No.469161

IS/3th Kind Of Cybertronian 第七話 「Real Steel」

ジガーさん

にじファンから移転。本作品は、ISとトランスフォーマーシリーズのクロスオーバーSSです。オリジナル主人公および独自設定を含みますのでご注意ください。

2012-08-12 18:00:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2663   閲覧ユーザー数:2571

マクシマル・サンダーソードと協力し、地球外テロリスト集団・ファンダメンツを撃退せよ。

それが、今回の事件に対し、国際連合安全保障理事会が出した決議だった。

 

条文はこうだ。

プレダコン・サヴェッジファングを首魁とするファンダメンツの侵略行為を、国際の平和及び安全に対する脅威であると認める。

民間人の混乱を防ぐため、防衛活動は秘密裏に行われる。

すべての国がサンダーソードを可能な限り援護する代償として、サンダーソードはファンダメンツとの戦闘には必ず参加しなければならない。

サンダーソードは、自身が有する科学技術を、可能な限り地球側に提供しなければならない………

 

 

 

 

千冬がいるのは広い空間だった。

全体的に白く、無機質な部屋。倉持技研のIS実験スペースである。

天井近くにある強化ガラスの窓の向こうで、白衣を着た研究員達がデータの収集に勤しんでいるのが見えた。

 

ファンダメンツに所属するトランスフォーマー達が、ISをも凌駕し得る戦闘能力を持っているとはいえ、すべての戦いをサンダーソードだけに任せるわけにはいかない。

いくら彼が強く速かろうとも、プレダコン達がそれぞれ違う国で暴れ出した場合、とても対応し切れるものではない。

人類は、地球外生命体との戦争に際し、新たな牙を必要としていた。

 

だが現時点で、ISより強力な兵器は、地球には存在しない。

ファンダメンツがISを狙っていて―――キラーウィンドの様子を見る限り―――戦闘の末に奪われる可能性を考慮しても、他に頼れる物が無いのだ。

日本政府が、かつて『打鉄』を生み出した倉持技研に新しい軍用ISの開発を依頼したのは、そんな理由からだった。

実際に二度、ファンダメンツの襲撃を受けているために、危機感は他国のそれを遥かに上回っていた。

 

受注を受けてから、たったの一週間。驚異的なスピードで誕生したISは、『八咫烏』と名付けられた。

日本神話に登場する伝説の鳥。鉄の悪魔と戦うにはふさわしい名前だ。

さすがに、三本目の足はくっついていないが。

 

その操縦者として選ばれたのは、『ブリュンヒルデ』こと、最強のIS操縦者として名高い千冬だった。

キラーウィンドに敗北したとはいえ、それは彼女の名を傷付けることにはならなかった。

ただ、敵の手強さが強調されただけだ。

 

『八咫烏』のシルエットは『打鉄』に似ていた。

両肩付近にアンロック・ユニットの装甲が浮かんでいる。腰にはスカート状になった装甲。

ただし、カラーリングは艶のある黒で、全身くまなく鎧に覆われている。動きを阻害しないように配慮されているものの、通常のISに比べてやや圧迫感がある。

ISが余計な装甲を必要としないのは、シールドと絶対防御があるからだ。

『八咫烏』の全身鎧は、それすらも突破しかねない敵の攻撃に対し、少しでも生存率を上げるためのものだった。

千冬は気休め程度と認識している。

 

両肩の装甲は、ネーミングに合わせて鳥の翼を模した形に作られていた。

それに対し、頭部を守る兜のデザインを鳥の頭にしなかったのは、千冬が全力で拒否したからだった。

そこまですると、キラーウィンドに姿が似過ぎて印象が悪い。

わがままを言える立場ではないが、それなら全裸で出撃した方がまだマシだ。

結局、兜のデザインはバイザーが付いた西洋甲冑モデルのものに決定された。

 

《どうですか、織斑先生。その子の調子は?》

 

「快調です」

 

管制室からの通信に応じる。

人類初・対エイリアン用に開発されたISは、千冬にとって申し分のない性能を備えていた。

完成から三日。実際に装着し、試運転を始めたのは一昨日からだが、思った通りの動きができるというのは爽快だ。

『打鉄』も悪い機体ではないが、やはり量産型である。性能差は天と地ほどもあった。

 

