No.469233

魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 四十二話

望まぬ邂逅、壊れた平穏

2012-08-12 21:32:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4541   閲覧ユーザー数:4255

 

 

海鳴小学校でなのは、フェイト、アリサ、すずかたちは一つの机に集まって神妙な表情を浮かべていた。

 

「入院?」

「うん……つい最近倒れたって……」

 

すずかの心配した様子に皆も心配してしまう。

 

すずかの友達なのだから、どこか他人とは思えないのだろう。

 

そこで、アリサが思いついたように手を合わせた。

 

「そうだ! 今日お見舞いに行きましょ!」

「え? 今日?」

「うん。前々からはやてに会ってみたいと思ってたのよ。それにもうじきクリスマスだからね」

「お見舞いで賑やかになるのはどうかと思うけど……いいと思う」

 

フェイトも笑って同意する様子にアリサも気合を入れる。

 

「じゃあ決まり! 今日の放課後に校門前に集合ね」

「うん!]

 

 

 

円満に決まったお見舞い

 

だが、なのはたちはこの時、知る由もなかった。

 

まさか、これからお見舞いに行くはやてが探し求めている『闇の書』の主だと……

 

まだ知らない

 

 

 

 

「おぅ……マジに来るのか……」

『あぁ、お前とプレシア女史の予想が的中したな』

「すずかから聞いているだけとは聞いていたから本当に見ず知らずの奴の見舞いに来るなんてなぁ……」

 

はやての見舞いに行く道すがら、カリフは携帯でシグナムと話しながら話すが、表情はゲンナリとしていた。

 

「まあいい、病院くらいまでの距離なら気で探れる。タイミングは大丈夫だろう」

『後は石田先生にも口添えは必須だ。それは我等がやっておく。お前は嘘はだめなのだろう?』

「別に嘘を吐く必要はないだろう。オレとなのはたちの仲違いでも口実にすれば勝手に黙ってくれるだろう」

『それもそうだが……分かった。もう何も言うまい』

「じゃあそういうことで任せた。オレははやてに顔見せたらバイトだ」

『承知した』

「お前も早く働けよニート侍」

『ここまで普通に話したのだから毒吐くのは止めろ……私もその点について心苦しいと思ってはいるんだ』

 

電話の向こうの沈んだ声にカリフはほくそ笑んだ。

 

「じゃあな」

『あぁ、我等は念のために蒐集は続ける。ありすぎて困らないことなどないからな』

 

そう締めくくって携帯を切って街中を歩いて病院を目指す。

 

 

 

 

十分も経たない内に病院に辿り着き、カリフははやての部屋を探してドアを開ける。

 

「え? あ!」

「よぉ、今は大丈夫そうだな」

 

ドアの向こうではベッドで寝ていたはやてが慌てて起きる姿だった。

 

「え!? 石田先生からは何も聞いてへんで!」

「そりゃ言ってねえからな」

「え、えっと……髪……」

 

シレっと答えるカリフとは対象的にはやてはこれまでにないほど顔を紅くさせて狼狽してキョロキョロと挙動不審に陥る。

 

いつもとは違うはやてに流石のカリフも少し戸惑った。

 

「な、なんだ……?」

「ちょ、少し部屋出てて!」

「は? なぜオレが出ねばならんのだ?」

「寝ぐせ! 寝ぐせを治すまでやからすぐ済むって!」

「寝癖ぇ? 家ではボッサボサの状態で顔合わせてたろうが」

「っ! 今日はそういう気分なんや! はよう出てかんと今日一緒に寝てもらうで!」

「出よう」

 

うろたえながらまくし立てるはやての一言にカリフは急いで部屋から出ようとする。

 

「なんで本気で出ていこうとするん!? そんなに寝るのイヤなん!?」

「なんなんだよおめえはよぉぉぉぉ!」

 

あまりに意味不明で理不尽な要望に青筋立てて部屋を出て行く。

 

イライラして外で待っていると部屋の中からドッタンバッタンと騒がしい騒音が聞こえる。

 

そのことに更なる疑問が湧き、イライラは消えてしまった。

 

ドアに耳を当てて内情を探ろうとするが、すぐに静かになった。

 

そして、中からしおらしい声が響いた。

 

「入ってええよ……」

「……」

 

明らかに不審に思いながらもカリフは無言で部屋に入る。

 

すると、そこには姿さえもしおらしく上半身だけ起こすはやての姿があった。

 

そのことにカリフは益々の不審を抱く。

 

(こいつ……色々とおかしい)

 

とりあえず命の危険は無さそうだから様子見に徹することにしてベッドの傍らに立つ。

 

