヴィータ。その鉄槌グラーフアイゼン!」

 

 [[カートリッジロード!]]

 

 二人のデバイスは同時に幾つもの薬莢を吐き出す。

 レイジングハートは、杖というよりももう槍とも言っても相違ない鋭利な物へと変化する。

 

 「エクセリオンスマッシャァアアアアアアア!!」

 

 ズドォオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 槍の先から放たれた四つのレーザーは緩やかに螺旋を描くかのように暴走体に放たれた。

 

 マク○スキャノン!?

 

 と、ひそかに戦慄したのは内緒だ。

 だが、それ以上に驚いたのはヴィータの持つハンマーだ。

 

 「轟・天・爆・砕!ギガントシュラァアアアアアアアアアク!!」

 

 彼女の持つハンマーの対の部分が()巨大化して彼女の体の何十倍もの大きさになる。

 振り上げたその巨大なハンマーをそのまま暴走体に向けて振り降ろした。

 

 ゴルディ○ンハンマー?!

 いや、あれは対比的にはクラッシャーか!

 

 まさかこの世界。この眼で拝めるとは夢にも思わなかった。

 

 

 ズドオオオオオオンッ!!

 

 と、巨大な車が正面衝突したかのような轟音を鳴り響かせながら暴走体は海へと沈みかける。が、暴走体も黙ってはやられてはくれない。

 

 じゅるるるる。

 

 ユーノ達の抑えが及ばない所から植物のつたのような物を出現させると俺達全員に向けて放たれる。が、それを拒む存在がいた。

 

 「盾の守護獣ザフィーラ!その攻撃っ、通らせはしない!」

 

 ザフィーラの足元と暴走体の下に青白い魔方陣が展開されると、暴走体の体の下から幾つもの魔力の刃が発生して暴走体の体と伸ばしてきた触手を縫いとめるかのように貫く。

 

 …盾?

 

 「私達も続くで!リインフォース!」

 

 (はいっ!我が主!)

 

 「(バルムンク!!)」

 

 はやての騎士甲冑の背中から黒い羽。更にその下から意志を持ったかのように、白い光を放つ魔力の剣が暴走体に突き刺さる。

 …上と下からの串刺し。ちょっとしたアイアンメイデン状態である。

 

 「フェイト・テスタロッサ。バルディッシュ・アサルト。いきます!全力全開!」

 

 [ジェットザンバー!]

 

 バルディッシュは鎌から大剣モードから発生している魔力の刃が巨大化する。

 …斬○刀。

 いや、斬るのは怪物なんだけど…。

 その巨大な刃からが振り降ろされたのは一瞬。

 

 「雷光一閃!!」

 

 ザンッ。

 

 暴走体に触れた瞬間にその刃が消えうせた。かと、思っていたら…。

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッっ!!

 

 ザフィーラとはやてが突き刺した魔力の刃を通じて、あの巨大な雷の大剣の威力は暴走体の体を内側から焼き払う。

 その威力は絶大で暴走体の表面部分に焦げ跡を作り、触手を灰にした。

 

 (順調だ。この調子なら…)

 

 と、誰もがそう思っていた。

 

 雷の光が収まると同時に次は三つの光輪が惑星直列のようにクロウと暴走体とつなぐかのようにのラインを描く。

 

 「やるぜブラスタ!VXブレ…」

 

 クロウがブラスタに命じてブラスタの胸部からレーザーを放とうとした瞬間である。

 

 『『きゃあああああああああ!』』

 

 突如、俺達を見守っていたエイミィやリンディさんを映していたモニターにノイズが奔る。

 

 「なんだ?!どうしたエイミィ!?」

 

 『…ちょ、ちょっと待って!宇宙空間からこのアースラに攻撃?!』

 

 新たに浮かび上がったモニターには宇宙空間に浮かんだアースラ。

 その次元をまたぐ船の船底部分がまるで機雷を受けたかのように大破していた。

 そして、その画面の奥には砕け散ったと思われた黒い鎧。

 

 『知りたがりの山羊』を有した青年。

 アサキム・ドーウィンがいた。

 

 「なんで!?あいつがあんなところに!」

 

 『…そんな。…嘘』

 

 その姿。というよりも別の何かに気が付いたリンディさんの顔色が一気に悪くなった。

 ヴィータの叫びに誰もが動きを止めた。が、いち早く冷静さを取り戻したシグナムがこの場にいる全員に呼びかけるかのように叫ぶ。

 

 「奴の事は後にしろ!合わせろクロウ!」

 

 シグナムはレヴァンティンを一度収めるとその形状を剣から弓へと変化させる。

 そして、魔力で出来た矢を出現させてその弦に添えた一撃を放つ。

 今は無限の再生を行う暴走体を屠る為の連携攻撃の最中だ。少しでもタイミングが遅れると

 

 [シュツルムファルケン!]