《それでは、今日は武装展開のテストをしてもらいます》

 

千冬は頷き、意識を手ではなく両肩に向けた。

マニュアルは既に読んである。基礎が完璧なら、応用は難しくない。

肩の辺りに浮いている、一対翼型の非固定装甲のパーツが、まるで立体パズルのように組み替わり、瞬く間にガトリング砲に変形した。

続いて、長い砲身のレールガン。

八連発の小型ミサイルランチャー。

遠距離ビームライフル。

そして筒型の電磁ネット砲。

エトセトラ、エトセトラ。

 

これらの武装は、手が使えない状態でも敵を攻撃することができる。

オートにすれば自動的に目標を追う。マニュアル操作に切り替えることも可能だ。

腰元のスカート状装甲もまた自在に変形し、盾やスラスターになる。至れり尽くせりだ。

 

もちろん、手持ちの武器も豊富である。

サブマシンガンやショットガン、ショートブレード、その他多数。

そして、専用装備の『草薙』だ。

千冬の手に、身の丈ほどもある片刃直刀が握られる。機体と同じ漆黒の刀身は幅広で、巨大な鉈のようにも見えた。

柄を両手で持ち、『草薙』を軽く振るう。よく目を凝らせば、刀身に無数の節があることが分かるだろう。

 

「さすがに、ブレードだけというのは通らなかったか」

 

《いくらなんでも無謀過ぎますよ。敵がどんな武器を持っているか分からない以上、それでも不十分なくらいです》

 

苦笑しつつ、千冬が意思を『草薙』に集中させると、その刃が瞬時に白い輝きを帯びた。

五万度の超高熱の刃は、鋼鉄をバターのように切断する。

だが、『草薙』の機能はこれだけではない。

 

刀を正眼に構え、今度は勢いよく横薙ぎに振るった。

すると、刀身が節ごとに分割し、鞭のようにしなって大気を焼き切った。分割された刀身は、ビームワイヤーで繋がれている。

 

『草薙』は、通常の近接ブレードと蛇腹剣、二つの形態を持つ武器なのだ。

千冬は『草薙』をさらに三度振るい、白熱する龍を操った。柄から手に、手から全身に伝わる感覚は、その武器が素晴らしい破壊力を秘めていることを教えてくれた。

それで笑みを浮かべるほど、千冬は戦いに狂っているわけではなかったが、強力であるに越したことはない。

 

(……そうだ。これから待っている戦いは、ルールで守られた試合ではない)

 

千冬は『草薙』をブレードに戻した。

数年前、第二回モンド・グロッソで、千冬が握っていたのは、エネルギー消滅能力を持った『雪片』だった。

ISを相手にすれば、ほぼ無敵の武装。

しかし、今回の敵はISではなくトランスフォーマーというエイリアンだ。

シールドエネルギーを消費させて解除させることもできないし、その上とてつもなく強靭で、しかも人類を虫けら同然に思っている。

そんな連中に、まさか火縄銃で挑むわけにはいかない。

 

千冬は覚悟を決めなければなかった。

何の、と聞かれれば、数え切れないほどの、と答えるだろう。

戦って傷付くことも、その一つだ。

 

(また、一夏には心配をかけてしまうな)

 

家に帰るどころか、満足に寝る時間さえない忙しさのために、ここしばらく会っていない弟のことを思う。

彼女が現役復帰し、金属生命体の宇宙人を相手にした戦争に参加している理由の大半は、一夏を侵略者の無礼な足に踏みにじらせたくないからだった。

唯一の家族、心の支えを守るためなら、千冬は何でもするだろう。

しかし、今は味方のような顔をしている、もう一種類のエイリアンは………

 

《織斑先生? 大丈夫ですか?》

 

管制室からの通信。千冬は我に返った。

問題ありません、と短く答える。

今は、戦いの準備に専念する時だ。

何ができて何ができないか、今の内に把握しておかなければならない。

さもなければ、一夏は最後の家族を失うことになる。

 

 

 

 

 

