No.469402

ソードアート・オンライン―大太刀の十字騎士―

ユウさん

まだ続き

2012-08-13 05:28:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1827   閲覧ユーザー数:1730

「……ん、ヒナさん、朝ですよ!」

 

 私を呼んでいる声が聞こえて目を覚ます。

 

 目を覚ますと、目の前にはシリカちゃんがいた。

 

 ああ、昨日シリカちゃんが私の部屋で寝ちゃったんだっけ。

 

「あ~、おはよー。シリカちゃん」

「あ、おはようございますって、違います!あの、あたし、ごめんなさい!ヒナさんの部屋で寝ちゃって」

 

 シリカちゃんが私に頭を下げる。

 そんなの別にいいのにね。

 

「いいよ、別に。私も一人じゃ寂しかったしね~」

 

起きたばっかでかなり間延びした声で、笑って言う。

 

「そ、そうですか。よかったぁ」

「?」

 

 最後の方は小さくて聞こえなかった。

 

「とりあえず、おはよう、シリカちゃん」

「おはようございます。ヒナさん」

 

 私たちは顔を見合わせて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから私たちは一階に降りて、《思い出の丘》挑戦に向けてしっかりと朝食を摂ってから表に出てきた。

 

 街はすでに明るい陽光が包んでおり、これから冒険に出かける昼型プレイヤーと、深夜狩りから戻ってきた夜型プレイヤーが対照的な表情で行き交っていた。

 

 そういえば、こんな時間に出かけるのって、久しぶりだな。

 いつもは夜出かけて、朝帰ってきて少し寝たら、昼も出かける、の繰り返しだもんな。 

 

 宿屋の隣にある道具屋でポーション類の補充を済ませてから、私たちはゲート広場に向かった。

 

 そこで、青く光る転送空間に飛び込もうとした、シリカちゃんが足を止めた。

 

「あ……。あたし、四十七層の街の名前、知らないや……」

 

 それもそうだよね。シリカちゃんは四十七層なんて行ったことないんだからね。

 

 私はマップを呼び出そうとした、シリカちゃんを止める。

 

「いいよ、私が指定するから」

 

 私は起きたばっかの時より、はっきりした声で叫ぶ。

 

「転送!フローリア!」

 

 私の声と同時に眩い光が広がり、私たちを覆い包んだ。

 

 一瞬の転送感覚にから、エフェクト光が薄れていくと、視界に様々な色彩の乱舞が飛び込んできた。

 

「うわあ……!」

 

 隣でシリカちゃんが歓声を上げる。

 

 それもそのはず、四十七層の主街区ゲート広場は、無数の花々で溢れかえっていて、花が嫌いな人以外なら、シリカちゃんのように歓声を上げるだろう。

 

「すごい……」

「この層はね、通称《フラワーガーデン》て呼ばれていてね、街だけじゃなくてフロア全体が花だらけなんだ。時間があったら、北の端にある《巨大花の森》にも行けるんだけどなぁ」

「それはまたのお楽しみにします」

 

 シリカちゃんは私に笑いかけ、煉瓦で囲まれた花壇の前にしゃがみこんだ。

 

 そして、色んな花を見ていく。

 

 ちなみに、この花壇に咲く花や全アインクラッドの植物や建築物が常に精緻なオブジェクトとして存在しているわけではなく、《ディティール・フォーカシング・システム》という仕組みが使われている。

 

 プレイヤーがあるオブジェクトに興味を示し、視線を凝らした瞬間、その対象物にだけリアルなディティールを与えるのだ。

 

 それがないと、さすがに高性能のSAOメインフレームとはいえ、たちまちシステムソースを使い果たしてしまうのだ。

 

 そんなことを考えていると、シリカちゃんが元気よく言う。

 

「さ……さあ、フィールドに行きましょう!」

「うん。そうだね」

 

 私は微笑みながら頷き、シリカちゃんの横を歩き始める。

 

 ゲート広場を出ても、街は花に埋め尽くされていて、その真ん中を並んで進み、フィールドを目指す。

 

 すると、シリカちゃんが話し掛けてくる。

 

「ヒナさん」

「ん?何かなぁ」

「武器装備しないんですか?それと、防具変わってませんか?」

「ああ、武器は付けると目立っちゃうから。防具は行く場所によって変えるの」

 

 私がそう答えると、シリカちゃんは少し考えたが、納得したのか手を叩く。

 

「そうですね。あんな武器使ってるのヒナさんだけですしね」

 