 

 [く、SPIGO…]

 

 シグナムの攻撃に遅れてクロウも再び攻撃を開始しようとしたが…。

 シグナムの攻撃が通った。その瞬間。

 あまりの出来事(・・・・・・・)にリンディさんがぽつりと零した言葉に誰もが凍りついた。

 

 

 

 

 

 『…アルカンシェルが。…破壊された』

 

 

 

 

 

 アルカンシェルは俺達の最後の一手である。

 アルカンシェルをアサキムに砕かれたことを知らされる。

 

 「…そんな。…違う。俺の知っている原作(もの)と違う。…嘘だ!嘘だぁああああああああああああああ!!」

 

 クロウはまるで心の支柱(・・・・)が折れたかのように発狂したかのように頭を押さえながら叫んだ。

 クロウの魔力の光輪。SPIGOTが宙に霧散する。

 クロノとアリアの管理局員もリンディの言葉を聞いて愕然とする。二人だけではない。

 ユーノにアルフ。守護騎士の皆もが絶望していた。

 アルカンシェルの絶大な威力を知っているからこそ、誰もがその手段を失ったことに絶望していた。

 

『…太極の呪いがあるとはいえ、ここが限界。か。』

 

 シュロウガを纏ったアサキムはアースラの様子。アルカンシェルが放てなくなったことを把握したのかその場から転移していった。

 

 砕け散ったアルカンシェルの武装の欠片が宇宙に飛び散っている映像を見て、目の前が真っ暗になるのを誰もが感じた。

 

 彼女達(・・・)を除いて。

 

 「だったら!アルカンシェルに頼らないで破壊するだけだよ!」

 

 「そうだ。私達はまだ諦めない!」

 

 「だから、全力や。私達の持つ全部の力を使う!」

 

 なのはが。フェイトが。はやてが。

 そして、彼女達の持つデバイス達がそのその思いに応えようとして一層輝く。

 その輝きは俺の持つスフィアなんかよりも心強いものだった。

 

 …持っている力。

 俺には…。『傷だらけの獅子』が…。だけど…。アルカンシェル並の攻撃を出せるはずが…。

 

 「スター、ライト…」

 「プラズマ…」

 「ラグナロク…」

 

 「「「ブレイカァアアアアアアアアアアア!!」」」

 

 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!!!!

 

 三人の少女から放たれた砲撃で俺達のいる空間は真っ白の光で被われる。

 そして、その砲撃から発生した熱と水しぶきが収まるとそこには、直径一メートルほどの再生中(・・・)の肉の塊に包まれた暴走体のコアがあった。

 再生中。

 それが意味しているのはコアの破壊失敗。

 少女達の思いとは裏腹に先程の砲撃でも攻撃力が足りなかった。

 

 「そ、んな…」

 

 「ここまできて…」

 

 「…こんなのって。…あんまりや」

 

 「我が主!くぅ!」

 

 なのはとフェイトの顔にも絶望の色が見え始める。はやてに至っては攻撃した瞬間にリインフォースとのユニゾンが解けてリインフォースに抱きとめられる。

 本来ならここでコアを宇宙空間に転移。アルカンシェルで完全破壊。

 それをアサキムに邪魔された。これも『悲しみの乙女』のスフィアの…。

 

 「これが…。これが『悲しみの乙女』の因果だというのか!…私は、私は」

 

 リインフォースは補助組の四人がいつの間にか解いてしまったバインドの代わりに自分の魔力を使い、暴走体のコアにバインドをかける。

 が、そのバインドも徐々に染み込むかのように浸食。吸収しながら再生していく。

 まるで、それが『悲しみの乙女』のスフィアをもつ者の運命だと言わんばかりに…。

 

 …スフィア?

 

 あの暴走体はもともと『悲しみの乙女』に引っ付いていた。いわば、その力目当てでとも言ってもいいだろう。

 だったら?

 だったら同じスフィアでも…?