実験スペースを出て、千冬は廊下を歩いていた。

身に纏っているのは、ISスーツと待機状態の『八咫烏』……右腕に巻かれた黒い腕輪だけだが、周りは女性ばかりなので、視線を気にする必要はない。

 

隣には、白衣を着た女性がいた。

髪は短く、健康的な小麦色の肌は、日頃研究室に籠っている科学者とは思えなかった。

『八咫烏』プロジェクトの主任開発員である小浜博士は、朗らかに笑いながら、千冬に語りかけた。

 

「これで、調整はすべて終了です。もちろん、機体に慣れるための訓練は必要ですが」

 

千冬は頷いた。

 

「癖が強そうですからね。『暮桜』と同じようにはいかないでしょう」

 

全身装甲であることや、単純な武装の違いだけではない。この数日、実際に動かしてみて分かった。

『八咫烏』は時速三六七五キロで飛翔し、強固なシールドは大抵の攻撃を無意味にする。

量産機程度なら、何体かかって来ても容易く蹴散らすことができるだろう。

とにかく高スペックであることを目指して作られた、ISの怪物。鋼の侵略者に対抗するために作られた、正真正銘の兵器だ。

生半可な気持ちでは―――千冬は常に真剣だが―――こちらが振り回されてしまう。

 

「しかし、よくこの短期間で、あれほどの機体が作れましたね。しかも、いきなり世代が進んだようですが」

 

千冬は訝しげに言った。

『八咫烏』は頼りがいのあるISだが、同時に謎も多い。特に、自在に変形する装甲は、明らかに第四世代に手が届いている。

各国でようやく第三世代の試験機が開発されたという状況の中、『八咫烏』だけ、頭一つ分どころか雲の上まで飛び抜けている。

しかし、小浜博士にとって、そんなことは謎でもなんでもなかった。

 

「ああ、それは田中君が積極的に協力してくれたからですよ」

 

田中。

その名前を聞いた千冬は、不快感を隠そうともしなかった。

眉間に皺を寄せ、唸るように言った。

 

「田中……サンダーソードか」

 

あの青い鎧武者は、人間の姿をしている時は田中一郎と名乗っている。どちらの名前で呼んでも答えるし、研究所内では他にも様々な呼び名が飛び交っていた。

 

「体の隅々まで調べさせてもらいましたよ。ISに応用できるようなデータもたくさん提供してくれましたしね」

 

小浜博士の声はバスケットボールのように弾んでいた。黒い瞳には知的好奇心の輝き。

国連に地球外金属生命体の存在を認識させるに当たり、サンダーソードは自らの体を差し出した。

その日の内に、彼がどこかの国が秘密裏に開発した自立型のISでないことが証明された。

 

トランスフォーマーの体を構成する極小機械群・ナナイト。

その組み替わりによって、彼らは自在に姿を変えることができるのだという。サンダ―ソードに関しては、変身前と後で質量さえ変わっているという。

ナノマシンの専門家たちは、軒並み熱を出して寝込んだ。

 

そして、マクシマルを単なるロボットではなく、知的生命体たらしめている球状の発光体・スパークに至っては、何がどう作用しているのか見当もつかなかった。

 

わからないことばかりが積み重なっていく中で、たった一つ、わかったことがある。

現在の人類の技術では、サンダーソードを作ることは、絶対に不可能だ。たとえ、かのISを生み出した天才であっても。

こうしてエイリアンと、その中でも指折りの悪党による地球侵略計画の存在が証明され、国連は押っ取り刀で対策を練ったというわけだ。

 

(だからといって、あいつ自身を簡単に信用できるものか。あの気味の悪いロボットを)

 

千冬は胸の内で毒づいた。

なぜ戦うのかと一郎に聞くと、彼はアニメや漫画に登場するヒーローのような言葉を吐く。

要約するとこうだ。

 

「地球に住む人々を守りたいから」

 

千冬は急に腹立たしくなってきた。鳩尾の部分から嫌な熱が込み上げて来る。

しかし周囲の目があり、当たる物も無いため、千冬は奥歯で噛み殺すしかなかった。

左手に並んだ窓の向こうには、今の彼女の気分とは裏腹に、澄み切った青空が広がっている。

ちょうど昼飯時で、手の空いた研究員達が、中庭を通って食堂に向かっていく。

 