 まあ、太刀なんて武器無いのかもしれないし。

 

 ちなみに今日の私の格好は軽装で、血盟騎士団の騎士服から十字を取ったような服だ。

 

 そんなことを話しているうちに私たちは、街の南門に着いていた。

 

「さて……いよいよ冒険開始なんだけど……」

「はい」

 

 シリカちゃんは表情を引き締めて頷いた。

 

 それに私も真剣な声で続ける。

 

「シリカちゃんのレベルとその装備なら、ここのモンスターは倒せない敵じゃないけど、でも……」

 

 喋りながら私はどこからか、水色のクルスタルを取り出してシリカちゃんに渡す。

 転移結晶だ。

 

「フィールドでは何が起こるか解らないの。だから、もし予想外の次第が起きて、私が離脱しろって言ったらね、必ずその結晶でどこの街でもいいから跳ぶんだよ。わかった?私の心配はしなくていいから」

「で、でも……」

「だーいじょーぶ。私もシリカちゃんが離脱したら、跳ぶから。安心しなされ」

 

 私はにこっと笑い、胸をどんと叩く。

 

 それからまた、ニッと笑い、言う。

 

「じゃあ、行こうか」

「はい!」

 

 元気よく私たちは出発した。

 

 

 

 

 ――のだが。

 

「ぎゃ、ぎゃあああああ!?なにこれーー!?き、気持ちワルーーーー」

 

 四十七層のフィールドを南に向かって歩き出して数分後。

 

 早速最初のモンスターとエンカウントしたのだが。

 

「や、やあああ!!来ないでーーーーーー」

 

 背の高い草むらを掻き分けて出現したモンスターに、シリカちゃんは逃げ回っていた。

 

 そのモンスターの茎は、濃い緑で人間の腕ぐらい太く、根本で複数に枝分かれしてしっかり地面を踏みしめている。

 

 胴のてっぺんにはヒマワリににた黄色い巨大花が乗っており、その中央には牙を生やした口がぱっくり開いて内部の毒々しい赤をさらけ出している。

 

簡単に表現するなら《歩く花》だ。

 

 その歩く花はそれほど強くないんだが、その見た目のせいか、シリカちゃんは逃げ回っていた。

 

「やだってばーーーー」

 

 ほとんど目をつぶって短剣をぶんぶん振り回しているシリカちゃんに、私は呆れた声で言った。

 

「だ、だいじょうぶだよ。そいつはすーんごく弱いから。花のすぐ下の、ちょっと白っぽくなってるところを狙えば簡単に……」

「だ、だって、気持ち悪いんですうううーー」

「そんなやつに気持ち悪がってたら、この先に進んだら大変だぞ~。花が幾つもついている奴や、食虫植物みたいな奴、ぬるぬるの触手が山ほど生えた奴まで……」

「キエーーーー!?」

 

 私の言葉を聞いたシリカちゃんは、無茶苦茶にソードスキルを繰り出す。

 

 だが、当然そのスキルは見事に空を切り、技後硬直時間中に歩く花から二本のツタがって伸びてきて、シリカちゃんの両足をぐるぐる捉え、ひょいと持ち上げた。

 

「わ!?」

 

 ぐるん、と反転し、頭を下にして宙吊りになったせいで、シリカちゃんのスカートが仮想の重力に従い下がる。

 

「わわわ!?」

 

 シリカちゃんは慌てて左手でその裾を押さえ、ツタを切ろうとしているが、無理な体勢のせいでうまくいかない。

 

 そして、シリカちゃんは顔を真っ赤にしながら、私に向かって叫ぶ。

 

「ひっ、ヒナさん助けて!見ないで助けて!!」

「見ないのは無理だけど、助けるよー。見られてもだいじょうぶだよ。女の子同士だから」

 

 そう言って私は、スロイングナイフを二本投げる。

 

 そのナイフは、シリカちゃんに巻き付いているツタを切り裂く。

 

「きゃっ!?」

 

 そして、落ちてきたシリカちゃんをキャッチして地面に立たせる。

 

「ほら、倒してみな」

「はい!」

 

 私が言うとシリカちゃんは、花に走っていって、射程に入ったところで、ソードスキルを繰り出す。

 

 それが見事に花の首根っこに当たり、花の頭がコロリっ落ちるのと同時に全体がしゃーんと爆散する。

 

「さあ、行こうか」 

「はい」

 

 私たちは進んで行く。

 

 


 
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