 というより、スフィアの方があのコアよりも強いという事になるんじゃ…?

 

 「…アリシア」

 

 (…なに?お兄ちゃん?)

 

 俺はガンレオンの最後の武装を解き放つことを選択する。

 アサキムの時みたいに失敗するかもしれない。

 だけど、目の前の少女達が奮闘する姿を見て何もしないままで終わったら、俺は俺の家族に顔を見せることが出来なくなる。

 

 「…俺に。お前の命を。俺にくれるか?」

 

 失敗すればあの醜い肉塊と化した暴走体の一部になるだろう。それは俺だけじゃないアリシアも巻き込むことになる。

 今からやろうとしているのは『傷だらけの獅子』の『本能』を解き放つことだ。

 

 マグナモード。

 

 これを使い、徹底的に目標を破壊する。

 おそらく、これを使えば成長した『傷だらけの獅子』のスフィアを持つ俺の回復した魔力も空になる。スタミナもなくなるから確実に。

 失敗=死。

 そして、成功したとしてもアリシアを『傷だらけの獅子』に深く関わらせることになる。

 それがどんなことになるか。それすらも理解出来ないのに…。

 

 (当然だよ。どこまでもついていくよ。お兄ちゃん。私達は二人で一つの『傷だらけの獅子』だもん)

 

 それの重大性が雰囲気で分かっているはずなのにアリシアは俺のすることに躊躇いすら見せなかった。

 

 もう、俺は迷わない。

 この世界で、新しい家族と共に生きるために…。

 

 「だから…。ガンレオン!俺達の未来を照らせ!!」

 

 

 もう。…限界だ。

 私に残された魔力はもうすぐ底をつく。

 こうなれば、残る魔力と『悲しみの乙女』を併用して、再びあの暴走体を取り込み私自身が自爆をすれば…。

 障壁も物理と魔法の一枚ずつ回復しているのが厄介だが…。このスフィアの力を使えば。

 少なくてもそれで我が主と騎士達は救われる。

 

 「…将。我が主を頼む」

 

 私は暴走体をバインドで再生スピードを抑えながらも主はやてを烈火の将シグナムのいる方へと優しく運ぶ。

 そして、最後まで隠しておくように主はやてに言われた『悲しみの乙女』の力。ガナリーカーバーを解き放つ。

 

 「…それは?」

 

 将は主はやてを抱きとめながらも私の持つ棺桶にも似た砲身に目をやる。

 

 「これが元々の原因。私の罪だ。将。それに騎士達よ。主はやてにかわりに謝っておいてくれ。『約束を破ってしまって申し訳ない』と」

 

 私はガナリーカーバーを構えながら盾の守護獣と湖の騎士に目を向ける。

 

 「…私の分まで。この優しき主を守ってくれ」

 

 「…お前。まさか」

 

 守護獣の方はこれから私がすることを感づいたのか、表情を曇らせる。だが、止められる前に出会えた騎士達に指示を出す。

 

 「私の中に再度あの暴走体を取り込む!そうしたら湖の騎士!ここではない無人世界に転移させてくれ!」

 

 「ちょ、リインフォース!?それじゃあ…」

 

 「大丈夫だ!転移後、私は『悲しみの乙女』の力を使い、このコアと共に自爆する!」

 

 『悲しみの乙女』。は主はやてではなく、私を宿主にしている。

 プログラムである私に何故扱えるか。何故私を宿主にしたかは分からない。だが、主の『悲しみ』は闇の書を通じて私も悲しんでいた。

 気が遠くなる時を過ごしてきた。

 恐らくこの世界で『悲しみ』続けた存在だったからこのスフィアの宿主になったかもしれないな。

 だが、そのお蔭で主はやてや騎士達に被害を出さないように私は逝ける。

 

 「な!?ふざけんなよ!?そんなのはやてが許すわけないだろ!」

 

 鉄槌の騎士が大声を上げて私を止めにかかる。

 

 「わかっているさ。だからこそ、守りたいんだ。…さあ、『悲しみの乙女』のスフィア!私を喰ら…」

 

私は主はやての横顔を見ながら『悲しみの乙女』に命じようとした時。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 今まで静観していた『傷だらけの獅子』が暴走体のコアに向かって飛び出していった。

 

 「な!?タカ!何をするつもりだ!」

 

 クロノが急に飛び出した高志に向かって叫ぶとさも当然といわんばかりに『傷だらけの獅子』は叫ぶ!