千冬も小腹が空いていた。休憩時間の内に、何か食べておくべきかもしれない………

その時、小浜博士が思い出したかのように言った。

 

「そうそう、田中くん、『八咫烏』の開発自体も手伝ってくれたんですよ。データ演算とか、プログラミングとか、いろいろ」

 

空腹が一瞬で消し飛ぶ。

千冬は思わず、右手首の巻かれた腕輪に目を向けた。

一瞬前までは頼れる相棒だと思っていたが、今は時限爆弾に見える。

 

「さすがにそれは……危険は無いのですか?」

 

たとえば、戦闘の途中で勝手に機能停止するとか。

もしく、知らぬ間に洗脳されてエイリアンの一員にされるとか。

とにかく、人類にとって不利になる仕掛けが隠されているかもしれない。

 

「コアには触らせていませんし、念のために何度も点検しましたから大丈夫ですよ。彼、専門の技術者じゃないって自分では言ってましたけど、田中君が手伝ってくれなかったら来年までかかってましたね、『八咫烏』」

 

「……ずいぶん、あいつのことを信頼されてるんですね」

 

触れれば血が出そうなほど、千冬の声は刺々しかった。

小浜博士は怪訝そうに千冬を見た。

 

「織斑先生は、彼のこと嫌いですか?」

 

「普通に考えて、武装した金属製の宇宙人に対して良い感情を持つ方が難しいと思いますが」

 

スパイである可能性も考えると、さらに。

そう言うと、小浜博士は少し考える素振りを見せてから、ぷふっと吹き出した。

何か笑う要素があったのか。千冬は目に苛立ちを込めて彼女を見た。

 

「私達も、最初はすごい研究材料が来たくらいにしか思ってなかったんですけどね。付き合ってみると、これがなかなか話せる人……ロボ? いや人でいいのかな。もし田中君がスパイだったら、もう人類は終わりですよ」

 

いつの間にか、二人はとある部屋の前までやってきていた。

壁のプレートには、無機質な文字で休憩室と書かれている。中で誰かが談笑しているのか、かすかに笑い声が聞こえてくる。

休憩する気にはなれないのだが、と千冬は思った。

 

小浜が扉を開ける。

休憩室の中には、小さな丸テーブルが二つと、壁沿いに並んだ柔らかそうなソファがあった。

人間は三人いた。若い、まだ少女に近い研究員だ。

人間でない者も一人いた。青いパーカーを着た少年を見て、千冬は目を見開いた。

田中一郎。サンダーソードだ。

 

「ねえ、トランスフォーマーって、やっぱりオイルとか飲むの?」

 

「飲みますよ、嗜好品として。僕はオイル風呂が好きです」

 

「トランスフォーマーにも女の子っている?」

 

「んー、マクシマルやプレダコンにはけっこういますね。ロボットなんで、異性とかあんまり意識したことないですけど」

 

「もう一回変身してみせて!」

 

「いいですよ。マクシマイズ!」

 

少年が青いロボットの姿に変わると、三人は喜んで手を叩いた。まるで新しい玩具をもらった子供のようだ。

サンダーソードは体を半身に開き、腰を深く沈めた。武術の型らしきポーズ。

どうやらサービスのつもりらしい。若い研究員たちには効果覿面だが、千冬は別のことを考えていた。

他の連中は、この宇宙からやってきた金属製のお調子者に、どうして地球の未来を託せるのだろうか。

 

千冬の溜息に気付いて、サンダーソードが振り返る。

目があり、鼻があり、口がある、人間と同じような顔。しかし人間とは違う、ロボットの顔。

表情が自在に変えられるとはいえ、何度見ても生物であるとは思えない。

 

「織斑さん。どうですか、『八咫烏』。使い心地いいですか?」

 

千冬の腕に巻かれている腕輪を目ざとく見つけて、サンダーソードは笑顔を浮かべた。

だが、笑う鉄仮面など不気味なだけだ。

 

「………そうだな、貴様が関わっていなければ、安心して使えたんだが」

 