「あ、えっと……とりあえず座らへん?」

「いや、この後すぐにバイトだからいい」

「あ、そっか……」

 

その後もなにやら落ち着かずにモジモジするはやてに疑惑の目を向けながら辺りを警戒する。

 

そして、はやては意を決したように言う。

 

「あの!」

「?」

「えっと……昨日のことなんやけど……」

 

今度は打って変わって沈んだ口調でカリフを見つめる。

 

「ごめんな……あない酷いこと言って、勝手に泣いて……」

「ふん。今更か? もう忘れてたなぁ」

 

口端を吊り上げて返すカリフにはやては掛け布団で静かに顔を覆う。

 

「あれくらいがお前等のガキとしては丁度いいんだよ」

「自分やって同い年やないかぁ……」

「オレは少なくともお前等よりも強いからいいんだよ」

「自分で言うこと?」

 

ふんぞり返るカリフにはやては布団をどかしてジト目で見てくる。

 

その様子にさっきまでの警戒もバカらしくなってしまった。

 

「様子は良好……今日はこれくらいでいいだろ」

「え? もう帰ってまうん?」

 

踵を返すカリフにはやては残念そうに言うが、カリフは振り向かずに返した。

 

「今日はバイトだ」

「そっか……また明日も来るん?」

「まあな、これからは嫌でも毎日顔を合わせるだろうな」

 

素っ気ない一言でも、はやてが満面の笑みを浮かべるには十分な内容だった。

 

はやては笑いながら手を小さく振る。

 

「うん。また明日やな」

 

別れの挨拶を背中に受けてカリフは病室を出た。

 

カリフは病室を出てから病院の中をしばらく歩いて出口へと向かう。

 

そして、病院の出口前にまで来ると、そこには黒の高級車が一台停まっていた。

 

カリフもその前で止まると、運転席から執事の恰好をした初老男性が優雅に現れて一礼する。

 

「お迎えにあがりました。チャンピオン」

 

周りの注目もお構いなしにカリフはただ無言で車に乗り込む。

 

そして、その車は海鳴病院を去ったのだった。

 

 

 

 

こうしている間にも事態は着々と進んでいく。

 

 

12月24日

 

この時点で闇の書のページは後数十ページの所までになっていた。

 

ここまで来ればもう数日と経たずに完成するだろう。

 

その報告を既に耳にしているカリフは現在、アリシアと一緒に八神家のリビングでたこ焼きを頬張っていた。

 

「なんで銀だこ値上がりしてんだよ。元々から高いのにさらに上げる意図が分からん」

「しょうがないよ。世の中は不景気真っ盛り、このままじゃあ日本も経済界ラグナロクまでカウントダウンするかしないかまで追い詰められているけどね」

「ロンドンオリンピックみたいに頑張れよ日本」

 

外で買ってきたたこ焼きを二人でパクパクと食べながらオリンピックを見ていた。

 

そんな中でアリシアは気が付いたようにカリフに向かい合った。

 

「今日ははやてちゃんの所にいかないの?」

「いや、なんかはやての付近でなのはたちの気を感じるからなぁ……」

「そっか……それならシグナムさんたちに連絡は?」

「相も変わらず異世界でハッスルしてる。この携帯は異世界対応してないから繋がる訳も無し」

 

お手上げと言った様子で肩を竦ませる様子にアリシアは神妙な表情で依然として見つめる。

 

「フェイトかぁ……会いたいなぁ」

「我慢しろ。こんなクソ忙しいときにもし、クソ面倒くさいことになればクソセンスのないクソ仮面のクソがまたクソみたいな手使ってはやてを追い詰めるぞ。クソ……」

「なにそのクソ祭り……でも、確かにそんなことになったらお母さんたちに迷惑かけちゃうからなぁ……」

 

頬杖付いてごちるアリシアと向かい合ってカリフは手を合わせた。

 

「ごちそうさま」

「え? もう全部食べちゃったの!? あまり食べてなかったのに……」

 

納得はしているものの、不本意といった感じでアリシアはダブルでショックを受けるも、すぐに復活する。

 

「ねぇ、フェイトたちと仲直りしないの?」

「なんだ急に……」

「だって、私とカリフが友達なのにフェイトと仲良くなれないと私悲しいなぁ……」

「おい待てコラ」

 

アリシアの一言に聞き捨てならないセリフにカリフは身を乗り出した。そのことにアリシアは首を傾げる。

 

「いつ友達確定? オレとお前が」

「分かってないなぁ……友達なんてなろうとしてなるものじゃない、気付いたら既になっているものなんだよ」

「なに自信気に言い切ってんだ? 腹立つ」

 