 

 「決まっている!あのコアを叩き壊す!」

 

 『無茶よ!いくらガンレオンの防御装甲が優秀でも取り込まれるわ!』

 

 空に浮かんだモニターから紫色の髪をした女性も止めに入ろうとするが彼は止まらない。

 

 「だったら取り込まれる前に壊しつくすまで!」

 

 ズガァアアアアンッ!

 

 彼は今まで背負っていた巨大な工具で再生途中のコアを殴り飛ばす。

 コアが再生させながら復元していた物理障壁と魔力障壁に亀裂が生まれるが、彼の武器にも僅かにながらそのコアの生体部分がへばりついている。

 スフィアの力で反発している。呪いの肉片がへばりついたところから浸食は広がろうとはしていない。が、剥がすことも出来ずにいるようだ。

 

 「俺達が持っている力。全部を引き出す!アリシア!」

 

 (全力全開!フルパワァアアアアアアア!!)

 

 殴り飛ばしたコアに追いつき、追い抜いた後反対側に回ると迎え撃つかのように再度その巨大な獲物で殴り上げる。

 

 ズガァアアアアンッ!

 

 更に加えた一撃でコアを守る障壁は再び全て打ち砕かれた。

 その時にも暴走体の生体の呪いはへばりつく。

 それでも彼は攻撃を止めない。

 

 『高志君!無茶だよ!』

 

 『高志君やめなさい!それ以上はガンレオンでも持たない!』

 

 「…家族を守る為だったらなんだってやってやる!それが俺!それが現『傷だらけの獅子』(・・・・・・・)だ!」

 

 (私も忘れないで!フェイトやお母さんを守る為だったら私だって出来るんだから!)

 

 更に移動する速度を上げて打ち上げたコアに追いつくと今度はコアを抑え込み氷の地面になった海面に叩き付ける。

 その間にもモニター越しに先程の紫の髪の女性とは別の女性二人が彼を止めようと声をかけるが獅子は止まらない。

 呪いが効いていないのか?…いや、違う。彼はそのスフィアの力を放出し続けることでそれを無理矢理押し返している。

 だが、それは絶しがたい激痛を伴うことだ。

 

 「オオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 ガシュッ!

 ザンッ!

 グチャァッ!

 ゾンッ!

 

 氷の地面に叩き付けた後、再生していく生体部分をその手で引き裂き、削り、潰し、抉り出す。

 その成果もあってか、コア本体が露出する。

 だが、それと同時にガンレオンの翼。肩。足。胸。胴の部分が暴走体の醜い肉塊に包まれていた。

 

 「タカシ!無茶だよ!」

 

 「もう止めろ!それ以上やったらあんたが…」

 

 アルフとユーノが叫ぶ!だが、駆け寄ることは出来ない。既に暴走体を守る障壁を消失したとはいえ、彼の周りを取り込もうとその生体部分が覆い隠そうとしていたからだ、

 このままではやられる。

 この場を見ている皆がそう思った。それでも獅子は止まらない。

 

 「『傷だらけの獅子』の力、今度こそ遣いこなして見せる!」

 

 その叫びに応えるかのように彼の右腕が持っていた獲物が、その暴走体の肉片に包まれながらもまるで大きく膨れ上がるかのように変形する。

 物を掴んだり、摘まむ為に設計されていただろうその矛先は敵を鷲掴みする為の大きな爪になり、肉の海と変化した地面から暴走体のコアを剥ぎ取る。

 

 「ザ・ヒィイイイイイトォッ!クラッシャアアアアアアアア!!」

 

 そして、その爪の中に隠し持っていたと思われる鋼の杭がコアに撃ちこまれる。

 

 ズドォオオンッ。

 

 重く鈍い音が響いた。が、コアは肉片を生み出し続け、何ら変化がないように思えた。

 しかし、獅子のその攻撃は一度だけじゃない。

 何度も何度も同じ場所にその鋼の杭が撃ちこまれる。

 

 ズドンッ。

 ズドンッ!

 ズドンッ!!

 ズドンッ!!!

 

 一撃が加わる毎にそこから響く音が大きくなる。

 一撃が加わる毎に今まで広がりを見せていた。

 一撃が加わる毎にその体にへばりついていた醜い肉片がはじけ飛んで行く。

 一撃が加わる毎にコアは肉片を再生させなくなっていった。

 

 ズドンッ!!!!