サンダーソードを真正面から睨みながら、千冬は液体窒素よりも冷たい声音で言った。

この世の誰が聞いたとしても、そこから好意を感じることは絶対にできないだろう。

狭い休憩室の空気が、ナイフを入れれば切り取れそうなほど固まった。

普通の人間なら、今の千冬の態度に気を悪くし、怒り出してもおかしくはない。

しかし、宇宙からやってきたロボット生命体は、驚くほど穏やかな声で千冬に語りかけた。

 

「やっぱり、まだ信用してもらえませんか?」

 

「ああ、信用できない」

 

喉の奥から、言葉が濁流となって押し寄せてくる。吐き出したくてたまらない。

 

「織斑先生」

 

小浜博士が止めようとするが、もはや手遅れだった。

三人の若い研究員たちはソファの隅に避難し、固唾を飲んで見守っている。

 

「貴様の何を信用しろと言うんだ? キラーウィンドとは違う? あんなエンブレムだけで、証明になると思っているのか?」

 

千冬は、サンダーソードの緑色に光る眼を見た。心なしか、悲しげに細められているような気がする。

相手を傷つけるための言葉を吐いていると自覚しているにも関わらず、千冬の心に罪悪感が首をもたげてきた。

これでは、ただのいじめだ。何の正当性もない。

だが、口が勝手に動く。

 

「たしかに、私は一度、貴様に助けられた。それは認めよう。だが、それだけで味方だとは、とても思えん」

 

あの時、サンダーソードは見るからに満身創痍だった。

装甲は剥がれ、体のあちこちから火花が散り、指で突いただけで爆発してしまいそうだった。

運良く、キラーウィンドの意識が千冬に向いていたために、彼は敵の不意を突くことができたのだ。だが、もし接近に気付かれていたら、今頃はばらばらにされて、スクラップ置き場に転がっていたに違いない。

あの場でもっとも賢い選択は、千冬を見捨てて逃げることだった。千冬自身、同じ状況なら、果たしてキラーウィンドに立ち向かっただろうか。

もし、サンダーソードが邪悪な目的を持って地球人に取り入ろうと考えていたならば、むしろ千冬を見殺しにして、空いた席に地球の守護者として座ることもできた筈だ。

 

だが、サンダーソードは背中を向ける道を選ばなかった。彼からすれば、見ず知らずの異星人を救うために、自らの命をかけた。

それだけでも、このエイリアンロボットが、勇敢さと自己犠牲の精神をもった戦士である証明になるだろう。

 

「地球を守りたい? その綺麗事の裏に、一体何を隠している!」

 

それでも、千冬は彼の言葉を信じることができなかった。

 

 

自由とは、すべての知的生命体の権利である。

その自由を奪おうとする者を、絶対に許さない。

 

 

サンダーソードが自身の理想を、信念を口にする度に、千冬の胸に耐え難い痛みが走る。

原因が自身にあるとわかっているのに、それを取り除くことができない。

だから千冬は、当然のように綺麗事を吐いて自分を苦しめる、サンダーソードが嫌いだった。

信用できなかった。

 

激情に駆られ、千冬は拳を握って、サンダーソードの胸を叩いた。

セイバートロンの超合金で作られた鎧は、千冬の腕力では傷付けることさえできない。

彼女の拳に、痛みと金属の冷たさが返るだけだ。

サンダーソードは、殴り返すどころか身動ぎもしなかった。

全身に武装を纏っているにも関わらず、彼が発したのは言葉だけだった。

 

「僕を信じられないのは、しかたがないことです。あなたを納得させられる言葉を、僕は持っていない。だから」

 

その時。

携帯電話の着信音が、サンダーソードの声を遮った。

千冬はのろのろと、浜田博士の方に顔を向けた。音は、彼女の白衣の中からしている。

浜田博士は慌ててポケットから携帯電話を取り出し、耳に当てた。

次の瞬間、彼女の表情が凍りついた。まるで、死神から命を貰いに来ると言われたかのように。

 

「………石油コンビナートが、巨大なロボットに襲われている?」

 

死神と巨大ロボット、どちらがより恐ろしいかは、人によって意見が分かれるところだろう。

 


 
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