指でチッチと説教じみてくるアリシアに苛立ちを見せるが、その様子にアリシアがカリフに指をさす。

 

「そもそも、なんで友達を拒むの? そんなに“ぼっち”になりたいの?」

「オレからしたら無意味に集まって傷の舐め合い、互いに責任を押し付け合って裏切り合うすようなことをしなきゃならないんだ?」

「いやいや、そんなものじゃないから。どれだけ屈折した見方なのよ」

「普段は“戦友”とかいってる奴に限って友情なんて薄っぺらいものだ。オレが見た最たる例は金で互いの真意を計るような奴しかいなかった。友達になるためには物資も必要なんだろ?」

「物資?……ちょっと待って。カリフが思う『友達』ってどういう物なの?」

 

ここでアリシアはカリフと自分の認識の違いに気付く。

 

アリシアは探るように聞いてくる。

 

それに対してカリフは顎に手を当てて思い返すように口にする。

 

「昔に見た奴だけど、二つの犯罪組織が麻薬と金の取り引きを引き合いにして同盟を結ぶこと……それは『友達』じゃないのか?」

「なんでそう思ったの?」

「そいつ等互いに『戦友』と呼び合っていたから。それって友達ってことじゃないのか? 最後にはオレがぶっ潰す前に仲間割れしてたけど」

「……そういうことかぁ」

 

ここでアリシアは理解した。

 

なにもカリフは『友達』とか『仲間』自体を否定したわけではない。

 

ただ、知らなかっただけだった。

 

「カリフ……正直言うけど、それは『友達』なんかじゃないよ」

「……どういうことだ?」

 

今までの常識を覆されたカリフは怪訝な表情でアリシアに詰め寄って来た。

 

そんな彼にアリシアは子供に教えるような口調で言い聞かせる。

 

「あのね、カリフは今まで戦争してきたからそういう考えになったんだと思う。だけど、本当の友達はそんなものじゃないよ」

「益々要領を得んな」

「多分だけど、カリフは互いに信じずに集まった人たちのことを友達って思ってるんでしょ?」

「あぁ、どいつもこいつも自分は友達と言ってオレの強さに取り入ろうとしたり、戦友のことも同じさ。友なんて字があること自体信用できない」

「そっか……そうだったんだ」

 

ここで確信した。

 

ただカリフは純粋で素直なだけだった。

 

戦いという常軌を逸した世界では一般の常識なんて身に付く訳が無く、歪んだ認識しか身につかない。

 

発展途上の子供であったのならその傾向も顕著だっただろう。

 

「じゃあさ、フェイトやはやてや、なのはって子はどう思ってる?」

「どうって……」

「例えば、一緒にいて楽しいとかそういったことでいいから」

「……」

 

戦争体験者は平和な世の中で生きていくために苦労を強いられる。

 

何故なら価値観、常識を教えられずに生きてきたからである。

 

なら、それを導いてあげればいい。

 

カリフは顔を上げて捻りだすように言葉を紡ぐ。

 

「……あいつらは能天気で、いつもヘラヘラしてて、人のことに必要以上に探って、自分のことよりも他人のことを第一に考えて……」

「……」

「正直言ってあんまり会ったことのない奴等だったから訳が分からない奴等だったけど一つだけ分かってることがある」

「どんな感じ?」

 

頬杖をついて黙って話を聞いてたアリシアが嬉々として聞いてきた。

 

「鬱陶しくて絶対面倒事に首突っ込んで損するバカだということ」

「おいおい……」

 

あまりのいいようにアリシアも固まってらしくない口調で返した。

 

「でも……」

 

頭を手で抑えるアリシアにカリフは穏やかに続けた。

 

「時々接し方が分からなくなる……奴等が泣くと気分が悪くなる……なぜか本気で手を出せる気になれない……」

「……」

「多分、奴等と関わり過ぎたせいで感情移入しているし、約束の件もあるからそのせいだろう」

「ううん、それが『友達』なんだと思う」

「?」

 

今度はカリフが首を傾げる。

 

「私たちの間での友達はどんなに考えがちがってぶつかり合っても決して壊れない絆……一緒にいて安心できるような人たち……なんだと思う」

「……」

「戦いがどんなのかなんて分からないけど、今までと違った環境で育ったから私たちと考え方も違うかもしれない。カリフははやてたちといてそう思わなかった?」

「オレが絶対だと思ってる」

「うん、まぁいつもの過激行動については前向きに検討していきたい所なんだけど……とにかく、私が言いたいことはこう」

 