 ズドンッ!!!!!

 

 一撃が加わる毎に完全に肉片を再生させなくなった。

 一撃が加わる毎に暴走体のコアに亀裂が入る。

 

 獅子が鋼の杭を打ち込むごとに皆の目には希望の光が灯る。

 と、同時に私と獅子の目があった気がした。

 …私は今、何をしている?

 彼に主を助けてもらっただけでは飽き足らずただ見ているだけしか出来ないのか?

 違う、私も…。私にだって力はある!

 

 「…私にだって。私にだって力は残されている!」

 

 『悲しみの乙女』。

 その因果からは逃れられないかもしれない。だけど、それを振り払うことが出来る力を持っている。

 

 [ガナリーカーバー。グローリーモード!]

 

 「『傷だらけの獅子』に助けてもらわれっぱなしでは駄目だ。…私は、私はこの因果を断ち切って見せる!」

 

 私はガナリーカーバーを掲げながら『傷だらけの獅子』を援護するために彼の元へと向かう。

 

 カァアアアアアアアアアアアアッ。

 

 ガナリーカーバーに搭載された『悲しみの乙女』のスフィアが獅子に呼応するかのように強く輝いた。

 その輝きは、箱形のガナリーカーバーをより射撃に特化させた円筒型。且つ、まるでサメを思わせるフォルムへと変化させていた。

 

 

 ズドオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!!!!!!

 

 通った!確実に!!

 マグナモードの力を使いこなせるようになったお蔭で、その力に耐え切れず壊れたことがあるライアット・ジャレンチから把握できる!暴走体のコアの損傷は甚大なはずだ!

 

 「ガァアアアアアアアアアア!!」

 

 俺は体中に走る激痛に耐えながら暴走体のコアを持ち上げる。

 

 ビキキキッ、キッ。

 

 全体に亀裂が入ったコアが最後のあがきと耐えている。

 が、それも一瞬。

 

 

 

 ガギャアアアアアアアアンッ!!

 

 

 

 と、俺が操るライアット・ジャレンチの中で暴走体のコアがステンドグラスのように儚く砕け散る。

 

 (やっ、やった。やったあああああああああああああああ!!)

 

 それを見たアリシアは歓声を上げる。俺も歓声を上げようとしたその時…。

 

 ギュバァアアアアア!

 

 そのコアの欠片が一瞬でタコの広げた足のように薄い肉の風呂敷のように変化してガンレオンに覆いかぶさろうとする。

 それを見て、慌てて逃げ出そうとしたが…。

 

 …動け、ない?!

 

 成長した『傷だらけの獅子』のスフィアでも未だに俺のレベルが足りないのか。それとも、ガンレオンに無茶をさせ過ぎたのか。

 マグナモードを使用した『ザ・ヒート・クラッシュッ』の反動か、俺は一歩どころか指一つ動かせないでいた。

 暴走体のコアはその体を捨てて、今度はガンレオンをコアにするつもりか!?

 完全にその肉片に視界を覆われる寸前に黒と銀の色を持つ祝福の風が俺の目の前に降りたった。

 

 「撃ちぬく!この悲しみも!運命も!」

 

 リインフォースがガンレオンを覆い隠そうとしたコアの浸食を防ぐ障壁を張りながら、いつの間にか変化したガナリーカーバーを、コアに向ける。

 ガナリーカーバーを中心に怪しく光る紫の粒子が舞い散り、その砲口にはなのはのスターライトブレイカーにも似た光の塊が浮かび上がっていた。

 

 「ザ・グローリー・スター!フルッ、バァアアアアアスト!!」

 

 ズッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ガナリーカーバーから放たれた赤紫色に輝くレーザービームに、暴走体のコアが変化した醜悪な肉片は焼かれながら空高く打ち上げられていく。

 徐々に焼き千切れていくコアはリインフォースが放った光に完全に呑みこまれ、その光は風になって完全に消え去っていった。

 

 「…これが『悲しみの乙女』。いや、最後の夜天の主。八神はやての騎士が一人。『祝福の風』リインフォースの最後の魔法だ。…短い付き合いだが覚えていてくれ。『傷だらけの獅子』」

 

 雲一つ残らず吹き飛ばした巨大な魔力砲撃を放ったリインフォースは儚く、それでいながら幸せそうに笑った。

 


 
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