カリフに満面の笑みを見せる。

 

「カリフは難しく考えすぎ。もうちょっと適当な感じでも友達ってできるから」

「友達……なんつーかまあ……」

 

カリフは頭をボリボリ掻いて欠伸をする。

 

「言葉って難しいな」

「徐々に覚えていけばいいんだよ」

 

ただ、これでカリフも少しは変わるのだろう。

 

後は、はやての呪いが解ければいいのだが……

 

「ていうかもう寝るわ……慣れないこと話してたら疲れた」

「もう、そんな食べて寝たら牛に……なるのかなぁ? ふぁ……」

 

欠伸するカリフに釣られてアリシアも欠伸する。

 

「ま、いっか……私も寝よう……」

 

そう言ってアリシアはソファーにたどたどしく向かって倒れるように眠る。

 

この時、初めて部屋の内情が変化した。

 

リビングの空気が濁り、やがては白い霧のように部屋を覆い尽くしたことに。

 

そして、その様子を窓の外から仮面の男が覗いていたことに……

 

 

 

 

この時、全てのピースは揃った。

 

「シグナム、カリフから連絡はあったか?」

「いや、携帯にもかかってないな。シャマルは?」

「なら、はやてちゃんのお見舞いも大丈夫ね」

「よっしゃ! じゃあ早く行こうぜ!」

「ヴィータ、あまりハメを外すなよ?」

「わーってるよ、んなこと。ザフィーラはこれから帰るのか?」

「少し鍛錬してからな。その後にプレシア女史と再会する予定だ」

 

主に仕える誇りを捨てた誇り高き騎士たちも……

 

「いよいよか……」

「悲願は達成する……父さまのためにも、クライドくんのためにも……」

 

復讐に身を任せた暗躍者も……

 

「いい? 今日はサプライズなんだからできるだけ見いつからないようにね」

「アリサちゃん……そんなにコソコソしなくても……」

「でも、こう言ったサプライズもいいかな? すずかちゃんもフェイトちゃんも楽しもう?」

「なのはがそう言うなら……」

 

悲しみの連鎖を止めるべく空を翔ける優しき魔導士たちも……まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の『聖夜』が後の『惨劇』として

 

日本を

 

 

世界を震撼させる事件が起こることを……

 

まだ知らない……

 

 

 

 

 

 

「間も無くか……ついに来てしまった……」

 

闇の中の空間

 

その中に銀髪の長髪の女性は悲しそうに呟く。

 

この時、彼女は目の前の謎の肉片でできた球体を見つめる。

 

鼓動と共に脈を打つ不気味な肉片から声が聞こえる。

 

―――ジャ………ネンバ……

 

再び女性は涙を流す。

 

「お前を出してはならないのだ……お前だけは……」

 

そして、女性は濡れた顔を手で覆う。

 

「すまない……貴殿にも永き苦しみを背負わせてしまった……こうして貴殿との対面を恐れる私こそ消えるべきなのだ……」

 

彼女は枯れる口調で確かに言った。

 

その言葉は誰にも届くことはなかった……

 

 

 

 

女性とは反対側の肉の塊の壁に取り組まれている半裸の男

 

死んでいるのか生きているのかも分からない男は振り絞るように言葉を紡ぐ。

 

「リン……ディ………ク………ロ……ノ……」

 

それは男の頭に残された僅かな記憶の中で見つけた名前

 

 

 

 

魔の覚醒まで……もう間も無く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくの時間を遡る。

 

病室の中ではやてが独りで本を読んでいた時だった。

 

おもむろにノックの音が聞こえてきた。

 

はやては本を読むのを中断して返事をする。

 

「はーいどうぞ」

「「「「失礼しまーす」」」」

 

それに合わせてなのは、フェイト、すずか、アリサが包装された箱を持ってやって来た。

 

まさかの来客にはやては驚きながらも笑顔に染まった。

 

「どないしたん? ビックリしてもうたわ~」

「ごめん。大丈夫だった?」

「ええよ、ただこれから家族が来るだけや」

「あ、邪魔だった?」

 

アリサが発案者だけあってバツが悪そうな表情に歪むと、はやては手を振って笑顔を振りまく。

 

「ええよ。いつか紹介したいと思ってたしな」

「失礼します」

 

はやてが言い終わった時、凛とした声が響いた。

 

はやてを含めた全員が声の方向を見た瞬間だった。

 

「「!!」」

「「「なっ!」」」

 

つい最近まで矛を交えた者同士の顔を見て全員が硬直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この瞬間、全ての歯車が噛み合ったのだった……


 
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